ピクスク様の『集まれ!ヤバピーポー』参加作品の4作目です。
人魚姫ドラヒナのお話で、ロナルド夫妻と再会する少し前の時間軸のお話です。
このお話の前日譚ですね→とっくに手の内にあるのだけれど https://privatter.net/p/10253792
人魚の王女は、成人すると他国に嫁入る定め。これまで、のほほんときたヒナイチ姫も19歳。縁談も兼ねて、他国からの賓客の謁見や案内を指示される様になります。
意中の相手…深海の魔女ドラルクが他国の王族だったらよかったのに…そう漏らした本音が、魔女の焦燥感に火を付ける…そんなお話です。
今回のヒナイチ姫の見合い相手の『リュウダ』とは、出雲大社で祀られるセグロウミヘビ(大国主の使い 龍蛇さん)のつもりです。
魔女ルクさんが、伝令に使っている鳥であるウミガラスは、飛行は得意ではないけれど、水深180mぐらいまで潜水出来る…という特徴からチョイスさせて貰いました。おそらく、シンヨコ王国の王宮は、海岸から割と近いのだと思います。
@kw42431393
*捏造設定になります。
魔女ドラルク 別名、深海の魔女。深海でも強大な力を持つ一族を両親に持つメンダコ。生まれつき不治の病を患っており、自身を治す為に魔女となった。現在、人魚の肉を材料とした薬で、かろうじて生き延びている。体は弱いが、魔術、医術、薬学の知識はトップクラスで、料理は趣味。陸では商人ドラルクとして、シンヨコ王国と交易したり、ロナルド王子の退治仕事に同行して、材料を調達していた。ヒナイチ姫の肉を狙って接触したが、情が移って出来なくなった。実は子供好きで、子供が関わる案件だと、温情会計をしているという一面がある。
ヒナイチ姫 イナ海国の第一王女。自身が領海内をパトロールするほど、武勇に優れている。人魚の王族として濃い血を持ち、その肉は長命種のドラルクをも不老不死に出来る。ドラルクの作るお菓子に魅了され、毎日通う契約を結んでいる。人魚の王女は成人すると、他国の王族の元に嫁入りしなければならないが、意中の相手が出来たので、駄々をこねている。
シャコガイジョン サンゴ礁を襲った嵐により、深海に流された稚貝が、魔女に拾われたのが今の姿。魔女ルクさんの使い魔で命を共有している。陸では、アルマジロに近い姿で行動している。主人の非人道的な姿や、契約に破れた者達の末路を見てきたので、冷静でドライな一面がある。
ロナルド王子 人外にも開放的なシンヨコ王国の第二王子。武勇に優れ、人間と人外のトラブル解決で名をあげている。嵐の晩に海に投げ出され、ヒナイチ姫に命を救われた。第一発見者であるサンズ姫と交際を重ね、もうすぐ結婚する予定。乱暴だが、お人よしで面倒見がいい。シンヨコ王国は迷惑行為をする人外が多いので、平等な態度で付き合う事ができる。ドラルクとは、腐れ縁の様な間柄。
サンズ姫 シンヨコ王国の隣国、サンガ国(女性の多くが、くノ一を生業としている)の王女。おっちょこちょいだが、自身も優れたくノ一。気絶していたロナルド王子の第一発見者で、許嫁となった。火薬や薬学に見識が高いという一面がある。
他に書いた人魚姫ドラヒナのお話はこちらから→https://privatter.net/category/59631
「これはこれは、ヒナイチ姫。前回お会いした時より、ますますお美しくなられまして。」
「…ありがとうございます、南海のリュウダ殿。ようこそ、イナ海国へ。」。
目の前に立つのは、南海に広大な領海を有するリュウキ海国のウミヘビの王子。
線は細いが、南方特有の浅黒い肌に端正な顔立ち。鮮やかな黄色の入れ墨が施されたその姿は、気品を保ちながら野生的な魅力を兼ね備えていた。
実際、陸の人間達からも神々の使いとして畏怖され、次期竜蛇神として修業中の彼は、海流に乗り、様々な国を巡っているのだ。
「再び、お会いできて光栄に存じます。お手を…。」
跪いた彼に、右手を差し出す。手を取られ、唇が触れた瞬間のヒヤリとした感触に、怖気が立つ。
手を引っ込めたい心を押し込めて、なんとか笑顔を張り付ける。
どうして、違うのだろうな。相手に、失礼じゃないか…。
彼の背後にある鏡に映る私の顔は、能面の様だ。
