X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

お見舞い

全体公開 創作話 1 2 878文字
2024-05-28 19:57:25

柳と多喜。

Posted by @lianmiso

 旧友に会うと出掛けたきり数日間連絡が取れなかった男が帰って来た。
 服はボロボロ。あちこち包帯、傷だらけ。
 足の傷が特に酷い。歩くのもやっと。
 霧凍でさえもちらちらと気に掛ける。
 心配する仲間を振り切り、「大丈夫」と多喜は部屋に戻った。
 深夜、ドアが叩かれる。
 開けると柳が立っていた。
 日本酒の瓶を突き出される。
 受け取っても帰る気がなさそうなので仕方がないから部屋に招き入れた。
「なんかあっただろ。話せ」
「何も知らないくせに」
 柳はニヤリと笑うと「お互いにな」と手酌で酒を注ぎ始めた。
 どちらが歳上かわからない。
 彼の2倍ほど歳上なのに拗ねた言葉になってしまったのが恥ずかしい。
 アルコールを体に入れていないと言うのに体が熱くなる。
 柳は未成年で自分は怪我人。
 医者がいたなら止められただろう。
 多喜が口元にグラスを運ぶ度に目の前から視線を感じる。
 酒の量増えれど会話はない。
 5杯を超えた辺りでやっと目の前の少年は口を開いた。
「喉は」
「気づいていたのかい」
 1番重症なのは喉。
 神秘を嫌う人間に生命線たる喉を真っ先にやられた。
「出にくいけどすぐ治る」
 よく薬が効いている。
 多喜の声はまだしゃがれているが染みもしない。
 酒に弱い自分が酔わないのは薬のためだろう。杯が進む。
「何があったか教えないよ」
「はァ!?」
「君は背負いすぎるから」
「別に聞きたいなんて一言も言ってねぇ。自意識過剰め。飲んでもすぐ寝れねぇくれぇなんだからとっとと寝ろや」
 柳は立ち去った。
 酒瓶を机の上に置き去りにして。
 扉が閉まる寸前、「お前は俺みたいになるなよ」と微かに聞こえたのは酔いからの幻聴かそれとも柳が口を滑らせたからか。
 どちらにせよアルコールの魔法であることは違いない。
 ならば、都合の良いように取ろう。
 残された瓶。
 最近流行りの銘酒でなかなか手に入らない物だ。
 不器用だよねぇ。
 多喜は瓶を持ち上げ、笑った。
 残りは体調が良くなってから。
 柳にはとっておきのジュースを用意して。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.