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終末はどこへいこうか?

全体公開 7496文字
2024-05-04 14:48:31

ここでは、試し読みすることが出来ます。

『0~1日目――――旅の始まり』

 身体は動かない。正直、この思考も本当なのかも怪しい。そもそも今の私は生きているの死んでいるのか。そしてこの思考は永遠に行い続けることが出来るのか否か。というか、この考えすら、既に何度もしたようなな気がするし、ただのデジャヴュなのかもしれない。思いは溶けて考えは固まらず、ぼんやりとした夢のようで全てが嘘であるかのよう。
 ただひとつ、背中に感じる確かな物を除いて。
 思えば始まりは本当に馬鹿げた提案だった。正直どこまで乗り気だったのかも分からない。だけども、その選択は、全てを間違えてきた私にとって最も大きな間違いで、正解だった。
 心のページが灰色と埋め尽くされようとしていく中、伸ばされた手をとり彩ったのはいろんな思いにあふれたカラフルなもの。世界が灰に染まっていくのに反比例をして彩りという心を取り戻す。
一度はさっさと死んでしまいたい、そう願ったのに、世界の終わりが悔しくて、悲しくて。
こんな思いを描かされたのはいつからだろうか。きっとそれは、彼との出会いから。
――――これは私の終末旅行の軌跡だ。


