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それぞれの幕間

全体公開 人魚姫ドラヒナ 2 8008文字
2024-04-14 17:07:28

続きもので書いている人魚姫ドラヒナのお話です。
このお話(初めまして?/いいえ、お久しぶり! https://privatter.net/p/10687923)の後、ロナルド王子とヒナイチ姫がそれぞれの兄との間で、どんな会話をしていたのか、という幕間埋めになります。
命の恩人を間違えた、と聞いてアワアワしてますが、陸の方は平和。
相変わらず、不穏要素を抱えた海側で、想い人を『死なせない』為に、ヒナイチ姫はある決意をします。
ロナルド王子達が帰った後、休憩せずに山岳、淡水の人外達と連絡を取り合う、忙しい魔女のシーンを追加しました。
2023/12/03に上げました。

Posted by @kw42431393

 「やれやれ、ロナルド。お前も大変な友人を持ったもんじゃな。」  
 「え、大変って何が?」   
 「商人のドラルクの事じゃ。お前が、ドラルクの姪じゃという娘を案内した翌日にな。妙な客を迎えた訳じゃよ。」 

 まぁ、このシンヨコ王国は、人ならざる者達にも開放的な国だ。
 それこそ、迷惑行為する奴らだっているし、常識外れな連中もいる。しかも、そいつらの中では普通だったりもする訳だ。
 兄貴が有能だから、その辺りは調整しながら、騒ぎながら、この国は成り立っている。
 そして、そいつらとの(実力行使で)トラブル解決に奔走してきた俺は、大概の事には慣れっこだ。
 それは兄貴も同様で、『妙』と言いつつ落ち着いていた。
 「妙な客って?ドラ公じゃなく?」
 「ドラルクも来ておったな。近海に住む人魚達の王と一緒に。」
 人魚という種族は知っていた。実際、歌声で嵐を起こしたり、漁師を誘惑して引きずり込もうとする連中もいる。
 もっとも、連中は陸に上がれないし、俺達もそんなに長くは潜れない。だから、たまに諍いを起こす事はあっても、つき合いをする事はなかった訳。

 「カズサ王と名乗っておったが、不躾な奴じゃったぞ。藪から棒に、『うちのイナ海国とシンヨコ王国を窓口にして、双方の国民が行き来出来る様にしたい』『妹のヒナイチ姫は、嵐の晩に、あんたの弟のロナルド王子を陸に引き上げた命の恩人だ。これを機に、親交を深めんか?』ときた。」
 「え、えっ、今、何て?」

 そう言われて、当時の事を思い返す。 



 俺の恩人はサンズ姫だろ?
 ドラルクに頼まれた荷物を、指定された日に海に投入していたら、急に嵐に見舞われて、部下達を先に避難させてたら、俺は逃げ遅れて

 「あれ?でも。」
 気が付いたら、海岸の教会に寝かされてたんだった。そこに、俺のファンで聖地巡礼に来ていた隣国のサンズ姫が横で介抱してくれていて。
 それで

 『お、おおおお礼なんて、とんでもねーです!サンズちゃんは、海岸で倒れていたロナルド王子をここに運んだだけです!!』

 そう、本人も言ってたんだ。
 考えてみれば、あそこは潮の流れが違う。自然に俺が流れ着くはずもないし、サンズ姫もくノ一の訓練は受けているが、あそこを泳ぐのは不可能だと言っていた。
 それに微かな記憶がある。
 波間に揺れる、赤い細い糸と緑の大きな魚あれが人魚だったのか?
 そういえば、ヒナイチは見事な赤毛だった。そして、緑色のスカートを穿いていた。
 魚の尾鰭みたいな装飾のついた。 

 『危ねえな、なんかフラフラしてるぞ。大丈夫か?』

 こけそうなあいつを抱き留めた時を思い出す。
 ジョンは「スカートと靴を履き慣れてない」って、言ってたけど『歩き』慣れてなかったって事はないか?
 
