春の〆祭り参加作品の4作目です。人魚姫ドラヒナのお話です。
最初の捏造設定をご覧になってから、OKなら次へお進みください。
捏造設定で、このお話のヒナイチ姫は、魔女の護衛・監視・助手をしており、『ドラルクの一番弟子』を名乗っております。
表面上はドラルクさんの望む、『無邪気で可愛い人魚姫』のままでいながら、『悪い魔女を救う為に魔女』となった、ヒナイチ姫の真意とは?
みんトで展示したお話の、お姫様視点の前日談でもあります。ロナルド王子とドラルクさんとの馴れ初めも語っております。
魔女さん視点の総集編的なお話はこちら→深海の魔女の死、太陽の魔女の誕生 https://privatter.net/p/10760499
人魚姫ドラヒナのお話はここからも読めます→https://privatter.net/category/59631
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*捏造設定になります。
魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。現在、カズサ王の陸と海を繋げる計画の中心人物。
ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいた。現在は、兄の命令で、ドラルクの護衛、監視員、助手をしている。幼い頃、小さなメンダコに変身したドラルクが、ヨシキリザメに襲われている所を助けた事がある。
シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。
ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。現在、サンズ姫と新婚さん。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。
サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、後に彼と結ばれた。最近は、ヒナイチ姫に懐かれて困っている。火薬や薬学の見識が高いくノ一で、ドラルクが探している治療薬作成のキーマンの一人。
魔女ルクさんには、契約した者達を実験台にし、人魚達を誑かして肉を食らっていた等、後ろ暗い経歴があります。
陸に行った元人魚達、人間から人魚になった者達の中には、望郷の念に駆られた者も多い。
彼らへの救済措置、人外にも友好的なシンヨコ王国との同盟、交流、付随する経済効果も狙って、カズサ王が陸と海を繋げる計画を立てています。
中心人物には魔女ドラルク。協力者として指名されたのが、ヒナイチ姫とロナルド王子、サンズ姫になります。
この三人の心臓には、魔法のパスポートが埋め込まれており、自由に陸と海で行動可能です。
「どうかね?ヒナイチ姫。」
「ヌアッヌヌヌ、ヌヌヌイヌヌヌ!」
「ありがとう、ジョン!気に入ったぞ。だって、魔女。お前とお揃いだ!」
カズサ王の立ち上げた、陸と海を繋げる計画が始まって、ある程度経った頃だった。
かつて、私との契約によって『毎日お菓子を食べに通う』人魚姫は、国王命令によって『計画の中心人物である、魔女ドラルクの、監視・護衛・助手』としてここに通っている。
無邪気なお姫様は気づいていないだろう。喰えないカズサ王が妹をここに寄越したのは、もう一つ理由がある。生まれつき不治の病を患っている私に何かあった時、引継ぎができる者が必要だからだ。
それを、自分の妹に覚えさせようというのである。
内心複雑だけど、お姫様も最近は『私は、ドラルクの一番弟子なんだ!』と、誇らしげに胸を張る。何だかくすぐったくて、悪い気はしない。
カズサ王の魂胆が分かってはいても、公然と、お姫様が毎日やって来てくれるのは嬉しい。さらに、協力者として、シンヨコ王国のロナルド王子夫妻がやって来てくれる。
彼とは元々、腐れ縁の様な間柄で、馬が合う。ロナルド王子の妻となったサンズ姫は、お姫様から親友に認定されてしまって、ヒナイチ姫も彼らがやってくるのを楽しみにしている。
200年以上生きてきて、4人と1匹が揃う時が一番楽しい、そう思っている。
だから、なんとしてもこの契約を完遂し、さらに、自身を治す治療薬を完成させなければ…そう決意を新たにする。
とはいえ、この世界に絶対…という事はない。
もし、途中で私が亡くなってしまう事があれば、彼女はどうなるのだろう。
だから、彼女も私が属している、魔女達の協会に登録させる事にした。
魔女達の協会と言えば、胡散臭いと感じる者も多いだろう。実際、過去に人に言えない理由があって、この世界に飛び込んできた者達の集まりだ。それだけに、しがらみも多く、規則も多い。
だが、非合法の世界に足を踏み入れた者達だけに、お互いを守り合う為の、強固なネットワークが敷かれている。何かあれば、救済の手を差し伸べてくれる。
これなら、私も安心して無茶をする事も出来る訳だ。
「さぁ、行こう。ヒナイチ姫、お手を。」
今日は、貴女を彼らに顔見せする日。私の可愛い人魚姫が新米魔女として、デビューする日。
社交界の様な華やかな世界ではないけれど、私にとっては『イナ海国の王女であり、この深海の魔女の伴侶となる女性』だと、周りに知らしめる日。
しくじりがあってはいけないのだ。
「う、うむ。頼むぞ。」
少し緊張した様な顔が、私の庇護欲をそそる。
そんな顔をしないでおくれ。いつもの笑顔を見せておくれ。
日の差さない暗い私達の世界に、降りて来た太陽の様な少女。
そんな貴女が一人前になったら、『太陽の魔女』という二つ名を付けようと考えているのだよ?
