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変わろうとする者、変われない者

全体公開 反転ドラヒナ 4 7388文字
2024-05-08 09:18:57

続きもので書いている、反転ドラヒナのお話です。
この話から、少し経った時間軸になります。 私達の転換期 https://privatter.net/p/10844539
前回、ロナルドくんと合流した二人と一匹。ここから、彼らの動き方も変わっていきます。個人的にヒナイチくんのキャラソンで、好きな気障なキスネタですが反転の二人ならかなりディープなのをしているんだろうな、と思ったりします。
中立派の区長さんとのお話合いに、同席したヒナイチくんのシーンを追加しました。
2023/11/18に上げました。

Posted by @kw42431393

 「見た目は、人間用と変わらないのだな。」
 「おやおや、味見したいかね。昼の子の内は、美味しくないと思うが。」

 目の前に置かれたティーセットを眺める。見た目は、全く人間用と変わらない。しかも、ドラルクが作ったものだから見た目は勿論、吸血鬼用にとして味も一級品なのだろう。
 「君が私の血を受け入れてくれるなら、毎日焼いてあげるとも。」
 「い、いらん!だいたい、私だってそこまで意地汚くないぞ。少し鉄臭いし。」
 「ヌフフ。」
 君はこちら、とばかりに差し出されたクッキーを口にする。さっきから、彼が作っているのは退治人ロナルドに頼まれた、『お話合い』に使う吸血鬼用のお茶菓子だ。

 『どうも、私はお料理が苦手なのでございますのよ。これは、ルーマニアのお菓子ですわ。お懐かしいでしょう?お召し上がりになって!』

 そう言って、ドラルクが彼と初めて彼に会った時に差し出されたティーセットには、祖国の駄菓子が乗っていたらしい。高位のドラルクにそれなのだから、どの吸血鬼にも駄菓子を差し出すのだろう。
 「あれには、拍子抜けしたね。お祖父様から『面白い退治人が、お城に行きマース。会ってみて、みて!!』と連絡が来ていたのだが。待っていたら、あれだ。」
 「ヌンヌン。」
 見た目は美形で、鍛えられた肉体を持つ大柄な男性。しかし、話し方と仕草はおネエどころかお嬢様。
 私は仕事中だったから見ていないのだが、ボロボロの恰好で私の前に姿を現したロナルド曰く。

 『お話合いをしましょうというのに、お聞き分け下さらないから、お説教になってしまっただけです。』
 『今はお友達になってきましたわ。』
 『私の仕事を手伝って頂ける様に、お約束をしてきました。』

 「お前が怒りもしないでサインして、彼の協力をしているなんて信じられない。」
 「お祖父様には、私達の事は全てお見通しだったらしい。両親にも隠していたのに、どこから漏れたのか分からないがあの人の紹介だ。会わない訳にもいくまい。あそこまで見事にしてやられると、怒りも湧いてこなくてね。しかも、よく分からない間に契約書にサインしてしまったのだから、仕方がない。」
 ロナルドはヒヨシ隊長の実弟でもある。
 だから、吸対にも連絡済みで、彼の仕事に同行している間は、武器の携帯も認められたのだという。
 ロナルドの仕事は話し合いがメインだが、相手が話し合いの通じない下等吸血鬼や用心棒を雇っている事もある。それをドラルクが抑え込んで、私に連絡し、逮捕、VRCに護送する流れになったのだ。
 罪を犯す前に話合いで済めば、逮捕の必要もなくなるし、より効率的だと思う。
 本人も『名誉あるお野蛮担当に任命されてしまったのだよ。』と苦笑していた。

 「制限付きだが、まぁ、いいだろう。彼を手伝う事で、敵性吸血鬼による事件の抑制にもなる。君が戦場に出る事も減って、私の監視に来やすくなる。私の利害とも一致するのだ。」

 『契約』という言葉に縛られる、己の執着する事に捕われる、人ならざる者のサガというか。
 抗争が終われば共に歩む道を選んだ、現在の私でも理解しがたい所だ。
 それと同時にひたむきな程に一途だという点が、私を魅了して離さないのだと思う。



 あの日、下等吸血鬼の駆除を終え、退治人ロナルドと挨拶をした後、監視に来た私がこの城で見たものは机が壊れ、家具は散らばり、溶けた氷が部屋を水浸しにしている応接室で、使い魔と片付けをしているドラルクの姿だ。
 服は着替えていたが、ロナルド同様、所々包帯が巻かれているのが見えた。

 『何があったんだ?お前、退治人ロナルドに怪我をさせいや、お前も怪我して。友人になったって、一体、どういう?』
 『ヌーン?』
 『さあ何だろうね。コメントし辛い。お話合いの実態は企業秘密だから、喋ってはいけないらしい?』