 「え、じゃあ。恩人のヒナイチ姫って、本当の。あ、兄貴どうしよう。俺、恩人間違えちゃ、ちゃっ。」
 「まぁ、それは気にする必要はない。お前が選んだ女性は、サンズ姫じゃ。恩人だから婚姻したのか?違うじゃろ?」
 「それは、違う。きっかけはそうだけど、今は違うででで、でもよ。俺、あいつにどうお礼したらいいの?サンズ姫にはなんて説明したら?」

 え、えっと、なんか本とかで読んだけど、人魚姫って陸に来たら人間と結ばれなきゃダメとか、なんかなかったっけ?どうしよう。
 あ、でも、人魚達が陸に来れる様にするって言ってたな。全員それじゃおかしいよな。
 あれって、本の中だけのジンクスなんかな。

 「あ~、分かった。俺からサンズ姫には説明しておく。お前が言うと滅茶苦茶になるだけじゃ。それに、サンズ姫だって元々『助けたのは、私じゃない』って言っておったしな。」
 「あ、ありがとう、兄貴!」
 ホッとすると、そこでもう一つ気づいた事がある。
 「じゃあ、その仲立ちをしているドラルクとジョンは?手紙で『私達が何者であっても』って、書いてあったんだ。あいつらもやっぱり、海の世界の住人だったりする?」
 「そうじゃ。ドラルクはな、さらに海の深い場所に住んでおるメンダコが正体だそうじゃ。ジョンはシャコガイがアルマジロに近い形態をとったものらしい。どうりで出し惜しみなく、貴金属や石炭を輸出してくると思ったわ。我々には価値のあるものじゃが、深海には豊富にあってな。彼らには無意味なものらしい。」
 うん、それは俺も変だと思ってた。
 シンヨコ王国があいつに回しているのは、食材の他は俺が依頼された動植物や鉱物のサンプルだ。
 「料理は純然たる私の趣味で、調剤は私に必要なものだから」とは言ってても、どう見たって価値が釣り合わねえ。
 それにあいつが連絡に使う鳥は、伝書鳩でなくウミガラス。
 ウミガラスならそこそこ深い場所まで潜水出来て、海岸からこの城ぐらいの距離なら飛ぶ事が出来る。
 やっと、納得したぜ。

 「陸と海を繋げるとんでもない事ではある。しかし。」 
 「何かあるのか?」
 「カズサ王が言うにはな、ここ近年、海岸に流れ着いた者が何人かいるじゃろう?口がきけなかったり、足が悪かったりした者の内に、陸に憧れて人間になった人魚達がいるのだそうじゃ。」
 そういや、いたな。沿岸警備隊の兵士達が連れて来た連中だ。
 リハビリさせて、俺達がここで暮らしていける様に世話をしたんだった。
 「それが、ドラルクの作った薬で人間になった者達じゃと。今頃になって、望郷の念に駆られた者もおる、とな。人間達の中にも海の世界に興味を持つ者がおって、人魚になった者達もいるらしい。彼らの帰郷が叶う。彼らが行き来するには、魔女ドラルクの力が必要じゃ。そして、その為には、必ずイナ海国かシンヨコ王国に許可を求めねばならん。経済的にも両国が潤うし、何より。」
 そこで兄貴は、言葉を切る。
 「うちは海軍が不足しておる。見返りとして、イナ海国が援助してくれるのだそうじゃ。それに、うちから航行する船の安全も保障してくれるらしい。災害も海賊も密入国者による被害も少なくなる。」
 「いいじゃねえか。何で難しい顔をしてるんだ?」
 「自由にとは言うがな。許可を求めて来た者達が、善人ばかりとは限らん。高跳び目的かもしれん。治安の事を考えておるのじゃ。そこで、ドラルクが白羽の矢を立てたのがお前じゃ。陸から海へはお前を介して、海から陸へはヒナイチ姫を介して、パスポートを発行する予定じゃ。持っている間は、魔力が効いて水中でも陸でも呼吸が出来て、自由に動ける様にするのだとか。」

 何が何だか分からなくなってきやがった。
 ってか、ドラ公。勝手に決めんな。

 「ドラルクの奴、簡単に仕事増やしてくれるぜ。兄貴に領地を分けて貰ってさ、領主やってけるのかな、って不安になってた所に、さらに追加してくんのかよ。」

  ロナルド王子は本当は出来る人ヌから。
 
 『会った事はないが、サンズ姫もいるんだろう?』

 あの時会った、ジョンとヒナイチの言葉が頭をよぎる。
 そうだな。それに、サテツ達も連れて行っていいって言ってたし。サンズ姫だっておっちょこちょいだけど、俺が焦ってる時に限って、すごく冷静でリードしてくれたりする。
 それに、この件を振ってきたのはドラルクだ。丸投げはしないだろ。
 分からない事があれば、相談ぐらい乗ってくれるだろうし、ヒナイチにだって協力してくれるはず。
 「どうする?断る事も可能じゃ。考えようによっては、厄介ごとが増える可能性もあるのじゃからな。」

