CoC【誰がロックを殺すのか】
HO1夜差璃央視点のお話。ふせったーにあげていたものを修正してこちらにもアップ。
ネタバレあるので現行・未通過の方×
@nekoginka_gno
音で作られた刃で身体が薙ぎ払われる。それでも皆がステージの上立ち続け、音を奏で続けるのは目の前に【いる】相対する音そのものと対峙するためだ。
だが、タカハシが残したメロディを明日歌が再構築した曲とともに挑むも、健闘の後さえ見えず、ただただ蹂躙されていくのみだった。
「奴さん、ぴんぴんしてるじゃん…」
キーボードの上に指を走らせながらよし子が恐怖に青ざめた顔で苦々しげに言葉を吐く。
相手はいわば【神】だ。気に入った人間に音楽の才を与え、育ち、十分に熟したころ合いを見て奪っていく。それに抗おうとする矮小な存在など意に介さず、音の刃で刈り取ろうと、不協和音を響かせ切り刻んでいく。
すでに4人とも満身創痍。璃央自身も人智を超えた存在を目の当たりにして本能の奥底から湧き上がる恐怖で強張る指を懸命に動かし、恵の叩く力強く鼓舞するようなドラムのリズムと共にベースの低音を響かせ抵抗するも、身体の損傷は激しくすでに命の灯の限界が近い。まさしく後がない状況だ。
(頼るしか、ないのか?この石に)
いつか見た悪夢が脳裏によみがえる。
今と全く同じ状況。
血と汗に塗れて、それでも演奏を続ける自分たち。そんな中で己が高々と黒い石を掲げると同時に甲高い音とともに走る衝撃波と――衝撃波の元である己の体が内部から裂け、崩壊していく。そんな悪夢。
それは予知夢だったのかもしれない。それでもその力を使うのか、という【音響石】と呼ばれた石からのメッセージ。
ギリ、と食いしばる歯とともに僅かに逡巡したのち、首元にかかったチェーンを引きちぎり、その石を右手に握りこむ。
「リオ!」
酷い耳鳴りに苦悶の表情を浮かべながらも懸命にギターを弾いていた明日歌が、璃央の動きに気付きその名を呼ぶ。それは彼が何をしようとするのかを一瞬で悟り、制止しようと上げた声だ。
だが当の本人は明日歌へと視線を向けると、ライヴで歌い切った彼女が舞台から楽屋に向かう時に労いとともに向けていた、いつもと同じ笑顔を浮かべてこう言った。
「今が命の賭け時だろ?」
何の惑いもなく石を握りこんだ右手を一際高く頭上へとつき上げる。
「璃央!!」
「…!!」
明日歌の声で気づいた恵の声とよし子の驚愕の視線が璃央へと向けられ、重なる。
それよりも一瞬遅れて、キィン、という音とともに衝撃波が璃央の身体を中心に巻き起こり、全てをなぎ倒していく。ステージのセットも、機材も、何もかもを。
それと同時に、璃央の身体は内側から切り裂かれたかのような赤黒い切り口が、ぱくり、ぱくり、と全身のいたるところに大きく口を開く。開いた肉の赤さと対照的な白い骨までその奥に覗かせたそれは、見る間に赤黒い飛沫を雨のようにステージの上へと降り注がせた。
そんな様を当人はむしろ落ち着いた心境で、まるでスローモーションのようにゆっくりと目に映しながら、自分を音楽の道へと導き、最期の時にこの石を託した従姉妹、【古明地 美樹】の顔を思い出していた。
自分のロックという音楽の師であり、バンドという道への道しるべであった彼女が、自分の憧れていた【ザ・ウィンドフォールズ】のリーダーであるタカハシが恋心を寄せていた女性であったらしいことには驚いたけれど。そんな彼女が自分にこの石を託した理由が少し、分かった気がしたのだ。
(もし、この石のことを知ってたんだとしたら……俺が信じる大切な奴らを守る事を、アンタなら躊躇しないでしょって、俺に託したんだろう、なぁ…。ははっ。敵わない、なぁ…美樹ねーさん、には…)
片方の視界がゆっくりと暗くなる。片方の眼球に大きく鋭い切り口が開き、視界を映す事を止め、赤い飛沫を放ったからだ。
だが、残った片目が衝撃波とともに霧散する【音の神】を映していた。
悔しげに、口惜しげに、存在していた空間を歪みたわませていた音の塊が薄れ、散っていく。
その様をニィ、と口の端に一筋赤い雫を滴らせながら浮かべた、満足げな笑みとともに呟きを漏らす。
――ハハッ、ざまぁみろ、ってんだ
だがその呟きは言葉になる事はなく。傾ぎ、仰向けで床へと倒れいく身体の大きく開いた喉笛から漏れたヒュゥ、という呼気と勢いよく吹き上げた真紅の体液として零れたのみだった。