 カチャリ、という音に我に返る。見ると、ロナルドに渡すティーセットは出来上がっていた。
 あとは、彼が来るのを待つだけだ。
 「ところで。聞いていると思うが、今夜は
 「ロナルドくんのお話合いに、同行するのだろう。城で大人しくしているよ。彼がいれば心配ないが、気を付けて行っておいで。」
 そう言って、彼は席に着くとテーブルに置いていた本を読み始めた。読書は彼の趣味でもある。
 表紙には高級そうなティーセットのイラストと共に、『ロナルド・ウォー・戦記』と書かれていた。
 「ロナルドの書籍か面白いのか?それは?」
 実は、私も彼と個人的な話し合いは済ませている。その際に、名刺代わりに渡された本と同じものだ。
 忙しいのもあるが、題名と表紙と本人のギャップに違和感を感じて、まだ手につけていない。
 「面白いね。題名については、本人も『お野蛮でどうかと思いますわ』と言ってるよ。」
 題名は、オータム書店の意向によるものらしい。
 「元々、『お吸血鬼さんとお友達になる為に』とかいう、センスのない題名だったのだ。それでは、誰も読まないだろう。彼としては、これを通じて両種族の認識の違いや、対立の歴史、原因を知ってもらいたいのだそうだ。だから、オータムの提案を受け入れたのだな。」
 「そうかそれは、言えるかもな。」

 人間を毛嫌いしている吸血鬼達がいるのと同じ様に、吸血鬼というだけで、人間達からも警戒されている者達もいるヌ。夜の者にとって、あるいは、昼の者にとって普通の事が、不快なものだったりするヌ。対応した事件の原因について考察してあるのは、ヌンが見ても興味深いヌよ。

 人間同士でもそうなのだ。住む世界が違えば、猶更だ。
 では、彼らを裁く側にいながら、夜な夜な吸血鬼の居城に足を運び、彼の手を借りている私は、どういう立場になるのだろう。
 幼い頃から吸対を目指して来たはずの自分が、実は寓話に出て来る蝙蝠で、どっちつかずの都合のいい人間なのではないか、と思う。
 いっそ彼の血を受け入れて夜の世界に行くか、彼から逃げて昼の世界に戻る方が潔いのではないか、とも思う。

 『おこんばんは。皆さん、参りましたわよ。』

 あ、ロナルドくんが来たヌ。迎えにいってくるヌね。

 部屋を出ていくジョンを見て、私も立ち上がった。
 胸に湧いた迷いを悟られるのは、どうにも恐ろしかったからだ。
 「じゃあ、私も。」
 「ヒナイチくん、待ち給え。」



 ぐいっと、成すすべもなく引き寄せられる。
 この頃は、私が中座して外出しようとすると、キスをしてから送り出すのが恒例になっていた。
 『必ず戻っておいで』の呪いだそうだが、後の彼から言わせると、そのまま昼の世界に逃げそうで、不安だったからだという。迷いが顔に出ていたという事か。

 「よ、よせ!!ロナルドが来。」
 「分かっているとも。少しだけ、少しだけだから。」

 少しだけというのは本当で、マントの中に引き入れただけで、ただじっとしていた。時々、思い出した様に髪を撫でる程度だ。
 出会ったばかりの頃にあった、温かいものが胸に湧いてホッとする。
 その反面、一方的な行為に慣れた我が身が恨めしい。何かが物足りないと訴えて来る。
 自分でも不思議だが、先に行動を起こしたのは私の方だった。

 「し、しないのか?」
 「君が望むのであれば、そうしよう。私は、君を愛玩動物にしているつもりはない。本音では私を求めてくれていると思っていたから、これまでそうしていたのだ。しかし、その。」
 何でも「自分が正しい」と、押し通してきた彼らしくなかった。なんだか、急に自信をなくした子供の様だ。
 「対等な間柄だというのならば、君の許可を得てからするべきだと。」

 ロナルドのお説教の内容が、それだったのだろうか。
 彼と会ってから、妙に優しくなったり、情事の際に躊躇う様な行動が目につくとは思っていた。
 改めて、無機質な義眼と深紅の瞳を覗き込む。
 嘘は言っている気はしないが、やはり対等な相手を見る目ではないと思う。それでも
 「い。」
 嫌だ、離せとは、何故か口から出なかった。自分でも、よく分からない。
 「ヒナイチくん、私と契約をしないかね?」
 「契約?」
 「我々にとって、契約は絶対だ。本当に、私に触れられるのが苦痛ならば、一筆書こう。情報提供についても、これまで通りに協力しよう。か、代わりに。」
 『キキッ』と義眼が音を立てる。次の一言に、かなり躊躇いがあるらしい。
 「毎晩、ここに来ておくれ。私の手料理を食べて、嬉しそうないつもの顔を見せて欲しい。君が払う対価は、それでじゅ、十分だから。」
 些細な事だが、これが本人の行動基盤なのだと痛感する。この頃、お互い相手に対して、中毒患者の様なものだったのにその行為を諦めるという。それより、顔を見られなくなる方が辛いのだと俯いているのは、赤面した顔を見せたくないからだ。
 それはそうだろう。まだ19の小娘に、『もう、酷い事はしない。だから、嫌わないで』と言っている様なものだ。
 その切実な言葉に、私は何と返答するべきか。何かに、押しつぶされそうになる。

