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魔女となった人魚姫

全体公開 人魚姫ドラヒナ 5 6786文字
2024-03-25 17:34:50

春の〆祭り参加作品の4作目です。人魚姫ドラヒナのお話です。
最初の捏造設定をご覧になってから、OKなら次へお進みください。
捏造設定で、このお話のヒナイチ姫は、魔女の護衛・監視・助手をしており、『ドラルクの一番弟子』を名乗っております。
表面上はドラルクさんの望む、『無邪気で可愛い人魚姫』のままでいながら、『悪い魔女を救う為に魔女』となった、ヒナイチ姫の真意とは?
みんトで展示したお話の、お姫様視点の前日談でもあります。ロナルド王子とドラルクさんとの馴れ初めも語っております。
魔女さん視点の総集編的なお話はこちら→深海の魔女の死、太陽の魔女の誕生 https://privatter.net/p/10760499
人魚姫ドラヒナのお話はここからも読めます→https://privatter.net/category/59631

Posted by @kw42431393

*捏造設定になります。

 魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。現在、カズサ王の陸と海を繋げる計画の中心人物。

ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいた。現在は、兄の命令で、ドラルクの護衛、監視員、助手をしている。幼い頃、小さなメンダコに変身したドラルクが、ヨシキリザメに襲われている所を助けた事がある。

シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。

ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。現在、サンズ姫と新婚さん。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。

サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、後に彼と結ばれた。最近は、ヒナイチ姫に懐かれて困っている。火薬や薬学の見識が高いくノ一で、ドラルクが探している治療薬作成のキーマンの一人。

 魔女ルクさんには、契約した者達を実験台にし、人魚達を誑かして肉を食らっていた等、後ろ暗い経歴があります。
 陸に行った元人魚達、人間から人魚になった者達の中には、望郷の念に駆られた者も多い。
 彼らへの救済措置、人外にも友好的なシンヨコ王国との同盟、交流、付随する経済効果も狙って、カズサ王が陸と海を繋げる計画を立てています。
 中心人物には魔女ドラルク。協力者として指名されたのが、ヒナイチ姫とロナルド王子、サンズ姫になります。
 この三人の心臓には、魔法のパスポートが埋め込まれており、自由に陸と海で行動可能です。



 「どうかね?ヒナイチ姫。」
 「ヌアッヌヌヌ、ヌヌヌイヌヌヌ!」
 「ありがとう、ジョン!気に入ったぞ。だって、魔女。お前とお揃いだ!」

 カズサ王の立ち上げた、陸と海を繋げる計画が始まって、ある程度経った頃だった。 
 かつて、私との契約によって『毎日お菓子を食べに通う』人魚姫は、国王命令によって『計画の中心人物である、魔女ドラルクの、監視・護衛・助手』としてここに通っている。
 無邪気なお姫様は気づいていないだろう。喰えないカズサ王が妹をここに寄越したのは、もう一つ理由がある。生まれつき不治の病を患っている私に何かあった時、引継ぎができる者が必要だからだ。
 それを、自分の妹に覚えさせようというのである。
 内心複雑だけど、お姫様も最近は『私は、ドラルクの一番弟子なんだ!』と、誇らしげに胸を張る。何だかくすぐったくて、悪い気はしない。
 カズサ王の魂胆が分かってはいても、公然と、お姫様が毎日やって来てくれるのは嬉しい。さらに、協力者として、シンヨコ王国のロナルド王子夫妻がやって来てくれる。
 彼とは元々、腐れ縁の様な間柄で、馬が合う。ロナルド王子の妻となったサンズ姫は、お姫様から親友に認定されてしまって、ヒナイチ姫も彼らがやってくるのを楽しみにしている。
 200年以上生きてきて、4人と1匹が揃う時が一番楽しい、そう思っている。
 だから、なんとしてもこの契約を完遂し、さらに、自身を治す治療薬を完成させなければそう決意を新たにする。
 とはいえ、この世界に絶対という事はない。
 もし、途中で私が亡くなってしまう事があれば、彼女はどうなるのだろう。
 だから、彼女も私が属している、魔女達の協会に登録させる事にした。
 魔女達の協会と言えば、胡散臭いと感じる者も多いだろう。実際、過去に人に言えない理由があって、この世界に飛び込んできた者達の集まりだ。それだけに、しがらみも多く、規則も多い。
 だが、非合法の世界に足を踏み入れた者達だけに、お互いを守り合う為の、強固なネットワークが敷かれている。何かあれば、救済の手を差し伸べてくれる。
 これなら、私も安心して無茶をする事も出来る訳だ。