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 高校からの帰り道、私は久しぶりに、まっすぐ家には帰らず、寄り道をすることにした。といっても、神奈川県の片田舎の町では、寄れるところなんて限られていて、行くのはいつも同じところ。
 海の香りと、小さな漁港に立ち並ぶ漁船の数々。それらをぼんやりと高台から眺める。太陽が落ちるのが早くなっていて、オレンジの空になっている。今から漁に出る船もないらしく、みな波に揺られてプカプカと浮かんでいた。
「帰りたくないな」
 体育座りのまま、ぼそっと呟く。その呟きに答えるかのように海猫が甲高い声で鳴く。それは早く帰れという指摘なのか、それとも自由を謳歌する自分たちの自慢なのか。どちらにしろこれは被害妄想甚だしいので海猫に八つ当たりはしないでおく。
 鞄の中から使い古したクリアファイルを取り出し、そのまま今回のテスト結果通知を見る。
学年順位250名中21位。そのランクは決して低くはないはずだ。これが低いというのであれば、100番台の平均点を取っているような人たちはどうなるというのだ。しかし、それはあくまでも一般論であったり先生からの評価の話し。我が家において意味のある数字は1番だけなのだから。
「まぁ、今さらかもしれないけども……
 私が今憂鬱になっているこの紙切れを見て、両親は怒りを示すだろうか。もしかしたら、怒ることなく、ただ落胆のため息をつかれるだけかもしれない。いや、それどころか見るそぶりすらしないだろう。ただ、それがいいのか悪いのか分からないのだけども。
 私は再び大きくため息をついた。そのとき、油断しきっていた背後からふと、声がかけられる。
「萩野、さん? だよね?」
「えっ……?」
 ふと振り返ると、私と同じ年の男の子が小首をかしげてのぞき込んでいる。一瞬たじろぐが、私――――萩野千雪の名前を呼んでいること、なじみのある制服、そして今一度彼の顔を覗くことで、その瞳に記憶がよみがえる。
「日向?」
「うん、日向、日向春樹。久しぶり、だね」
「ひ、久しぶり……。よく分かったね」
 思わず視線を外にやりながら答える。すぐに思い出すことが出来なかった申し訳なさと、同年代の男子に声をかけられる事に慣れていないこともあって、どう返事をするのかが分からなかった。
 海は変わらず一定の速度で満ち引きを繰り返す。
「萩野さんがそのまま高校に進学するんじゃなくて、別の私立高校に行くっていうのは聞いてたから、この制服はって思って。それに、その綺麗な髪の毛、変わってなかったし」
「綺麗なって……
「ん?」
 一歩間違えると今の時代、セクハラとでも言えるような言い回しだが、彼の純粋な瞳に負けて諦める。そういや、日向はそういうことを平気で言う奴だった気がする。確かこのあたりで長らく漁師をしている地主の一族らしいことから、いい育ちであることがよく分かる。
「はぁ……。なんでもない。卒業してからだから……二年半ぶりぐらい?」
「そうだね。懐かしいな。小学校の頃はよく一緒の電車で帰ったよね」
「最寄り駅が一緒だったからね」
 急な思い出話に、私は封印していた記憶を解いて返す。
 県内でも有名な私立の小学校に入学をした頃、偶然にも同じ駅を最寄り駅とする同級生だった日向。自然と友人関係となり一緒に登下校をすることも多かった事を覚えている。一緒に、といっても別に待ち合わせをしているわけではない。電車の時刻表の関係で自然と一緒になっていただけだ。それに、私は家に帰ればすぐに家庭教師のレッスンがあったので途中でどこかに遊びに行くということもほぼ皆無で、放課後に一緒に遊んだ覚えはそこまでない。ゼロ、とまでは流石に言わないけども……正直思い出せない。その関係も学年を重ねて、中学生となるころには数えるほどとなり、私が進学校のS高校に入学をしたことで完全に途切れてしまっていた。
「日向は、こんなところでなにしているの?」
「あぁ、僕は部活の帰りにおじいちゃんの様子を見てきたんだよ」
「部活?」
「そう、これ」
 と言って指をさした方向を見ると自転車に長細い棒状の物が刺さっている。部活動であの形といえば剣道だろう。
「そういえば、中学からやってたっけ?」
「うん。と言っても、最後の大会でも負けちゃったけどね。だから、今は受験の合間の息抜きに時々顔を出している鬱陶しいOBかな?」
 そういう部活の先輩いたよね、と言わんばかりの笑い方をしていたけど、私は部活動経験どころか先輩後輩という関係性すら分からないというのが本音だ。もちろん、全く想像がつかないわけではないけども、日向の性格から考えると無理矢理指導をしたりすることなく、純粋に剣道を楽しんでいるんだろうなと言うことが見て取れる。
「そういう萩野さんは?」
「私、は……
 家に帰りたくないからここで黄昏れていました、だなて言う勇気はなく口ごもってしまう。下手なこと行って心配をかけられるのも嫌だし、かといって上手いいいわけも思いつくわけではない。
「なんとなく、海を見たかったから」
 その結果、妙にポエムっぽさが残る言葉を発してしまう。悪手もいいところだ。これではただただ痛い奴である。しかし、日向は再び首を小さくかげてから「そっかぁ、そんなときあるよね」だなんて同意をしてくる。そんなときがあるのだろうか、海なんてここらで住んでいる人は見飽きているだろう。都会の寂れたサラリーマンや振られたOLでもあるまいし、今さら海を見ても何になるというのだろうか。
「そう……。日向も見に来ることあるんだ」
「まぁね。この海の中には僕たちの知らない世界がたくさんあって、そこまで深くなくても何千、何万という生き物たちがひしめき合っている。一見すると凪いでいるのに、みんな一生懸命に神秘となっている。素敵じゃない?」
「それは、分からないけど……、言われてみればそうかもしれないね」
 海の優しさを語るとき、人は海風や波音をイメージするし、反対に厳しさを語るときは荒波なんかを言う。だけど、それはあくまでも海の水面のお話で、海中では常に弱肉強食の世界が待ち構えている……。そう考えると確かに神秘といえるだろう。
もちろん、日向のおじいさんが漁師だからということもあるんだろうけど、そこまで思いを巡らすことは今までなかった。それこそ小学校の頃国語でやったスイミーのお話のときに少し勉強をしたぐらいか。
一匹だと弱い魚が群れを作って大きな魚を倒す……。ただ、私は弱いくせに群れを作ることも出来なかったので、きっとすぐに喰われてしまうことであろう。
「さてと、僕はそろそろ帰らないと。母さんに買い物も頼まれているし」
「確か、あっちの方だったっけ?」
「うん。萩野さんはこっちだよね」
 それに頷いて返事をする。そういえば、丁度このあたりで日向と分かれていたような気がする……。懐かしい物で、そのときはまだ家に帰って勉強を頑張ろうと煌めいていたが、今や家に帰りたくないとふてくされている。
「そうだ、せっかくの再開だし、連絡先交換しようよ」
サッと差し出されるスマートフォン。それには久しぶりに見たメッセージアプリの友達登録画面。以前見た物とは違うからやり方にアップデートが加わったのか、そもそもあった物なのか。
「えっと……
「あっ、なれなれしかったかな?」
「いや……、ただ交換するのはいいんだけど、正直私家族でのやりとりぐらいでしか使ってないから、頻繁に何かを発する方でもないから」
 後はどうやってこの画面にたどり着いたらいいのかがサッと分からなかったのでまごついたと言うのもある。一応スマフォを出してそのアプリを起動するも……どこからいけばいいのか……。あっ、上の方に友達追加というのがあった。これを押せばいいのか。
「あぁ、そういうことか。僕は別にそれで気にしないから萩野さんが嫌じゃないならどうぞってかんじかな」
「そう、ならするけど。返事とか帰ってこなくても気にしないで。怒っているとかじゃなくて素直に忘れているだけだから」
 本当に怒っていたら黙ってブロックをするので気にされたところで無駄だというのもある。一度修復できない溝が出来たのならそれまでというものだ。もちろん、何度もしつこく連絡が来ても鬱陶しいという理由がないわけではない。
 そんな思いを隠しながら、なんとかして連絡交換を終えて立ち上がる。これ以上油を売っていても仕方が無い。怒られ……るかは分からないが、嫌みを言われる隙を増やすことは避けておこう。
「じゃあ、私はこれで」
「ばいばい、またね」
……うん」
 またね、という言葉に曖昧に返して、やや紫がかってきている空の方向目指して歩き出した。


