反転みっぴきで、小正月ネタのお話です。鏡割りをした餅が、どのように消費されるのか…自分がいる関西圏ではぜんざいですが、新横浜ではどうなのか。調べても分からないので、ぜんざいで書きました。
やっと、ここで反転メビヤツを書けました。やっばり、ロナルドくんと会わせたいですもの。
去年書いていた、節分ネタで『彼女への執着心を拗らせて、他者の血が飲めなくなり、痩せてきた』という設定の前日譚的なお話でもあります。
去年書いた節分ネタのお話はこちら→吸血鬼の恵方巻 https://privatter.net/p/9854704
『ドラルクと共にいたい』という、想いを認めようとあがくヒナイチくんのシーンを追加しました。
2024/01/15に上げました。
@kw42431393
「おこんばんは、今日はお寒うございますわね。」
「あぁ、いらっしゃい。ロナルドくん。」
「ヌヌッヌイ。」
帰国した彼の身辺が、落ち着いた頃だった。
ヒナイチくんが監視に来る様になって、ずっと引きこもっていた私とジョンの生活は、一変した。そして、『ご友人兼お野蛮担当』として、彼の仕事を手伝う契約を結んだ今、それはまた違ったものになっていく。
退屈を嫌う吸血鬼のサガとして、その変化は、私にとって満更ではなかった。
「この上、吹雪いて参りましたのよ…あら、メビヤツさん。ありがとう、今日は、お帽子が雪で濡れておりますの。乾燥して頂けるかしら。」
「ビビッ。」
「お待たせしましたわね。やっと、私の身辺も落ち着きましたの。メビヤツさん、ご用事が終わりましたら、私と一緒に帰りましょうね。」
「ビッ?ビビッ!!」
「…たいしたものだよ、君は。」
半ば本気で、感心する。
目の前にいる『メビヤツ』は、『目からビーム出るやつ』とかいう、我が城の防衛システムの一体に過ぎない。この一体だけ、規格外品で頭が四角い。
そして、何故だろう。持ち主の私に対して、反抗的なのだ。藪から棒に、ビームを打ってきたりする。
当初、不良品として返品するか、電池切れを待って捨ててしまおうかと、思っていたのだが…
『おこんばんは。あら、この子。お一人だけ四角いですわね。』
『うむ、不良品なのか…おっと。』
『ビーッ!!』
まぁ、当たる様な私ではないが…そんな訳で捨ててしまおうと思っている、と私はロナルドくんに伝えたのだ。
『そんなお事をおっしゃるから、嫌われるのですわ。メビヤツさんもですわよ、お野蛮ですわ。』
『ビ…??』
窘められたメビヤツは、困惑した様な反応をした。一つだけの大きな目をさらに見開いて、ロナルドくんをマジマジと見上げていた。
もしかしたら、規格外品という事で、ここに来るまでも、雑な扱いだったのかもしれない。
『なんなら、君が貰ってくれるかね?』
『そうですわね。私もお職業柄、お逆恨みを買いやすくって…そうだ、いいお事を考えましたわ。』
『ビ?』
『私、お帰国したばかりで事務所がまだ片付いておりませんの。落ち着いたら、事務所に来て頂けるかしら?私がいない間、お留守番をして事務所を守って下さいな。そして、お平和になってからも、私のトレードマークを預かって下さいません?』
そんな訳で、今のメビヤツは、城の玄関で彼が来るのを、いつも心待ちにしている。やってくると、帽子をかぶせてもらって、彼がここでの用事を終わらせるのを、待っている。
不良品というより、何かが原因で、自我を持った個体だったのだろう。
半田くんに調べて貰ったが、ツクモ吸血鬼化している訳ではない。日中でも行動可能だ。
彼と会えて、よかったのかもしれない。
「それでは、明日の打ち合わせを致しましょう。」
「ああ、そうだったね。頼まれた資料も用意してある。それより、君も先に、湯に浸かってきてはどうかね。」
彼の帽子、マントやコートも雪まみれだ。予報によれば、この後、ますます吹雪いてくるらしい。
「あら、よろしいのかしら。」
「昼の子は、風邪を引いてしまう。今宵は、客間に泊まり給え。風呂を終えたら、食堂へおいで。折角だから、年末に皆で作った鏡餅を割って、ぜんざいを作ってあげよう。」
今日は年も明けて、そろそろ正月気分も抜けようかという、小正月だ。
地域にもよるが、無病息災を願って、小豆粥やぜんざいを食べたりする。
先ほど、監視にここへ来たヒナイチくんも、雪まみれで寒そうに震えていた。彼女もそろそろ、バスルームから戻ってくるだろう。