これでは、『早く、終わらないかな。』と考えているのが、丸分かりだ。チラリと背後を窺う…イナ海国国王である兄カズサ王は、苦笑いをしていた。
改めて、目の前の王子に視線を落とす。爽やかに笑う彼に、この胸中を悟られてはならない。
『これはこれは、美しいお姫様。私に何か御用かな?』
あの時と同じなんだ。冷たい手と唇の感触は…寧ろ、メンダコのドラルクの方が、ベタベタしていて気持ち悪い…そう言う者の方が、多いと思う。
病気持ち特有の、落ちくぼんだ眠そうな目、こけた頬。少し力を加えただけで、折れてしまいそうな華奢な手…何より、実り豊かな南海の王子と、深い暗い深海に住む魔女では、どちらが多くの女性の目を引くのか…考えるまでもないだろう。
だけど…
「ヒナイチ姫?どうかなされましたか?」
目の前の王子が、怪訝そうに首を傾げる。
儀礼的に終わらせなければならない。彼は、挨拶に来ただけなんだ。だから、早く終わらせて、早く…
「長旅でお疲れでございましょう。ゆっくりしていって下さいませ。」
…あの暗い深海で、ドラルクとジョンとお茶を飲んで、クッキーを食べたいな。
「それでは、お言葉に甘えまして…少し、城下町を案内して頂いても?」
「かしこまりました。準備をして参ります。お待ちくださいませ。」
なにより…魔女。早く、お前に会いたいな…。
ドラルク様、今月依頼があった者達のファイルは、ここに置いておくヌよ。
「ああ、ありがとう。ジョン。お姫様が来るのは、遅いって聞いているから…今の内に終わらせてしまおうね。」
組織に属しているという事は、安全を保障して貰えるが、しがらみも多い。
私が実家を出て、この水深400m以上の岩場に住み着き、ウィッチ・ドクターとして独立開業してから、180年以上経つけれど、月末はいつも大忙しでね。
私が属している魔女達の協会に上納する割合と、今月依頼者から支払われた金額と、諸経費諸々…照らし合わせて、計算しなければいけないのだ。
「この時ばかりは、タコでよかったよ。8本の足と合わせて、一気に5つも算盤が使えるもの。ついでに、この優秀な頭が、あと3つぐらいあれば、完璧だったろうに。」
冗談半分本気半分で、長年連れ添った使い魔と、そんな会話を交わす。インドの方には、そういう人外達もいるそうだからね。どこかで、試してみようかな。
クスクス…ドラルク様が、相手によっては温情会計するから、仕方ないヌよ。お金で払えない者達に、労働や物品を対価にしているヌから、協会に送るアガリの計算が、益々面倒になるんだヌ。
「まぁ、ね。元々、この体を蝕む病を治したい一念から、始めた仕事だけど。」
『ドラルク、すまない。元気な体に産んでやれなかった、お母様を許してくれ。』
『ミラさんは、悪くないよ!きっと、私のダメな…なんかこう、よくわからん、何か、何か…。うっうっ、ドラルクや!ごめんね、きっとお父様が悪いんだ~!』
僅かな水温や、光、水圧の違いで、幼い私が体調を崩す度に、両親は痛々しい程、取り乱したものだ。
虚弱な体と引き換えに、優秀な頭脳を持っていた私は、死の恐怖から逃れる為に、『自分の体を治す』という執念に憑りつかれ…契約に来た者達を実験台にし、裏世界の者達と渡り合い、自分の手を汚しつつも、いつしか『深海の魔女 ドラルク』として、名を轟かす存在になっていた。
未だに、自分の体は治せていないけれども、208歳である現在も生き長らえている。
現在の私は、『契約を結んだ者の命や魂、肉や尊厳まで喰らい尽くす、冷酷非道な魔女』として名前を知られる一方、その経験と知識を生かして、『優秀なウィッチ・ドクター』としても、有名になってしまったのである。
『魔女様…どんなお言いつけにでも、従います。だから、どうか!お願いします!』
特に、泣きそうな母親に連れて来られた子供達を見ると…当時の自分と両親の姿が、脳裏を過るのだ。さりとて、薬の材料費さえ払えない者達もいる。
我々にとって、契約は絶対だ。協会に属している以上、無償の依頼は…絶対にしてはならない。
だから、そういう者達には、『毎週、捕らえた獲物の一部を進呈する』『怪しい者を見つけたら、通報する』『この地域で、指定したサンプルを採取してくる』『連絡があったら、護衛の為に駆けつける』等、契約を取り付けてある。