 「さぁ、行こう。ヒナイチ姫、お手を。」
 今日は、貴女を彼らに顔見せする日。私の可愛い人魚姫が新米魔女として、デビューする日。
 社交界の様な華やかな世界ではないけれど、私にとっては『イナ海国の王女であり、この深海の魔女の伴侶となる女性』だと、周りに知らしめる日。
 しくじりがあってはいけないのだ。
 「う、うむ。頼むぞ。」
 少し緊張した様な顔が、私の庇護欲をそそる。
 そんな顔をしないでおくれ。いつもの笑顔を見せておくれ。
 日の差さない暗い私達の世界に、降りて来た太陽の様な少女。
 そんな貴女が一人前になったら、『太陽の魔女』という二つ名を付けようと考えているのだよ?
 「なんだか、不思議な感じだな。私は気に入ってるけど、周りはどうだろうな?」
 ドレスの裾を摘まんで、確認するお姫様を見て思わず苦笑する。
 気にする必要はないよ。貴女の魅力を一番知っている私が縫った、自信作だ。
 『太陽の魔女』の正装だとも。

 燃えるような赤いローブ。その下は、尾鰭に合わせた爽やかな黄緑色のドレス。
 フードから覗くのは、太陽の様に無邪気で華やかな笑顔。日の差すサンゴ礁を、イメージしたつもりだとも。

 行きたくても、体の弱い私には行けなかった憧れの場所を。私を支えてくれた小さなジョンを、そして、私が恋い慕う貴女を生み出してくれた、感謝すべき場所をイメージしたのだ。

 おずおずと伸ばされる小さな可憐な手。その手に、そっと口を寄せる。
 「緊張しないでおくれ。今回は、私の傍で話を聞いているだけで大丈夫。」
 「う、うん。」
 ローブを彩るフィンと斑点模様。首元には、私の蝋印を象った紫の宝石が輝くチョーカー。
 いずれも、この世界で名前の売れた、『魔女ドラルク』の関係者である事を強調させたデザインなのだ。
 大丈夫だとは、思うけれどもそれだけでは、やはり心配だから
 「大丈夫。誰であろうともあの氷笑卿でさえ。私の大事なお姫様に、妙な真似なんかさせないから。」
 「む?う、うん。」

 そして、間違いがあっても貴女の心が私以外に向いたりさせないから。
 無邪気で、チョロい所のある貴女に、他の者達がちょっかいを出せない様に、他の者に興味を持ったりしない様に呪いを込めて、私はその手に口づけた。



 『これはこれは、美しいお姫様。私に何か御用かな?』
 そう言って、お前は私の手に口づけをした。これが、初めて私達が交わした会話だった。
 
 ある嵐の晩の事だった。
 『ヒナイチ姫。危ないから、およしなさいませ。』
 侍女のルリはそういうけれど、鍛えている私には大した事ではない。突然の大時化で、避難し遅れた国民がいるかもしれない。だから、荒れた波も気にせずに、私はパトロールに飛び出した。
 逃げ遅れたクマノミ、チョウチョウオ、ナンヨウハギ彼らを安全な場所に誘導していると、海上から厳重に封をされた貨物がたくさん落ちて来た。上を見ると避難用のボートの船底がいくつも見えた。
 天候が急変したのだ。人間達の貨物船が、嵐に巻き込まれたのかもしれない。
 『ハンダ!皆を頼むぞ!!』
 『心得た。ヒナイチ姫も無理をなさるなよ!』
 思いっきり、尾鰭に力を入れて海上に浮上する。
 やはり、何隻からのボートと数人の人間達の姿が、浪間の間で揺れていた。
 『おーい!!ロナルド王子!!』
 『どこだ!!返事しろー!』
 ボートに乗った青年達が、必死に叫んでいる。誰かが逃げ遅れたらしいと分かる。
 深海の者達ほどではないが、人間より多少は、私も夜目がきく。
 どこにいた!!
 赤い服を着た青年が、大波に揉まれて、沈んでいく。私は一気に潜ると、彼の足を取った。
 そのまま、引っ張って最寄りの海岸へと向かう。
 仲間と思しき青年達に、引き渡すという手もあったのだが、私達人魚と人間はあまり関わり合いにならない方がいい、と当時は言われていた。だから、姿を見せるのを遠慮したんだ。
 陸と海を繋げようという、今からは考えもつかない事だったな。



