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次のクリスマスは、きっと

全体公開 人魚姫ドラヒナ 1 1 7744文字
2024-05-13 12:39:18

続きもので書いている、人魚姫ドラヒナのお話です。
この話から、少し時間が経っています→それぞれの幕間 https://privatter.net/p/10880377
陸と海を繋げる計画が始まり、お互い仕事を兼ねたお茶会に、楽しい時間を過ごす4人と1匹。
クリスマスに、ロナルド王子夫妻を深海に呼ぶ魔女ドラルク。
深海の恵みであるマリンスノーと、それに群がる深海生物達の光。クリスマスツリーに見立てた、幻想的な風景を見上げながら、この計画が成功してからの、来年のクリスマスの想いを馳せます。
最後の人魚の肉で調剤しながら、その未来を手に入れる決意を新たにする、魔女ドラルクのシーンを追加しました。
2023/12/25に上げました。

Posted by @kw42431393

 「えっと、う~んと今度はこっちが重くなってしまった。」
 「苦労しているね、お姫様。」
 「ヌフフ。」

 カチャカチャと金属音の後に聞こえる、鈴を転がす様な声。
 目の前の量りは、少し足せば右へ、減らせば左へと、なかなか平行になってくれない。
 武芸一辺倒だったお姫様には馴染みがないもので、困った顔が可愛らしかった。
 これまで調剤室で聞こえるのは、私達主従の声以外、材料を磨り潰す音、壺をかき回す音、反応を起こした物質の破裂音だけだった。
 私が持つ、豊富な医学・薬学・魔法学の知識と技術を目当てに、契約しに来た者達の望みを叶える為、その結果を自分の目的に役立たせる為調剤室は、その為だけの場所だった。

 カズサ王が持ち込んだ、海と陸を繋げる計画が立ち上がるまでは私がその計画の中心人物に指名され、ヒナイチ姫が私の監視と護衛、助手としての任務に就くまでは。

 「今日は休もう、ヒナイチ姫。」
 泣きそうな彼女の頭を撫でる。
 真面目な子だから、兄が自分を魔女の助手として指名した理由が、『病気持ちの魔女に、何かあった時の為』引継ぎが出来る者が必要だから、なんて思ってもいないだろう。
 確かにその可能性が、『ない』訳ではない。私が死んで終わる様では、この契約の意味がない。
 だから、彼女には私が知っている事を全て教えるつもりだ。
 それに、この関係は関係で新鮮だもの。悪くはない。
 私だって、そう簡単に死んでやるつもりはないのだ。
 陸に興味を持ったお姫様に声をかけて、私のお菓子で手懐けて、心まで私に寄せてくれた今となっては。

 「いや、大丈夫だ。私の仕事だもんな。ちゃんと、覚えなきゃ。お前こそ、ずっと休んでないんじゃないか?」
 ふわりと頬に両手が添えられる。
 深海に住む私達にはない温かさが心地よくて、私はそっと目を閉じた。



 初めて出会ったあの日。小さなメンダコに変身していた私を、貴女は手の平に乗せて撫でてくれた。
 あの時の感触を堪能する。耳元で聞かせてくれた、あの歌声を思い出す。
 歌声の魅惑にかかったその瞬間から、私は貴女しか見えなくなっていた。

 「大丈夫だとも。少しぐらい無理をしても、得たいものがある。これさえ、終われば
 堂々と、貴女を私の元に迎える事が出来る。手の届かない、他所の海国に嫁いでしまう心配がなくなる。
 自分の身体を治す治療薬を完成させるのは、その後でもいい。
 「ここまでにしよう。もうすぐ、ロナルド王子達も来るからね。」
 「それもそうだが。」
 渋る彼女に苦笑する。

 仕方ないねえ。でも、こっちにはとっておきがあるのだよ?

