X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです

物語が動き出すまで、もう少し

全体公開 人魚姫ドラヒナ 3 6889文字
2024-06-02 19:43:25

ピクスク様の『集まれ!ヤバピーポー』参加作品の4作目です。
人魚姫ドラヒナのお話で、ロナルド夫妻と再会する少し前の時間軸のお話です。
このお話の前日譚ですね→とっくに手の内にあるのだけれど https://privatter.net/p/10253792
人魚の王女は、成人すると他国に嫁入る定め。これまで、のほほんときたヒナイチ姫も19歳。縁談も兼ねて、他国からの賓客の謁見や案内を指示される様になります。
意中の相手深海の魔女ドラルクが他国の王族だったらよかったのにそう漏らした本音が、魔女の焦燥感に火を付けるそんなお話です。
今回のヒナイチ姫の見合い相手の『リュウダ』とは、出雲大社で祀られるセグロウミヘビ(大国主の使い 龍蛇さん)のつもりです。
魔女ルクさんが、伝令に使っている鳥であるウミガラスは、飛行は得意ではないけれど、水深180mぐらいまで潜水出来るという特徴からチョイスさせて貰いました。おそらく、シンヨコ王国の王宮は、海岸から割と近いのだと思います。

Posted by @kw42431393

*捏造設定になります。

 魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。実は子供好きで、子供が関わる案件だと、温情会計をしているという一面がある。

ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいる。人魚の王女は成人すると、他国の王族の元に嫁入りしなければならないが、意中の相手が出来たので、駄々をこねている。

シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。

ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。第一発見者であるサンズ姫と交際を重ね、もうすぐ結婚する予定。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。

サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、許嫁となった。火薬や薬学に見識が高いという一面がある。

 他に書いた人魚姫ドラヒナのお話はこちらから→https://privatter.net/category/59631



 「これはこれは、ヒナイチ姫。前回お会いした時より、ますますお美しくなられまして。」
 「ありがとうございます、南海のリュウダ殿。ようこそ、イナ海国へ。」。
 
 目の前に立つのは、南海に広大な領海を有するリュウキ海国のウミヘビの王子。
 線は細いが、南方特有の浅黒い肌に端正な顔立ち。鮮やかな黄色の入れ墨が施されたその姿は、気品を保ちながら野生的な魅力を兼ね備えていた。
 実際、陸の人間達からも神々の使いとして畏怖され、次期竜蛇神として修業中の彼は、海流に乗り、様々な国を巡っているのだ。

 「再び、お会いできて光栄に存じます。お手を。」
 跪いた彼に、右手を差し出す。手を取られ、唇が触れた瞬間のヒヤリとした感触に、怖気が立つ。
 手を引っ込めたい心を押し込めて、なんとか笑顔を張り付ける。

 どうして、違うのだろうな。相手に、失礼じゃないか

 彼の背後にある鏡に映る私の顔は、能面の様だ。
 これでは、『早く、終わらないかな。』と考えているのが、丸分かりだ。チラリと背後を窺うイナ海国国王である兄カズサ王は、苦笑いをしていた。
 改めて、目の前の王子に視線を落とす。爽やかに笑う彼に、この胸中を悟られてはならない。
 
 『これはこれは、美しいお姫様。私に何か御用かな?』

 あの時と同じなんだ。冷たい手と唇の感触は寧ろ、メンダコのドラルクの方が、ベタベタしていて気持ち悪いそう言う者の方が、多いと思う。
 病気持ち特有の、落ちくぼんだ眠そうな目、こけた頬。少し力を加えただけで、折れてしまいそうな華奢な手何より、実り豊かな南海の王子と、深い暗い深海に住む魔女では、どちらが多くの女性の目を引くのか考えるまでもないだろう。
 だけど

 「ヒナイチ姫?どうかなされましたか?」
 目の前の王子が、怪訝そうに首を傾げる。
 儀礼的に終わらせなければならない。彼は、挨拶に来ただけなんだ。だから、早く終わらせて、早く
 「長旅でお疲れでございましょう。ゆっくりしていって下さいませ。」
 あの暗い深海で、ドラルクとジョンとお茶を飲んで、クッキーを食べたいな。
 「それでは、お言葉に甘えまして少し、城下町を案内して頂いても?」
 「かしこまりました。準備をして参ります。お待ちくださいませ。」

