みずいこお題部第四回より「緑」をお借りしました
関西弁非ネイティブのため口調は勘と変換機頼り
@a_yuuzora
おつきあいを始めるにあたって水上は、一つ約束しませんか、と言った。
「約束? ええよ」
「聞く前から承諾するのやめません? イコさんそういうとこっすよ」
「水上が提案するんやから別に悪いことやないだろうし? で約束て何?」
「『お互いの交友関係に口出ししない』ってやつです」
「ウン、別にええと思うけど。なんでわざわざ約束するん」
「イコさん、俺はね、自分でも引くくらい重い男なんすわ。嫉妬深い。今までだって、いーっぱい嫉妬してました。でもイコさんの交友関係に口出しできる権利なんてないと思って、一言も表には出さんかったんです。でも恋人になったら少しだけでも権利ができてまうでしょ。そうすると俺は俺を止められんようになります。際限なくアレはダメこれもダメって言うようになります、きっと。でも『口出ししない』って約束しておけば、イコさんとの約束なら守らなって歯止めがかかると思うんです」
早口につらつらと並べ立てられて生駒は面食らう。言っていることの半分理解できたかどうか、といったところだ。深刻な色をした琥珀色の眼差しが、少しだけ怖く思える。
「……引きました?」
「引いた言うか、ちょっとだけ怖いなって、ちょっとだけな」
「ええですよ、それが普通の反応です。約束、覚えといてくださいね」
「おん」
愛のカタチは人それぞれだと生駒は思っている。そこが人の面白いところであり愛すべきところだと思っている。だから、自分が水上に向ける恋のカタチと水上が自分に向ける恋のカタチが違うのは全く気にしなかった。
二人の間には先輩後輩や隊の仲間という関係のほかに、恋人という関係が加わっただけだと考えていたし、それは実際その通りだった。変わったのは二人の周りの人間関係だ。正確には水上の周りの、人間関係だ。
大学に進学し、交友関係が縦にも横にも広がり、飲み会の場に連れ出されることが多くなった。大学は単位を取りやすい講義や過去問などの情報はそういう場でつくられた繋がりから入ってくるものだ。ボーダーの先輩方は多いとは言えないから、ボーダー外の繋がりには生駒自身も大いに助けられた。良いことだ。
良いことだとは分かっているが、何故か釈然としない。お前高校んときそんな付き合い良うなかったやろ、と喉元まで出かかったこともある。
愛する人に訪れた「良いこと」をこんなにも祝福できないことある? と生駒は自己嫌悪すら感じるようになった。
加えて、大学の食堂で女子学生が噂してるのも耳に入ってきた。
いわく「今年の新入生ボーダー隊員多いよね」「ボーダーって頭良い人多いんだって」「勉強教えてって言ったら仲良くなれるかな」などなど。
それが水上のことを指しているかは分からない。だが、それでも聞いていられなくなった。
「なあ水上、お前に嫌われるかも知らんこと言ってもええ?」
「俺がイコさん嫌う訳ないでしょ」
「聞く前に断言するのやめえ、お前ほんまそういうとこあかんと思うで」
「あかんこと何もないっすよ。イコさんがネガティブなこと言うときは絶対何が変な勘違いしてるの経験則で知ってるんで。で、なんすか言いたいことって」
「……あんな、あんま友達増やすのやめてほしいねん」
「それはまた……なんで」
「自分でもおかしいこと言うてる自覚はあんねんで? 最初に約束もしたしな。でもな、こう、モヤッってすんのが収まらんくて」
一度話し始めると堰を切ったように感情が噴出した。
水上が学内や更に外側まで交友関係を広げるのが何故か不安になるし不愉快にすら感じてしまうこと。女子が噂してる「カッコイイ一年生」が水上のことのように聞こえて落ち着かないこと。雑談の中でよく出てくるクラスメイトにまで敵愾心を感じてしまうこと。今後酒が絡んだ付き合いが増えることを思うと我慢ならないこと。
こんなにもマイナス感情を表に出すことなんてなかった生駒はもうそれだけで疲れてしまい、だんだんとうつむき加減になって、いつもなら再現なく楽しい話題を紡ぐ唇も動きが鈍くなりついには止まってしまった。それでもまだ抱えている感情の半分も半分も表に出せていない感覚がある。
「……イコさんがそんなこと言うなんてなあ」
「幻滅した?」
「まさか」
水上の声音は軽く、目元はどこか楽し気に細められている。
「笑ぉとる?」
「そうかもしれません。イコさんも俺とおんなじ人間やったんやなあって嬉しくて」
「生まれてこのかた人間以外になった覚えないけど?」
「そういう意味やないですよ。イコさんはいつだって優しくておおらかで寛容でほとんど怒らんお人やから、そんなイコさんの中にも俺とおんなじ魔物が棲んどるんやなあって」
「魔物」
「それは緑色の目をしている、なんて言いますねえ」
細められた琥珀色の中に、生駒の瞳が映り一瞬緑色に光る。心の窓から二人ともが飼っている魔物が顔を覗かせている。
「イコさん、一緒にその魔物飼いならしていきましょか。俺にはそのへん一日の長がありますから」