 「おや。ヒナイチ姫は、いらないのかな?お勉強中だものね~。折角、とっておきの
 ゴボッと息を吹いてみせると、浮かんだ泡はケーキや紅茶、マカロンにキャンディ、そして、忘れてはいけないクッキーの形に変わって、貴女の前で踊り出す。
 私が好きな翡翠の瞳は、眩しいほどキラキラと輝いて。
 「よし、頂こう!!」
 「ヌーン。」
 呆れた顔のジョンと顔を見合わせる。

 そうそう、私の人魚姫はそうでなくては。



 「よっと。今回もありがとな。」
 「帰りもお願いします~。」
 キュッキュと返事をする、大きなシャチに俺とサンズ姫は手を振った。

 ここはドラルクの別宅がある、水深200mほどの岩場だ。
 これでも浅くて明るい方だと、ドラルクは言いやがるが、職業柄、夜目が効く俺達でもかなり厳しい。今だって、ドラルクに渡されている発光物質を使ったランタンで照らして、多少見える程度だ。

 一回、海流を利用してジョンと来てみた事があったが、時間はかかるわ、水圧で気分は悪くなるわ俺もサンズ姫も鍛えてるからいいものの、他の人間だと一溜りもないだろう。
 その時は水中でも自由がきく様に、ドラルクが作った薬を使っていたが、時間制限付きと知っているからな。恐怖感も半端なかった。
 だから、俺達はヒナイチを通じて、シャチにここまで送って貰ったんだ。
 シャチなら、もっと深い水深1000mまで潜水出来るし、サメや危険な生物達は、彼らに寄って来ない。

 「あいつは試作品って言ってましたけど、確かにこれは便利ですね。」
 サンズ姫が、自分の心臓部に手を当てる。
 そこには、ドラルクが作ったパスポートが、『心臓部』に埋め込まれている。勿論、俺にも同じものが埋め込まれている。
 「毎回、あのいかがわしい薬を、飲まなくて済むのもいいですよね。あれ、苦いし。ちょっと、色とか匂いとかセロリに似てたし。」
 パスポートが埋め込まれている、って言うのは妙な言い方だが。
 あいつが紫色に光る紙って言えばいいのかな。まぁ、契約書らしい。あいつと俺達のサインが記入されてる紙だ。
 ドラ公がそれを胸に押し込んだ時、契約書はヌルっと消えてしまったんだ。

 『他の者の場合は、ここに制限する年月日を記載して、それが過ぎると自動で消える様にする。理由があって、延長する場合は、更新手続が必要になる。あぁ、安心しておくれ。君達は海と陸を繋げる計画に、大いに関わって貰う事になるし、何より私達にとって大事な友人だ。ヒナイチ姫と君達夫婦に埋め込んだパスポートは、無期限だ。いつでも、来ておくれ。私達も、陸にお邪魔させて貰うからね。』

 まぁ、そんな訳で俺達は、割と気楽にお互いの世界を行き来してる。
 しかし、簡単に陸と海を繋げると言ったって、大変なものだ。
 両方の国で設備や法律を、整備しなければいけない。
 ヒナイチが住んでいるサンゴ礁ぐらいなら、普通の人間でも問題ない。
 自分で泳いで行ってもいいし、水温だって温かい。さっきみたいに、シャチやイルカを使った定期便を作ってはどうか、とカズサ王と兄貴との間で相談中らしい。
 問題は、水深200m以上の深海だ。とにかく、水温と水圧の負担が半端じゃない。
 人魚姫であるヒナイチでさえ、『400m以上だと、すぐ疲れて眠り込んでしまう』と言っていたから、かなりのものだ。
 俺達だから、シャチやクジラに乗せて貰うっていうのもありだけど、普通の人間ならキツイと思う。
 交易に使う石炭や貴金属といった、深海の資源を陸に運び出すには、逆に陸の資源を深海に持ち込むには、まだまだ改良しなければならないと思う。

 「ロナルド王子。ドラルクが見せたいもの、って何でしょうね。」
 「う~ん、折角のクリスマスなのにな。今まで、クリスマスも退治やパトロールに奔走してたから、サンズ姫とい、いや!何でもないです!!イヤらしい意味じゃなく!いや、もう夫婦だからしてるけどあわわわそうじゃなくて!!」
 「はわわわお、思い出させないで下さいです!!昨夜のロナルド王子も、みゃ~~!!」
 あいたたたサンズ姫ったら、変わらないなぁ。
 ポカポカ叩かれていると、呆れた視線が



