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しあわせのレシピ

全体公開 神無三十一受け 15 28 1877文字
2024-04-22 17:08:55

カルみと
シナリオネタバレあり

 

 「せんぱい?」

 寝室の扉を開いた神無は、ひょっこりと顔を出すと室内に向かって声を掛けた。
 柔らかな太陽の日差しが転がるベッドの上、こんもりと盛り上がった毛布に彼は苦笑いを浮かべて歩み寄る。

 「だらだら先輩、朝だよー。」
 「……んー

 毛布をぽんぽんと軽く叩きながら声を掛ければ、小さく唸り声を上げた毛布の塊から腕が出た。
 その両腕は迷わず神無の腰を掴むと、毛布の脇に座らせるように強く引き込む。体制を崩した神無がぼふりとシーツに腰を下ろせば、狙い通りといった様子で毛布から顔と腕を出した縞斑はその細腰に額を埋めた。

 「わ、せんぱい?」
 「んぅー……
 「あははなんだよー。」
 「んん………

 さほど困っていない様子で笑った神無は、腰に回された恋人の手に自らの手のひらを重ねる。
 ぐりぐりと子供のように額を押し付ける縞斑は未だ眠たげで、くわりとひとつ欠伸を漏らすと神無のことを強く毛布の中に引き込んだ。

 「いっしょねる……
 「だめだって、起きないと遅刻するだろ。」
 「ん"ぃ"ーー
 「アサギリに怒られても知んないよ?」
 「ベッドの上で他の男の話しないで。」
 「心狭過ぎだろあんた。」

 そのあだ名に恥じないほどだらだらと毛布の中で抵抗していた縞斑は、何かと理由を付けて神無を自身のベッドの上に閉じ込めようとする。
 縞斑に腕を引かれた神無がベッドに身を預ければ、彼は神無の額や頬に口付けを落とした。

 「ん、ひゃ、ふへくすぐったいよ」
 「ふふかみなちゃん、かわいい」

 くすくすと笑う神無の顔を覗き込んだ縞斑が柔らかく微笑む。とろりと蕩けた翡翠の瞳からは、心理を読むことに長けていない神無でも自分のことを想う温かで甘い感情が見て取れた。
 縞斑は神無を甘やかすことが好きだ。それは以前、神無が人に甘えることが苦手だと溢してから特に顕著になった。
 縞斑が神無に甘えているうちに、それを見習うように神無自身も少しずつ縞斑に甘えられるようになってきたのだ。

 「かみなちゃん、すきだよ。」
 「んふふ、ねぼけてんなー」

 甘く囁いた縞斑の唇が、神無に唇に触れようとする。
 その刹那、神無は自身の手のひらでそれを阻止した。

 「むぅ?」
 「せんぱい、だーめ。」

 拒否されるとは思っていなかったらしい縞斑は、目を丸くして僅かに眠気が覚めた様子でぱちぱちと目を瞬く。
 首を傾げる縞斑はしょんぼりと尻尾を下げた大型犬のようで、今すぐ抱きしめて思うままに口付けを受け入れたい神無だったが、ぐっと心を鬼にして彼は眉を寄せる。

 「まだ歯磨きしてないだろ、あんた。」
 「………ちょっとだけ」
 「だめだよ、そう言ってこの前遅刻したし。」
 「むー………

 先日同じようにベッドに引き込まれてキスをしたあと、縞斑は神無を抱き枕にして二度寝を始めてしまったのだ。
 結局、二人揃って遅刻してそれぞれの相棒に怒られた記憶はまだ新しいものだった。
 不服げに唸る縞斑の両頬を包んだ神無は、誘うように彼の鼻先に口付ける。額を重ねて覗いた翡翠の瞳には、同じ色の愛情が揺れる菫の瞳が映っていた。

 「早く起きて歯磨きして、おはようのキスしようよ。」

 驚いたように縞斑が目を丸くする。気恥ずかしくなった神無はふいと視線を逸らすと、頬に触れていた手を離して掛けたままのサングラス型コンピュータに触れた。

 「ちなみに……朝ごはん完成まであと5分だけど。」
 「………いそぐ。」

 がばりとベッドから飛び起きた縞斑はそれだけ呟くと、ばたばたと慌てて寝室を飛び出していく。洗面所の柱に額をぶつけたらしい彼の呻き声を聞いた神無が笑っていると、彼のデバイスに文字が表示されて音声が鳴った。

 『スープの完成まで、あと8分です。』
 「うん、ありがと。完成したら保温にしといて。」

 先ほどの発言を訂正するように告げられた言葉に、ひとつ頷いて礼を言った神無は声を顰めて内緒話をするように呟く。

 「先輩にはないしょ、な?」

 自分の頭脳の延長として作り上げたデバイスは、複雑な恋心を理解した様子で沈黙した。
 聞き分けのいい第二の相棒を指で軽く撫でた神無は穏やかに笑うと、じゃばじゃばと慌ただしく顔を洗う水音を聞きながらキッチンへ歩き出す。

 さて、ロスタイムは3分。
 思う存分彼に甘やかされたら、出来上がったスープで朝ご飯にしよう。




 


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