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大事な永遠の片腕

全体公開 みずいこ・単話 2 2801文字
2024-04-30 01:35:04

みずいこお題部第五回より『忘れ物』「黄色」をお借りしました
関西弁非ネイティブのため口調は勘頼り

Posted by @a_yuuzora

任務が終わって生駒隊作戦室のベイルアウトマットで仮眠していた水上は、朝十時頃に目を覚ました。夜勤明けということで授業は免除されている。夜勤明けでも学校に行きたい者は行くが、水上は授業に出なくても成績優秀なため一日がっつり休むつもりで寝ていた。
のっそりと起き上がって自室に戻ろうとドアを出る寸前、水上はロッカー前にあるテーブルにボーダーのマークが入った黄色いクリアファイルがあるのを見つけた。この中にはボーダー上層部に提出する書類が入っているはずで、テーブルに放りだしていいものではないはずなのだが。
生駒のロッカーに入れておこうとそれを手に取ったところ、ファイルがぺらりとめくれて中の紙が見えた。右上に生駒の学籍番号と名前が書かれていてぎょっとする。ボーダーの書類に学籍番号はいらないはずだ。紙にざっと目を通すと、レポートの類だとすぐに見て取れた。そういえば今日の正午締切のレポートがあると前夜言っていた覚えがある。その大詰めを作戦室でやっていたことも。そういえばそのとき使っていたクリアファイルも黄色だった。
「あンの、アホ!!」
とても上司兼先輩に対する言葉とも思えぬ悪態をついたが、それを咎めるひとはいない。
水上はクリアファイルをひっつかんで慌てて駆け出した。走りながら水上は手元のスマホで生駒にメッセージを送る。
『今日の昼提出のレポート忘れてませんか』
すぐに既読がつくが、しばらく返信はこない。鞄の中を確認しているのだろうか。一分後、驚いたような顔のスタンプが届き、『ほんまや……』と絶望したコメントが次いで送られてきた。
『今レポート持って大学向かってます』『待ち合わせ場所どこにしたらええですか』
そう送ると、『カフェテリアで待っとって』という返事と、泣いて感謝するような仕草をするスタンプが送られてきた。

現三門市立大学は本部から一駅ちょっとの距離で、電車を使った方が楽だが急ぐなら自転車を使った方が早い。
通学に使う自転車を極力早く飛ばして校門の前に止め、構内に入りカフェテリアらしき場所を探す。すると、「おーい」と聞き覚えのある声がして、振り向くと柿崎の姿があった。
「やっぱ水上だった、どうしたんだこんなところまで」
こんなところ、というのは高校生が大学にくる用事があるのかという意味だろう。
「イコさんが隊室にレポート忘れてったんで。おつかいです」
「マジか、なにやってんだよあいつ」
「イコさん結構粗忽なとこあるんで」
「それはわかる」
水上が現着したとメッセージを送ると、カフェテリアに程ちかい棟からそろりと生駒が出てくるのが見えた。講義を途中で抜け出したらしい。
生駒はすぐに水上を見つけ(この目立つ髪色もこういうときには悪くないなと水上は思った)駆けつけてきた。
「水上! ほんっっっまありがとうな!」
「別にええですよ、こんくらい。これ、レポート、〆切まであと十五分ですよ大丈夫ですか」
「ウワほんま? ちょっと行ってくるわ!」
クリアファイルを受け取って駆け出す生駒を見送って帰ろうとした水上を、柿崎が引き止める。
「あれ、もう帰るのか?」
「まあ、おつかい終わったんで」
「午後の授業出るのか」
「いや、夜勤明けなんで一日休みのつもりっす」
「ならもうちょっとゆっくりしていけよ。コーヒー奢るから」
柿崎に奢られる理由もないため辞退しようとしたが、その前にもう自販機に向かって駆けていってしまった。どうにもこの世代は急ぎ足というか忙しない印象がある、と水上は思う。
コーヒーを二人分持って帰ってきた柿崎は元の席に座り、水上を向かいの席に座るように促す。促されるまま座ってコーヒーを啜る。柿崎はそのさまをにこにこと見ていて、水上は気圧された。アウトドア派スポーツマンの爽やかな笑みは、インドア極まる水上の目にはちょっと眩し過ぎる。
「な、なんすか……
「生駒が自慢するのもわかるなあって。いいやつだよ、お前」
高校生が大学までレポートを運びに来たことを言っているのだろうか。
「まあ、イコさんの副官なんで。一応」
「副官なのはボーダーの組織内で、だろ? 大学生のサポートするところまでは別に水上の仕事じゃねえよ」
「まあ、確かに。でもイコさんのサポートは俺がしてたいんで」
「健気だな」
「そっすかね。多分照屋ちゃんもザキさんに対して俺と同じこと考えてると思いますよ」
「そうか? そうだといいな」
「いやそこは間違いないですって」
照屋が裏で『柿崎夫人』と呼ばれていることを、多分本人たちだけが知らない。
そう考えると、柿崎にとっての照屋が、生駒にとっての水上ということだろうか。水上は自分で引き合いに出していおいて少し青ざめた。その気持ちを否定できないところがまた悪い。そんなにあからさまだっただろうかと水上が考え込んでいると、レポートの提出を終えた生駒が戻ってきた。
「お待たせー!」
「お待たせっていうか、お前が行ってる間にコイツ帰ろうとしてたぞ」
「えっウソ!? じゃあザキが引き止めててくれたん? ナイスアシスト!」
何やら通じ合ってる二人を横目に、水上はどことなく疎外感を覚える。単純に高校生が大学の敷地内にいるのがなんとなく気まずいだけだったのだが。
「そんで水上はホントに頼りがいのある気が利くやつだなあって話してた、な?」
「は、ええ、まあ……
柿崎の陽のオーラに圧されるように水上はやや仰け反る。と同時に生駒に腕を掴まれた。
「いくらザキとはいえ水上はやらんで! こいつはウチの子や!」
「別に取ろうなんて思っちゃいねえよ。夜勤明けにわざわざ大学まで来た高校生を労いたかっただけだって」
「せやな! ちゃあんとお礼したらなあかん、水上昼飯まだやろ? おつかいしてくれたお礼に奢ったるわ。ここの食堂も結構ウマいで」
「じゃあごちそうになります」
そういう流れで二人は柿崎に手を振って別れた。

食堂の列に並びながら、水上はぽそりと訊ねる。
「イコさんは、俺をヨソにやりたくないんですねえ」
さきほど腕を掴まれてまで所有権を主張していたことを蒸し返してみる。生駒はあらゆる人類に鷹揚なところがあるので、「あかんで!」と言うのがなんだか意外に思えたのだ。
言った本人はそれを意外性のあることとはとらえていなかったらしい。
「当たり前やんか。俺も俺の隊も水上がおらんなったらめちゃくちゃ困るで! え、どっか行く予定あるん?!」
「ないですけど」
「なら良かったぁ。俺アホやからしっかりした奴が傍おらんと困んねん。これからも公私共にバリバリ頼ってくんでよろしゅうな」
当然のように生駒の未来の中に自分が組み込まれているのがなんだか嬉しくて、水上は小さく笑う。
「うちのボスはほんまワガママで困るわぁ」
口でほんの少しの憎まれ口をたたきながら。


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