+++————————————————————————————————————+++


 予想に反して、というか予想通りというべきか、自宅に着いた私に声をかける者は居なかった。というよりも、自宅には誰一人居なかった。
「仕事、かな。そういや依頼がどうこうっていってたような……
 両親が何か仕事関係で愚痴っていたことを思い出す。突然残業になったのかそれとも別件なのか。まぁ、こんなのは慣れっこだ。しかし、それならばどこかでご飯を調達してきたらよかった。生憎、冷蔵庫も空っぽ……今からスーパーまで買いに行くほど元気もないし、兄の分を作るつもりもない。
 冷凍室を開けると、冷凍ピザがあったのでそれを暖めることにする。やや重たいような気もするけど、何も食べないのも空腹で苛立つだけだ。食べきれなかったら朝食にでもすればいい。
 記載された時間暖め、そのうちに100%のオレンジジュースをコップに注ぎ皿も用意する。ピロンと通知のなった携帯を見てみると日向から『久しぶりにあえてよかった。また話そう』というメッセージが来たので適当にスタンプを送っておいた。こういうときスタンプは便利だ。短い言葉だけで返すと怒っているように見られるし、かといって長文を書くのも面倒というときに役に立つ。最初知ったときは私には関係のないものと思っていたが、むしろ私にこそ役に立つものかもしれない。それに、これ以降のやりとりもしなくて済む場合も多い。
 電子レンジが音を鳴らして暖め終えたことを教えてくれたので、ピザを皿に移し替えて机に持って行く。一瞬自分の部屋まで持って行こうかとも思ったが面倒くささが勝ってやめた。どうせ誰も帰ってこないことであろう。
 特にいただきますとも言わずにテレビをつけてピザを頬張る。テレビは丁度ニュースが始まったところのようで、トピックがいくつか並んでいる。芸能人の不倫疑惑に、とある事件の裁判が始まったこと、それに異常気象をうたっているものだ。
「アメリカ、アラスカで灰色の雪、ね」
場所的にもここで積雪が見られるのはおかしくないだろう。問題は灰色というところだろうが……正直いくつも理由は考えられる。大気の汚染や一部地域限定で起こっているのであれば、火山の噴火、あるいは目の錯覚がおきていてもおかしくはなかろう。どうしてもマスコミというのはセンセーショナルに報道したがるものだ。その方が人の目を引くというのだから分かるけど、正直悪いことをして注目を引きたがる子どものようにも思えてしまう。
――――どうせなら、破壊し尽くしてくれればいいのに。
 今までもたびたび環境汚染やら異常気象やらがニュースのトピックにあげられているが、私の身に降りかかるのは何十年後という話である。それどころか、今もなお技術革新が行われているのだから私が生きている間は残念なことに人類は生き残るのかもしれない。石油が後数年でなくなると言う話を何十年も前からしている事と同じように。
 伸びていくピザのチーズと一緒。途切れるときは途切れるが意外としぶといものだ。現実との違いは、ピザはあまりに伸び続けると食べにくいのである程度の長さで途切れてくれと願う人が居るぐらいか。
――――いや、私のようにこの世が途切れる人も少なくはないのかもしれない。
 テレビを消して残りのピザとジュースを胃に送りこむ。少し残ったピザは冷蔵庫に入れておく。誰かが食べるかもしれないし、誰も食べないのであれば明日は朝からピザとなるだけの話しだ。
私は誰かが家に帰ってこないうちに自分の部屋へと転がり込んだ。


