何かと忙しい師走の時期に、疲れて煙草に逃げそうになるΔ隊長と、それを心配するジョンの姿が浮かんで、一気に書き上げたお話です。
まだ、Δヒナイチくんが高校生の頃…両片思いの時間軸。『クリスマスプレゼントに、何が欲しい?』と聞かれたジョンが、答えた内容とは?
クリスマスになって、ヒナイチくんと特製ケーキを食べるジョンのシーンを追加しました。
2023/12/11に上げました。
@kw42431393
あぁ、終わらない。終わらない。
家に帰ったのは、何日前だ?
もう、仮眠室で眠るのも億劫だ。
「ヌンもつき合うヌ!」と言ってきかないから、デスクにジョンの仮眠ベッドを作って、私は机に突っ伏して小刻みに仮眠しては、デスクに向かう。
その仮眠中もダンピールとしての探知能力が邪魔をして、敵性吸血鬼の気配を探知しては飛び起きる。
ゼンラくん達と共に現場に駆け込む事になる。
戻ると散らかしたデスクで、山積みの書類が確認と押印を待っている。
片手が習慣的にポケットを探ったが、気分転換を助けてくれるはずの煙草は空だった。
「二度手間か。戻るついでに、コンビニに寄るんだったね。」
ヌ~ン。最近、結構吸ってるヌ。忙しいから、仕方ないかもしれないヌけど。
せっかくだから、夜食と朝食も買おうかと、再び署を出る。骨と皮の痩せた身体に夜風は、堪えた。
黒い吸対コートに潜り込んだジョンを懐炉にしなければ、煙草を諦めて、空調の効いた室内に戻ったかもしれない。
「3次会行こうよ、3次会。」
「簡単に言うなよな。お前は、明日休みだからいいけどよ~。」
「サンタさんに、何をお願いするの?お母さんが、伝えてあげる。」
「えへへ~、内緒!」
「せめて、父さんには教えてくれよ。なぁ、他に買い忘れあったっけ?」
一年の終わりの師走。
なんという事もない日常のはずだが、そうだと考えると浮かれる者も出る。
この時期は忘年会で、酒も入る。寒さで下等吸血鬼による事件は少なくなるが、畏怖欲を満たすイタズラ目的の事件が増えたりして…結局、この時期も我々は、休み返上なんて珍しくないのだ。
「クソッタレ。勤労勤労。」
そう言って、全てを投げ出したい自分を戒める。
吸対に入って市民を守るのは、子供の頃からの夢だ。そして、飛び級で大学、警察学校を卒業して、若くして叶えたんだ。目の前にある風景を見られるのも、我々の苦労の賜物だ。
羨ましいな。先月買った積みゲーのパッケージを開ける暇さえ、何故私にはないのだろう。感謝されてるかも分からないのに、私は今夜も孤独にカンヅメをするのか。
どちらの本音も、頭の中でせめぎ合う。
ほんの少し前までは…ただの平隊員だった頃は、自分もあの雑踏の中を、同僚と歩いていた事もあったのに。
ドラルク様?
「アハハ…ごめん。何でもないよ。」
懐から顔を出したジョンの頭を撫でる。幼い頃から寄り添ってくれた、君を忘れてはいけないよね。
まだまだ仕事だけど、彼らを羨ましがるなんてとんでもない。
鬱々と考えている間に、目的地についた。
やっと、煙草が手に入る。
眠気と疲れでもやもやした感情も、一服すれば少しは軽くなるはずだ。
ジョンと食べる夜食と朝食を籠に入れて、私はレジに並ぶ。
「いらっしゃいませ。隊長さん。」
「店長、こんばんは。いつもの…」
習慣的に、いつもの銘柄を指さそうとした時だった。
「こんばんは!隊長さん!」
元気な声に振り返る。そこには、元気なアンテナを跳ねさせながら、駆け寄って来る少女の姿があった。
「やあ、こんばんは。ヒナイチくん。」
新米隊員になって間がない頃に、下等吸血鬼から助けた少女。
再会した今は高校生となっていて…こう言ってはなんだが、綺麗なうなじに、昼の子を体現した様な明るい笑顔。ヤンチャな男の子みたいだったのに…再会した今は、私好みの美少女に育っていた。。
「あれ…そっか。」
ヌフフ…すっかり癖になってるヌね。
ジョンにからかわれて、懐を探る自分に苦笑する。
署の隊長室に寝泊まりしている私が、彼女に渡すクッキーを持っているはずがなかったのに…。
「隊長さんも夜食を買いに来…あれ?隊長さん、大丈夫か?」
「ん?何が?」
背伸びして、顔を覗こうとする少女が大変そうだったので、私が背を屈めて視線を合わせてあげる。
疲れも相まって、澄んだ翡翠の瞳に吸い込まれそうな気がする。
もっと見ていたいなぁ。でも、そんな事したらセクハラになってしまう。
がんばれ、私の紳士力。
「私の顔に、何かついてる?」
「顔色、悪いぞ。ちゃんと寝てるか?」
「う゛…。」
図星だ。元々不健康そうだの、普通の吸血鬼より吸血鬼らしいだの、言われてたのに。
それを言われると、返す言葉がない。
「アハハ…師走だからね。今年中に、終わらせないといけないものも、多くって。」
「でも…無理はしないでくれ。早く卒業して、私も退治人になりたい。私も手伝えたら…。」
頬が、急に温かくなる。
彼女の小さな手で包まれたのだ。
私が体温が低いのもあるが…うん。
「あの~、お取込み中失礼します。後ろ並んでるんですが、よろしいでしょうか?」
ここがコンビニでなければ…と、どれだけ思っただろうか。
「わわっ…すみません!シャーペンの芯、忘れてた!それじゃ、また!」
あぁ。恥ずかしがって、彼女が列から抜けていく。
名残惜しそうに見送っていると、後ろから店長の咳払いが聞こえた。
「すみませんね。えっと、いつもの銘柄ですよね?」
「あぁ、〇番の…」
『大丈夫か?顔色悪いぞ。』
「いや、やっぱりいいです。」
「ヌ?」
なんだか、モヤモヤしたものが晴れちゃって、いつの間にか眠気も疲れも抜けていた…だから、煙草を吸う気にはならなかった。
勘定を済ませて店を出る時に、文具コーナーで恥ずかしそうに俯いている彼女に手を振る。
頬を染めて振り返す姿が、可愛らしかった。
「ヌフフ…。」
「何だね、ジョン。」
せっかく来たのに、煙草はいらないヌね?
