エツレオ現代AU。
家のエツィオは世話焼きガチ。
一応用語解説?↓
Deliveroo(デリバルー)→Uber Eatsみたいなサービス
WhatsApp→LINEみたいなアプリ
@acbh_dmc4
エツィオは年上の恋人に贈るプレゼントを彩る花を探すために、ピアッツァ・デッラ・シニョーリアの角にある行き付けの花屋を覗いていた。
そこの店は品揃えが豊富で店主の人当たりもよく、移り気なエツィオに面白おかしく忠告とアドバイスをくれる。内装も凝っていて、格子状の梁から吊るされる球状の観葉植物だとか、まるで亜熱帯にでも迷い込んだような肉厚なサボテン群のコーナーや、まるで魔法学校の薬草置き場のように積まれるドライフラワーのコーナーなど、見所のあるお店だ。
幾度となく、デートコースの一つとしてもチョイスしている雰囲気満点の花屋だ。
エツィオが店内に入ると、早速店主が気付いてにこやかに挨拶をした。
「今なら黄色のアネモネがお勧めだよ」
「花言葉が縁起でもないじゃないか」
「今どき花言葉まで精通している色男っていうのも珍しいもんだね」
小気味いいテンポの会話の合間にじっくりと色とりどりの花を眺める。
真夏には派手派手しかった花々が、晩夏には徐々に優しい色合いのものに変わっていく。そういった花々の移り変わりを見るのもまた楽しい。
いつも通り贈答用のバラのコーナーへと足を向けると、ピンク色の多弁な薔薇が一番に目についた。
今回贈る恋人にはあまりに可愛らしすぎる気のするその花を手に取ると、店主が呆れたように笑いながら、その花の名を教えてくれた。
「それは調度今日から店に入ってきたんだ。レオナルド・ダ・ヴィンチっていう名の薔薇だよ」
「レオナルド……」
「彼の有名な芸術家の名前の薔薇なら、きっと彼女との会話も弾むだろうね」
ニヤリと不敵に笑って勧める店主に、エツィオは優しい笑みを返して12本薔薇を注文した。
「おやおや、遂に身を固める気になったのかい?」
「ああ。今度は恋人と一緒にここに来るよ」
「期待せずに待っとくよ」
「おいおい、俺が振られるわけ無いだろ?」
レジにて軽口のやり取りをして、可愛らしくラッピングされた花束を受け取る。
多弁なレオナルド・ダ・ヴィンチの花束を抱えて満足そうに帰路につく。
時折甘い薔薇の香りをかいでうっとりした笑みを零すエツィオに、すれ違う女達はみんな振り返ってその姿を羨ましそうに見送った。
*****
エツィオは玄関前で鞄から小箱を取り出して、ひときわ大きく美しく咲き誇っている薔薇の一本に、今日恋人に渡すつもりのペアリングをそっと埋め込んだ。
きっと目敏い彼の恋人は、僅かに覗く銀色の輝きに気づいてくれるはずだ。
珍しく少しの緊張を誤魔化すように、ライトブルーのジャケットの襟を正し小さく咳払いすると、呼び鈴を鳴らした。
しかし中からは何の物音もせず、待っていても扉が開く気配がなかったため、エツィオは合鍵を取り出して玄関の戸を開けた。
そっと廊下を進み、リビングや作業部屋、バスルームや念の為キッチンを確認したが、恋人の姿は見つけられなかった。
数時間前に入れたWhatsAppのメッセージで、ようやく締め切りを明けて、軽く仮眠すると書かれていた事を思い出す。
そっと恋人の部屋を覗けば、うつ伏せで力尽きたように爆睡している姿が見えた。
少しだけ寝苦しそうにしている恋人の体を抱え上げ、そっとベッドにおろしてシーツを掛けてやる。
この調子ではまだまだ起きることはないだろう。
ならばとことん雰囲気満点に部屋を整えてやろうと音を立てずに部屋を抜け出すと、まずリビングに向かった。
片付けの苦手な恋人が散らかした画材や脱ぎ散らかした衣服を集める。
本格的な掃除は後日ハウスキーパーにでも来てもらうとして、洗濯物は洗濯籠に、画材は手近な箱にまとめて作業部屋へ、食器類は前に見かねたエツィオが買い与えた食洗機に入れてボタンを押す。