 「あっ!!お前ら!!いたんなら、言えよ!!」
 「すまないね。あまりにも仲睦まじいものだからクスクス。」
 ドラルクがそこに立っていた。横には、困った様に笑うジョンとヒナイチもいるし!!
 「う、うるせ~!俺の事を青二才とか童貞とか言いやがったが、先を越してやったぜ。ざまあみろ!!」
 「そうそう。それも私達のおかげだから、これからも感謝しぶえっ!?」
 「ちくしょー!その節は、お世話になりましたー!!」
 あぁ、クソ!恥ずかしいから、つい、手が出ちまったぜ。
 ジョンが頭を押さえたドラルクに縋って、また泣いてる。マジでごめん!!
 「あいたたたじゃあ、ついてきてくれるかね。今日は仕事というより、純粋に君達を招待したくて呼んだのだよ。クリスマスだし、丁度、タイミングも良かったから。」
 「早く、早く!ドラルクが作ってくれたお菓子、早く食べたいぞ!さあ、こっちだ!」
 「ヌッヌ!ヌッヌ!」
 そう言って笑うあいつらの手には、大きなティーセットがあった。
 俺もヒナイチも大食いだから、持てない分は、水中に浮かんでいる。これを魔力で引っ張っているんだけど、浮力が働く海の世界だからこそ何度見ても、不思議な光景だと思う。
 ドラルク達が泳ぎ出すと、目の前をヒカリキンメダイが俺達の周りをグルグルと泳いでいた。
 夜目が効かない俺達を先導する様に、命令されているらしい。

 「おい、置いていくなよな。まだ、慣れてないんだってのによっと!」
 「仕方ね~ですね。」
 サンズ姫の手を引いて、俺はあいつらの後を追う。
 心臓部にあるパスポートに念じる様にしてよし!今度はうまくいったぜ。
 「アハハ、ロナルド王子達も、上手になったな。」
 「当たり前です!くノ一の修行と比べると、大した事ねーですよ!」
 俺の足は赤色、サンズ姫はピンク色の魚の尾鰭に変化する。一気に、先を泳いでいるあいつらに追い付いた。

 お茶会という名前の会議中に、海に来た者達に人工のフィンを付けるか、足を変化させるか、水温の影響を受けない様に魔力か何かで皮膚をコーティングするのか、危険海域に詳しい生き物を案内役に任命する、など話題は尽きない。
 逆に、あいつらが陸に来る時もだ。重力に慣れるまで、彼らを介助する者も必要だし、こちらも案内役の者を任命しなければならない。日光や乾燥に弱い者もいるから、そのサポートも考えないといけない。
 海岸から町まで往復する馬車も決めないといけないし、トラブルに巻き込まれない様に、お互いの風習だって、事前に講習しておく必要もある。

 陸と海の行き来を始めた最初の人間である、俺達の意見はこのパスポートにかなり反映されている。
 初めの頃は、足で泳がないといけなかったし、寒かったし、肩がめちゃくちゃ凝ったっけ。



 「おい、ドラルク。クリスマスに招待したって事は、何だ?ここに、大きなツリーでもあるのか?」
 「当たらずとも遠からずさ。丁度、今日ここで見れる予定だからね。クリスマスだし、君達に見せてあげたかった。さあ、こちらに座ってくれ給え。光を灯すよ?」
 俺達が辿り着くと、先に着いていたヒナイチとジョンが、ティーセットを並べている。
 いつも通り、美味そうだし、見事なもんだ。 
 そう思って見ていると、ドラルクは両手を上に翳す様にしていた。フワリと、いくつもの淡い光が浮かんでは、真っ暗なこの周辺を照らしてくれる。
 「あれ?雪ですよ?」
 「マリンスノーだ。サンズニャン達は、初めてだろ?私も初めて見た時は、見惚れてしまったな。」
 水中を漂う灯りに照らされて、キラキラと雪みたいな何かが、降って来ていた。
 サンズ姫も両手に受けて珍しそうに見ている。これって、美味いのかな?



