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せんぱいって呼ばないで

全体公開 みずいこ・単話 1512文字
2024-06-02 01:46:49

大学生みずいこ小話 関西弁は勘で書いてる

Posted by @a_yuuzora

シラバスってムズくない? と生駒は思う。好きな講義受けて単位とって、四年の間に既定の単位数に達していれば卒業できるよ、というところまではギリギリ理解した。
だが、その中に『選択』と『必修』があって学部によってどの講義が必修なのかが変わる、というのを理解したのは六月頭頃、つまり前期も半分過ぎた頃だった。

という訳で『必修』だったのに去年取りそびれた単位を取るため、生駒は一年生がほとんどを占める教室の前に立っている。気持ちはいつになく重い。それに恥ずかしい。
生駒のひとつ下の学年からはボーダー隊員がぐっと増えるため顔見知りが多い。二年生が一年の講義受けに来てるとあまりバレたくない。無理だろうけど。自分の顔の広さがこのときばかりは恨めしい。
意を決して教室のドアを開けると、すぐさま見慣れた姿が視界に入って思わず「うわっ」と声を上げた。やたらとボリュームのある赤毛は、見間違いようもなく水上である。こんなところで会いたくなかった。
間近で声を上げてしまったがために水上もこちらに気付いて振り向く。いつも眠たげな重い瞼が一瞬上がったあと、目が愉快げに細められた。
「ここ、一年の講義ですよ。なんでこんなところ居るんですか、『生駒先輩』」
いこませんぱい。聞きなれた声音の、聞きなれない呼び方。何故かどことなく甘く感じるそれ。その不意打ちに、生駒の胸はキュンともギュンとも形容しがたい不思議な音をたてた。
……イコさん? どうしました?」
立ち尽くした生駒に水上は怪訝に声をかける。生駒は曖昧に返事をして、そそくさと水上の隣に座った。キュンの余韻で少し頬が熱い。
「水上この講義取るんやな」
「まあ丁度ええ感じに時間空いてたんで。イコさんは? 去年落としたんすか」
「落としてへん! ただ、俺の学部コレ必修なの知らんで別のやつ行っとってな……今アホやと思ったやろ」
「あ、声出てました?」
「思ってはおったんやな。まあ自分でもアホなん自覚しとるわ。自分で時間割組まなあかんだけでも相当パズル力試されるのに人によって正解違うのヤバない?」
「言うて別にそんなムズくないでしょ」
「これだから賢い奴は……
ついさっき難しいと思ってたところだったのもあって、既に理解した様子の水上の賢さが羨ましく少し妬ましくもある。5%でいいからその賢さ分けてくれ。
「まさかとは思いますけど、こっちの講義取るせいで二年の必修取れないとかありませんよね?」
「え、ない……はず、多分、あかん不安になってきた」
「もっと上の先輩方に聞いてみたらどうです?」
「俺と同じ学部の先輩、太刀川さんしか知ってる人おらん」
「あー……それは、ダメですね」
太刀川と同じ学部であるということは、彼をなんとか進級させる程度には緩いという保証があり、かつ彼自身は全くアテにならないということである。
「イコさんの学籍番号とパスワード教えてくれれば確認くらい俺がやってもええですけど」
「ホンマ!? ほんなら頼もかな」
「いやいや、いくら知らん仲やないとはいえそんな簡単にOKしないでくださいよ」
「え、あかんかった?」
「まあ、俺は別に困りませんけど。じゃ、ついでに俺もできそうなやつは二年の単位先取りするんで同じ講義他にも受けましょうね、せんぱい」
先ほどより格段に甘く耳元に囁くような響きに、また胸が高鳴る。今度はバクンと。
「もー、そういうのやめてやぁ。普通に呼んで?」
「はぁい」
妙に楽しそうな水上の顔を見、生駒はへの字に曲げた唇をわずかに緩める。
一年だらけのところに混ざるん恥ずかしいけど、可愛い可愛い後輩が楽しそうしてるの見れるならまあええか。


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