本編ドラヒナで、七草粥のお話です。
朝の6時半頃、ヒナイチくんが床下から出て来ると、キッチンで包丁の音がする。
同居人達の朝食と昼食を用意し終えると、『朝食の用意は、任せたよ』とドラルクさんは、棺桶に入ってしまう。少し寂しさを覚えるが、入れ替わりにロナルド達が起きて来る。
ほのぼのした、成立後のドラヒナ前提でのみっぴき生活の風景…そんなお話です。
あと、ロナルドくんとメビヤツをイチャイチャさせたかったのもあります。
2024/01/07に上げました。
@kw42431393
コトリと音を鳴らして、床下の蓋を開ける。
床下は冷暖房がしっかりしているからそこまで感じないが、出入口は事務所にあるのだ。
閉店してからは誰もいない部屋なので、蓋を開けた直後に感じた冷気に思わず身震いする。
ほぅ…と吐いた吐息は、白くなって散っていく。
玄関先にかかっている、制服の上に羽織るコートを取ろうとすると、「ビッ?」と下から音が鳴った。
「ビビッ!」
「おはよう、メビヤツ。今朝は冷えるな。寒くないか?」
「ビーッ」
ロナルドの赤い帽子を被ったこの事務所の門番は、フルフルと首を振る様にした。
「そうだな、ロナルドに着せて貰ったんだっけ。よく似合ってるぞ。」
「ビッ!!」
よく見ると、メビヤツの身体には赤い半纏が着せられている。
彼には肩(?)がないので、それにマフラーを巻き付けて、落ちない様にしてあったのだ。
もっとも、彼は人間どころか元々ドラルク城にあった警備システムの一体に過ぎない。風邪を引くはずはないのだが…そこが、ここの家主の優しい所だ。
『メビヤツ、お前も俺達の部屋に来いよ。明日は、冷えるってよ。門番だって、休業があってもいいだろ?』
『ビビッ!』
『真面目だなぁ。元の持ち主とは、偉い違いだ。』
そう言って、自分の半纏を着せてやったのだ。着せてもスルリと落ちてしまう。だから、寝る前にロナルドが色々試行錯誤していたのは、微笑ましいものがあった。
「さて、じゃあ。ご飯食べてくるぞ。」
そう言って、彼の頭を撫でた私はリビングに足を踏み入れる。時計を確認すると、もう6時半だ。
吸血鬼のドラルクはもう棺桶に入っているだろう。
そして、いつもテーブルにはラップされた朝食が並んでいて、冷蔵庫には私達のお弁当が並んでいる。ロナルドがごみ出ししている間に、私とジョンで朝食を温め直す。
彼が帰ってくると、二人と一匹で朝の楽しみの時間を堪能する。それが、私達みっぴきの日常だった。
トントンと気持ちよく鳴る包丁の音と、漂ってくる昆布で取ったお出汁の匂い。混ざって耳に入って来る読経は、まぁ…置いておこう。
「おはよう、ヒナイチくん。」
「おはよう…今朝は、まだ寝ていなかったんだな。」
首を傾げながら、彼の手元を覗き込む。
頭上で聞こえる忍び笑いに首を傾げると、彼は満足そうに私のアンテナを摘まんでいた。
「お、おい!何をする。」
「何って、嬉しいね。まだ出来上がっていないのに、期待してくれているのだもの。」
摘ままれたアンテナを取り返しながら、頬を膨らませて見せる。
今回も、私のアンテナはハートマークを描いていた…そう言いたいらしい。
「今朝はお粥か。そうだな、七草粥か。」
「そうそう。簡単なお粥なのに、期待してくれるのが嬉しくて。分かった今でも、ほら…。」
指差された先には、私のアンテナ。
摘ままれて驚いたけれども、またハートマークになっているのだろう。
「ね、寝なくていいのか?そろそろ、夜が明けるぞ。」
恥ずかしくて、話題を変える。簡単なものと言っても、こいつが作ったものは美味しいんだ。
「うん、これが出来たらね。作り終えて眠っている間に、水を吸ってしまうもの。折角だから、温かい内に食べさせてあげたくて…。」
コトコトと煮込まれる、さっきまで刻まれていた春の七草達。ご飯を投入して、ひと煮立ち。
カチリと火を止めると、彼は、後片付けを始めた。
私達が眠っている間、いつも彼はこうしていたのだな…としみじみ感じる。
「じゃあ、ロナルドくん達を起こして来てね。朝食の用意は、任せたよ。」
「うむ、任されるぞ!」
私に背を向けて、エプロンを外した彼は、そこで遠慮がちに欠伸をした。
「ごめんね、レディの前で恥ずかしい。」
「全く、お前は変わらないな。気にしなくていいぞ。」
「そうはいかないよ。君の前では、いつでも畏怖い姿をしていたいじゃないか。」
ペロリと冗談っぽく舌を出した彼に笑いかけると、私は洗面台に向かった。
歯を磨いて、身繕いを終え、リビングに戻ってくると、棺桶の蓋は閉まっている。
賑やかなあいつの気配がなくなると、少しだけ寂しいな。
でも、それと入れ替わりに…
「おはよう。ロナルド、ジョン。」
「ヌヌヌー。」
「おー、ヒナイチ。早いな、ごみ出ししてくるわ。今日は、燃えるゴミだっけ?」
「違うぞ、プラごみだ。ご飯並べている間に、頼むぞ。」
「わーった、わーった。」
ドラルクとは正反対な、大胆で盛大な大欠伸をしながら、ごみ袋を持ったロナルドが、事務所に向かう。
『おはよう、メビヤツ。どした?お前も一緒に行くか?』
『ビ、ビビビ!』
事務所から聞こえて来る、ロナルドとメビヤツの声を聞きながら、私とジョンは、テーブルに朝食を並べる。
こうして、今度は昼の世界の住人達である、私達の時間が始まるのだ。
今年も、この時間を迎える事が出来る。
それを、来年も再来年も…何十年も続ける為に…
「ヌーン…」
「こら、ジョン。朝は、昨日の残りの唐揚げを食べちゃダメだぞ…まぁ、分かるが。」
うん、冷蔵庫から出されると私も欲しくなる。一つぐらい、うん。一つぐらい…な。
チラリと棺桶を窺う。バレたら怒られそうだ、それに…うん。
「駄目だぞ、ジョン。お正月、お節に入ってた唐揚げいっぱい食べちゃっただろ。私達。」
「ヌン。」
我慢しろ、私達のお腹。
この一年も、私達みっぴきが健康でいられますように…七草粥って、そういう事だからな。