 「あ、これ!この5歳児、舐めるんじゃない!ペっしなさい!」
 「え、ダメなのか?」

 それは、上から降って来るプランクトンや色んな物の、排泄物や死骸や破片だヌ。ばっちいから舐めちゃダメヌよ。

 「マジかよ!先に言えよな!」
 「全く。だから、こちらに座ってと言ってるだろう?料理が汚れてしまうから、泡のテントを張るよ。」
 さらに、フッとドラルクが息を吹くと出て来た泡が膨らんで、料理を置いている周辺を覆っていく。
 「俺の退治仕事に同行している時も、色んな魔法を見せてくれたよな。こんな事も、出来るんだな。」
 「凄いのはこれからだよ。ほら、あそこを見てご覧?」
 サンズ姫と並んで、岩に腰かける。泡越しに見上げる、マリンスノーに紛れて
 「何ですか?イルミネーションみたいに、キラキラ光ってるですよ。」
 「マリンスノーは、深海の恵み。多くの深海の生き物達の餌になるんだ。早速、皆が集まって来てる、綺麗だろ?」
 「ふうん、ヒナイチ。詳しいんですね?」
 「フフ、ドラルクからの受け売りだけどな。私は、今まで陸も深海も興味がなかったんだ。でも、今はもっと、どちらの世界の事も知りたいんだ!」
 陸に初めて来た時のお子様とは思えないな。
 『色々考える気になった』って言ってたけど、なんか吹っ切れたみたいで良かったぜ。

 ヌ?クリスマスだから、丁度良かったヌでしょ?

 そうだな。当たらずとも遠からずか。
 「ロナルド王子、君もどうぞ。」
 「おお、サンキュな。」
 差し出された温かい紅茶を口にしながら、マリンスノーと、それに群がる淡い光達を見上げる。
 このプロジェクトが成功したら、俺達以外にもこうやって、この風景を楽しむ連中が増えるのかな。

 「素晴らしいだろう?これが終わったら、イナ海国にも行こう。おそらく、サンゴ礁もクリスマスだから、お祭り騒ぎをしているだろうさ。」

 ヌン!どんな世界でも、必ず綺麗な所、楽しい所はあるヌ。もっと、もっと知って欲しいヌよ。皆に教えて欲しいヌよ。

 そういうドラルクとジョンは、誇らしげな顔をしていた。
 もう一度、上を見上げる。マリンスノーと深海生物に彩られた、イルミネーションを堪能する。

 『日の光が差し込んで、賑やかなサンゴ礁も素敵だがここに通う様になって、この世界も楽しいって気づいたんだ。綺麗なものも不思議なものも、たくさんあって

 「『何より、あいつと会うのが楽しみだ』っけか。」
 「何か、言ったかね?」
 「何でもねえ、ありがとよ。」 
 この前会った時、ヒナイチが言ってたな。ガキみたいな奴だけど、それは俺も分かる気がするよ。

 「いい物見せてくれて、さ。何度か通ってるけど、ここはジメジメした辛気臭え所だと思ってたな。ヒナイチが言う様に、ここも悪くねえ。けど
 「そうですよ。シンヨコ王国だって、負けてねーですよ!来年のクリスマスはって、ヒナイチ!独り占めするんじゃねーです。花より団子かよ、てめー!」
 「おいしい、おいしい。ロナルド王子達も早く食べないと、なくなるぞ?」

 そう、俺の故郷だって負けてないぜ。だから

 「来年は、俺達以外の者達もこうしてるはずだ。今度のクリスマスは、お前達が陸に来いよ俺達の国へ。大きなモミの木に、ゴッテゴテに派手な飾りをつけてよ。ポンチ共も大騒ぎしてるだろうから、嫌になるぐらいバカ騒ぎのお祭りに、巻き込ませてやるぜ。」
 「おやおや、ありがとう。来年、そうさせて貰う。」

 新婚気分真っ只中だってのに、こっちに通わなきゃいけねえし、通常の退治仕事だってあるし、領地経営だってしないとだしだけどよ。

 「絶対、成功させようぜ。来年は、深海もシンヨコみたいに色んな種族が入り乱れた、騒がしい、楽しい場所になってるかもしれないな。」

 



