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酔いどれ微睡みうさぎ

全体公開 神無三十一受け 21 39 2755文字
2024-03-26 18:48:52

カルみと(アサ&ディノ) SS
シナリオネタバレなし

 

 「あさぎり〜〜すべすべ〜」

 ご機嫌な神無の声が聞こえてウイスキーのグラスから顔を上げた縞斑は、少し離れた座敷に座る真っ赤な顔の恋人に苦笑いをこぼす。

 「あらら、今日はアサギリちゃんが捕まっちゃったかぁ」

 神無のテーブルの上には半分まで飲んだカルーアミルクのカクテルグラスが置かれている。溶けた氷によって随分かさの増したそれを煽った彼は、ぷは、と気持ち良い溜め息を漏らして再び隣のアサギリの頬に擦り寄った。

 「つるつる〜あさぎりぃ〜〜ふへへ〜」
 「酔いすぎです、神無さん。」
 「あさぎりはぁ〜なんであさぎりなの〜?」
 「マスターに名前の登録をされ」
 「あっこれおいし〜!あさぎりたべよ〜!!」
 「…………。」

 クラッカーにリンゴとチーズを乗せて蜂蜜を掛けたつまみに手を伸ばした神無は、嬉々とした様子で目を輝かせて話している途中のアサギリの口へぐいぐいと押し込む。
 栄養の吸収機能は持ち合わせていないアサギリだが、そんな神無の押しに負けた彼はしぶしぶ放り込まれたクラッカーを咀嚼しているようだ。

 「カルーアミルク半分であれだけ酔えるならコスパ良いよねー、羨ましい。」

 思わずそう独りごちる縞斑の一方、見かねた相棒のディーノが席を立って水のグラスを手に神無の元へ歩いていく。

 「神無、そろそろ水を
 「でぃーの?でぃーの〜〜!こっちこっちぃ〜!!」

 そばにやってきた相棒の姿を見上げた神無は、ぱっと表情が嬉しそうに華やいだ。アサギリを掴む右腕は緩めないまま、彼は左手でディーノを手招きする。
 心配そうに歩み寄ったディーノからグラスを受け取ることはなく、彼は左腕にディーノを抱きしめて頬に擦り寄った。

 「でぃーの〜でぃのでぃの、でぃーのちゃ〜ん」
 「む、んむ、ぃ、かみな、」
 「ん〜もちもちましゅまろ〜〜」

 柔らかいディーノの頬とつやのあるアサギリの頬の感触を代わる代わる堪能してくふくふと笑う神無は、どうやら相当酔いが回っているらしい。
 自分を抱える酔っ払いの人間に、アンドロイドながら完璧に死んだ目になったディーノとアサギリはゆっくりと離れた席の縞斑へと視線を向けた。
 早くなんとかしろ、と伝えたいことがありありと分かる視線を受けた縞斑は、戯れる彼らを肴に飲んでいた酒を飲み干して席を立つ。

 「神無ちゃーん?ふたりとも苦しそうだよ。」

 声を掛けながらディーノが抱えていた水のグラスを預かると、彼は神無の手にグラスを握らせた。
 ところが彼は花が咲いたような笑顔を浮かべると、グラスを適当にテーブルに置いて両手を縞斑へ伸ばす。

 「だらだぁせんぱぁ〜い!」
 「はいはい、うんうん。ハグしようねー」
 「せんぱいせんぱ〜い!!ぎゅ〜〜」

 神無が腕を広げた隙に脱出したアサギリとディーノは、すかさず縞斑を人身御供にして距離を取った。疲れた様子の彼らに苦笑いを浮かべた縞斑は、ひとまず目の前で両手を広げてハグをねだる神無を抱き締める。

 「はい神無ちゃん、お水飲もう。」
 「んー……ふふふ」
 「寝る前に水分取ろうねー」
 「ふへへへ〜」

 腕の中でくすくすと楽しげに笑う神無の体はじんわりと温かく、このまま酔いを覚ますより寝落ちを狙った方が確実だと縞斑は計画を切り替えた。
 兎にも角にも水分補給をさせようと根気強くグラスを手の中に押しつければ、揺れる水面を見つめていた神無は顔を上げてへにゃりと笑う。

 「いつもみたいに、みといってよべ。」

 しんと一瞬周囲が静まり返る。
 喉を鳴らす子猫のように腕の中でじゃれる神無を抱えた縞斑が言い訳を探すように顔を上げれば、曖昧な表情でそのやり取りを見守っていたアサギリが促すように手を振った。

 「気にせず、どうぞ?」
 「いやいやいや呼ばないよ、二人きりでもないのに。」
 「……二人きりなら呼ぶんですね。」
 「ディーノちゃんそれは言葉のあやってやつでって、なんで俺だけこんな居心地悪い思いしなきゃいけないの?」

 ひそひそと肩を寄せて囁き合う結託した相棒たちに、縞斑は理不尽を主張して額を押さえる。
 縞斑と神無が恋人であることは相棒や職場の親しい人間ならば知っていることだが、だからといって人前で堂々といちゃつくほど若くもない。

 「か神無ちゃん、そろそろ部屋に戻ろっか。」

 これ以上分が悪くなる前に撤退しよう、そう決意した縞斑は神無の手を引く。
 神無はすんなりと手を引かれるままに顔を上げた。珍しく聞き分けのいい神無を意外に思って視線を下げれば、そこには菫色の座った瞳が至近距離にある。

 「ちょ、ま」
 「んちゅ」

 甘ったるいカルーアの味が唇に滲んだ。小さなリップ音を立てて離れていった神無の唇が、満足そうにふにゃりと緩んで弧を描く。

 「ふふ、へはは〜へんなか……

 縞斑の呆けた顔を指さしてけらけらと笑っていた神無は、重い瞼に抗うことなくこてんと縞斑に体を預けて寝息を立てる。
 台風のようなその出来事に、アサギリはディーノの目を塞ぐことで手一杯だった。すやすやと穏やに眠る神無を覗き込んだアサギリは、この後の対応を仰ぐように事務的に縞斑を見上げる。

 「マスター。」
 「………部屋に連れて帰る。」
 「送り狼になってはいけませんよ。」
 「やだな、流石に意識のない子を食う趣味はないから安心して。」

 細く息を吐いた縞斑は改めて神無を抱え立ち上がる。女性陣から上がるきゃあという悲鳴を穏やかな笑みで躱した彼は、眠る神無が同僚の目に触れないようにさっさと宴会場の扉へ向かった。
 ぷす、と間抜けな顔で眠る神無を見下ろしてもう一度大きなため息を吐いた縞斑は、あぁと思い出した様子でアサギリを振り返る。

 「アサギリちゃん、部屋の延長手続きよろしく。」

 その瞳は笑っていない。散々恋人を弄んだ末に寝落ちした彼にはおそらく、酔いが覚めてから灸が据えられるのだろう。

 「お疲れ様です。」

 明日はきっと、神無は夕方まで部屋から出られないのだろう。
 自業自得とはいえ、独占欲の塊である男の愛を一身に受ける神無に同情を覚えたアサギリは、心の中でそっと手を合わせた。

 「アサギリ、ぼくも、ぼくも行きますぼくも、」
 「……ディーノさん、ほらパフェありますよ。好きなの選んでいいですからね。」

 アサギリが目下すべきことは、彼について行こうともがく腕の中のディーノの気を紛らわせることだ。
 主人の尻拭いに仕方なく息を吐いた彼はそう呟くと、近くに転がっていたデザートメニューに手を伸ばすのだった。




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