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つなぎ、つながる

全体公開 神無三十一受け 15 57 2649文字
2024-04-13 11:13:26

カルみと SS
通過シナリオネタバレあり

  

 「それ、まだ消えないの?」

 あの一件から数日後、スパローのアジトの地下にて。
 いつも通り情報共有を終えて帰り支度をする神無に向けて、縞斑はそう声を掛けた。
 ジャケットを羽織ろうとしていた神無はその言葉を聞くと、こくりと首を傾げてみせる。

 「それ?どれ?」
 「その痣。」

 指摘された神無は縞斑の視線の先を辿ると、あぁと呟いて制服の袖を捲った。そこに覗いた神無の手首には、くっきりと赤黒い痣が残っている。

 「みたいだな。」
 「痛そう。」
 「まぁね、最初に比べたらかなりましだけど

 話す神無は、昨日のことのように思い起こされるあの騒動に思わず苦笑いを浮かべる。
 24時間以上共に手錠で繋がれていた名残によって、神無の手首には未だ色濃い痣が居座っていた。
 痛々しい痣の残る腕をひらりを振った神無は、心配そうに眉を寄せる縞斑へ明るく言葉を続ける。

 「最初は包帯で隠してたんだけど手首に包帯っていうのもディーノたちに心配されてさ。」
 「あー確かに、何かとストレスの多い職場だからね。」

 仕事に復帰してしばらくは痣を隠して過ごしていた神無だが、手首に巻かれた包帯を相棒や職場の仲間たちに誤解されて一悶着があったのだ。
 そのときはどうにか誤魔化した彼だが、以降は痣を必要以上に隠さないことに決めたのである。
 席を立った縞斑は、神無の細い手首をそっと撫でる。縞斑よりも傷を隠すことが難しい立場にある彼のことを分かっていながら、事件の間は配慮する余裕もなく振り回していたことを思い出した。

 「ごめんね。」
 「え、いや先輩は全く悪くないだろ。」

 ぱちぱちと目を瞬いた神無は、慌てて縞斑の顔を見上げて手を振る。
 縞斑だって共に事件に巻き込まれた被害者なのだ。咄嗟に神無が視線を辿れば、彼の手首にも同じ形の痣が居座っていた。

 「先輩こそ、痣は大丈夫?」
 「あぁもう平気だよ。痕もかなり薄くなってきた。」

 神無に指摘されて初めて気がついた様子で袖を捲った縞斑は、神無よりも幾分か薄い痣を撫でる。
 何も聞かずに治療したアサギリの献身の賜物か、はたまた神無よりも負担が少なかったからか、縞斑の痣は治りが早いらしい。

 「ならよかった。」

 縞斑の手首を撫でてほっと息を吐いた神無の姿をじっと見つめていた縞斑は、彼の手をついと掬うように持ち上げる。
 きょとんと不思議そうに目を瞬く神無の目の前で、縞斑は彼の痣が残る手首にゆっくりと唇を落とした。

 「な、」

 ぴしりと固まった神無を見上げれば、彼の頬がみるみるいちごのように赤く染まっていく。ムードを大切にする神無にはきっと、この場所にキスをする意味が理解できているのだろう。

 「大丈夫、痣が治るまでは何もしないよ。」

 とはいえ、愛しい恋人を困らせるのは本意ではない。先手を打ってそう笑った縞斑は神無の手を取ると、そのまま労うように手の甲や指先に口付けを落とした。

 「ん、っ」

 手に触れる柔らかな感触に、神無は思わずくすぐったそうな吐息を漏らして身を捩る。
 誘うようなその仕草に唾を飲んだ縞斑は、持てる限りの理性を総動員して自身の欲を宥めると神無の手を解放した。
 ばくばくと早い鼓動を叫ぶ胸に手を当てた神無は、このまま流されてしまいたかった物寂しさを覚えて顔を上げる。
 神無に無理を強いる気のないらしい縞斑は、そんな神無の視線や部屋の空気を散らすようにいつもの笑みを浮かべて見せた。

 「やっぱり手は繋ぐもので、繋がるものじゃないねぇ。」

 一度そうと決めたら折れることのない縞斑の様子に神無は小さく息を吐く。まだ痛む手首で無理をすれば、縞斑の心配通り状態が悪化することは明白だった。
 恋人の特権で唆すこともできた神無だが、そのあと責任を感じて申し訳なさそうにする縞斑は見たくないと思い直した彼はひとつ頷いて笑い返す。

 「先輩はぶっちゃけ、繋がれる立場なんだけどね。」
 「はは、確かに。」

 からりと笑った縞斑は神無の手を取って歩き出した。
 どうやら今日もアジトの出口まで見送るつもりらしい。二人が恋人であることは仲間たちも公認のことだが、アサギリや子供たちに甘い雰囲気を纏っているところを見られるのはどうにも恥ずかしく、神無は思わず俯いてしまう。
 いつまでも初心な振る舞いを見せるそんな神無の隣で穏やかに笑った縞斑は、廊下を歩きながらふと口を開いた。

 「あのとき思ったんだけど、」
 「なに?」
 「俺がもし道を誤ったときは、君に捕まりたいなって。」

 驚いた神無が顔を上げる。
 前を向いた縞斑の横顔からは感情を読み取ることが困難で、思わず神無がじっとその顔を見上げていれば彼は茶化すように笑って繋いだ手を振った。

 「なんて、冗談だよ。」

 話を流して歩き出す縞斑を、頬を膨らませて神無は見上げる。感情が正確に読めずとも付き合いを重ねた神無には、彼がそれを冗談で言っていないことだけは分かった。
 縞斑はいつだって、神無が少しでも返答に悩んだことを察すると冗談だと片付けてしまおうとする。
 最初は自分が縞斑の望む答えをすぐに告げられなかったから呆れられたのだと後悔していた神無だが、やがてそれが縞斑自身が傷つかないために張った予防線であることに気がついた。

 「だらだら先輩。」
 「っとなぁに?怒っちゃった?」

 咄嗟に手を掴んだ神無は縞斑を引き止める。
 想定内といった顔で振り返った彼の誤魔化しの言葉を無視して、神無は自分から指先を絡めて手のひらを強く握り返した。

 「あんたが言ったんだろ、この手は繋ぐものだって。」
 「……、」
 「それにこんな痣、ディーノたちに心配かけるから今回限りにしようよ。」

 だからそんなことはしたくない。そう言外に告げてみせれば、驚いたように目を丸くした縞斑が神無を見下ろす。
 いつまでも子供扱いをするなと頬を膨らませてその瞳を見つめ返すと、やがて翡翠の瞳の輪郭を曖昧にして縞斑は笑った。

 「そうだね、弱気なこと言ってごめん。」
 「そうだよ。そもそも俺から一ヶ月も逃げたくせに。」
 「あれはちゃんと謝ったじゃない。」

 いつものように賑やかな応酬を行いながら、二人は廊下を歩いていく。
 繋いだ手は誰に言われずとも、強く結ばれたままだった。




 


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