「なんだか、不思議な感じだな。私は気に入ってるけど、周りはどうだろうな?」
ドレスの裾を摘まんで、確認するお姫様を見て思わず苦笑する。
気にする必要はないよ。貴女の魅力を一番知っている私が縫った、自信作だ。
『太陽の魔女』の正装だとも。
燃えるような赤いローブ。その下は、尾鰭に合わせた爽やかな黄緑色のドレス。
フードから覗くのは、太陽の様に無邪気で華やかな笑顔。日の差すサンゴ礁を、イメージしたつもりだとも。
行きたくても、体の弱い私には行けなかった憧れの場所を。私を支えてくれた小さなジョンを、そして、私が恋い慕う貴女を生み出してくれた、感謝すべき場所をイメージしたのだ。
おずおずと伸ばされる小さな可憐な手。その手に、そっと口を寄せる。
「緊張しないでおくれ。今回は、私の傍で話を聞いているだけで大丈夫。」
「う、うん…。」
ローブを彩るフィンと斑点模様。首元には、私の蝋印を象った紫の宝石が輝くチョーカー。
いずれも、この世界で名前の売れた、『魔女ドラルク』の関係者である事を強調させたデザインなのだ。
大丈夫だとは、思うけれども…それだけでは、やはり心配だから…
「大丈夫。誰であろうとも…あの氷笑卿でさえ。私の大事なお姫様に、妙な真似なんかさせないから。」
「む…?う、うん。」
そして、間違いがあっても…貴女の心が私以外に向いたりさせないから。
無邪気で、チョロい所のある貴女に、他の者達がちょっかいを出せない様に、他の者に興味を持ったりしない様に…呪いを込めて、私はその手に口づけた。
『これはこれは、美しいお姫様。私に何か御用かな?』
そう言って、お前は私の手に口づけをした。これが、初めて私達が交わした会話だった。
ある嵐の晩の事だった。
『ヒナイチ姫。危ないから、およしなさいませ。』
侍女のルリはそういうけれど、鍛えている私には大した事ではない。突然の大時化で、避難し遅れた国民がいるかもしれない。だから、荒れた波も気にせずに、私はパトロールに飛び出した。
逃げ遅れたクマノミ、チョウチョウオ、ナンヨウハギ…彼らを安全な場所に誘導していると、海上から厳重に封をされた貨物がたくさん落ちて来た。上を見ると…避難用のボートの船底がいくつも見えた。
天候が急変したのだ。人間達の貨物船が、嵐に巻き込まれたのかもしれない。
『ハンダ!皆を頼むぞ!!』
『心得た。ヒナイチ姫も無理をなさるなよ!』
思いっきり、尾鰭に力を入れて海上に浮上する。
やはり、何隻からのボートと数人の人間達の姿が、浪間の間で揺れていた。
『おーい!!ロナルド王子!!』
『どこだ!!返事しろー!』
ボートに乗った青年達が、必死に叫んでいる。誰かが逃げ遅れたらしいと分かる。
深海の者達ほどではないが、人間より多少は、私も夜目がきく。
どこに…いた!!