 楽しかったヌね、ドラルク様。

 「うん。最近、ずっと仕事を詰めてたから。いや、違うかな。とにかく、208年生きてきた中で、一番楽しかったかもしれない。」
 ジョンと、紫とオレンジ色に輝く紙を覗き込んで笑う。
 その紙に描かれているのは、マリンスノーを眺めながらお茶会をしていた、私達の姿だ。
 
 カップケーキを頬張る、ロナルド王子。
 彼の頬についたクリームを拭いてあげながら、真っ赤に頬を染めたサンズ姫。
 ヒナイチ姫の膝に乗って、頭を撫でられてご満悦のジョン。
 翡翠の瞳を輝かせながら、クッキーを頬張るヒナイチ姫。

 紫の紙には、お茶会をしていた時の4人と1匹の姿が、そのまま映し出されている。
 何故、私が入っていないかって?こればっかりは、仕方がないね。自分の目で見たものを、そのまま紙に転写する魔法を使っているからだ。
 
 ヌフフ、ヒナイチ姫も上手になったヌね。

 「頑張っているものこの前まで、食いしん坊のお子様だったのに。」
 オレンジ色に光る紙の方には、逆に、ヒナイチ姫が写っていない。
 写っているのは、慌てているジョンとサンズ姫。
 その前で、ロナルド王子にヘッドロックをされて、藻掻いている私が写っている。
 使える様になったばかりだから、少し画像がぼやけているけれどこれらは、私達の宝物だ。だから、額縁に入れて飾っておこうと思う。

 「ヌワァ~。」
 「ウフフ。ジョンもそろそろおやすみ。」

 ヌン、ドラルク様もそろそろ休んで欲しいヌよ。

 欠伸を始めたジョンをベッドに寝かしつけると、私は調剤室に向かう。
 いつも飲んでいる薬を入れた引き出しを開ける。そこにはもう1包しか残っていなかった。
 「作らなきゃね。お姫様が、明日やってくる前に。」
 背後に置いている木箱を開ける。そこには、元が何だったのかさえ分からない程、小さくなった氷漬けの
 「これが、最後の肉。契約さえ完遂すればあとは、この体を治すだけ。そこまで、持ってくれれば。」
 魔法で解凍すると、私は人魚の肉をすり潰す。鍋にそれを投入しながら、ロナルド王子を通じて、集めて貰っていた、材料を量って

 「あの魔女様?」

 おずおずとした声に、振り返る。ニギスの子供が手紙を抱えて、こちらを覗いていた。
 この子には契約の対価に、ウミガラスから預かった手紙を、さらに深いここまで持って来る様に言いつけてある。手紙は3つ来たか。
 「ご苦労だったね、そこに置いておくれ。」
 その子を帰してから、手紙を開く。
 送り主は、陸の魔女達の協会、山岳の人外達の有力者である山姥、淡水の人外達の有力者の蛟王。いずれも、私が望む回答だ。思わず、口角が上がるのが分かった。

 『先日の会合での件、了承しました。ついては、そのパスポートのサンプルをお送り願いたい。その上で、改めて返答致します。』

 やった。この次の回答次第で、パスポート量産化の目処が立つ。
 ヒナイチ姫達に協力して貰った実験を通じて、二つの世界を行き来出来る事は、実証済みなのだ。この前の会合で、二つの世界双方に利益がある、と向こうも判断したのだ。もう少しだ、もう少しで
 「っ。またか。」
 戻ってきた胸の鈍痛に、幼い頃から感じていた死の恐怖が甦る。
 恐怖?何を今更。分かっていて、契約したのだ。
 もう人魚の肉は、手に入らない。なくなる前に完遂し、ヒナイチ姫を迎え入れ、私自身が蓬莱島に向かうつもりで契約したのだ。
 これが、最後の賭けだ。自分の命を賭けたのだ。過去の悪事を清算して、あの子の隣に立つ為に。
 
 先ほど額縁に入れた、私達の似姿を撫でる。
 『今度のクリスマスは、お前達が陸に来いよ俺達の国へ。』
 そうだ。足掻けるだけ、足掻こう。
 一番充実した時間をくれた、友人夫妻と共に過ごす幸せな未来も手に入れる為に。
 

 

 

 

 



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