みずいこお題部第九回より「こっち来て」『料理』【茶色】をお借りしました 関西弁非ネイティブのため口調は勘と変換機頼り
@a_yuuzora
その日水上はひどく疲れていた。新入りC級隊員たちに射手トリガーの使い方や立ち回りを教えるという不慣れな仕事を任されたためだった。
C級指導の仕事はA級隊員がやることが多いが、シフトの都合や指導適性によってはB級隊員に回ってくることもある。そういったときは大抵蔵内に任されるのだが、あいにく生徒会の用事とやらが忙しく水上まで来てしまったのだ。
初対面の中学生十人以上を相手にイチから何かを教えるのには、いつも使わない箇所の頭脳を使う。銃手の方がやりやすいと聞いているはずなのにわざわざ射手を選ぶ時点でクセが強めの子供たちなのは確定で、しかもおそらく二宮や出水のようなデカいキューブでバンバン撃つ映像を見て憧れて来ている。なんか想像と違うと言われてもお前のキューブはその大きさだ。
そもそも不慣れな仕事な上に、無言の「思ってたんと違う」という視線を浴びたり死角からの誤射で手足が吹っ飛んだり、ということが重なってストレスがたまり続けた水上は、やっとの思いで指導を終え作戦室に戻る。ヨレヨレでヨロヨロの状態の彼を出迎えたのは、生駒だった。
「おつかれー」
「……っす」
「うわホンマにお疲れや……こっち来ぃ、丁度今日エエもん持ってきたから。あ、一応トリガー切っといた方がええかもな」
「ええもん……」
言われるままに換装を解くと、先ほどまでのストレスと精神的疲労に加えて肉体的疲労と頭痛まで追加され身体がずしんと重くなる。昨夜うっかり読書に熱中して随分と夜更かししたのを思い出した。
生駒はロッカーをごそごそ漁ってタッパーを取り出し、近くのテーブルに置いて蓋を開ける。中には春巻きが十本ほど入っていた。
「俺こないだ家庭用フライヤー買うたって話したっけ? 一人用のちっちゃいやつやねんけど結構便利でな、コンロ塞がんとって揚げ物できんのがええねん。そんでな、せっかくやし揚げ物しよう思てスーパー行ったら、ご家庭で揚げるだけの春巻きが安なってて、そういや水上が春巻き好きや言うてたなーって思い出して買うてん。そんで調子乗って揚げてみたらキレーに美味しそうなきつね色にできたのがなんや楽しゅうて、調子こいて片っ端から揚げたら流石に一人じゃ食いきられへん量になってしもてな……水上?」
ツッコミや合いの手が一切聞こえないことに気付き生駒は一旦話を止める。実際水上は途中から話を聞いていなかった。ぐらぐらする頭が、生駒が日常の生活で水上のことを考えてくれたというところだけをピックアップして喜びとともにリフレインしていたからだ。その何気ない優しさが疲れた心と体に沁みる。
嬉しい。ありがたい。抱きしめたい。抱きしめてくちづけたい。独占したい。独占していい権利がほしい。権利。恋人。すこしだけでも。
「イコさん、結婚してください」
判断力と自制力が著しく鈍った思考がぽろりと口から滑り落ちる。ぼんやりとドアインザフェイスという交渉術を思い出していた。無茶な要求をして断らせてからハードルを下げて再度要求してそちらを通りやすくする方法である。結婚という重いワードを出しておけば、お試しで期間限定お付き合いくらいならできるのではないか。そんな楽観的で希望的観測すぎる思考は、普段の水上なら絶対しないことだった。
唐突な提案をつきつけられた生駒は、あっけにとられた顔で二度まばたきをしてから「ええな」と言った。
「ええな、とは」
「めっちゃナイスアイデアやん、ってこと! ええよ、結婚しよ。男同士でどうやるかわからへんけど、水上が提案したならなんかやりかた知っとるんやろ?」
思いがけない返事に、水上の元々鈍っていた頭が完全にショートする。
「ああ、夢か……どっからが夢や、こんな都合の、いい……」
気が抜けた瞬間足元が縺れ身体がぐらりと傾ぐ。それを咄嗟に受け止めた生駒の顔の近さがトドメとなり、水上は意識を手放した。
「それ、おれが聞いていいやつです?」
「え、アカンかったかな? 俺今めっちゃハッピーやしハッピーは共有したいタイプやねんけど」
「まあイコさんがええなら、水上先輩も最終的にはええって言うと思いますけど」
「そっか、二人のことやもんな。じゃあ今のオフレコってことで」
「はぁい、了解です」
話し声が聞こえ、水上はうっすらと目を覚ます。視界に入る部屋のレイアウトからしてここはベイルアウトマットの上、だが何故か生駒を見上げている形で横になっている。後頭部には固くてあたたかな枕。おそらく、膝枕をされている。「……起きても夢とか一体何重になっとんねん」
そう呟いて水上はそのまま再び意識を手放す。
「あ、水上起きてまた寝た」
「相当お疲れなんですねえ」
「早よ春巻き食べてほしいやけどなあ」