 本気で夜の世界を拒むのであれば、ここで交渉するべきだったのだ。
 でもこの時点の私は、まだ臆病な蝙蝠だった。恐れながら、憎みながら、このマントの中に、未練があった。家族と重ねて来た思い出達がいる、元の世界にも未練があった。だから

 「もういいだろう。見られると、恥ずかしい。」
 はぐらかして、マントの中から抜け出した。
 テーブルのティーセットを手に取ると、扉を開けて、絡みつく夜から逃げ出した。



 「おこんばんはヒナイチさん。どうかしまして?」
 「ヌヌイヌヌン?」
 「何でもない。じゃあ、行こうか。」

 手に持ったティーセットを、彼に渡す。
 ご真祖様から事情を聞いていたとはいえ、青空の様な青い瞳に隠し事は出来ない気がした。
 仕草や言葉遣いが女性的だから、なんとなく同性と話している様な錯覚を覚える。
 だから、彼の依頼先に向かう道すがら、聞いてみた。二人きりでなければ聞けない内容だから。

 「なぁ、人に依存するってよくない事だよな?」
 普通は、そこでイエスだろう。しかも、私が言う依存の対象は自分の監視対象で、精神的にも肉体的にも依存している。
 公私混同も甚だしい。
 「貴女次第だと思います。ご自身が苦しまず、他人にご迷惑をかけないのであれば、お悪いとは思いません。」
 返って来た答えは、意外なものだった。しかも、上品にニコニコ笑っている。
 「そうだろうか。」
 「お二人と似た苦しみの方々を知っておりますわ。私やジョンさんも頼って下さいまし。頼りないお方ですけれども、お兄様ヒヨシ隊長も。そして、カズサ本部長も。意外とお話してみると、返って来るものは重くはないかもしれません。」

 退治人達に、頭を下げた時の事を思い出す。そうかもしれない。
 でも、まだ言った時の反応が恐ろしい。ロナルドに話せるのは、そもそも竜大公から事情を聞いて知っている相手だから出来たのだ。
 「ところで、お前が会おうとしている相手は、どんな相手だ?」
 「中立派の〇〇地区の区長さんとお会いした後、反吸血鬼派の団体の方々に、会おうと思っております。区長さんについては、ドラルクさんが竜子公様に頼んで、お日程を組んで下さいましたの。元々は、ヒナイチさんとお会見させるおつもりだったそうですが、私の方がご本職だから振ってきたのですね。中立派の方々をお味方につければ、反人間派のお吸血鬼さんは行動しづらくなりますもの。」
 「あいつが何故だ?」
 どうも私が知らない所で、妙な動きをしている気がする。

 「ヒナイチさん。吸血鬼対策課の設立されたご意義は、何でしょう?」
 「共生の為の秩序だ。」

 教科書に書かれた題目しか言えない。自分が、情けない。
 私は、取り締まり以外何も行動してないではないか。
 「そうですわ。共生のお時代を築くには、私も『吸血鬼』『吸血鬼対策課』『吸血鬼退治人』3つの組織の連携がお必要だと考えております。ドラルクさんはご興味がなかっただけで、元々お理解はされていたのでしょう。お兄様は大人しいお方ですから、副隊長の貴女にそれをして欲しかったのでは?」
 「な、何故あいつに何のメリットもないだろう?」

 つくづく、そこだけは一貫している。
 この季節だというのに、冷や汗が流れた。

 「このお管轄だけでも、治安が良くなります。『市民はどうでもいいが、ヒナイチくんの危険が減るのであれば、骨を折る価値はある』とおっしゃるのです。彼のご愛情が重い事も貴女のお悩みですが、焦ってお答えを出す必要はございません。彼らにとってお約束は絶対です。せっかちなお方だから、急かしてくるとは思いますが、冷静になってお考えくださいまし。」

 彼らは執着する生き物だ。
 さっきの契約を結んでいれば、余裕をもって未来の選択を考える時間が出来たのに。
 はぐらかした事で、ロナルドの説得を受けて落ち着いていたドラルクは、再び私を夜の世界に引きずり込む事に躍起になってしまったからだ。
 私としても、『触れて貰えない』という事は苦痛だから。さりとて、まだひねくれた蝙蝠だった私は、それを認める勇気さえなかった。

