命探偵で突発ss。心意気は剛命だけど書いてみたら仄かに香る程度になりました。
ネタバレは特にないです。
@rikka_trpg801
花より団子
汗ばむ陽気になったと思えば、今日のようにコートが必須の冷え込む日がある。三寒四温とは言うが落差が激しすぎやしないかと内心ぼやきつつ、剛一郎は川沿いの道を歩いていた。
左手には白いビニール袋。中身はスーパーで買った食料や日用品だ。ちょっとした買い出しを終えて家へと帰る道すがら、立ち並ぶ木を見上げた。
川沿いに植えられた桜並木は、近所ではそこそこ有名な花見スポットとなっている。桜の時期にはシートを広げて花見を楽しむ客と、それ目当ての出店で賑わう。だが今はまだ、閑散として剛一郎のようなただの通行人や犬の散歩をする人を見かける程度だ。
そのはずだったが、並木の下に佇むそれ以外の人間を見つけて足を止めた。
日常の風景に違和感をもたらすメイド服。しかもよく見ればわかることだが、着ているのは男だ。半袖とスカートの裾から覗く素肌は今日の気候では明らかに寒そうで、それもあって大概の人間は思わず二度見することだろう。
知人では他人行儀過ぎるが、友人という言葉が適切かどうかには首を傾げる。そんな関係にある存在――命はじっと木を見上げていた。
開花まではまだしばらく時間がかかるだろうその枝には、頑なに閉じた蕾があるばかりだ。しかし、もしも花が咲いていたとしたら、命の恰好も相まって浮世離れした光景になったことだろう。
満開の桜の下に佇む命の姿を想像し、なぜか心がざわついた。淡い春の色合いに黒と白が強烈なコントラストを描くはずなのに、目を離したら見失ってしまいそうな――そんな訳の分からない焦燥に駆られて、思わず歩み寄ってその手を掴んでいた。
命が振り返る。紅い双眸が剛一郎を映した。
「剛一郎か。なんだ?」
淡々と問われて、一瞬返答に詰まる。桜色の幻視はすでになく、ただ枯れ木が並ぶばかりだ。
軽く咳払いをして気を取り直し、剛一郎は掴んでいた手を離す。
「買い物帰りにたまたま見かけて、な……お前こそ、熱心に木を見ていたがどうしたんだ?」
「ああ。早く咲かないかと思って見ていた」
意外な理由に目を瞠る。言い方は悪いが、花を愛でるような繊細な感性を持っているイメージは無かった。
「ほう。桜が好きなのか?」
日本人なら嫌いだという人間の方が少ないだろうし、かく言う剛一郎とてどちらかといえば好きと答えるだろう。しかし、命がその一般論に当てはまるというのが妙な気がした。
命はこくりと頷き、淡々とした口調のまま続ける。
「桜が咲くと花見客が沢山来る。酔っ払いが食べ物や飲み物を分けてくれるから助かる」
「……そうか」
脱力すると同時に納得した。やはり素直に花を愛でるようなたまではなかったようだ。
ホームレス生活を絶賛継続中の命にとって、食糧調達は常に付きまとう課題だ。花見シーズンはそこそこ栄養を摂れていそうで安心するべきか、それとも定職に就いてくれないことを嘆くべきか。
溜息を吐き、剛一郎はビニール袋から菓子パンを取り出した。間食用にと買ったものだが、無いなら無いで構わないものだ。
「開花はまだ先だからな。とりあえずこれでも食べておけ」
「いいのか。ありがとう、剛一郎」
感情の起伏の少ない紅が輝いた気がした。
すぐに袋を開けてパンを頬張り始めた命から、枝についた蕾へと視線を向ける。理由はそれぞれだろうが、多くの人が花開く時を待っていることだろう。
「あいつらも誘って花見でもするか」
まだ冷たさの残る風が、そんな呟きを攫って行った。
(あとがき)
命探偵(どちらかといえば剛命派)好き。でも二人ともキャラが独特過ぎて台詞考えるの難しくて中々書けない悲しみ。あと恋愛的な意味で甘い空気が想像しにくい。好きなのに。
桜に攫われそうな見た目で絶対に攫われてくれない気がする命という男よ。だがそこがいい。