 いや、大丈夫。大丈夫だって、こっちに来て帰りたい奴らだっているし、元々この国で厄介ごとなんて茶飯事じゃないか。

 「いや、引き受けるぜ。兄貴、そのカズサ王だっけ?連絡取ってくれるか?」



 『いつまでも、お試し期間じゃいられないものな!』

 もうすぐ成人を迎えようと言うのに、他国への嫁入り話を断り続けている事、毎日ドラルクの元に通い続けている事、それが『永遠に出来る』とは限らないと考えもせずに、契約した事。
 子供っぽいで許されていた事から、目を背けてきた。でも

 私と近い状況で、婚姻したサンズ姫と共に歩む、新たな道に悩んでいた弟みたいな青年。
 私が助けた人間の王子。
 ロナルド王子と一緒にお話して、屋台の料理を食べて、私も少し迷いが晴れたんだ。

 『会った事はないが、サンズ姫もいるんだろう?』

 彼にかけた言葉は、自分への言葉でもあると思う。
 だから、決めた。帰ったら、兄に伝えるんだ。
 魔女との契約書には、『魔女ドラルクの名前を、出してはいけない』とある。

 『ずっと一緒にいたい相手がいる。』
 『住む世界が違うから、王族の地位を捨てて、彼と一緒に暮らせる体にして貰う。』

 これを、ドラルクの名前を出さずに伝えるんだ!
 その決意を胸に、私はジョンと別れた。
  
 「ただいま、兄さん。あの話が。」
 「ヒナイチ、パトロールではなかったな。これまでも、一部はサボりだったが。とにかく、ご苦労。こっちへ来い。」
 折角決意していたのに、出鼻を挫かれた気分だ。
 だが、それを主張するには躊躇う程、日頃飄々としている兄の表情は険しいものだった。そもそも、さっき『これまでも一部はサボり』と言っていた。
 じゃあ、益々堂々と伝えるべきだ。

 「まあ、座れ。以前から考えていた、プロジェクト実行の目処がたった。お前がロナルド王子を助けた事がきっかけでな。今も会ってきたのだろう、どうだった?」
 「ロナルド王子どこまで知っているんだ?」
 「さぁな魔女ドラルクはお前に関しては口を割らなかった。お前と明日も会いたい一心だろうな。恐れ入るよ。」
 渡されたのは、ドラルクが私の為にいつも作ってくれているクッキーの袋。袋だけだ。
 「魔女殿から、お前に渡す様に預かっていたものだが、サボりの罰に、中身は俺が食べた。」
 「に、兄さ!!」
 「王女ヒナイチ、これは国王命令だ!明日から、毎日深海の魔女ドラルクの護衛と手伝いに赴け。彼は、本日よりイナ海国とシンヨコ王国共同のプロジェクトの中心人物だ。海と陸を繋げる為のな。」

 一瞬、頭がフリーズする。
 海と陸を繋げるどういう事だ?
 「知っての通り、俺達と陸の者達では体が違う。だから、長年我々は、交流せずに住み分けを図ってきた。だが、いつか人間達の文明は、こちらの世界まで侵入してくるだろう。閉鎖している我々の文明は、廃れるだろう。そうなる前にだ。」
 ニイっと笑う兄の顔から眼が離せない。そして、そこから察しがついてきた。
 「両方の国民が自由に行き来できるとなればどうだ?今の内に、交流しておいた方がトラブルも少ないだろう。経済的にも潤うなにより。ヒナイチ、お前も知っているだろう?魔女ドラルクが、これまで陸に興味を持った者達を人間に変えている事を、そして、その逆も行っている事も。」
 「。」

 知っている。あいつが、感謝も恨みも買っている事も。
 自衛の為に、不便な深い険しい岩場に住んでいる事も。
 生き延びる為だ。
 私だって、他にも後ろ暗い依頼を引き受けているらしい事は、多少察していた。
 知らないふりをしていただけで

