ピクスク様のオールジャンルイベント『集まれ!ヤバピーポー』に参加させて頂いた1作目です。
本編ドラヒナで、ジューンブライドに憧れるヒナイチくんがメインのお話です。
個人的に好きなコンビ、ネコチュン屋の相方とのお茶会シーンを添えて。
白と黒のウェディングドレスの逸話については
白:貴方の色に染まります
黒:貴方にしか染まりません
が有名ですね。
今回のラストで、「白と黒の色について」云々をドラルクさんに語って貰っておりますが、実はこれは昔通っていたビーズ教室の先生が言っていたお話の受け売りです。配色に悩んだら、白か黒をベースにするといいよ…という言葉に、なるほどなぁ…と思ったものでした。
他の本編ドラヒナ(両片思い期)のお話は、ここから読めます→https://privatter.net/category/50955
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「はい、感謝するです。これ、お前にもくれてやるですよ。」
「ありがとう!サンガのお饅頭か。なぁ、食べてもいいか?」
いいか?…では、ねーでしょうよ。手品の様に一瞬で、包装が剥がされた箱から既に、饅頭が半分消えてるじゃねーですか。
変わらないですね、こいつは。
「うん。おいしいぞ。」
「カフェで、お土産を開けるとか…常識のねー奴ですね。」
「おいしい、おいしい。もちもちして…。」
「美味しい…?まぁ、いいです。あまり美味し過ぎると、サンズちゃんがあの砂に恨まれてしまいます。」
欠食児童じゃあるまいに…常に、何かを頬張っている様なヒナイチの言葉は、別に嘘ではないでしょう。
でも…
「ちん、何だ?私に何かついてるか?」
「饅頭の食べかすなら。」
サンズちゃんが見ているのは口元ではなく、頭。いつもピコピコ動いているアンテナです。
サンズちゃんの目の前で、赤いアンテナは犬の尻尾の様に左右に揺れているだけでした。
「体は、正直ですよ。」
「…?」
『あれ、サンズ女史も気づいちゃった?あれね…フフ。私のお手製料理を食べた時しか、見られないんだよ?私の時だけなんだって、ウフフ。私の…スナァ!?』
『ニヤニヤすんな!しつこいんだよ!すみませんね、サンズさん。』
いつでしたか…フクマの代理で、ロナルドさんの原稿を受け取りに行った時に、ドラルクがドヤ顔で惚気てきた事があったのです。
まぁ、サンズちゃん達にも色々ありまして…別にヒナイチとは、馬が合う訳でもねーですが。年も近いし、お互い他県から働きに出ていて、知り合いも少ない…何より、あのデブ猫の口車に乗せられて、ロナルドしゃんにご迷惑をおかけした事件以来…サンズちゃん達は、都合が合えば、お茶ぐらいする間柄になりました。
それに、サンズちゃんは、(かな~り不満ですが)ドラルクのクソゲーコラムの担当です。
ドラルクからも、問わず語りに色々聞いたりしますし、お茶の間でもヒナイチの言葉の端々から、明らかに『満更でもない』事を察しています。
羨ましい事ですよ。サンズちゃんは仕事にかこつけないと、憧れの人にお会いする事も叶わないのに。
「親戚の結婚式だって?やっぱり、くノ一の里だから、白無垢か?」
「そうでもねーですよ。今日日、くノ一だって教会でドレスぐらい着ます。見たいですか?」
「うん、見たいぞ。ここに来るまで、可愛い服を着たりする事もなかったけど。今は、憧れてはいるんだ。」
「ここ…シンヨコに来るまでって事ですか?」
「ああ。マリアさん達にも、妹みたいに可愛がって貰っててな。女子会にも参加させて貰っているんだが、着ていく服が分からなくて…ドラルクに見繕って貰ってる。縫ってくれる事もあるんだぞ。」
そういうのを、コナかけって言うですよ。そこまでやってて、気づかれないあいつも気の毒ですね。
気づくぐらい、大人になるのを待ってるんですかね。
「はい、どーぞ。」
「あぁ。スマホ、いいか?花嫁さん、綺麗だな。それに、一緒に写ってるサンズも。パーティドレス、似合ってるぞ…でも、おっぱいとお尻、おっきくなってないか?今度は、ハマるなよ?」
「失礼過ぎんだろ、てめーは!まな板とは、一緒にしねーで欲しいです。」
アハハ…と笑うヒナイチは、もう一度スマホに視線を戻します。
