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私の前では変わらない

全体公開 本編ドラヒナ(両思い期) 5 3562文字
2024-03-28 10:11:54

 ドラルクさんの誕生日のお話です。30年後のドラヒナで、夫婦水入らずでイチャイチャしながら、出会った頃からの日々を思い出します。このネタ、結構書いてるなぁ。何度でも思い返してると思うんよ。
 30年後のヒナイチくんがプレゼントした『サンストーン』は、11月28日の誕生石。
 意味は、『愛の祝福』『幸福な日々』らしいです。勇気づけたい、元気になりたい時にお勧めだとか。
 捏造設定で、床下を改築して、ロナサン夫妻と二世帯住宅になっており、それぞれに子供がいる設定になっております。ご注意下さい。
 誕生日から一夜明けて、出勤するヒナイチくんを見送るドラルクさんのシーンを追加しました。
 2023/11/28に上げました。

Posted by @kw42431393

 毎夜、私を退屈させないシンヨコの夜。  
 今日も面白い事件がおきないかなそんな期待を持って棺桶から出て来るんだけど、今晩だけは遠慮して欲しい。

 「♩はっぴごめんって。ジョン、そんな顔をしないでおくれ。」
 「ヌヌ!」
 私がする事なら何でも肯定してくれるジョンだけど、これだけは昔から塩対応だ。
 でも、ついつい漏れてしまうのは仕方がないと思う。
 だって、今日は

 「ただいま、ドラルク。あれ?ロナルドは?」
 おや、我が最愛のクッキーモンスターもとい、吸血鬼対策課ヒナイチ隊の隊長殿のご帰還だ。
 「おかえり、ヒナイチくん。いつもの事さ。今日はシンヨコで、いや世界で最もめでたい日だから、脱稿しておいてって言ったのに。」
 「懲りない奴だ、また缶詰めか。じゃあ、サンズもつき合いでオータムだな。」
 「そうそう。子供達も帰って来るまで時間があるよ。だからね?遠慮なく。」
 両手を広げてみせると、少し頬を染めながらも胸の中に来てくれる。
 30年前だったら茹蛸になってただろうし、なんなら1回ぐらいは殺されてる。

 「Draluc. La multi ani(ドラルク、誕生日おめでとう)」
 「Mersi,Domnisoara(ありがとう、お嬢さん).」

 唇に口づけを落としても怒らない。彼女の方からしてくる事もある。
 その場合は、尊死のあまり、私が塵になってしまう事も珍しくなってきている。
 基本的に、バッチリエスコート出来てるドラドラちゃんだけど。
 『クッキーモンスター』『床下のリス』『餌付けし甲斐のあるハムスター』と揶揄していたはずの少女に、いつの間にか、精神的に追い越しされそうになっているのは、自覚せざるを得ないよね。
 もう、されちゃったかな?されちゃってもいいけどね。

 「フフッ、大人になったものだよねぇ。」
 「仕方ないだろう。出会ってから、30年も経ってるんだ。娘だってもう外に出てるし、当たり前だ。」



 そうだったね。初めて出会ったのは、この事務所。
 ロナルドくんに長年住んでいた居城を爆破されて、転がり込んで間がない頃。
 新鮮な生き血が恋しいなって、たまたま思ってた矢先に現れたのが君だった。

 「あの頃は、手に挨拶のキスをしただけで真っ赤になって、飛び出して行ったよね。」
 「う、うるさい!鍛錬ばかりしてて、飛び級で吸隊に入ったんだ。免疫がなかっただけだ。」

 それから、私のクッキーの虜になってくれた君を、毎晩毎晩餌付けして、極上の処女の血に育て上げていたはずだったのに。だから、君を狙っている奴らを、こっそり追い払ったりしてたはずだったのに。

 『あいつはいい奴だ。一緒にいて楽しいんだ!』
 『私の為に、一生美味しいクッキーを焼き続けろ!』

 篭絡されたのはこっちだったんだよね。負けてばかりじゃ癪だもの。
 だから、ちょっとからかっちゃう。
 「いつからだったかな~、『いってきます』のキスをしても怒らなくなったのは。手から場所が変わっていっても、受け入れてくれる様になったのは。」
 「う、うぅ。お前の気障ったらしい行動パターンに慣れて、手ぐらいならと許してただけだったのに。だんだん図に乗って来て。」
 それが、作戦だったんだよね。いきなり頬や口はハードル高いもの。
 じわじわ際どい所まで攻めていく。きっちり、術中にかかってくれちゃって。
 「酷いなぁ。その内、自分から手や頬を出してきてくれる様になったじゃないか。頬を染めておずおずとあれは嬉しかったとも。」
 図星を刺されて、俯いた顔を覗く。軽く小突くだけで死んでしまう私が抱きすくめても、抵抗しようともしない。
 ロナルドくんもいないし、気を利かせたジョンが見張りに出たのをいい事に綺麗なうなじに舌を這わせても、艶やかな声を上げて、体をくねらせただけだ。