赤い服を着た青年が、大波に揉まれて、沈んでいく。私は一気に潜ると、彼の足を取った。
そのまま、引っ張って最寄りの海岸へと向かう。
仲間と思しき青年達に、引き渡すという手もあったのだが、私達人魚と人間はあまり関わり合いにならない方がいい、と当時は言われていた。だから、姿を見せるのを遠慮したんだ。
陸と海を繋げようという、今からは考えもつかない事だったな。
なんとか、彼を最寄りの海岸に引き上げた頃、嘘の様に嵐は去っていて、朝日が初めて見る、陸の世界と救助した人間の男性を、明るく照らしていた。
「ふうん。こうして、明るい所で見ると…。」
ガッシリした体格に、日差しに反射する銀髪が、赤い服によく映えて綺麗だった。髪の間からは、端正な顔立ちが覗いていて…。
『よっと!!』
『…ッ!!ぶえぇぇー!!』
まぁ、普通の物語だと、初めて見た陸の世界をもっとよく見てみたいと憧れて、そこの住むイケメンの王子様に恋をする…ものらしい。
見惚れるより、救命の方が大事だろう?私は、そう思う。
だから、尾鰭で思いっきり、何度も胸を叩いたんだ。
『ゲホッ!!ゲホッ!!』
『あ、生きてる。これでいいかな?』
息を吹き返したから、人工呼吸はいらないだろう…そう思って、落ち着いて周りを見回す。あと、問題は低体温症だろう…人間は体を濡らしたまま野外に放置してはいけないらしい。
何か拭くものとか、温かいものとか、落ちてないだろうか。ないか…どうしたものか。
『にゃ!?あ、あ、あああ貴方は、ロナルド王子!?』
遠くでウミネコみたいな鳴き声がしたと思ったら、ピンクの髪をツインテールに結い上げた不思議な恰好(当時は知らなかったが、着物だ)をした女性が、こちらに駆けて来るのが見えた。
『ロナルド王子…っていうのか、お前。よかったな、これで助かるぞ。』
人間の事は人間に任せるべきだ。そう思って、私は海の世界に戻ったんだ。
『さりげに、陸の世界を見たのは初めてだったな。』
生まれ育った、サンゴ礁で満足していたんだ。遠くに見えた街や山…近くで見るとどんな形なんだろう。
少しだけ興味が湧いた。ささやかな好奇心だった。
『そういえば、聞いた事がある。深海に住む有名な魔女の噂を。』
そう思って、水深400m以上深い岩場にある、深海の魔女ドラルクの家を訪ねたんだ。
玄関で出迎えてくれたドラルクとジョンは、少し驚いた顔をして、私を招き入れてくれた。
『陸の世界に興味があるのかね?』
『うん、ちょっとだけな。どんな感じなのかなって…わ、何だ!?おいしい!こんなおいしいお菓子は、初めてだ!』
この時は、本当に『ちょっとだけ』だったんだよな。
何故なら、魔女が出してくれたそのクッキーを口にした瞬間、こちらの方に興味が移っていたのだから。
『いいよ。そのロナルド王子に会いたいのだろう?彼は、とても面倒見がよくて優しい人物だとも。』
『おいしい、おいしい…そうなのか?』
次から次へと、クッキーを口に運ぶ私に苦笑しながら、お前はこう言った。
『その美しい声をくれるなら、人間になれる薬を作ってやろう。でも、王子と結ばれなければ泡となって消えてしまうよ?』
『いらん。もう、いらないぞ。』
『え?今、何て?』
『ヌヌ?』
『い、いやいや…すぐに決める事はない。なんなら、お試しの薬だってある。それから決めても…どうだね?』
拍子抜けた顔をするドラルクとジョンに、当時の私はこう答えた。
『それより…お前が出してくれた、このお茶菓子は何というんだ?』
その時の私は、ドラルクが何故しつこく『人間になりたくないか?』『ロナルド王子に未練がないか?』と聞くのか分からなかった。実は、ドラルクとジョンは、元々ロナルド王子とは知り合いで、その人柄を知っていたからだ。