今日はクッキーより、体が温まる甘いものを…と、考えていたのだ。
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えまして…。」
「うむ…ゆっくりしてくれ給え。おや、ヒナイチくんも戻ってきたらしい。」
振り返ると、うちの意地っ張りなお嬢さんが、カーディガンを羽織りながら、こちらに来るところだった。
まぁ、ロナルドくんが来てから…若干、態度が軟化している所がある。
ロナルドくんはお嬢なので、同性の友人が出来た気がして、相談しやすいと言っていたが…そのせいなのだろう。
そして、ヒナイチくんが彼と親しくしても…私が精神的に落ち着いていられるのも、そういう事だ。
「ドラルク、上がったぞ。あ、ロナルド。こんばんは、お前も大変だったな。」
「ヒナイチさん、おこんばんは。今日のおやつは、割ったお鏡餅でぜんざいですって。」
「あの時の餅か。杵と臼を購入してきたドラルクもドラルクだが、お前が臼にヒビを入れた時は、驚いたぞ。」
「ヒナイチさんこそ、それは言わないで下さいまし。」
「ヌフフフ。」
あれは私も必死で避けたな。手を粉々にされる所だった。
彼、お嬢なだけで、…本当は、馬鹿力なのだ。
「さて、ヒナイチくん。ロナルドくんが戻るまで、報告書でも書いて、待ってておくれ…それとも、先に味見するかね?」
「う、うるさい。お前に、言われるまでもない。食堂で、書いてる。」
ヒナイチくん、待ってヌ。ヌンも一緒に行くヌ。
なんとか隠そうとしても、隠しきれないアンテナに、笑みが漏れる。
ジョンを肩に乗せて、食堂に向かう彼女を見送っていると、ロナルドくんがため息をついた。
「あらあら…お相変わらず。」
「今は、それでいいのだろう…急かすな、と言ったのは君じゃないか。」
「そうですわ。貴方にお時間は、無限にございます。そのお調子で、願いますわよ…私が見ていないお所でも。」
言われなくても、そのつもりだ…そう言えたら、どんなによいか。
本音は、すぐにでもその首筋に牙を突き立てたい。この血を打ち込みたい。
私の目の届く、いつでも庇護してやれる夜の世界から…もっと言うなら、この城から出したくない。
ロナルドくんから…お祖父様とお祖母様の話を聞いたから、同じ轍を踏むまいと思ったから…彼とジョンの忠告に、従う気になっただけだ。
彼の事を『たいしたもの』だ、と思う。横車を押して生きてきた私でも、『口答えする気を削ぐ』相手だ。
とはいえ、自分達の時はそうならないのではないか…という甘えも、定期的に頭をもたげる。
彼という第三者がいない時、油断している時…彼女に対して、捕食者に戻っているのは、事実なのだ。
「私は、貴方の方がお心配ですわ。」
「…?」
「彼女へのお執着が強すぎて、他の血を受け付けなくなった…お違いますか?」
「…気づいていたのかね。」
「お正月に、皆でお節をご馳走になった時でしたか…貴方は、とっておきの高級生き血ボトルを、お開けになりました。そして、口にしてすぐに、席をお立ちになりましたわね?その時は、『どうも、腐敗していたらしい』と、言っておられましたが…その後、少なくとも、私は貴方が血を飲んでいるお所を、見ておりません。」
「同胞に、そういう者がいるとは聞いていたが…自分が、なるとは。いや、なって然るべきだったか。」
『ヒナイチくんの血が美味しすぎて、口が奢っただけ』『自分の彼女への想いは、本物だ』…そう自惚れるだけなら、気楽なのだ。一番の問題は、生存に必要な生き血をどう摂食するか…なのだ。
人間から採血した場合、ある程度の期間を置かなければならない。
彼女に、毎度求める訳にはいかない。せいぜい、1か月に200㏄ほど貰えるのが、限度だろう。
私の様な症状を起こした同胞達の中には、相手を失血死させた者もいると聞く。
しかし、相手を殺してもその執着は、収まらない。結局、救われる事はない。
相手を殺すまいと、餓死を選んだ者もいると聞く。
「どのランクのボトルも、どの血液型を試しても、同じでね。そのまま飲んでは、吐くだけだ。」
「お紅茶やワインで、割ってるのですね。」
「せめて力が弱ければ、牛乳で代替出来たかもしれんが…なまじ、力が強いと。」
最低限の吸血なしには、生きられない。だから、割った血液を、無理矢理飲み込んでいる訳だ。
敵対している同胞に、それを知られる訳にはいかない。
