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和平のイチゴショートケーキ

全体公開 神無三十一受け 13 39 2647文字
2024-04-13 15:46:32

カルみと SS
通過シナリオネタバレあり

 

 空調の効いた暖かな室内に、頁を捲る紙擦れの音と指先で端末を叩く音がぽつぽつと響く。
 二人揃って休みの本日、縞斑は時間を作って昨晩から神無の家に泊まりに来ていた。
 二人で過ごす時間は居心地が良く、そこに会話がない時もある。無言の時間を気まずいと感じないからこそ、彼らは同じ室内でソファに隣り合って座って思い思いに過ごしていた。
 件のオカルト小説を捲る縞斑の肩に少しだけ体を預けて、神無は端末で今月の限定スイーツをチェックしているらしい。

 「良いのありそう?」
 「んーいちごが今年も食べ納めだから、もう一回美味しかったやつ一通り食べたい。」
 
 時折思い出したように交わす会話も気の置けないもので、互いに小説と端末から目を逸らさないままだ。
 それでもそのやり取りに素っ気なさを感じないのは、互いに愛を持っている証拠だろうか、なんて。柄にもないことを考えてしまったと縞斑は照れ隠しするようにコーヒーを傾ける。

 「ん、」

 そうしてふと縞斑は、コーヒーをいつの間にか飲み干してしまったことに気がついた。
 ちらりとソファからカウンターキッチンの様子を確かめれば、もう一杯分のコーヒーが残るポットが置かれている。

 「神無ちゃん、ちょっとコーヒーおかわりしてくるね。」
 「ん?うん。」

 もたれていた神無に一言断った縞斑が席を立つ。それを見た神無もひとつ頷くと、座面に端末をぽんと置いて縞斑とほぼ同時にソファから立ち上がった。
 何か用事を思い出したのだろうか。そう思った縞斑だったが、特に言及することなく彼はカップを手にキッチンへと歩き出す。
 一方神無はというと、そんな縞斑のすぐ後ろをてこてこと早足でついてきたのだ。

 「……?」

 思わず首を傾げた縞斑は、キッチンで隣に立つ神無にちらりと視線を向けながらカップにコーヒーを注ぐ。
 隣でじっと縞斑の手つきを眺めていた神無は、何を言うでもなく縞斑と並んでリビングに戻ると再びソファにちょこんと腰掛けた。
 隣に座って肩を触れ合わせる神無は、再び何事もなく端末を手に取ってスイーツの物色を再開する。

 「……??」

 ひょっとして誘っているのだろうか。
 果たして湧き上がる劣情をぶつけてよいものかと葛藤した縞斑は、端末に視線を落としたその横顔を二度見した。
 甘えている雰囲気とは少し違う。まるで、そうであることが当たり前のような疑問を抱かない立ち回りだ。

 「まさか、」

 神無が無意識に自分と動きを合わせる理由。そう言語化して整理した縞斑は、ふとひとつの仮説に思い至って顔を上げる。
 だとしたらあまりに可愛すぎやしないだろうか。そう動揺する心臓を懸命に押さえ込んで、縞斑は尚も端末に視線を落とす恋人に声を掛けた。

 「……神無ちゃん、あのさ、」
 「んなぁに?」
 「もう俺たちその手錠では繋がれてないんだけど……?」
 「え?」

 きょとんと目を瞬いた神無がぱちぱちと瞬きをして自分の手首を確かめる。そこには薄い痣こそ残っているものの、もう誰とも繋がっていない。

 「……あ、」

 そうして言葉の意味を噛み砕いた彼は、やがてみるみるうちに顔を真っ赤に染めていった。
 ばっと素早くソファ横のクッションに顔を埋めた神無は、耳まで赤くしてじたばたと悲鳴を吐き出す。

 「慣れでついて歩いちゃった……!!」
 「あはは、だと思った。」

 二日間手錠によって縞斑と繋がれていた神無は、彼の隣を同じ歩調で歩くことが当たり前になりつつあった。
 そのくせが抜けず、咄嗟に席を立った縞斑の後を追ってしまったらしい。親鳥の後を追う小鳥のようで可愛らしい姿を笑えば、クッションに埋めた顔をわずかに持ち上げて神無がじろりと睨む。

 「今の絶対ディーノやアサギリに言うなよ……
 「言わないよ。」
 「ほんとに〜?」

 神無の行動を彼のいないところで笑いのネタにするのではないか。そう疑いの目を向ける神無だったが、首を横に振って即答した縞斑は神無の頭にぽんと手を置いて撫でながら言葉を続ける。

 「こんな可愛い姿、他の誰かに教えるわけないでしょ。」

 たとえ相棒に頼まれたとしても譲らない。可愛い恋人の姿は自分だけのものだ。不意打ちで独占欲を見せられた神無は、呆れよりも先に羞恥が込み上げて再びクッションに撃沈する。

 「もー!そーゆーことさらっと言うー!!」
 「あっはっはっ」
 「わ"ら"う"な"ぁ"!!!」

 照れ隠しの怒鳴り声はクッションに吸い込まれて、癇癪を起こした子猫のようにじたばたと地団駄を踏む恋人を縞斑は楽しそうに観察した。
 赤い耳をぷるぷると震わせる神無に、こっちのいちごは年中無休だなんてくだらないことを考えた縞斑はますます笑い声を上げる。

 「ははっ、ほら神無ちゃん、冷蔵庫のケーキ一緒に取りに行こう?」
 「繋がれてないし。ひとりで行けるし。」
 「ぐっくく、いやでもほら、どの種類が食べたいとかあるし俺も行ふっ
 「笑い堪えてるのが見え見えなんだよっ!!」

 がばりと起き上がった神無は縞斑の顔にクッションを押し付けると、どすどすと足を鳴らしてキッチンへ歩いていった。
 臍を曲げてしまった神無の機嫌を取り戻すのは骨が折れることだ。それを重々承知している縞斑は慌てて立ち上がると、神無の隣に追いついて笑う。

 「ごめん、ごめんって神無ちゃん。つい悪戯した。」
 「………そう言って隣に来んな。」
 「俺もケーキ食べたいと思っただけだって、馬鹿にしてるわけじゃないよ。」
 「………ふん。」

 不服そうに唇を尖らせた神無は、しかしそれ以上縞斑を拒絶することはなく再びキッチンへと歩き出した。
 それを了承と受け取った縞斑は、手錠に繋がれていなくとも自然と歩調を合わせて隣を歩く。それがどうしようもなく嬉しくて、縞斑は神無の手を取った。

 「ん、」
 「キッチンまで。」
 「あと数歩だろ……
 「そのあとも繋ぎたい?」
 「……ばか。」

 さてはて、冷蔵庫の中のケーキたちはどこまで神無の機嫌を治してくれるだろうか。
 彼らを過信して自身の欲に従った縞斑はそろりと絡められた指先には気づかないふりをして、全幅の信頼を持った甘い匂いを纏う白の箱を開けるのだった。



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