ロナルド王子になら、『ヒナイチ姫を取られても、我慢出来る。諦めがつく。』と考えていたのだという。
正義感溢れる王子様ではなく、悪い魔女の作るお菓子に魅了された私は、多くの人魚達を誑かして、その肉を喰らって生きてきたヴィランと、いつしかお互い思いあう様になった。そして、永遠に一緒にいられる未来を掴む為に、命を賭け合うようになるとは、考えていなかった。
その後、会う事もないと思っていたロナルド王子は、命の恩人だと勘違いしたその女性…サンズ姫も結ばれて、その彼女と私が、親友になるなんて思っていなかった。
世の中とは…
「ヒナイチ姫、どうかしたかね?」
「ん…なんでもない。世の中とは奇妙な縁で出来てるものだな。そう思っただけだ。」
手から口を離した魔女が、怪訝そうな顔をする。
『奴が飲んでいるあの薬は、とんだ代物だ。あれには、『延命』の効果はあっても『治す』事はない。』
『これから、お前は魔女殿の護衛と助手を兼ねる。自分で調べてみろ。』
兄は魔女が飲んでいる薬の正体を知っているのに、はっきり言わなかった。
この計画が終われば、もう材料は手に入らない、と。
待っているのは、惨たらしい死だ、と。
元々体を動かす方が得意で、勉強を厭っていた私が、魔女の元で一生懸命勉強をしているのは、そういう事だ。ロナルド王子と再会して、話をして、彼の悩みを聞いて…私も決心がついたから。
ジョンと同じ様に魔女と契約をして、深海で暮らせる体にして貰おうと思っていたから。
その為には、魔女を体を治さなければならない。私の手で…お前の命を救ってやりたい。
悪い魔女を救う為に、私は人魚姫を辞める。魔女になる決意をした。
『ヒナイチ姫、私も属している協会に、貴女を登録させようと思っている。』
魔女は自分に何かあった時、残された私が心配だから、そう考えたんだろう。でも、私は違うんだ。
この世界をもっとよく知る必要性を、感じたからだ。お前だけの魔女になる為に。
毎日、魔女の横でメモを取って、書庫の本を借りて、サンゴ礁に帰ってからも勉強して…その甲斐があって、だんだん本やメモが読める様になってきた。
魔女が誑かして、陸に送り込んだ人魚達…捨てて行った下半身の肉。それで作ったものが、お前が毎日飲んでいる薬なのだと、分かってきた。
どうして、しつこく私を陸に行かせたがったのかも…分かってきた。
そして今、私と一緒になる為に、兄と交わしたこの計画を成功させて、これまでの悪事を清算しようと、命を賭けている事も分かってきた。
そんなお前に、私が報いようとしている事は正しいのだろうか。
「…どうしたの?何か心配な事でも…」
「なぁ、魔女。」
首を傾げて覗き込んでくる、ドラルクのこけた頬に両手を添える。
「ん…。」
チュッいうリップ音が、静かな部屋に響いた。
「ウフフ、どうしたの?急に?」
「内緒だ…じゃあ、案内してくれ。」
お前は、私がまだ『何も知らない、無邪気で可愛い人魚姫』だと、思っている。
何も気づかないお子様であるままの方が安心するだろう、という事も。
私にかすり傷もつけたくないから、『私の肉を食べる事を諦めた』という事も、知っている。
でも、それじゃダメなんだ。魔力は弱いけれども、私だって今日から魔女の一人だ。
だから、呪いを込めて…私は、お前の唇にキスをした。
お前が望んでいない方法を使ってでも、お前を必ず死なせない。
どんな惨い苦しみを与える事になっても、お前に嫌だと言わせない。必ず、お前を手に入れる。
今はまだ日の差さない深海のように、深くて重い呪いを、お前に…。