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滴る黒百合

全体公開 神無三十一受け 22 55 3204文字
2024-04-07 13:57:45

カルみと モブみと事後注意
ファンボの三次創作
シナリオネタバレあり

 

 その場から駆け出した研究員が扉を開くのと、駆け付けた仲間たちが外側から扉をこじ開けて突入したのは、ほぼ同時のことだった。

 「神無ちゃん!!」

 聞こえた声に助けが来たという安堵を覚えた神無は、同時に助けに頼ってしまった自分の惨めさを痛感して俯く。

 「神無ッ!神無!!」
 「ディーノさん!先に犯人の確保を!!」

 扉の隙間から這うように逃げ出そうとしていた研究員の男は、アサギリの指示を聞いたディーノによって容易く拘束された。
 床に押し付けられて呻き声を上げる首謀者を一瞥した縞斑は、部屋の奥で机の側にへたり込む神無の元へ駆け寄る。

 「神無ちゃん、怪我は?」
 「………外傷はあんまない。薬もだいぶ抜けたから、」

 手短に自身の体調を打ち明ければ、通話の時点で神無の状況を薄々察していたらしい縞斑はこくりと頷いて自身のジャケットを神無の乱れた衣服を覆い隠すように掛けた。
 震えの止まらない神無の背を撫でた縞斑はふと、見回した室内に停止したアンドロイドが数体並んでいることに気がつく。

 「まさか、」

 主人が命令を放棄したことによって強制的に停止した違法改造のアンドロイドたちと、異常なまでに怯えた様子の神無へ視線を向けた縞斑は小さく息を呑む。
 同時に背後から聞こえた応援の警察アンドロイドの足音に、彼は慌てて相棒たちへと声を張り上げた。

 「アサギリ!!応援のアンドロイドたちをここに近づけるな!!!」
 「マスター?」

 犯人の拘束を手伝っていたアサギリは縞斑の鋭い指示を聞いて顔を上げる。
 彼の切羽詰まった表情と、背を支えられた不安定な神無の姿を見たアサギリは、合点がいった様子で頷いた。

 「かしこまりました。すぐにニトを呼びます。」
 「あぁ頼む。」
 「ディーノさんも、先に行きましょう。」
 「わ、わかりました!」

 男の手足を厳重に拘束していたディーノは、犯人の連行より神無の体調を優先すると不安そうに振り返りながらアサギリについていく。

 「神無ちゃん、もう大丈夫だから。」
 「………うん、うん

 室内に動くアンドロイドがいなくなったことを確かめた神無が細く息を吐く様子を見守った縞斑は、相棒たちにすら拒絶反応を起こしていた神無の受けた仕打ちを思って拳を握る。
 床に転がったまま事の成り行きを見ていた男は、青い顔の神無を見上げて小さく声を上げた。

 「あぁなるほど、このご時世を生きるには随分面倒な体質だな。」

 行為の最中に神無が示した著しいストレス反応の正体に気がついたらしい男の言葉に、神無の肩がびくりと揺れる。
 敵に自身の弱点を見破られたことによる本能的な恐怖に震える彼を眺めた男は、にたりと口の端を吊り上げて言葉を続けた。

 「アンドロイドが苦手なアンドロイド事件専門の刑事だなんて傑作だなぁ、三十一クン?」
 「ぁう、ぁ……ッ」
 「神無ちゃん、早く外へ出よう。」

 がくがくと体を震わせる神無の肩を抱いた縞斑は、扉の外からアンドロイドの気配が遠ざかったことを確かめて神無を外に出そうと促す。
 まだ喋る力が残っているとは、ディーノに口を塞がせるべきだったと後悔した縞斑の焦りを嘲笑うように、男は的確に神無を追い詰める言葉を選んだ。

 「そんな無能を雇っているなんて、日本の警察組織の程度が知れるというものだな。」

 自身の抱えるこのトラウマも、慢心が招いたこの結果も、受け入れるべきものだと神無は自身に言い聞かせる。
 あと少しでも多く下調べを入念にしていたら、アンドロイドと相対する可能性に気がつくことができたかもしれない。あと僅かでも警戒心を高めて事件に臨んでいたら、拘束されることも凌辱されることもなかったかもしれない。