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 一応少しだけ勉強を進める。間違った問題を見直すと、ちょっとした勘違いや意図を読み取り間違えている部分がいくつもあった。それらのミスは時間が迫ると焦ってしまうということがよく分かるものばかりで、それは問題が最後の方になるほど増えていく。プレッシャーに弱いタイプ、とそれだけ言えば簡単な話だけど、じゃあプレッシャーに打ち勝つ方法が何かあるかと聞かれれば場数を踏めだとか、プレッシャーを感じないぐらいに勉強をしろだとか、そういう話となってしまう。そんなことは分かっている。分かっているからこそどうしようもないことがあるのだ。
……はぁ。もういいや」
 諦めのため息をついて部屋を出る。潮風にあたっていたせいか、体が少しべたついているようにも感じるのでお風呂に入ろう。長風呂こそするつもりはないが、熱いお湯にこの胸の嫌な気持ちを押し流す。
キョロキョロとあたりを見渡しながらまだ誰も帰ってきていないことに安堵を覚える。自分の家でありながらこんなことに安堵をする毎日……
 じゃあ児童相談所にいけよ、なんて話しもあるかもしれないけど、別に両親から虐待を受けているわけではない。それに私も来年には18となってしまう。まだ、頼るときじゃない、そんなことをする必要が無い、と自分を騙し続けているとタイムミリットはとても早く近づいていたわけだ。
 簡単に髪と体を洗い風呂場を出る。潮と汚れは落ちたが、心のもやまでは落とすことが出来ない。こんなことで簡単に落ちてくれるとは思っていないけれど。
 鏡を見やると、髪の濡れている状態ということもあってか、生気の無い顔立ちはまるで幽霊のよう。
――――日向は、煌めいていたな……
 日差しを間近に受けたせいかより一層影が目立つ気がする。もとより太陽がなければ、影も産まれないのだ。だからこそ見上げれば必ず存在する日差しに劣等感を持ってしまう。
 中途半端に髪を乾かして私はフラフラと脱衣所を出る。
「っ……
 その瞬間、ぼんやりとしていた意識がスッと覚醒する。全く気づいていなかったが、誰かが帰ってきている。
――――早く、戻ろう。
 足早にその場を去ろうとする。誰が帰ってきているかは不明だが、誰であっても私の得にならない。だから誰かに会うよりも早く、部屋に戻って鍵をかけよう。
 そう願うが神はどこまでも私の願いを却下する。
「おぉ、お兄様にご挨拶もなしかぁ?」
 背後からかけられた言葉にピシッと背筋が凍る。そっと後ろを振り返ると顔を赤くさせて、アルコールの匂いを漂わせる兄……
「お帰りなさい……
「ちっ、陰気な顔を見せてんじゃねぇよ。無能が」
 アルコールのせいか呂律も怪しく、いつも以上に言葉遣いも荒い。まぁ、両親が居ないことも手伝っているのだろう。流石にどちらかが言えれば、品行方正を求める二人が兄のこんな言葉遣いを許容しないはずだ。
「ごめんなさい」
「申し訳ありません、だろ?」
……申し訳、ありません」
「あぁ、それでいいんだよ。くそが」
「うっ」
 鳩尾あたりに深いキックをたたき込まれて私はのけぞって倒れる。正直、鍛えてもない身体から放たれるキックより、バランスを崩したことで打った腰の方が痛い。
……はぁ、無能は無能らしくしてりゃいいんだよ」
「はい」
 兄の様子を伺うと眉間に皺を寄せていてイライラしているのが分かる。もしかすると大学で何かあったのかもしれない。だからといって暴力はいかがな物ですか? と問いかけたいけど、そんななめた口をきくとより一層暴力を振るわれるだけ。そしてコイツはこざかしく立ち回って私への暴力を認めないことであろう。
「ちっ」
 最後に舌打ちをして千鳥足でリビングへと去って行く。私は痛む腰を押さえながら階段を上って自分の部屋のベッドに寝転がる。
……死ねばいいのに」
 自分の中で感情のコントロールも出来ずに、それでいて絶対に逆らわない奴を狙う卑怯さ。人間としての屑だ。
 だからといって警察に駆け込んでも家庭内のこととされて民事不介入にされるし、事が大きくなって兄が逮捕されても、兄が犯罪者というレッテルを貼られるだけ。身内が犯罪者というハンデはあまりにも大きい。
 ベッドにくるまり携帯を見る。SNSのトレンドは何気ない芸能ニュースや今放送しているテレビ番組のことばかり。そんな平和な世界が私は妬ましい。
――――どうして私ばかりがこんな不幸にならなければいけないのだろう。
そんな疑問をもちながら、痛む体と心を抑えるように目をつぶった。


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