 『いらっしゃい、私の大事なお姫様。』

 あいつは、私にはいつも優しい。それで十分だ。 
 「一時の気持ちで、故郷を捨てて、後悔している者達もいる。一番の目的は、彼らが帰郷出来る様にする事だ。分かるな?」
 それは、分かる。ドラルクのいる深海へ行く決意をしても、何十年、何百年後には私だって『帰りたい』というかもしれない。

 「だ、だからって、彼を巻き込むのか!?あいつは体が弱いんだ!!」
 「契約済みだ。あいつのサインも、打ち合わせも済んでいる。奴さんには、もっと我々と連絡を取りやすい様に、水深200mの岩場に別宅を用意させた。今頃、引っ越しの準備をしているだろう。」
 眼前に突きつけられた契約書には、確かにあいつのサインがある。
 契約完遂の対価も明記してある何故、あいつは引き受けたのかを。

 「奴は、覚悟の上でサインした。お前みたいに、軽い気持ちでサインしたんじゃない。」
 「覚悟って、どういう。」
 「あいつの使っている薬を見たがな、あれはとんだ代物だ。奴は、特効薬だと信じて疑わなかったらしい。あれには延命の効果はあっても、治る事はない。しかも、この計画が成功したら、材料はもう手に入らない。」



 薬っていつも飲んでるあの
 「あ、あれは、一体何なんだ?」
 「これから、お前はドラルクの護衛と助手を兼ねる。自分で調べてみろ。効いてる間は、健康体だから分からなかったろうが、奴を待っているのは惨たらしい最後だ。阿漕な真似を続けたツケかもな。」
 「う、嘘だ。」
 「死んでしまう前に、『命をかけてでも』手に入れたい娘を取ったんだ。成人して他国に嫁入りする前に。」
 私と同じ望みの為に、そっちを優先したんだ。

 じゃあ、その想いに私は何が出来るんだ?

 「どうしても死なせないなら、ヒントをやろう。このイナ海国でそれが出来るのは、濃い血を持つ王族の俺とお前だけだ。短命種の人間だったら、他の者達でも十分だったかもしれんがな。」
 「死なせないだけか。」
 「それが救いになるか、分からん。永遠に苦しませるだけかもしれん。」
 頭を抱える私を尻目に、兄の言葉は続く。
 「よく考えておけ。自然の摂理に反する事だ。ところで、明日、俺はドラルクとシンヨコ王国に向かう。ヒヨシ王にこの計画を持ち込みにな。」
 「ま、まだ、決まってないんじゃないか!上手く交渉出来なかったら、どうする気だ!!」
 「いくさ。だから、ヒナイチ。明日は、パトロールは不要だ。ジョンと引っ越しの手伝いをしてこい。」
 そう言って、一方的に兄は立ち去ろうとする。突然で、どうしたら分からない内容だ。

 でも、これだけは決めたんだ。迷うもんか!

 「兄さん、待ってくれ!」

 振り返った兄は、笑っていた。
 私がこれから言おうとしている事が、分かってるのかもしれない。

 「この計画が成功したら、欲しいモノがある!」
 「ほ~う、内容によっては聞いてやらんでもない。可愛い妹ちゃんの頑張り次第だもんな。お兄ちゃんに言ってみ?」

 「このプロジェクトが成功したら、私に


 私だって、命がけで欲しい者がいるんだ!



 『ナイチ姫?ヒナイチ姫、聞いてるですか?』
 
 猫の様な声で、我に返る。
 目の前では、ロナルド王子にデコピンをされた魔女が踞っていて、ジョンが駆け寄っている。
 「ヌー!」
 「いきなりは、やめ給え。私達のお陰で二人が出会えたんだから、感謝されても痛っ!」
 「誰のせいで、死にかけたと思ってんだ。ほんとは、ヘッドロックしてやろうかと思ったけど、デコピンで済ませたんだろが。」
 「これだから、ゴリラは待って、待って!私が体弱い事、知ってるだろう!?」
 魔女は、ロナルド王子の前だと少しキャラが違うな。
 何だか、微笑ましいというか

