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どうか殺さぬように

全体公開 神無三十一受け 11 28 3801文字
2024-05-06 16:57:37

カルみと うさぎバース
シナリオネタバレあり 事後注意
うさぎの誘惑 https://privatter.net/p/10790724
の続き

 

 いつぶりかも思い出せないほど久しぶりにはっきりとした意識で、神無はふと瞼を開けた。

 「ん……ぁ?」

 自分の喉にそっと手を伸ばして、間違いなく声が戻っていることを確かめる。
 ようやく発情期が終わったのだろう。ちらりと視線を持ち上げてみても、頭の上に居座っていたはずの邪魔な耳は見当たらない。

 「はぁ、い"ッ!?」

 ベッドに両手をついて起きあがろうとした神無は、ずきりと腰に走った鈍痛に耐えきれず悲鳴を上げた。
 今まで味わったことのないようなその痛みに、冷や汗をかいた神無は再びベッドの上へと倒れ込む。
 ぼふりと神無を受け止めたシーツは彼の記憶の中よりも随分清潔で、部屋の中に視線を向けてみても脱ぎ散らかした服や食い散らかしたお菓子のゴミは見当たらない。

 「あれ、」
 「神無ちゃん、起きた?」

 部屋の扉の方から唐突に聞こえた声にぴゃっと身を震わせた神無は、慌てて視線を向ける。
 そこには、長い髪を括って部屋着に袖を通した縞斑がトレーを手に神無の様子を伺っていた。目を覚まして視線を向ける神無のことを確かめた彼は、安堵したように小さく息を吐いて表情を緩める。

 「おはよ。勝手にキッチン借りたよ。」
 「せんぱい
 「取り敢えずスープ作ってみたんだけど食べられそう?しんどかったらあとで温め直すよ。」

 先に目を覚まして部屋の掃除と洗濯を行ったらしい縞斑は、キッチンで朝食まで作っていたらしい。
 思えばこの数日間、神無はまともに食事を取らずにひたすら性欲の発散に明け暮れていたような気がする。温かな湯気を上げるコーンスープを見上げていれば、くぅと神無の腹がうさぎのように小さく鳴いた。
 
 「……たべる。」
 「わかった。起きるの手伝うよ、無理させてごめんね。」

 労わるように腰を撫でた縞斑はそう言って神無の体を支えて起こす。
 腰や下半身が痛まないように楽な姿勢を探す縞斑の献身的な姿が妙に照れ臭く、神無は俯いて小さく返事をすることがやっとだった。
 記憶はかなり曖昧だが、縞斑は神無の発情期が落ち着くまでずっとこの家にいてくれたのだろう。神無が望むままに快感を与えて、その後の処置や身の回りの世話まで預かっていたらしい。

 「ごめん、せんぱい」
 「ん何が?」
 「そのえっと……めいわく、かけて」
 「あぁ、そんなこと。俺がやりたくてやっただけだから、神無ちゃんが気にすることじゃない。」

 発情期の間の乱れた自分の姿が記憶に残っている神無は居た堪れなくなって俯いたまま謝る。しかし縞斑は気にした様子もなくそう返すと、それよりまずは食事、とトレーの上のスープへと促した。
 重たい腕を持ち上げてゆっくりとした動作でスープを口に運び嚥下していると、ベッドの縁に腰掛けて神無の様子を見守っていた縞斑は口を開く。

 「意識を取り戻してさっそくなんだけれど……食べながらでいいから、今後についての話をしてもいい?」
 「あう、うん。」

 じっと見られながら食べるよりも話をしていたほうが気が紛れると判断したらしい縞斑は、頷いた神無の目を見て話を続けた。

 「君の性について、少なくとも君の相棒と直属の上司にだけは伝えた方がいいと俺は思う。」
 「ディーノと、青木とレミに?」

 フラッフィであると打ち明けることを、神無が避けたいと考えていることは縞斑も重々承知だ。
 しかし、その事情を神無の弱みとして扱う人間から身を守るためにも、信頼できる人間には伝えるべきだと縞斑は考えていた。

 「ディーノちゃんは誰よりも近い距離で君を支える立場にあるから、もしもの時に対処を知っておくべきだと思うし、青木ちゃんたちが事情を知っていたほうが上手く君を隠すことができるはず。」
 「たしかに……
 「あくまで俺からの意見だけどあの子たちもすごく心配してたし、俺も最初は事件に巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかったからさ。」
 「う心配かけて、ごめん

 発情期の間は話せない上に、朦朧とした意識の中で何を打ち込んでしまうか分かったものではなかったため、連絡は最低限にして来訪にも応じなかった。
 ちらりとサイドテーブルに置かれたサングラスに視線を向ければ、画面は待ってましたと言わんばかりに大量の通知を表示し始める。

 「来てくれたのが先輩で、ほんとによかった。」

 鍵が空いていたのは食料の配達後に閉め忘れただけの偶然だったが、そのおかげで縞斑が自分のことを見つけ出してくれた。
 神無が黙っていた理由を察して、仲間たちへの連絡を控えてくれたことに関しても頭が上がらない。
 縞斑が来たことが嬉しかった理由は他にもいくつかあったが、そのどれもを口にすることなく結論だけ呟いて笑えば、目の前の彼はふらりと視線を泳がせて頬を掻いた。

