とんだ散文である。
@azisaitsumuri
先日見付けて気に入った店に数日振りに入店したが、途端に回れ右をした。
しかし即退店は許されず、華奢な衣装から伸びる厳つい腕に手を取られた。レースの手袋の皺なんかじゃ無い、青筋が浮いて居る。
「間違えました。」
「いいや、間違って無いよ。」
震えて囁くように放って仕舞ったこちらに合わせてか、静かに怪しく即答される声は低い。
と言うより、先日この店で聞いた声となんら変わら無い。
ただし、その時は黒服としてだった。
その男は今、打って変わって煌びやかであでやかだ。
どうしてこんな事態に成って居るのだろう。わたしはただ、先日名刺をくれた女性キャストにまた会いに来ただけなのに。なのに今、退路を塞いで居るのは、頼んでも居無いのに、女性キャストの衣装を着飾った、男の野蛮な視線である。どおして。
「そんなに怖がん無くても、ちゃあんともてなしてやる。」
男はくすりと笑った。煌めく唇が、ムーディに落ちた証明をしっかりと反射して居て、見たくも無いのに目が行く。
「勿論、場所を間違えるようなお茶目さんでもかわいいが、そうじゃ無いだろ?」
「ち、違うっ。わたしは女性キャストのいらっしゃるお店に来たかったのであって!」
あ!あの女性です!
「あちらの!カウンターでグラスを磨いてらっしゃる!」
「ああ、キャストじゃ無くてバーテンダーだろ?」
「でもその方からまた来てと言われたんです!」
「その日はさ、男女逆転イベントデーだったんだよ。」
だから場所は間違い無い、って、そもそも元が男女逆転してるなんて聞いて無い!
「あんたにまた来てほしかったのは、おれがキャストを務めるこの店で間違い無いよ。」
にこやかに弧を描く瞼すら輝いて居る。
「でもでも!名刺を頂いたんですから、やはりその方にご案内していただくものでは!?」
言った、言ってやったぞ!これでどうだ、いや、どうにもならなくて良いからもう帰してくれ!
「彼女がナワーブさん!そうでしょう!?」
その時、相手は一層妖艶に笑った。先日も、帰り際見たような。
「覚えてくれて嬉しいよ。ならやはり、私がお相手しないとね?」
わたしは、帰路が遠退くことを悟った。
「もっとたくさん呼んでちょうだい、ね?」
そう言えば、この名刺は彼女から直接では無く、この黒服を通して渡されたものであった。