簡単な部屋の片付けで少々時間を取ったな、とため息を付き、リビングに戻って絵画の保護用に使うのだろう布をテーブルクロスの代わりに敷いて、アロマ入りのキャンドルと今日のディナーのカトラリー一式をセッティングする。
その間に頼んでいたDeliveroo(デリバルー)から到着の知らせが届き、商品の受取をしてそれらを皿に取り分ける。
美味しそうな匂いに誘われてか、恋人が寝室から出てきてまだ半分夢の中に居るような顔でエツィオに挨拶をした。
「おはようございます……エツィオ、来てたんですね」
「ああ。よく眠れた?ちょうど夕食時だ。シャワーでも浴びてきなよ。その間に準備を整えとくから」
はて、今日は何かあっただろうか?と一瞬訝しげに佇んでいたが、エツィオに流れるようにバスルームまでエスコートされ、浴室に押し込まれてしまった。
新しい着替えとバスタオルを浴室前に置いて、エツィオは料理をテーブルに並べていった。
「ずいぶん豪華なディナーですね」
「目は覚めた?レオナルド」
「ええ。今はとてもお腹が空きました」
少しだけ戸惑いつつも、目の前の豪勢なディナーに恋人、レオナルドの腹の虫が鳴いた。
エツィオは面白そうに笑って、シャンプーの爽やかな香りが漂うレオナルドに軽いキスをして、テーブルにエスコートした。
軽快なジャズピアノが流れ、キャンドルの柔らかな光の中、綺麗に整えられたテーブルに着いて、料理を見渡す。
先ずは前菜のサラダを頂いて、そしてパスタを口に運ぶ。
「ワインはどう?」
「ええ、頂きます。それにしても……今日は何かあったんですか?」
不思議そうにエツィオから渡されたワインを傾けながら、レオナルドは小首を傾けながら質問した。
「まぁ、一つは大きな仕事が無事終わったことのお祝い?」
「……そうですか。まぁたしかに今回の依頼はかなりの大口受注でしたけど」
「それから、話したいことがあるんだ」
キョトンとした顔でエツィオを見つめるレオナルドにコホン、と咳払いをしてからテーブルの下に隠しておいたピンク色の薔薇を差し出す。
突然のプレゼントに驚きつつも、嬉しそうに破顔するレオナルドは、その薔薇を両手で受け取ると薔薇の甘い香りを吸い込んだ。
そして、プロポーズの時に好んで贈られる12本のピンクの薔薇を見て、エツィオにはにかんで見せた。
「なんです?エツィオ、もしかしてプロポーズですか?……おや、真ん中の薔薇の中に何か……」
早速銀色の光に気付き、薔薇の中からペアリングを取り出す。
これは本当にプロポーズのようだとレオナルドは目を白黒させていると、追撃とばかりにさらに小箱が目の前に差し出された。
「付き合いだして今日で半年だし……レオナルド、君にコレも受け取ってもらいたい」
元々指輪が入っていた箱を渡すと、レオナルドは興味深気にその箱をそっと開けた。
箱の中には小さい黄色のリボンが結ばれた家の鍵が収められており、レオナルドはエツィオの顔を驚いて見上げた。
「レオナルドはさ、ほら……仕事となると自分の事後回しにするだろ?いつ倒れやしないかってヒヤヒヤするし、そうならないためにも俺と一緒に住まない?」
「エツィオ……」
「それに、君のよく取引する所や画廊にアクセスしやすい場所なんだ。画材道具を扱う店も近いし、駅にもアクセスしやすい」
いつになく自信なさげに言葉をつづけるエツィオに、レオナルドは徐々に驚きから回復し、喜びが込み上げてきた。
ニヤケそうになる口元をさりげなく隠して、意地悪く様子を窺う。
普段は自信満々な彼が、時折見せる予想外の焦りや緊張といった感情には新鮮さがあり、レオナルドは彼のそういった表情をとても好んだ。
一生懸命自分と同棲すれば大きな利点があるのかを順番に並べるエツィオをじっくりと観察する。