肉体の弱体化が悟られれば、付け込まれるだろう。何より、唯一摂取できる血を持っている、彼女が狙われる。彼女を守る為に、同胞を闇討ちしていたツケが、ここに回ってくる様では…意味が、ない。
「…ヒナイチくんは、知っているのだろうか?」
「貴方が思っているより、彼女はお聡い女性です。いずれ、気づくでしょう。」
彼女に気取られて、生真面目な彼女の枷になる訳にはいかない。
衰弱して、彼女を守ってやれなくなっては、意味がない。
幸い、ロナルドくんのおかげで中立派の同胞達も、退治人や吸対の者達に好意的になっている。
この管轄内に限って、反人間派の同胞達は、動きにくくなっている。
だから、おそらく可能だろう。
この体が衰える前に、彼女に気取られる前に…この管轄内で動いている、敵性吸血鬼共の勢力を全て…
「あらあら…つまらない事を、お考えですわね?そうなる前に、彼女とお話合いをなさい。お素直になっ…」
「…どうした?まだ、こんな所で立ち話か?」
「ヌーヌヌヌ?」
食堂に行ったはずの、ヒナイチくんとジョンの声に我に返る。
そうだ、小正月のぜんざいを作ってやる約束だった。
「はあ…何でもありませんわ。ヒナイチさん、ジョンさん。」
「あぁ、すまないね。もう少し、待っていてくれ給え。」
首を傾げる彼女の頭を撫でた。赤面して睨み上げる、その顔は可愛らしい。
そうだ。この子が明日も、無事な姿を見せてくれるなら…その為なら。
だから、可能だろう。
彼女の管轄内で動いている、敵性吸血鬼共の勢力を、全て消す事は。
そうすれば、ヒナイチくんは危険に晒されなくて済む。
戦う必要がなくなって、市民の為の戦士である必要がなくなれば…心置きなく、夜の世界に来れるかもしれない。
当時の私は、一方的に、それが彼女の為だと信じて疑わなかった。
ロナルドくんとジョンが同席している、この時に彼女と話し合えば…もっと早く、心身共に結ばれた、今の姿になれたものを。
「ふう…。」
私達3人と1匹、心安らぐ時間は、終わるのが早い。
時計を見る…もう、12時前だ。報告書も書き終えてある。だから、本来の監視任務は終了する。
個人的な…いや、正確には監視対象の気分次第で追加される、地下室での『監視の続き』が、なければ…。
恐怖しかなかったはずの、地下室、そして、棺桶の中で行われる…。
恐怖しかなかったはず…か。じゃあ、今は?
鏡に映った、自身を見る。今映っているこの顔は、恐怖のものではない。
「認めたくない…でも。」
この顔は、あいつに言わせれば『期待している』顔だ。
そうだと、思う。屋根裏部屋に向かわないで、地下室の方に向かっているこの顔の…頬が染まっているのは、暖房のせいではないと、分かっている。微かな疼きは、気のせいでないと…分かっている。
『人に依存するってよくない事だよな?』
『貴女次第だと思います。ご自身が苦しまず、他人にご迷惑をかけないのであれば、お悪いとは思いません。』
『貴女は、変わろうとなさっています。変わってもいいのです。』
ロナルドの優しい声と、上品な笑顔を思い出す。だから…
「ヒナイチくん…。」
あいつの声に振り返る。『今夜は、どちらにする?』と、暗に問いかけている事は、察している。
ここで、『No』と言う事は、可能だ。今夜は、客間にロナルドが泊っている。
どういう『お説教』をされているのか、そして、どういう『契約』を結んだのかは、不明だが…ドラルクは、彼に頭が上がらない。屋根裏部屋で休む事にしても、無理矢理、引きずり込んだりはしないだろう。
何より、屋根裏部屋は、鍵がかけられる。先に部屋に逃げ込んで鍵をかければ、吸血鬼は入る事が出来ない。元々、私の仮眠室として設えられた部屋ではあるが…何故、今も取り壊される事なく、この部屋が残っているのか。
それは…万が一、ドラルクが満月の晩に正気を失い、私の命さえ奪おうとした場合を想定したシェルターとして、残してあるのだと言っていた。だから、本当に嫌なら、無視して駆け込めばいいだけ…。
「…ああ。」
もう一度、鏡を見る。その姿は、体の奥に湧く疼きが、嘘でないと証明している。だから…
もう、屋根裏は使わない。先に、棺桶でお前を待ってる。
そう言えたら、どんなに楽になったのだろう。
変わってもいいんだ…ただ、プライドが邪魔をしているだけ。
「仕方ないだろう…。私は、お前の監視員だ。」
背後の忍び笑いを無視して、私は今宵も棺桶が置いてある、地下室へと足を向けた。