□三雲修の中の自分のイメージがおかしなことに気付いた二宮匡貴の話。
@wtkotaji
「二宮さんもコンビニを利用されるんですね」
「⋯? あぁ」
それに初めて気付いたのは傘の件の時だった。
バキバキに折れた(故意に折ったともいう)ビニール傘を持つ二宮を珍しいものを見るような修に、妙な事を訊くやつだと思った。
次にそれに違和感を覚えたのは人伝てだった。
「食べるんですか?⋯これを、二宮さんが?」
「そうだけど何で?」
「二宮さんがインスタント食品を食べるイメージがあまり湧かなくて」
「んー、まぁ確かに頻繁には食べないけど。忙しい時とかは二宮さんも食べてるよ」
「そうなんですか⋯」
犬飼が買い物かごに無造作に入れたカップ麺をじっと修は眺めた。
そんな会話を修とした犬飼が、二宮に話しながら笑ったのだ。
「三雲くんの中の二宮さんてどんなイメージなんですかね」
「⋯⋯」
二宮は目の前に置かれたチャルメラを眺めた。
最近はコラボでなにやらゆるキャラのようなイラストが描かれている。覗きこんだ氷見が「ちぃかわだ」と顔を輝かせていたのでそれなりに人気なのだろう。
適当に簡易な軽食を買ってきて欲しいと頼んだのは確かに二宮自身だ。
そうなのだとしても。
これを二宮さんが食べるんですかと疑問に感じた修の顔を想像し、二宮は犬飼を呼んだ。
「⋯犬飼、頼んでおいてなんだが次からは普通のやつを買ってきてくれ」
「えー?ちぃかわ可愛いじゃないですか」
「そういう配慮はいい」
「二宮さんが食べるからギャップがあって面白いのにー」
「二宮さんにチャルメラで面白さを求めないでくださいよ」
辻が呆れながら犬飼に言えば、氷見も同意で頷く。
「犬飼先輩は二宮さんで遊びすぎ」
「俺は遊ばれていたのか?」
「二宮さんも真顔で聞かないでください。そろそろ犬飼先輩が呼吸困難になります」
自業自得ですけどと氷見が呆れながらお湯を沸かしたポットを卓上に置いた。
そして二宮の違和感が確信に変わったのは昨日だった。
「え、二宮さんてジャージ着るんですか?」
「⋯⋯」
廊下から聞こえた声に二宮は立ち止まる。
見れば眼鏡と出水が歩いている背中が見えた。
出水が射手としての技術を修に教えていると聞いたことはあったので、その練習か何かをやりに太刀川隊の隊室に向かっているのだろう。二宮には気付いていないようだった。
「いやー、流石にジャージくらい着るだろ」
「そう、ですよね」
日本には義務教育で体育があるのだ。当然着るだろう。
(まぁ、あの二宮さんが赤白帽被ってたとか考えると面白ぇけど)
出水はそんな二宮の姿を想像し、あまりに似合わない姿に吹き出しそうになる。あの無表情のまま前へ習えとかをしていたのだろうか。確かに違和感この上ない。
「だけど、そんな驚くことかー?」
「驚くというか、想像が出来なくて」
「ある意味似合いそうじゃねぇ?」
「⋯教育実習の先生として、ジャージを着たりしているのは想像出来そうです」
「あー、確かに。それは何かイメージ出来るわ」
どんなイメージだ。
二宮は言いたいのを堪えた。
そこで二宮は三雲修は多大な誤解。いや、偏見というか普通とは違うカテゴリーに自分を入れていると気付いたのだった。
お前は俺をなんだと思っているんだ
「あ⋯、お疲れ様です」
「⋯あぁ」
ボーダー内の食堂を利用しようとしていた二宮は、偶々修と行き会った。
昨日の今日だが、修は二宮が話を聞いていたなど知るわけがない。挨拶だけして無言で前後に並ぶ。
中々に混雑しているので少し待ちそうだった。
沈黙が気まずかったのか修が二宮に話しかけた。
「食堂利用されたりするんですね」
「⋯あぁ」
「何を食べるかは、もう決めましたか?」