 「サンズニャン、何だ?あと、私の事は呼び捨てでいいぞ。」
 「それ、やめやがれです。本当に良かったんですかその。本当の命の恩人は、お前です。サンズちゃんより、ヒナイチの方が、正当な権利がありますよ。」
 ロナルド王子もだけど、真面目だな。この前、顔合わせした時も言ったのに。
 「海から引き上げた恩人は私だが、そこからはお前だぞ?そのおっきい胸を、張っていいんだ。」
 人魚の私では、そのまま低体温症になっただろう王子を助けられなかった。だから、自信持っていいのにな。
 「そ、そうですね!さ、サンズちゃんは、しばらくの間だけでも、憧れのロナルド王子と過ごせただけで、満足ですから。」
 もじもじしながら、俯いてしまった彼女の肩を叩く。
 にゃん!!と、飛び上がるサンズに救われた気がした。
 「お礼というなら、ロナルド王子とこのプロジェクトに協力してくれ。少しでも、早く終わらせるんだ。」

 魔女は兄と交わした契約を完遂して、私を娶る事で頭がいっぱいだ。
 契約の方を優先しているので、自分の事は後回しらしい。
 兄の勘によれば、治療薬に目処がついている気配だとか。なら
 
 「少しでも早く終わらせて、治す方法を探すんだ。」

 魔女の助手をしながら、私も勉強しながら、協力するつもりだ。それに

 『俺達の骨肉なら、長命種の魔女殿をも不老不死に出来るかもしれん。しかし
 
 ドラルクの同意さえあれば、私には最後の手段があるんだ。

 



 一口に、陸と海そういうが。陸は、人間達だけのものではない。
 海に私達の様な、多種多様な人ならざる者達がいる様に、山岳には山岳の、川や池にも多種多様な者達がいる。彼らを無視する訳にはいかない。
 「私の頼みで、お父様達が動いてくれている。イナ海国と深海の一部、陸では少なくともシンヨコ王国とサンガ国は繋がるだろう。その近辺の者達とも連絡を。」
 山岳と淡水の人外達とは、商人ドラルクとして陸で行動していた時に、少なからず交易している。
 彼らには彼らのルールがあり、縄張りもある。だが、深海の豊富な資源と、向こうの太陽光の恩恵を受けた良質な餌やエネルギーそれを交渉材料にする事は、可能だ。
 
 しばらく忙しいヌね。
 
 「うむ。交渉するには、お互いメリットがある事を証明しなくては。」
 魔法で紙と羽ペンを引き寄せると、私は向こうの人外達に手紙を書く。
 とりあえず、シンヨコ王国近辺の山岳で、人外達の影響力の大きい山姥に。
 同様に、近辺の淡水域の有力者である、蛟王に。

 「なぁ、魔女。」
 眠そうなお姫様の声に振り返る。もっと深い海域にあった本宅よりは、いくぶんマシとはいえ、疲れたのだろう。目を擦っている姿は、私の庇護欲をそそる愛らしい人魚姫だ。
 「あぁ、疲れたかね?あとは、私がやっておくから。お部屋で、少しおやすみ
 私はローブの前を開くと、いつもの通りヒナイチ姫に魔法をいや、もうそんな必要はないか。

 『私が更新しようと思っている契約と、お前の望みは、たぶん同じか近いものだと思っている。』
 
 その言葉を信じるのであれば、術を使う事は、野暮を通り越して裏切りに近い。
 そう考えていると、ゴボリと音がした。ヒナイチ姫の方から、ローブの中に飛び込んできたのだ。
 「うん、少し休んでからサンゴ礁に帰る。お前こそ、無理するなよ。」
 柔らかな感触を頬に残して、私の人魚姫は自分で、お部屋に泳いでいった。

 ドラルク様

 いつも私に抱えられて、部屋に寝かしつけられていた可愛い少女が、自分で泳いで行ってしまったそれは、少し寂しい気がする。
 私の触手で引き寄せられるのではなく、自分から飛び込んできてくれたそれは、いつかどこかへ行ってしまうのでは、という私の不安感を拭ってくれる。でも

 「なんでもない、よ。ジョン。」
 
 無理するなよそう言って、見上げた貴女の瞳。私の愛する翡翠の瞳。
 その中に、この身を焼き尽くす様に強い『何か』が揺らいでいたそれは、私の気のせいだろうか。。

 


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