「我ながら単純だけど。彼女に会って、綺麗な瞳を覗き込んでいる間に、なんかその気じゃなくなっちゃって。」
いい事だヌ。疲れているのを煙草とコーヒーで誤魔化したって、そんな状態で仕事したって、進まないヌ。
「今晩は、大丈夫だとも。日付が変わる前に終わらせて、ひさしぶりに家でゆっくり眠ろうか。」
懐のマジロを撫でながら、すっきりした頭で雑踏を眺める。
さっきまで聞こえてこなかったクリスマスソングに、見えていなかった街路樹を彩る鮮やかなイルミネーション。
疲れていると、何もかもが狭くなるものだ。
「クリスマスが近いのも、忘れていたね。ジョン、何が欲しい?」
ヌ~ン。ヌンはドラルク様といられれば、毎日クリスマスだヌ。ドラルク様こそ、何がいいヌ?
「う~ん、私も君がいるからね。この年になると、特にないかな。」
ヌー、年というには早すぎるヌよ。じゃあ、ヌンが決めてあげるヌ!
耳に口を寄せて、からかう様に言うジョンを軽く小突く。
全く、実は私より年上だけあって、バレバレなのだね。
ヌンが、クリスマスにギルドに遊びに行きたいって、駄々をこねてあげるヌよ。
街のアイドルが言うんだから、仕方ないヌよね?
それから、大きなクリスマスケーキを作って欲しいヌよ。ヒナイチくんと、食べたいヌ。
立派にヒナイチくんに会う口実ヌよ。
これが、ヌンのプレゼントって事でどうヌ?
「いいのか?このケーキ、私とジョンで食べても。」
いいヌ、いいヌ。ヌンが、ヒナイチくんと食べたいんだヌ。
特別大きな、ドラルク様特製のクリスマスケーキ。
ここに来るまで、大変だったヌね。クリスマスだから、やっぱりポンチが騒いでたヌし。溜まってた事務仕事だってあったヌし。でも…
「隊長さんが来るって知らなかったから、私は何も用意していないんだぞ。」
「いいよ。ここに来たのは、ジョンのお願いだもの。さぁ、たくさん食べておくれ。」
貴方は優秀だから、がんばって終わらせちゃったヌね。
駄々をこねたヌンの為に、クッキーもケーキも作って…さぁ、クリスマスヌもの!
だ~い好きなヌン達の笑顔を、堪能して欲しいヌ。
「はい!いただきます!」
「ヌヌヌヌヌヌ!」
アンテナをハートマークにしたヒナイチくんとケーキを頬張りながら、こっそり貴方の顔を見る。
「おいしい、おいしい。」
「ヌンヌン!」
「ウフフ…よかった。頑張った甲斐があったとも。」
本当に嬉しそうな、貴方の笑顔。ヒナイチくんと再会してから増えた、貴方の素敵な笑顔。
(…ジョン、プレゼントをありがとう。)
ヒナイチくんに聞こえない様に、こっそり耳打ちする貴方に、ヌンもウインクして見せるヌ。
ドラルク様こそプレゼント、ありがとうヌ。
「あれ?ケーキ以外に、まだあげてないけど?」
この時期は忙しくて、難しい顔をしている事が多い貴方。
でも、今ここで、と~ってもカッコよくて楽しそうな笑顔を見せてくれてるヌよ。
その貴方の笑顔を見れる事が、ヌンにとって一番嬉しいプレゼントヌから。
だから、何度でも言わせてヌ。
メリークリスマス!ドラルク様、クリスマスプレゼント、ありがとうヌ!