 全て事実だ。紛れもない神無の落ち度だ。
 けれど、認めることはこんなにも恐ろしい。
 震える神無が自身の肩を抱いて強く目を瞑ったその時、縞斑の腕が神無を強く引き寄せた。

 「わ、っ」
 「もう聞かなくていい。」

 外部の音から守るように自身の胸と手のひらで神無の耳を塞ぐ。
 両耳から伝わる鼓動を聞いた神無が顔を上げれば、そこには怒りを押し殺して神無を安心させようと微笑む縞斑の姿があった。

 「せんぱい?」
 「少しだけ、耳と目を塞いで待っていて。」
 「でも、」
 「大丈夫、すぐに終わるから。」
 「……わかった。」

 縞斑の言葉に頷いた神無は、縞斑に守られていた腕に代わって両手で耳を塞いで目を閉じる。
 外部の情報を神無が遮断したことを確かめた縞斑は、懸命に貼り付けていた笑みを消して男を振り返った。
 男へ大股に歩み寄った縞斑は、構えていたサブマシンガンをその口へ強引に捻じ込む。

 「ぐ、」
 「喋るな。」

 呻き声すら許さないと言うように銃口を埋めた彼は、無表情のまま男を見下ろした。

 「刑事はどれだけ煽っても犯人を殺さないだろうって勝ち誇ってるところ悪いけど、俺はもう刑事じゃない。」

 男の目が丸く見開かれる。
 犯人を個人的に罰することができないとたかを括って余裕を抱いていたらしい男に、更に苛立ちを覚えた縞斑は言葉を続けた。

 「生憎俺は、彼を助けたくて勝手に事件に割り込んだ犯罪者だよ。」

 神無が犯人たちを引き付けている間に、スパローは施設のアンドロイドを保護するという当初の予定をかなぐり捨てて、縞斑は強引に神無の救出に参加したのだ。

 「だから俺はお前がこのまま引き金を引いて脳漿を撒き散らして死のうと一向に構わない。」
 「ぁ、」

 男の顔がみるみる青ざめていく。神無の心を殺しておいて、今更自分の命が惜しいなど笑ってしまう。
 その冷酷な笑みを隠すことなく晒した縞斑は、男を絶望の底に叩き落とすために愛銃の引き金に指を掛けた。

 「幸いここには警官アンドロイドもいない。飛び散ったお前の死体は……そうだな、海に撒いて魚の餌にでもしようか。」

 かちり、引き金を絞る音が室内に響く。
 許しを乞おうとする男が呻き声を上げたその時、縞斑は空いた腕で男の頬を殴りつけた。
 銃口を押し込まれたまま顎を強く打ち付けた男は、その衝撃に耐えかねて意識を手放す。
 鈍い殴打音と共に地面に倒れた男から早々に目を逸らすと、縞斑は部屋の隅で言いつけを守って耳を塞ぎ目を閉じる神無へと駆け寄った。

 「神無ちゃん、もう良いよ。」
 「ん、……うん。」

 軽く肩を叩いて声を掛ければ、ぴくりと肩を揺らした神無の瞳がおずおずと開かれる。
 怯えた紫の瞳には涙が滲み、頬に残ったいくつもの涙の痕に再び湧き上がる男への殺意を押し留めた縞斑は神無の頭を撫でた。

 「外に出よう。ひとりでよく耐えたね。」
 「……いま、やさしくされたくない、」

 だから言ったのに、そうため息を吐かれて呆れられたなら、いつも通り言い返して調子を保つことができたのに。
 じわじわと滲んだ涙がこぼれ落ちて、握りしめた自分の手の甲を濡らしていく。ますます自分が情けなくなって俯く神無の心境を察したらしい縞斑は、対応を変えることなく神無を強く抱きしめた。

 「俺が泣きっ面に蜂みたいな性格の悪いことする男に見える?」
 「めちゃくちゃみえる。」
 「うーん日頃の行いの成果がこんなところで出ちゃったかな。」
 「うるさい、ばか

 即答した神無の肩を抱いて立ち上がった縞斑は、苦笑いを浮かべて部屋の外へ彼を促す。
 上手く呂律が回らない神無はどうやら、まだ完全に薬が抜け切っていないらしい。
 気持ちの悪い熱に項垂れた神無を連れて、縞斑は行為の残滓がそこかしこに広がる室内を目に焼き付けて部屋を後にしたのだ。



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