【ホラー注意】多喜の怪談話です。
@lianmiso
段ボールを投げている人がいる?
ダンボールのゴミを店の裏に置いてるんだよ。
ほら、よくわかりづらいけど横に扉がある。閉店時間は閉めておいて、業者が来たら鍵で開けて回収するんだ。
顔が暗い?何があったのかって?
………ダンボールが捨てられているところを見ると嫌な事を思い出してね。
百貨店にいた頃の話なんだけどさ。
僕が働いていた百貨店、10階建ての百貨店でね。
創業は今から125年以上前。
………今?閉まったよ。
歴史はあった。努力もしていた。
でも、時代の流れに着いていけなかった。いろんな噂があるけど僕はそう思うな。
昔は最先端の技術を取り入れてたんだ。
エスカレーターにエレベーター。
うちの百貨店は昔からエレベーターガールが有名だったよ。
わからない?
じゃあ、今度見に行こうか。
………ごめんごめん、ダンボールの思い出の話だったね。
表は華やかだった。じゃあ裏は?というと案外ぞんざいなところがあったんだよ。
業務用エレベーターは主に高級な品物を運ぶために使われる。だから、ゴミとかは袋に詰めてダストシュート………穴を使ってゴミを集めていたんだ。穴に投げ入れると地下で集まるでしょ。それを業者が回収していくんだ。
僕が働いていた百貨店はどの百貨店より先に普通のゴミと綺麗なダンボールを分けていてね。綺麗なダンボールとその他燃えるゴミさ。今の時代じゃ怒られるだろうね。
その頃は国を挙げて分別やリサイクルなんてやってなかったし、別の何かに使っていたんじゃないか?って噂だった。ダンボールは寒さを凌げたり、緩和材として優秀だったからね。
とにかく屋上、10階から地下まで続くダストシュート2つあったんだ。
ゴミの量は飲食店が1番多かった。眺めのいい屋上と10階に飲食店があってさ。
調味料とか毎日大量に使うでしょ?野菜だってダンボールに入ってくる。
だから、ダストシュートも大忙しって訳さ。ひっきりなしにダンボールが降りる。
僕はダンボール庫に行く事が多かったから、度々見上げていたよ。
壁に大きい角筒………正方形の筒が天井から突き出していて、上を見るとぽっかりと穴が空いている。
1番上が見える訳ない。
10階もあるからね。屋上までは100m以上もある。
晴れの日に屋上のダンボール庫への扉が開いていたら光くらいは見えたかな?
見上げたのは1回だけだったけど不思議な気分だったよ。
ダンボールが落ちて来たら危ないって?
もう誰もいない時間だったからね。警備員さんのお墨付きだった。
あんな話、先に聞いていたら覗き込むこともなかったんだけど。
さっきも言ったように屋上にも飲食店…カフェがあった。
屋上のダストシュートは人の目に触れるからすごくお洒落に作られているんだ。ゴシック様式っていってわかるかな?
木で作られていて…そう、テーマパークの中世エリアみたいな感じの扉さ。それが2つ並んで取り付けられていた。大きい段ボールも捨てるからね、家の扉みたいだったよ。
扉には大きな錠が掛かっていた。
カッコいい扉に重厚な…青銅の大きな鍵が下がっていたら子ども心を擽るだろ?
宝がある?隠し通路?なーんて集まる子たちがたくさん居た。
警備員さえいなければ待ち合わせにぴったりだった。だから、経費削減で警備員も従業員も少なくなった時に事件は起こった。
そう………想像の通りだ。落ちたんだよ。人がね。
下から覗き込んで天井が見えないなら、上からだってそう。底が見えない。
ダンボールだからクッション性があると言っても限界がある。
落ちた子は11歳の男の子。想像通り好奇心旺盛な子だったそうだ。
でも、それなら屋上だけ閉めればいい。
でもね、屋上だけでなく全ての階の扉を閉めたんだ。
………そうだよ。理由がある。
子どもが落ちたのは僕が百貨店に入る前のずっとずっと前。生まれる前だ。
僕がいた頃も百貨店で働く人は人数が少なくてね、誰もがダンボールを抱えてエレベーターで下まで行っていたんだ。
僕の頃は文明の利器を使っても良かった。けど、一つしかないから奪い合いだ。
だから、ダンボール庫という便利なものがあるのになんで使わないんだろうと思いながらも、なんとなく扉から嫌な感じがして近寄らなかったんだ。
僕以外にもそんな事を考える人がいた。
そいつはとことん面倒臭がり屋で周りに書類を積むはゴミはなかなか捨てに行かない奴だったよ。「捨てに行きなよ」と言うとシャーペンを回して唸るだけでね。でも、いい奴だった。自分が出したゴミを捨てに行く時、声を掛けてくれる。