まるで子犬の耳としっぽが見えるようだ、と机に頬杖をついて話を聞いていると、ついにエツィオの必殺技が飛び出した。
コテン、と首を傾げて、困ったように眉尻を下げ、あざとい上目遣いでだめ押しの「ダメかな?」という問い。これで落ちない老若男女はいないといわんばかりの計算されつくした仕草だ。
これはいよいよ必死なのだな、と可笑しくなったレオナルドは、貰った薔薇に視線を移した。
「この薔薇、初めて見る気がしますね」
「レ、レオナルド……」
「勿論、花の種類にもお詳しいんでしょう?私もそれなりに資料として花は調べたりしますが、一体何の薔薇です?」
今までのエツィオの話を丸っと無視した話題に切り替えるレオナルドに、エツィオの目は面白くなさそうに細まった。
年上の恋人は時たま意地悪モードを発揮するのだが、どうやら今日はその気分になったらしい。
しかし、エツィオもそんな駆け引きは嫌いじゃない。半場答えは分かっているのもあるのだが、この悪戯な空気もともに堪能したい。そして意趣返しも一緒に。
「そうだな。じゃあ、当ててみて。実はかなーり有名な偉人の名を冠した特別な薔薇なんだ」
「なるほど。ええと、私のスマホはどこやったかな……」
「Googleレンズで調べるの禁止!」
ハシッと腕をつかまれて止められる。
そんなやり取りも楽しくて思わず笑いが漏れる。
「ではもっと情報が欲しいですね。その偉人は何をやった方ですか?」
「……一言でいえば発明家、かな。でも世界的には画家としての方が有名だね」
「おやおや、同業者でしたか……しかし発明家ですか。どんなものを作ってました?」
「いろいろだ。武器とか建築とか、医術にも長けてたな」
「へぇ、万能な方なんですね。……それに、かなりの有名人ですか」
眉根を寄せてうんうん唸りながら答えを考える。
からかいと焦らしモードに入ったレオナルドは少しだけ質が悪い。それならばと、エツィオは意趣返しとばかりに彼が嫉妬するような事を言ってみることにした。
「しかもその偉人は顔も良かったんだ。可愛い顔して当時の権力者からも引っ張りだこ。あちこち飛び回っては俺をハラハラさせてたよ」
「おや、エツィオはその偉人に会ったことがあるんですね?……という事はその方は女性……薔薇もピンク色ですし」
少しだけレオナルドがムッとした顔になる。
今世もそうだが、エツィオはとにかくモテる。あちこちに手を出して性に奔放だ。
勿論、彼には重要な使命があり、命のやり取りをすることで高まった興奮を他で発散させる必要もあったのだろう。
特に戦士は性欲が強い傾向にあるし、その上ハンサムなのだ。引く手あまただ。
なんだかおもしろくない想像をし始めているレオナルドに、エツィオはクスリと笑って、レオナルドの手にした薔薇に手を伸ばした。
「好奇心旺盛でお喋りで、ずっと俺の視線を惹きつけて止まない人だよ」
薔薇を愛おしそうに撫で、ジッとレオナルドを見つめる。その視線の意味に気づいて、レオナルドは頬を贈られた薔薇のようなピンク色に染めた。
「……え?そんな、もしかして、それは……私、です?」
「正解。この薔薇の名前は“レオナルド・ダ・ヴィンチ”って言うんだ。プロポーズにはぴったりかなーと思って」
「い、一体いつから計画してたんです?」
気恥ずかしくなり、バラの花束で顔を隠す。
楽しそうなクスクス笑いが聞こえてきて、口惜しさと愛しさが膨れ上がる。
こんなに気恥ずかしくて嬉しいサプライズをされては、どんな者でもかなわない。
「それで、レオナルド……俺との同棲だけど、一緒に住んでくれるかい?」
「どうせ返事は分かってるんでしょう?でも!言い出したのはエツィオですからね。私の世話が嫌になったって文句言わないでくださいよ」
あはは、と幸せで楽し気な笑い声が部屋いっぱいに響く。
二人の新たな門出を祝うように、二人の腕の中でピンク色のレオナルドが楽しげに揺れた。
もくじ