 なにより魔女。早く、お前に会いたいな



 ドラルク様、今月依頼があった者達のファイルは、ここに置いておくヌよ。

 「ああ、ありがとう。ジョン。お姫様が来るのは、遅いって聞いているから今の内に終わらせてしまおうね。」
 
 組織に属しているという事は、安全を保障して貰えるが、しがらみも多い。
 私が実家を出て、この水深400m以上の岩場に住み着き、ウィッチ・ドクターとして独立開業してから、180年以上経つけれど、月末はいつも大忙しでね。
 私が属している魔女達の協会に上納する割合と、今月依頼者から支払われた金額と、諸経費諸々照らし合わせて、計算しなければいけないのだ。
 「この時ばかりは、タコでよかったよ。8本の足と合わせて、一気に5つも算盤が使えるもの。ついでに、この優秀な頭が、あと3つぐらいあれば、完璧だったろうに。」
 冗談半分本気半分で、長年連れ添った使い魔と、そんな会話を交わす。インドの方には、そういう人外達もいるそうだからね。どこかで、試してみようかな。
 
 クスクスドラルク様が、相手によっては温情会計するから、仕方ないヌよ。お金で払えない者達に、労働や物品を対価にしているヌから、協会に送るアガリの計算が、益々面倒になるんだヌ。

 「まぁ、ね。元々、この体を蝕む病を治したい一念から、始めた仕事だけど。」

 『ドラルク、すまない。元気な体に産んでやれなかった、お母様を許してくれ。』
 『ミラさんは、悪くないよ!きっと、私のダメななんかこう、よくわからん、何か、何か。うっうっ、ドラルクや!ごめんね、きっとお父様が悪いんだ~!』

 僅かな水温や、光、水圧の違いで、幼い私が体調を崩す度に、両親は痛々しい程、取り乱したものだ。
 虚弱な体と引き換えに、優秀な頭脳を持っていた私は、死の恐怖から逃れる為に、『自分の体を治す』という執念に憑りつかれ契約に来た者達を実験台にし、裏世界の者達と渡り合い、自分の手を汚しつつも、いつしか『深海の魔女 ドラルク』として、名を轟かす存在になっていた。
 未だに、自分の体は治せていないけれども、208歳である現在も生き長らえている。
 現在の私は、『契約を結んだ者の命や魂、肉や尊厳まで喰らい尽くす、冷酷非道な魔女』として名前を知られる一方、その経験と知識を生かして、『優秀なウィッチ・ドクター』としても、有名になってしまったのである。

 『魔女様どんなお言いつけにでも、従います。だから、どうか!お願いします!』

 特に、泣きそうな母親に連れて来られた子供達を見ると当時の自分と両親の姿が、脳裏を過るのだ。さりとて、薬の材料費さえ払えない者達もいる。
 我々にとって、契約は絶対だ。協会に属している以上、無償の依頼は絶対にしてはならない。
 だから、そういう者達には、『毎週、捕らえた獲物の一部を進呈する』『怪しい者を見つけたら、通報する』『この地域で、指定したサンプルを採取してくる』『連絡があったら、護衛の為に駆けつける』等、契約を取り付けてある。
 しかし、それは協会に上納するアガリにはならない。その分は、私の方で計算して、立て替える形を取っているのだ。
 ますます、計算が厄介になる。自分で首を絞めていると、つくづく思う。



 「はぁあと、もう少しで終わ
 「ま~じょ!だ~れだ!?」
 突然、聞こえた明るい声と同時に、目隠しをされて飛び上がる。驚いて、2つ程算盤が、見当違いな弾き方をしてしまったなにより。
 「はぁ!はぁ!お、お姫様!?驚かさないでくれ給えよ。」
 心臓が3つ共、口から飛び出る所だったとも。
「す、すまん。玄関で呼んでも、返事がないからここまで、来てしまったんだ。」
 シュンと下がったアンテナが可愛らしくて、思わず、頬が緩む呼吸と心臓は、まだ落ち着いてないけど。
 「協会に上納する分を、計算中だったのか大丈夫か?」
 「はあはぁこ、このぐらいなら、すぐに修正可能だ、よ。はあー、はあーふう。じゃあ、休憩も兼ねてお茶にしよう。こちらに、おいで。」