 ここでまた、私は、選択を誤った。
 私達の緊張状態は、もうしばらく続く事となったのだ。


 
 「お初に、お目にかかります。竜子公様から、連絡は頂いておりますよ。さあ、こちらへ。」
 目の前にいる区長さんは、ドラルクさんより少し古い世代のお吸血鬼さんでした。
 物腰は穏やかで、お紳士的です。でも
 「はい。此度はお会談の場を設けて下さいまして、ありがとうございます。」
 その赤い瞳の中には、私達を値踏みする様な簡単にはいかないご気配がございました。それはそうでしょう。
 どっちつかずと悪し様に言われがちなお立場である者達は、お警戒心が強いのです。そして、判断ミスで自分達にどんなお災難が降りかかるかを、自分の住んでいる区域の者達をどう守るか、その責任がかかったお立場のお方ですもの。

 「お噂は、伺っておりますよ。あの竜大公様と対面なされた、とか。」
 「はい。とても、素敵なお方でしたわ。深いお苦しみと、お喜びを見て来たそして、一番大事なご選択を誤られた悲しいお方ですね。」
 「はて?そういうお方では。」

 それは、そうですわね。今だって、あの方は作った仮面で笑っておられる。
 胸の中におられる奥方様に、笑って頂きたいご一心で。

 「ところで後ろにおられるのが。」
 「はい、吸血鬼対策課の
 「本日は、ロナルドに同行させて頂いています。吸血鬼対策課ヒヨシ隊副隊長の、ヒナイチです。」
 彼女の顔が、緊張したものになります。そうかもしれません。
 私は、ドラルクさんとヒナイチさんが最初が最低でもご恋人同士である事を、知っております。周りは知らないはずですけれども、反人間派のお吸血鬼さん達の間では、ドラルクさんが自分の監視員に入れ揚げているのは、有名なのですよ。
 彼女の顔によぎったのは、疑心の影。だから、こう考えているのでしょう。

 『ドラルクは、私の事を同胞にどう話しているのだろう。今の自分は、吸血鬼対策課の顔と言っていい。甘く見られてはならない。』

 と。ヒナイチさん、肩の力を抜いて下さいまし。お大丈夫です。貴女は、実は

 「お若いのに、副隊長を務められるとは。たいしたお嬢さんだ。なにより、お美しい。」
 よかった。以前の貴女なら、この探りに『それは関係ない。』『お嬢さんなんて言うな。』そう言ったかもしれません。ドラルクさんと出会った事で、貴女は辛い事も多かったでしょうけど。
 貴方は実は、成長もしているのですよ。
 「っあ、兄の伝手があったのです。あまり褒められた事ではありませんがそれでも、市民を守りたいという気持ちと鍛錬を積んできました、今も、変わりはありません。」
 「市民を守りたい、ですか。その市民に私達も含まれますか?含んで貰えますか?」

 実は、どっちつかずのお中立派には、吸対に救けや相談をしたい者達も多いのです。でも、お種族が違いますでしょ?どうしても、ご遠慮する事も多くって。だから、ここを改善するお必要があるのです。
 少なくとも、私とドラルクさんがお契約した事で、吸血鬼対策課と退治人、吸血鬼と退治人のご関係が良好になって参りましたわ。
 だから、今度は貴女もお架け橋になって下さいまし。吸血鬼と吸血鬼対策課のご仲介者に

 「勿論です。私達の目的は共生です。法に触れないのであれば、この街に住む全員を守るのが私の使命いや。」
 「。」
 「私の夢です。だ、だからあなた方も吸対にご相談ください。」
 区長さんが、穏やかに笑います。そして、扉を開けてお招き入れて下さいます。
 「分かりました。値踏みする様な真似をお詫びいたします。改めまして、お二人共お入り下さい。ご持参したティーセットは、ドラルク殿が作られたものでしょう?同胞間でも、彼の料理の腕は有名です。喜んで、有意義な時間を過ごさせて頂きますよ。」
 ほら、これでまた一つ。私の夢への扉が、近づきました。あなた方のおかげで

(ありがとう、ヒナイチさん。よく頑張りましたね。)
 耳打ちすると、彼女は赤面して俯いてしまいました。

 貴女は、変わろうとしていらっしゃいます。変わってもいいのです。
 貴女が納得し、お後悔しないのであれば変わらないお方もおりますけれど。
 あの方は、貴女ではお難しいでしょうね。惚れた弱みが、ありますもの。ジョンさんと私が、ご協力する必要がありそうです。

 
 


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