 なんとか、彼を最寄りの海岸に引き上げた頃、嘘の様に嵐は去っていて、朝日が初めて見る、陸の世界と救助した人間の男性を、明るく照らしていた。
 「ふうん。こうして、明るい所で見ると。」
 ガッシリした体格に、日差しに反射する銀髪が、赤い服によく映えて綺麗だった。髪の間からは、端正な顔立ちが覗いていて

 『よっと!!』
 『ッ!!ぶえぇぇー!!』

 まぁ、普通の物語だと、初めて見た陸の世界をもっとよく見てみたいと憧れて、そこの住むイケメンの王子様に恋をするものらしい。
 見惚れるより、救命の方が大事だろう?私は、そう思う。
 だから、尾鰭で思いっきり、何度も胸を叩いたんだ。
 『ゲホッ!!ゲホッ!!』
 『あ、生きてる。これでいいかな?』
 息を吹き返したから、人工呼吸はいらないだろうそう思って、落ち着いて周りを見回す。あと、問題は低体温症だろう人間は体を濡らしたまま野外に放置してはいけないらしい。
 何か拭くものとか、温かいものとか、落ちてないだろうか。ないかどうしたものか。
 『にゃ!?あ、あ、あああ貴方は、ロナルド王子!?』
 遠くでウミネコみたいな鳴き声がしたと思ったら、ピンクの髪をツインテールに結い上げた不思議な恰好(当時は知らなかったが、着物だ)をした女性が、こちらに駆けて来るのが見えた。
 『ロナルド王子っていうのか、お前。よかったな、これで助かるぞ。』
 人間の事は人間に任せるべきだ。そう思って、私は海の世界に戻ったんだ。

 『さりげに、陸の世界を見たのは初めてだったな。』
 生まれ育った、サンゴ礁で満足していたんだ。遠くに見えた街や山近くで見るとどんな形なんだろう。
 少しだけ興味が湧いた。ささやかな好奇心だった。
 『そういえば、聞いた事がある。深海に住む有名な魔女の噂を。』
 そう思って、水深400m以上深い岩場にある、深海の魔女ドラルクの家を訪ねたんだ。
 玄関で出迎えてくれたドラルクとジョンは、少し驚いた顔をして、私を招き入れてくれた。

 『陸の世界に興味があるのかね?』
 『うん、ちょっとだけな。どんな感じなのかなってわ、何だ!?おいしい!こんなおいしいお菓子は、初めてだ!』

 この時は、本当に『ちょっとだけ』だったんだよな。
 何故なら、魔女が出してくれたそのクッキーを口にした瞬間、こちらの方に興味が移っていたのだから。
 『いいよ。そのロナルド王子に会いたいのだろう?彼は、とても面倒見がよくて優しい人物だとも。』
 『おいしい、おいしいそうなのか?』
 次から次へと、クッキーを口に運ぶ私に苦笑しながら、お前はこう言った。

 『その美しい声をくれるなら、人間になれる薬を作ってやろう。でも、王子と結ばれなければ泡となって消えてしまうよ?』

 『いらん。もう、いらないぞ。』
 『え?今、何て?』
 『ヌヌ?』
 『い、いやいやすぐに決める事はない。なんなら、お試しの薬だってある。それから決めてもどうだね?』
 拍子抜けた顔をするドラルクとジョンに、当時の私はこう答えた。