 ドラルク様、どうしたヌ!?あ、な~んだ。ヒナイチ姫。いらっしゃいヌ。

 私の声を聴いて、ジョンもこちらにやって来た。
 ジョンも疲れたよね?休憩しよう。
 やっと、訪れた私の待ち望んだ時間。
 陸に興味を失って、私の作るお菓子に心奪われた人魚姫。
 私と契約を結んで、毎日、ここにお菓子を食べに通ってくる可愛い少女。
 私の命を繋ぐ最高の人魚の肉を持つ獲物。

 獲物だった少女と過ごす最も素晴らしい時間が、今日も来たのだ。



 「やっと、王子の案内が終わったんだ。パトロールより、ずっと疲れるな。」
 「他国から、王族の来訪、か。最近、多いねえカズサ王は、何か言ってないかね?」
 「うん。」
 俯いた貴女の声が、この深海の様に重かった。いつもの太陽の様な、明るい声を聞きたいのに。
 時間も情勢も、それを許してくれない。
 ヒナイチ姫は、もう19歳。成人を迎えると、王女は他国に嫁入る定め。
 「これまで、兄が全て対応してくれたのに最近は、賓客の謁見や案内に、私を参加させようとするんだ。」
 あと、1年。その1年も、切ってしまった。タイムリミットは、来年の3月3日。それまでに、何とか
 「そろそろ将来を考えろって。ぐすっ。」
 
 何とか、この体を治さなければそうでなければ、動きようがない。

 ヒナイチ姫に隠れて、なんとか人魚の肉を調達彼女に、近づいた本当の理由を知られてはならない。
 それでは、ヒナイチ姫を連れて、実家に実家は、確かに広大な領海と、他の当主達の中で、最も大きな影響力を有する家柄だ。家柄だけなら、イナ海国にも引けは取らない。
 でも、私は自分の手を、汚し過ぎた。実家に迷惑をかけたくなくて、こんな不便な場所に、移り住んだのに。
 じゃあ、ヒナイチ姫を連れて、駆け落ちを協会がそれを許してくれるだろうか。契約を破ったものには、容赦のない制裁が待っている。
 協会から脱退したとして、一国の王女を連れ出したとなれば実家とお姫様の祖国が、戦争になってもおかしくない。
 私一人の我儘で、そんな事は許されない。

 やはり、まずはこの体を治すのだ。
 もう少しで、探し続けてきた治療薬の調合が、分かるはず。もう少しで。
 
 ヒナイチ姫、泣かないでヌ。さぁ、まずは大好きなクッキーを食べて、落ち着いてヌ。

 「お姫様、安心おし。私との契約を忘れていないよね?」
 貴女との契約は、『ヒナイチ姫は、毎日この深海に通う事』『対価として、魔女ドラルクは、ヒナイチ姫に毎日お菓子を作り続ける事』だったはずだよ?他国になんて他国の誰かのモノになんて
 「私に任せておくれ。貴女を他所に行かせるものか。」
 「うん魔女。」
 「なぁに?ヒナイチ姫?」
 安心させようと、柔らかな貴女の手を取って口づけを落とす。すると、涙で塗れた翡翠の瞳は、キラキラと輝いて
 「何でかな他の者達にそれをされると、何だか嫌な気持ちになるんだ。えこひいきは、ダメだとは思うんだけど。」
 嬉しい事を言ってくれる。ならば、猶更、丁寧に上書きしなくては。
 「それは、えこひいきではないよ。フフッ。じゃあ、こちらも。額は?頬は?まだ、誰にも許していないよね?私だけだね?」
 「うん!魔女じゃなきゃ、嫌だぞ!」
 抱きついてきたお姫様に、頬ずりをする。そのまま、柔らかな額に。そして、うっすら染まったその頬に。
 唇はまだ、置いておこう。貴女が、もう少し大人になるまで。
 「ドラルクにされると、嬉しいな魔女が、どこかの海国の王子様だったらよかったのに。」
 ポツリと漏れたその言葉に、胸が痛くなる。
 どうする?ここで、告白するべきだろうか。