ドラルクの台詞を借りれば、『昼下がりの木漏れ日の様な』翡翠の瞳は、煌びやかな花嫁の姿を追っていました。
やっぱり、こいつも女の子なんですよね。
「そういえば。ヒナイチは、子供の頃、夢見たりはしなかったんですか?」
「子供の頃…か。」
大抵の女の子の将来の夢は、『好きな人のお嫁さん』です。小さい頃、『お父さんと結婚する!』なんて、言うじゃないですか。
ヒナイチは道場の娘で、幼い頃からずっと吸血鬼対策課に行くと、決めていたそうです。
『鍛錬ばかりしててな。よく、男の子に間違われたっけ。』
…そう言っていましたね。
「父が仕事で、あまり家になかったからな。さりとて、悪の権化の『兄さんと結婚する!』とも言う気になれなかったし…憧れる様になったのは、つい最近の事だ。仕事で忙しい今頃になって…たるんでるな。」
人んちの床下に、勝手に部屋を作る非常識な奴ですが…変な所に、真面目なんですよね。
だから、ちょっと言ってやるです。
「忙しくたって、憧れてもいいじゃないですか。あの雑魚に…打ち明けてもいいと、サンズちゃんは思いますよ。」
監視対象だから、種族が違うから、ずっと年上だから…何より、ロナルドさんやジョンくんも含めた、あの事務所での日常を変えたくない、妹か娘の様な間柄でいい…黙っている理由は、いくつもあるのでしょう。
「自分の事は、棚に上げて…簡単に言ってくれるな。」
「うるせーですよ!ロナルドしゃんは、お忙しい方なんです!あいつは、暇人じゃねーですか!」
困った様に笑って、ヒナイチはスマホを返してきました。
背中は押してやったですよ、あとは、お前なりに考えればいいです。
初めて、ボサツが事務所で問題を起こした時の事だったな。
ボサツをおびき寄せる餌に、ドラルクが取り出したクッキー。あれを口にした瞬間に、頭に浮かんだ風景。
『ご飯、出来ていますよ』
『ああ、頂こう。』
夕飯を用意して、笑って出迎えてくれるドラルクの姿が、頭をよぎったんだ。
どうしてだろうな…私が、旦那さんの様な立ち位置の未来予想図だった。あの時の私は、お嬢さん扱いされる事に慣れてなくて、『可愛い』と言われる度に恥ずかしがって、怒鳴ったりしたものだった。女性である事より、警察官である事を優先していたからだった…と思う。
今はどうか、だと?どうなんだろうな。
「ヌヌイヌヌン、ヌヌッヌイ!」
「いらっしゃい、ヒナイチくん。ご飯、出来ているよ。食べていくでしょ?」
「ああ、頂こう!そういえば、ロナルドは?」
「急遽、依頼が入ってね。帰るのが、遅くなるって。ジョンと、先にお食べ。」
当時の予想図とは、少し違う現実。でも、もっと心地よい現実。
それは、間違いない。これが、毎日の楽しみだと思っている。
でも…
「おや、サンズ女史と会って来たんだね?」
「ちん?よく分かったな。」
「そりゃあ…。」
マニキュアで彩られた、細い指がこちらに伸びる。かつてなら、払いのけただろう手を目で追っていると、優しく口元を拭われた。
「口についてるよ、サンガの里名物のくノ一饅頭。」
クスッと笑った顔は、何故か、あの時見た予想図のドラルクを思い出させた。
遅ればせながら、頬が熱くなる。
さっきの『打ち明けてもいいと思う』と言ったサンズの言葉を意識したせいだ。サンズニャンのせいだぞ。
あれ、美味しいヌよね。うちにもくれたんだヌ…って、どうしたヌ?ヒナイチくん?
怪訝そうなジョンの言葉に、我に返る。
今、考えていた事を悟られたくなくて、必死に話題を逸らす。やっぱり、恥ずかしいじゃないか。
「ああ…、な、何でもない、ぞ。そうそう。サンズニャン、親戚の結婚式で帰省していたんだ。写真も見せて貰ってな。」
「らしいよね。サンズ女史も、もう少し若造を押せばいいのに。」
「花嫁さん、綺麗だった。今日日、くノ一もウェディングドレスを着るらしいな。」
「そりゃあ。今日日、吸血鬼だって、教会で式を挙げる者もいるよ。くノ一だって、するだろう。」
そうなのか。まぁ、吸血鬼が十字架や教会を嫌うのは、かつて対立していた時代に、悪魔と同一視された歴史があるからだ。
若い世代になると…特に、宗教にうるさくない日本で育った夜の者達は、猶更、そうかもしれない。
「フフ。私も、そんなに気にしないもの。そうでなければ、十字架を身に着けた退治人の所に転がりこまないよ。」
そっか、じゃあ…いやいや、何を考えた?