 『それよりお前が出してくれた、このお茶菓子は何というんだ?』
 
 その時の私は、ドラルクが何故しつこく『人間になりたくないか?』『ロナルド王子に未練がないか?』と聞くのか分からなかった。実は、ドラルクとジョンは、元々ロナルド王子とは知り合いで、その人柄を知っていたからだ。
 ロナルド王子になら、『ヒナイチ姫を取られても、我慢出来る。諦めがつく。』と考えていたのだという。

 正義感溢れる王子様ではなく、悪い魔女の作るお菓子に魅了された私は、多くの人魚達を誑かして、その肉を喰らって生きてきたヴィランと、いつしかお互い思いあう様になった。そして、永遠に一緒にいられる未来を掴む為に、命を賭け合うようになるとは、考えていなかった。
 その後、会う事もないと思っていたロナルド王子は、命の恩人だと勘違いしたその女性サンズ姫も結ばれて、その彼女と私が、親友になるなんて思っていなかった。

 世の中とは



 「ヒナイチ姫、どうかしたかね?」
 「んなんでもない。世の中とは奇妙な縁で出来てるものだな。そう思っただけだ。」
 手から口を離した魔女が、怪訝そうな顔をする。
 
 『奴が飲んでいるあの薬は、とんだ代物だ。あれには、『延命』の効果はあっても『治す』事はない。』
 『これから、お前は魔女殿の護衛と助手を兼ねる。自分で調べてみろ。』
 兄は魔女が飲んでいる薬の正体を知っているのに、はっきり言わなかった。
 この計画が終われば、もう材料は手に入らない、と。
 待っているのは、惨たらしい死だ、と。
 
 元々体を動かす方が得意で、勉強を厭っていた私が、魔女の元で一生懸命勉強をしているのは、そういう事だ。ロナルド王子と再会して、話をして、彼の悩みを聞いて私も決心がついたから。
 ジョンと同じ様に魔女と契約をして、深海で暮らせる体にして貰おうと思っていたから。
 その為には、魔女を体を治さなければならない。私の手でお前の命を救ってやりたい。
 悪い魔女を救う為に、私は人魚姫を辞める。魔女になる決意をした。

 『ヒナイチ姫、私も属している協会に、貴女を登録させようと思っている。』

 魔女は自分に何かあった時、残された私が心配だから、そう考えたんだろう。でも、私は違うんだ。
 この世界をもっとよく知る必要性を、感じたからだ。お前だけの魔女になる為に。

 毎日、魔女の横でメモを取って、書庫の本を借りて、サンゴ礁に帰ってからも勉強してその甲斐があって、だんだん本やメモが読める様になってきた。
 魔女が誑かして、陸に送り込んだ人魚達捨てて行った下半身の肉。それで作ったものが、お前が毎日飲んでいる薬なのだと、分かってきた。

 どうして、しつこく私を陸に行かせたがったのかも分かってきた。
 そして今、私と一緒になる為に、兄と交わしたこの計画を成功させて、これまでの悪事を清算しようと、命を賭けている事も分かってきた。

 そんなお前に、私が報いようとしている事は正しいのだろうか。

 「どうしたの?何か心配な事でも
 「なぁ、魔女。」
 首を傾げて覗き込んでくる、ドラルクのこけた頬に両手を添える。
 「ん。」
 チュッいうリップ音が、静かな部屋に響いた。
 「ウフフ、どうしたの?急に?」
 「内緒だじゃあ、案内してくれ。」

 お前は、私がまだ『何も知らない、無邪気で可愛い人魚姫』だと、思っている。
 何も気づかないお子様であるままの方が安心するだろう、という事も。
 私にかすり傷もつけたくないから、『私の肉を食べる事を諦めた』という事も、知っている。
 でも、それじゃダメなんだ。魔力は弱いけれども、私だって今日から魔女の一人だ。

 だから、呪いを込めて私は、お前の唇にキスをした。

 お前が望んでいない方法を使ってでも、お前を必ず死なせない。
 どんな惨い苦しみを与える事になっても、お前に嫌だと言わせない。必ず、お前を手に入れる。

 今はまだ日の差さない深海のように、深くて重い呪いを、お前に
 
 


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