「ただの定食だ。お前は何を注文する気だ」
「ぼくはきつねうどんを頼むつもりです」
修は見慣れないのか食堂と二宮を見比べている。
別に普通だろうが。
腹が減れば誰だって食堂を利用するだろう。
食券を買うのも「餃子、定食、二宮さんが、定食か⋯」それを食べるのかと一々驚いている。
独り言のつもりなのだろうが、今の修の声量は普通よりは控えめ程度なので、当然ながら二宮には聞こえている。
定食を食べて何が悪いのか。
言ってもいいのだが態々言う事でも無い気がした。
二宮は無言でもう一種類の食券を券売機で購入し、修へ差し出す。
「え?」
「きつねうどんじゃなかったのか」
違ったのかと訊ねる二宮に、意図を理解した修は慌てお礼を言って食券を受け取った。それに対しただ頷いて二宮は先に進む。それを追いかけながら修は食券を眺めた。
(普段から奢り慣れてる人なのか)
食堂が混んでいるのもあり、流れで二宮達は同じ卓上に落ち着いた。
そこでいい機会だとばかりに、ここ最近あまりに意外そうな目を向けられるのにうんざりしていた二宮は言った。
「お前は俺をなんだと思っているんだ」
「?」
修はうどんを食べる手を止めた。
二宮の質問の意図がわからないのかきょとんとしている。
突飛な質問な気がするが、訊かれたら答える修はもぐもぐと咀嚼して飲み込んでから箸を置いた。母の教えで修は基本的に行儀がいい。
「二宮さんはB級1位の二宮隊隊長で、総合No.1の腕の良い、」
「そういうことじゃない」
そんな肩書きなど聞いていない。
ではどういうことなのかと修は汗をかいて考えた。目の前には不機嫌そうに餃子を口に運ぶ二宮がいる。何の変哲もない餃子が、二宮が箸でつまみ上げただけで高級中華料理に見えてくるから不思議だ。
そこでふと思い浮かんだことを呟いた。
「高貴な方、でしょうか」
「⋯⋯高貴?」
「何をするにも所作が綺麗で丁寧なので、そんな印象があります」
「⋯⋯」
修が言ったことに、今度は二宮が食事の手を止めた。飲み込んだ餃子が喉に詰まったような顔をしている。誤魔化すように二宮は水に手を伸ばした。
「あとはそういう、グラスに水を注ぐような何でもない立ち振る舞いでさえ洗練されていて、どんなことをされていても様になっていて憧れます」
「⋯⋯」
グラスを落としかけた。暫し止まったあとグラスを卓上に戻し、定食に戻ろうとするが箸が動かない。
しかしダメ押しのように修は続ける。この時の修は、先輩の問いにはしっかり答えなければならないという生真面目な眼鏡でしかなかった。
「あとは背が高くてスタイルが良いので自然に眼を惹かれますし、凄く整った顔立ちなので、」
「⋯⋯もういい。わかった、やめろ」
「あ、はい」
目線も逸らされたまま止められたので、人様の容姿をどうこう言うのは不味かったかと修は素直に口を閉じた。実際は思っていたものとは違う回答に、二宮が顔を上げられなくなってきただけなのだが。
そうとは知らない修は食事を再開し、少し遅れて二宮ももそもそとひたすら餃子を口に詰める作業を再開した。
食べ終わり際に、やっと終わったと二宮が気を抜いたところで修はまた思ったことを口にした。
「そういえば、加古さんや太刀川さん達もどこか優雅で貴族然とした感じがし」
「そいつらと俺を一緒のカテゴリーに入れるのだけは絶対にやめろ」
二宮は今までで一番強く訂正を求めた。
...end?
二宮は結構優しくて情に厚い人ではないか。
最近修は感じていたのだが、それを口にするとまた二宮の機嫌を損ねそうなので、黙っていることにした。
東辺りが聞いたら「それこそ伝えてあげるべきなんじゃないか」と言われそうだったが、修がそれに気づくことはないようだった。