 「ええとそれはさ、全部覚えてるのかなって期待しちゃうんだけど。」
 「んぐっげほ、げほッ!?」

 飲み込んだとうもろこしの粒を誤嚥して激しく咳き込んだ神無は、同時に腰へ響いた衝撃に身悶える。
 慌てて背を撫でる縞斑の手にされるがままになった彼は、涎の垂れる口の端を拭いながら目を白黒させた。

 「先輩こそ覚えてたの?」
 「そりゃね、俺は素面だったし。」
 「あ……そ、そっかうん

 縞斑に抱かれたあの日、神無は声を出すことができない中で吐息だけで彼に抱いていた想いを伝えた。
 縞斑に抱かれるのはただの性欲発散のためだけじゃない。縞斑のことをずっと想っていたから、抱いて欲しいと思っていたから、彼を思って自身を慰めたからだと知って欲しかったのだ。
 発情期の熱に促されて勢いのまま告白をしてしまった神無は、当時を思い出して俯いてしまう。
 そんな風に神無が赤い顔を伏せていると、覗き込んだ縞斑がくすくすと楽しげに笑って首を傾げた。

 「もう一回聞かせてくれないの?」
 「そこまで覚えてるならいいじゃん!!?」
 「神無ちゃんの声で聞きたいんだよ。」
 
 約束の内容まで正確に覚えている縞斑に焦った神無は、どうにか羞恥の時間を少しでも短くしようともがく。
 しかし縞斑の言う通り、昨晩まで神無はずっと声を発することができず、出せたとしてもうさぎの鳴き声のような嬌声だけだった。
 あの時は唇を読んで神無の言葉を聞き取った縞斑だが、彼の声を聞くことで確証が欲しかったのだ。
 うろうろと迷うように視線を彷徨わせていた神無は、やがて意を決した様子でぐっと両目を瞑って口を開く。

 「すき、です。」
 「……。」
 「先輩のことがずっと前から好き。」

 やっとの思いで口にしたのは、子供のような拙い告白の言葉だった。ロマンチックなシチュエーションも口説き文句もないこの状況がどうにも情けなくて、ぎゅうと瞑った目の端に涙が滲む。 
 なかなか返事をしない縞斑に不安を覚えた神無が顔を上げたとき、膝の上で握りしめていた手に大きな手のひらが重なった。
 ぱちぱちと瞬く瞳から溢れた涙が頬を伝う前に指先で拭った縞斑は、蕩けた翡翠の瞳を細めて穏やかに笑う。

 「そっか。」

 見惚れた翡翠が目の前に近づいたことに神無が気がついたときには、唇に柔らかな感触が触れていた。
 神無の知らないコーヒーの苦味を残して離れていくそれを唖然と目で追えば、視線に気がついた縞斑が手を引いて神無を腕の中に閉じ込める。

 「わ、」
 「順番が逆になっちゃったけど、俺も君が好きだよ。」
 「へぇ、わ……わぁっ!?」

 真っ赤な顔でぱくぱくと口を開閉していた神無は、次の瞬間ぼふりと頭から綿毛のような両耳が現れた。
 縞斑の腕を擽る柔らかな感触は、神無が自身の感情が昂った際に出てきてしまうフラッフィの耳だ。

 「耳……
 「いやあの、これはちがくて、別にそういうのじゃくて、」

 言葉よりも明確に自身の動揺を縞斑に伝えてしまった神無は、彼を見上げて必死に言い訳を探す。
 ところが混乱している神無の語彙はどこまでも乏しく、えっと、あの、と繰り返すだけになった神無はやがて口を噤んで俯いてしまった。
 目を丸くしてそんな神無を見下ろしていた縞斑は、ついに耐えきれなくなって彼を抱きしめたまま小さく吹き出す。

 「ふ、くくっ、神無ちゃん天才?」
 「笑うなーーーーっ!!」
 「いやだってこんなの、かわいすぎ
 「可愛いって言うな!!!そもそもこれ普段から我慢するのめちゃくちゃ大変なんだからな!?!?!」
 「そっかぁ、いつも俺のこと好きだなーって我慢してくれてたの?」
 「っ、調子に乗るなよ!!だらだら先輩のくせに!!!」

 じたばたと縞斑の腕の中で暴れて怒る神無を抱き抱えた縞斑は、彼の柔らかな耳にそっと頬擦りをしながら笑い声を上げた。

 「これからたっぷり甘やかさないとね。寂しいなんて感じないくらいに。」
 「ばか。」

 やがて観念した様子で両耳を掴みながら唇を尖らせた神無に、縞斑はそう呟いて垂れた耳を撫でる。
 照れ隠しに小さく呟いた神無は目を逸らすと、返事の代わりに耳を撫でる手のひらにそっと寄り添うのだった。



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