しかし、それは協会に上納するアガリにはならない。その分は、私の方で計算して、立て替える形を取っているのだ。
ますます、計算が厄介になる。自分で首を絞めていると、つくづく思う。
「はぁ…あと、もう少しで終わ…」
「ま~じょ!だ~れだ!?」
突然、聞こえた明るい声と同時に、目隠しをされて飛び上がる。驚いて、2つ程算盤が、見当違いな弾き方をしてしまった…なにより。
「はぁ!はぁ!お、お姫様!?驚かさないでくれ給えよ。」
心臓が3つ共、口から飛び出る所だったとも。
「す、すまん。玄関で呼んでも、返事がないから…ここまで、来てしまったんだ。」
シュン…と下がったアンテナが可愛らしくて、思わず、頬が緩む…呼吸と心臓は、まだ落ち着いてないけど。
「協会に上納する分を、計算中だったのか…大丈夫か?」
「はあ…はぁ…こ、このぐらいなら、すぐに修正…可能だ、よ。はあー、はあー…ふう。じゃあ、休憩も兼ねてお茶にしよう。こちらに、おいで。」
ドラルク様、どうしたヌ!?あ、な~んだ。ヒナイチ姫。いらっしゃいヌ。
私の声を聴いて、ジョンもこちらにやって来た。
ジョンも疲れたよね?休憩しよう。
やっと、訪れた私の待ち望んだ時間。
陸に興味を失って、私の作るお菓子に心奪われた人魚姫。
私と契約を結んで、毎日、ここにお菓子を食べに通ってくる可愛い少女。
私の命を繋ぐ…最高の人魚の肉を持つ獲物。
獲物だった少女と過ごす…最も素晴らしい時間が、今日も来たのだ。
「やっと、王子の案内が終わったんだ。パトロールより、ずっと疲れるな。」
「他国から、王族の来訪、か。最近、多いねえ…カズサ王は、何か言ってないかね?」
「…うん。」
俯いた貴女の声が、この深海の様に重かった。いつもの太陽の様な、明るい声を聞きたいのに。
時間も情勢も、それを許してくれない。
ヒナイチ姫は、もう19歳。成人を迎えると、王女は他国に嫁入る定め。
「これまで、兄が全て対応してくれたのに…最近は、賓客の謁見や案内に、私を参加させようとするんだ。」
あと、1年。その1年も、切ってしまった。タイムリミットは、来年の3月3日。それまでに、何とか…
「そろそろ…将来を考えろって。ぐすっ…。」
何とか、この体を治さなければ…そうでなければ、動きようがない。
ヒナイチ姫に隠れて、なんとか人魚の肉を調達…彼女に、近づいた本当の理由を知られてはならない。
それでは、ヒナイチ姫を連れて、実家に…実家は、確かに広大な領海と、他の当主達の中で、最も大きな影響力を有する家柄だ。家柄だけなら、イナ海国にも引けは取らない。
でも、私は自分の手を、汚し過ぎた。実家に迷惑をかけたくなくて、こんな不便な場所に、移り住んだのに。
じゃあ、ヒナイチ姫を連れて、駆け落ちを…協会がそれを許してくれるだろうか。契約を破ったものには、容赦のない制裁が待っている。
協会から脱退したとして、一国の王女を連れ出したとなれば…実家とお姫様の祖国が、戦争になってもおかしくない。
…私一人の我儘で、そんな事は許されない。
やはり、まずはこの体を治すのだ。
もう少しで、探し続けてきた治療薬の調合が、分かるはず。もう少し…で。
ヒナイチ姫、泣かないでヌ。さぁ、まずは大好きなクッキーを食べて、落ち着いてヌ。
「お姫様、安心おし。私との契約を忘れていないよね?」
貴女との契約は、『ヒナイチ姫は、毎日この深海に通う事』『対価として、魔女ドラルクは、ヒナイチ姫に毎日お菓子を作り続ける事』だったはずだよ?他国になんて…他国の誰かのモノになんて…。
「私に任せておくれ。貴女を他所に行かせるものか。」
「うん…魔女。」
「なぁに?ヒナイチ姫?」
安心させようと、柔らかな貴女の手を取って口づけを落とす。すると、涙で塗れた翡翠の瞳は、キラキラと輝いて…
「何でかな…他の者達にそれをされると、何だか嫌な気持ちになるんだ。えこひいきは、ダメだとは思うんだけど。」
嬉しい事を言ってくれる。ならば、猶更、丁寧に上書きしなくては。
「それは、えこひいきではないよ。フフッ。じゃあ、こちらも。額は?頬は?まだ、誰にも許していないよね?私だけだね?」
「うん!魔女じゃなきゃ、嫌だぞ!」
抱きついてきたお姫様に、頬ずりをする。そのまま、柔らかな額に。そして、うっすら染まったその頬に。