 吸血鬼対策課では、誰もが憧れの眼差しで見上げるヒナイチ隊長。
 若くしてスピード出世した、戦闘力トップクラスのエリート戦士。
 30年の時間を経て、元々あった凛々しさに冷静さと妖艶さが加味された、素晴らしい女性。

 そんなヒナイチくんが、こんな虚弱な男の前では19歳の頃と変わらない顔をしているのだ。
 最高の昼の子を手に入れた私の特権だ。優越感ぐらい湧いても仕方ないと思う。

 「も、もういい!成人する前の話だそれより、ロナルド達が帰って来る前にこれを渡しておこう。」
 手に抱えていた紙袋を差し出される。気にしなくていいのにね。
 若造なんて、こちらから欲しい物を指名しておかないと忘れてしまうのに。
 「ありがとう、嬉しいよ。開けてもいいかね?」
 「勿論だ、気に入ってくれるといいんだが。」
 紙袋に入っていたのは、小さな小箱。開けると、ネクタイピンが入っていた。
 「ありがとう。触れるだけで温かい気がするよ。」
 「大袈裟だな。11月28日の誕生日石なんだそうだ。トパーズとどっちにしようか迷ったんだが。」
 手で弄びながら、蛍光灯に反射した光を楽しむ。
 ネクタイピンの先についたシンプルな石は吸血鬼の私には見られない、太陽の様にキラキラと赤やオレンジに輝くサンストーン。

 「どうしても種族が違うからな。実際に一緒にいられる時間が少ない。だ、だから。」
 うん、そのつもりで選んでくれたんでしょ?

 太陽を具現化した様な、明るくて温かい昼の子。
 その君を思い出させる、太陽の石を。

 「昼間、棺桶で眠っている間も側に持っていてくれると嬉し、うん。嬉しいんだ。」
 にっと笑った笑顔は眩し過ぎて

 「お、おいだから、死ぬな。私だって恥ずかしか
 その時だった。廊下の先から賑やかな声が聞こえてきたのは



 『ヌヌヌリ!』
 『あっ、ジョンくん。ただいまです~。』
 『サンズさんまでつき合わせてしまって、すみませんでした。やれやれ、頼まれていたクソゲーも買えたし。これで、とやかく言われずにすみますよ。』
 『あとは、息子達が帰ってくるのを待つだけですね。』
 『おっ、今RINE入ってますよ。ミナちゃんとも合流したから、もうすぐ着くって。』

 ロナルドくん達が帰ってきたらしい。夫婦の甘い時間もここまでか。相棒夫婦との二世帯暮らしだから、仕方ない。
 そして、それがまた楽しいのだけれど。
 「ウフフ、じゃあ。着替えてくる。楽しみだな。」
 「いつもでしょ、ここに来てから。特に君達と会ってから
 「うん、そうだな。」

 今まで、楽しみじゃなかった日がないのだから。

 



 「ドラルク、おやすみ。私は、早めに出勤しなくてはいけなくて

 ジョンと昼の子達の食事を用意し終えて、戻って来る頃。
 ちょうど、入れ違いにヒナイチくん達が出勤の準備を始める。
 これが、種族が違う事の辛さだ。何より辛いよ。
 吸血鬼対策課と吸血鬼退治人だから、普通の人間よりは彼らといられる時間は長い。
 それでもやっぱりもっといたいと思う。どうにもならないと、分かってはいても。
 「いいよ、いってらっしゃい。お弁当におやつも用意してあるから、楽しみにしていて。」
 「ヌッヌヌッヌイ。」

 仕方ないよね、君にはやりたい事があるんだ。昼の子の寿命は、短い。
 だから、健康で少しでも長く、やりたい事をして欲しい。
 「フフ、なんだか照れ臭いな。さっそく、つけてくれたんだ。」
 そういって、ヒナイチくんがネクタイピンを撫でる。そりゃそうだとも。
 ジョンや君、ロナルドくんに貰ったものは、ぜ~んぶ大事に取ってあるよ。全部に大切な思い出が詰まっているから今回のプレゼントは特に。

 「いってきます。また、今夜な。」
 弄っていたネクタイを、君は引き寄せる。慣れた様に重ねられる唇。
 君は戻って来るとも、大丈夫。彼女を気持ちよく、昼の世界に送り出さなきゃ。



 「うん、待ってるよ。また、今夜。」
 床下から出ていく君を見送ると、30年経っても慣れない寂寥感がある。
 
 ドラルク様

 「うん、大丈夫。私達も寝ようか。」
 「ヌン。」

 いつものネグリジェに着替えると、ジョンを胸に抱いて、私は棺桶に入る。
 枕元に、外したネクタイピンを並べると
 「太陽の石、とはよく言ったよね?」
 「ヌン!」
 
 夜目の利く私達には、はっきり見える。
 真っ暗な狭い空間に、小さな小さな君が見守っていてくれているのを。
 


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