 私は、竜子公の息子だ。深海で広大な領海を有する、竜の血族の嫡孫なのだ。

 そう言えたら、どんなによかったろう。
 マニキュアに彩られた、自分の手を眺める。
 こんな事なら、もう少し綺麗な生き方をすればよかった。そうすれば、実家を通して堂々と、婚姻を申し込めたのに。
 「魔女?」
 「ヌヌヌヌヌヌ?」

 いや、もう遅い。綺麗な生き方では、彼女に、会う前に死んでいただろう。こうなる運命だったのだ。
 ならば
 
 「大丈夫。先に、ジョンと行ってておくれ。クッキーを持って、すぐに行くとも。」

 皿まで、毒を喰らうしかない。貴女に気づかれる前にどんな手を使ってでも。
 「ここまで来たのだ。これ以上、汚れた所でどうという事もあるまい。」



 「ロナルド王子、どうなさったんですか?」
 「あー、いや。こういう時に限って、連絡って来ないんスよね。」
 猫みたいな可愛い声に振り返る。誰の声って?へへ俺の命の恩人で、お礼も兼ねて何度となく会っている間に、そのやっぱ、恥ずかしいな。もうすぐ、俺の奥さんになる、サンズ姫だ。
 「今度、崖の上の教会で、俺達の結婚式があるから来いよって、あのバカと可愛いジョンに、招待状を送りたいんスよ。」

 あのバカってのは、商人ドラルクの事だ。なんつーか、俺とは腐れ縁みたいな間柄さ。
 見た目は、借金取りみたいな極悪面なんだけどよ、色んな事を知ってるし、飯がうめえ。
 「商人ドラルク瓦版で載ってましたね。サンプル採取と称して、ロナルド王子の退治仕事に同行して、何度となく、王子を助けたりもしてたって。」
 「結構、便利な魔法も使うもんでしてね。野宿とか場所の転送とか世話もかかる奴っスけど。」
 何しろ、山登りするって言ってんのに、ローブを脱がねえんだよ。しかも、虚弱体質ときた。
 「負ぶって、登ってやらねえといけなかったり。何を考えてんだか。」
 「その胡散臭いヤローを呼びやがるですか?まぁ、友達取引相手?まぁ、これからも取引は、続ける訳ですし?う~ん。」
 それもあるけどさ。元々、俺がサンズ姫と出会う切っ掛けになった、遭難事故ってのが、あいつが『取引する食材、繊維類、依頼していた薬剤サンプルを、指定した日時・海域に投入しろ』っていうもんでよ。
 その最中に、大時化に見舞われて、溺れた事が原因なんだよ。
 「今の幸せがあるのは、あいつのおかげでもあるし。ジョンには、祝っても欲しいし。だから、呼んでやりたいんですよ。」
 「し、ししし幸せなんて!は、恥ずかしいですぅ。」
 
 赤面して俯いてしまったサンズ姫を落ち着かせながら、俺は窓の外を眺める。
 依頼や『そろそろ買い付けに行くから、準備して欲しい』という連絡は、ドラルクが飼っているウミガラスが、手紙を持って来る。世界中を行脚してるらしくって、俺も兄貴もあいつの連絡先は知らない。
 一方通行って、不便だよな。

 『そろそろ、5歳児から卒業し給え。そんな事では、いつまでたっても童貞グェ!?』
 『うるせー!!俺の方が、先に追い抜いてやっから見てやがれ!!ちくしょー!』

 あの言葉通り。抜かしてやったぜ、ざまーみろ!

 いつも俺を揶揄ってきやがるから、たまには、俺の方からドヤ顔してやろうと思ってたのによ。
 ため息をついて、俺はカーテンを閉める。こんな時間に、もうウミガラスは来ないだろう。
 「それにしても、伝令にハトじゃなくて、ウミガラスなんて変ですね。」
 「それ!俺も思ってたんスよ。変な奴。」

 その時の俺達は、商人ドラルクが、何故ローブを脱がないのか。
 伝令に使うのが伝書鳩でなく、ウミガラスなのか。知る由もなかった。
 どうして、あの嵐の中、俺が助かったのか。
 そして、本当の命の恩人である、人ならざる無邪気な王女と俺達夫婦が、一生を通じた最高の友人になるなんて、考えもしなかった。

 これから平穏に迎えるはずの新婚生活が、海と陸の者達が入り乱れた、忙しくも充実した最高の毎日が待っているなんて、思いもしていなかったんだ。

 


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.