唇は…まだ、置いておこう。貴女が、もう少し大人になるまで。
「ドラルクにされると、嬉しいな…魔女が、どこかの海国の王子様だったら…よかったのに。」
ポツリと漏れたその言葉に、胸が痛くなる。
どうする?ここで、告白するべきだろうか。
私は、竜子公の息子だ。深海で広大な領海を有する、竜の血族の嫡孫なのだ。
そう言えたら、どんなによかったろう。
マニキュアに彩られた、自分の手を眺める。
こんな事なら、もう少し綺麗な生き方をすればよかった。そうすれば、実家を通して堂々と、婚姻を申し込めたのに。
「魔女…?」
「ヌヌヌヌヌヌ?」
いや、もう遅い。綺麗な生き方では、彼女に、会う前に死んでいただろう。こうなる運命だったのだ。
ならば…
「大丈夫。先に、ジョンと行ってておくれ。クッキーを持って、すぐに行くとも。」
皿まで、毒を喰らうしかない。貴女に気づかれる前に…どんな手を使ってでも。
「ここまで来たのだ。これ以上、汚れた所でどうという事もあるまい。」
「ロナルド王子、どうなさったんですか?」
「あー、いや。こういう時に限って、連絡って来ないんスよね。」
猫みたいな可愛い声に振り返る。誰の声って?へへ…俺の命の恩人で、お礼も兼ねて何度となく会っている間に、その…やっぱ、恥ずかしいな。もうすぐ、俺の奥さんになる、サンズ姫だ。
「今度、崖の上の教会で、俺達の結婚式があるから来いよって、あのバカと可愛いジョンに、招待状を送りたいんスよ。」
あのバカってのは、商人ドラルクの事だ。なんつーか、俺とは腐れ縁みたいな間柄さ。
見た目は、借金取りみたいな極悪面なんだけどよ、色んな事を知ってるし、飯がうめえ。
「商人ドラルク…瓦版で載ってましたね。サンプル採取と称して、ロナルド王子の退治仕事に同行して、何度となく、王子を助けたりもしてたって。」
「結構、便利な魔法も使うもんでしてね。野宿とか場所の転送とか…世話もかかる奴っスけど。」
何しろ、山登りするって言ってんのに、ローブを脱がねえんだよ。しかも、虚弱体質ときた。
「負ぶって、登ってやらねえといけなかったり。何を考えてんだか。」
「その胡散臭いヤローを呼びやがるですか?まぁ、友達…取引相手?まぁ、これからも取引は、続ける訳ですし?う~ん。」
それもあるけどさ。元々、俺がサンズ姫と出会う切っ掛けになった、遭難事故ってのが、あいつが『取引する食材、繊維類、依頼していた薬剤サンプルを、指定した日時・海域に投入しろ』っていうもんでよ。
その最中に、大時化に見舞われて、溺れた事が原因なんだよ。
「今の幸せがあるのは、あいつのおかげでもあるし。ジョンには、祝っても欲しいし。だから、呼んでやりたいんですよ。」
「し、ししし…幸せなんて!は、恥ずかしいですぅ。」
赤面して俯いてしまったサンズ姫を落ち着かせながら、俺は窓の外を眺める。
依頼や『そろそろ買い付けに行くから、準備して欲しい』という連絡は、ドラルクが飼っているウミガラスが、手紙を持って来る。世界中を行脚してるらしくって、俺も兄貴もあいつの連絡先は知らない。
一方通行って、不便だよな。
『そろそろ、5歳児から卒業し給え。そんな事では、いつまでたっても童貞…グェ!?』
『うるせー!!俺の方が、先に追い抜いてやっから見てやがれ!!ちくしょー!』
あの言葉通り。抜かしてやったぜ、ざまーみろ!
いつも俺を揶揄ってきやがるから、たまには、俺の方からドヤ顔してやろうと思ってたのによ。
ため息をついて、俺はカーテンを閉める。こんな時間に、もうウミガラスは来ないだろう。
「それにしても、伝令にハトじゃなくて、ウミガラスなんて変ですね。」
「それ!俺も思ってたんスよ。変な奴。」
その時の俺達は、商人ドラルクが、何故ローブを脱がないのか。
伝令に使うのが伝書鳩でなく、ウミガラスなのか。知る由もなかった。
どうして、あの嵐の中、俺が助かったのか。
そして、本当の命の恩人である、人ならざる無邪気な王女と俺達夫婦が、一生を通じた最高の友人になるなんて、考えもしなかった。
これから平穏に迎えるはずの新婚生活が、海と陸の者達が入り乱れた、忙しくも充実した…最高の毎日が待っているなんて、思いもしていなかったんだ。