サンズが、変な事を言うからだ。
「だから、私はお嫁さんに任せるだろうね。私が決めたお嬢さんだもの。和装にしても、どのドレスも、どこの教会でも、神社でも…似合うはずだもの。」
その言葉に驚愕して、ドラルクを見上げる。杭でも打たれた様な…背筋が凍る心地がした。
考えてみれば、ドラルクは200年以上生きている吸血鬼だ。しかも、彼は竜の血族の嫡孫なのだ。許嫁ぐらいいても…何もない、なんて何故考えていたんだろう。
「よ…予定、ある…のか?」
「予定って…?ちょっと、ヒナイチくん?」
「ヌーヌヌヌ?ヌイヌーヌ?」
冷静になれ、私。声が、プルプルしてるじゃないか。私達は、監視員とそのたいしょう…
「そんな顔をしないで…君が考えてる様な意味じゃないよ。」
そう言うドラルクは、何故か少し寂しそうな顔をしていた。どうしよう…私は見当違いな事でも、言ったのだろうか。
そう考えていると、チュッとリップ音がした。
いつの間にか、髪を掬われてキスをされたのだ。
「…着替えておいで。今日は、君が好きなものばかりだよ。」
「う、うむ…。」
ショックは受けていても、お腹は空く。現に、その言葉に反応して、頭のアンテナが動いているのを感じていた。
自分でも、単純な奴だな。こんなんじゃ、そんな対象として見て貰える訳がない。
考えるのは、もうよそう。今でも、十分楽しいんだ。
私は、お前の妹か娘…それどころか、餌付けし甲斐のあるハムスター。今まで通りで、いいじゃないか…。
「ねえ、ヒナイチ君。白と黒ならどっちが好き?」
「え…白と黒…か?」
突然振られた見当違いな質問に、思わず床下に向かおうとした足が止まる。
「そんなに、気負わないで。純然たる興味だから…参考にしたいだけとも、言うね。」
「また、服でも縫ってくれるのか?」
「…まぁ、そんな所。」
白と黒か…どうなんだろう。
どちらかというと、白だろうか。今の自分の制服を見る。幼い頃、白いコートを着た兄を見上げてきたから、馴染みのある色。
でも、最近ここに来る様になってから…昼と夜の世界の両方の者達とつき合う様になってから、黒も悪くない気がしてきている。
濡れ鴉みたいに、綺麗なお前の黒い髪とはためくマントの黒…いや、もっと言うなら。
「白はね、相手に寄り添って、自分が染まるモノ。黒はね、強い意志を持って、その相手を染めるモノ。どちらも素敵な意味を持つのだよ。どちらが、悪いという事もないのさ。」
「…どちらかが、最終的には『染まる』という意味では同じじゃないか?」
白か黒かでなければ、いけないのかな。染まりたい相手は…染めたい相手は、一人だけなのに。
だから、染まりたい色と染めたい色なら、決められるけど。
「ゴメン、ゴメン。なんか、重かったかな。じゃあ、好きな色でいいよ。」
好きな色というか…もう、言ってしまってもいいか。
『あの雑魚に…打ち明けてもいいと思いますよ。』
サンズもそう言ってくれたんだし。
「染まりたい色なら…紫。そのマントの裏地と、その菱形のボタンみたいな。」
不安な時に、私を包み込んでくれる温かいマント。包まれた中で見える、落ち着く色。
『優雅で気品のある、まさに私みたいな色でしょ?』
そう言っていた、お前を体現する色。
この回答は、駄目だろうか。おずおずとドラルクを見上げる。
「フフ…この紫が、いいの?嬉しいな。」
うん、それだけじゃないんだ。染めたい色の方も…言っていいのかな。
この色の中では、お前は生きられない。
『わざわざ、撮ってくれたの?ありがとう…君を通していつも見ているから、気にしないのに。』
いつだったか、上手く撮れた夕日の写真を見せた時に、お前はそう言ってたんだ。
その時、笑ってくれたから、嫌いな色じゃないと思う。
「染めたい色なら…橙色。お前が綺麗と言ってくれた、この髪の色…。」
「染めたい色…それって。」
あぁ、ダメだ。やっぱり、返事を聞くのが怖い…だから、臆病なリスの様に、そのまま床下に飛び込んだ。
言うんじゃなかった…自分でも何を言ってるのか、さっぱり分からな…
ドラルク様。ヒナイチくんが、勇気を出して言ってくれたんだヌ。今日こそ今まで想ってた事を…
『ズルいなぁ…先に言うなんて。君こそ、私をこんなに染めあげておいて。』
扉を閉める。あぁ、なかった事にしたい。着替えて出て来た時には、いつものあいつに戻っていますように…。
『私も君を染めていいんだ?大人になるまで、待つつもりだったのに…ヒナイチくんが言ったんだよ?覚悟してね?』