猫の手も借りたいほど忙しかったからね。助かった。
そんな奴が目をつけたのはダストシュート。下に行かずにゴミを捨てられるんだ。
彼にうってつけだったって訳さ。
名前か。ーーー豪田って名前だった。
ひろみちゃんなんて呼ばれてたっけ。かわいい名前に似合わずがっしりとした体つきの男でね。
扉を開けてゴミを投げ入れてたんだ。なんでもかんでも捨てる。あまりに勢いがいいから思わず「分別しなくていいのかい?」って尋ねたら、「どーせ燃やしちまうんだろ?へーき!へーき!」って豪快に笑ってた。
思えばあの時に強く止めていれば………
僕がちょうどダンボールを捨てに行こうとした時だった。豪田が代わりに行くと言ったんだ。ただじゃ悪いし、ジュースを奢る約束をした。
でも、いつまで経っても帰ってこない。
てっぺんを過ぎても戻ってくる気配がない。
3時間以上経っていたかな。僕も作業に夢中になっていて気が付かなかったんだよ。
約束を破る奴ではないし、探しに行った。
そしたら、開きっぱなしになっているんだ。
………可燃の方じゃなくダンボール庫へ続く扉が。
その時はセール前の手伝いで3階にいた。落ちたらひとたまりもない。
急いで警備員さんに話して下へ行ったんだ。
3階だったらまだ望みはある。
階段を1段飛ばしで駆け降りて扉を開けた先に彼はいなかった。
落ちた拍子でダンボールに埋もれたのかも。
気絶していて動けないんじゃ?
ダンボールを警備員さんと掻き分けた。
でも、いない。
「勝手に帰ったのか?」と警備員さんが監視カメラとタイムカードを確認しに行ってくれてね。
僕はその間、ぼんやり穴を見上げた。
すると、落ちて来たんだ。
シャーペンが。
豪田のシャーペンだった。
悪戯か揶揄っているのか。何処かの階の扉から見下ろして笑っているのか。
疲れていたからだんだん腹が立って来てね。
ダンボール庫を出て行こうとしたら警備員さんが飛び込んできて危うくぶつかる所だった。
「落ちたのには違いない」って言うんだ。
監視カメラに映っていたそうだ。
顔が真っ青でね。嘘じゃないのは間違いなかった。
何処かの扉が開いていて引っかかっているのか?
2階の扉は閉まっていたし、上を見ても懐中電灯の灯りは届かない。
まさか………
「朝まで待とう」と言う警備員さんに、ついさっきシャーペンが落ちてきた話をすると更に顔色が悪くなった。
上の階を一応見て回ることになったんだ。
3階。もちろん何もない。
4階、5階、6階………
10階のダンボール庫へ続く扉を開けると呻き声が聞こえた。
上からだ。
慌てて屋上へ行った。
鎖を引っ張って、錠前を投げ捨てた。
幸い警備員さんがマスターキーを持っていたからすぐ外せたよ。
扉を勢いよく開けた。
闇の中で何か揺れている。
人の体だ。黒いスーツを着た恵体の………
尻餅をついた。
警備員さんが覗き込んで悲鳴を上げた。
首が天井にめり込んでいた。体がぷらぷら揺れていた。
急いで救急車を呼んで、警察で事情聴取を受けた。
一応第一発見者だからね。でもあんまり覚えてないんだ。あまりにもショックでさ。
話によると豪田の背には無数の子どもの手形がついていたそうだよ。両手首にも掴まれたような痕があったとか。
もちろん子どもの手でね………
そこで初めて昔の事件を聞いた。ゾッとしたよ。
豪田は間違えたんだ。
可燃とダンボールの扉をさ。
ダンボール庫に眠るあの子にゴミが降り注いで怒りを買ったんじゃないかな。
その後?
豪田がどうなったか聞いても誰も教えてくれなかった。警備員さんと僕には周りに言いふらさない様にキツく言われたし、ご家族も百貨店の関係者に教えたくなかったようでね、追い返されたよ。
ダストシュートへ続く穴はベニヤ板で塞がれた。扉には屋上同様鎖と鍵だ。
もう誰もゴミを捨てられないようにね。
ダンボールが降りてくる穴。
1階の穴も塞がれたんだけど、ベニヤ板が落ちてきてね。危ないからそのままになったんだよ。
おかしい点があってね。穴側の方から埃で塗れた手で押された様な痕があったそうだよ。子どもの手形じゃなくて大人だったそうだ。
それにダンボール庫の近くに人の気配がするって噂が出るようになった。
あの子だったのか、豪田だったのか。そんな噂が流れたけど豪田は生きている。僕はそう信じている。
そう思わないとやってられなくて。
………僕の話はこれで終わり。
さぁ、買い物の続きをしようか。