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歪んだ想いの行き着く先は?

全体公開 反転ドラヒナ 5386文字
2024-06-16 00:33:37

反転みっぴきで、小正月ネタのお話です。鏡割りをした餅が、どのように消費されるのか自分がいる関西圏ではぜんざいですが、新横浜ではどうなのか。調べても分からないので、ぜんざいで書きました。
やっと、ここで反転メビヤツを書けました。やっばり、ロナルドくんと会わせたいですもの。
去年書いていた、節分ネタで『彼女への執着心を拗らせて、他者の血が飲めなくなり、痩せてきた』という設定の前日譚的なお話でもあります。
去年書いた節分ネタのお話はこちら→吸血鬼の恵方巻 https://privatter.net/p/9854704
『ドラルクと共にいたい』という、想いを認めようとあがくヒナイチくんのシーンを追加しました。

2024/01/15に上げました。

Posted by @kw42431393

 「おこんばんは、今日はお寒うございますわね。」
 「あぁ、いらっしゃい。ロナルドくん。」
 「ヌヌッヌイ。」

 帰国した彼の身辺が、落ち着いた頃だった。
 ヒナイチくんが監視に来る様になって、ずっと引きこもっていた私とジョンの生活は、一変した。そして、『ご友人兼お野蛮担当』として、彼の仕事を手伝う契約を結んだ今、それはまた違ったものになっていく。
 退屈を嫌う吸血鬼のサガとして、その変化は、私にとって満更ではなかった。

 「この上、吹雪いて参りましたのよあら、メビヤツさん。ありがとう、今日は、お帽子が雪で濡れておりますの。乾燥して頂けるかしら。」
 「ビビッ。」
 「お待たせしましたわね。やっと、私の身辺も落ち着きましたの。メビヤツさん、ご用事が終わりましたら、私と一緒に帰りましょうね。」
 「ビッ?ビビッ!!」
 「たいしたものだよ、君は。」

 半ば本気で、感心する。
 目の前にいる『メビヤツ』は、『目からビーム出るやつ』とかいう、我が城の防衛システムの一体に過ぎない。この一体だけ、規格外品で頭が四角い。
 そして、何故だろう。持ち主の私に対して、反抗的なのだ。藪から棒に、ビームを打ってきたりする。
 当初、不良品として返品するか、電池切れを待って捨ててしまおうかと、思っていたのだが

 『おこんばんは。あら、この子。お一人だけ四角いですわね。』
 『うむ、不良品なのかおっと。』
 『ビーッ!!』
 まぁ、当たる様な私ではないがそんな訳で捨ててしまおうと思っている、と私はロナルドくんに伝えたのだ。
 『そんなお事をおっしゃるから、嫌われるのですわ。メビヤツさんもですわよ、お野蛮ですわ。』
 『ビ??』
 窘められたメビヤツは、困惑した様な反応をした。一つだけの大きな目をさらに見開いて、ロナルドくんをマジマジと見上げていた。
 もしかしたら、規格外品という事で、ここに来るまでも、雑な扱いだったのかもしれない。
 『なんなら、君が貰ってくれるかね?』
 『そうですわね。私もお職業柄、お逆恨みを買いやすくってそうだ、いいお事を考えましたわ。』
 『ビ?』
 『私、お帰国したばかりで事務所がまだ片付いておりませんの。落ち着いたら、事務所に来て頂けるかしら?私がいない間、お留守番をして事務所を守って下さいな。そして、お平和になってからも、私のトレードマークを預かって下さいません?』

 そんな訳で、今のメビヤツは、城の玄関で彼が来るのを、いつも心待ちにしている。やってくると、帽子をかぶせてもらって、彼がここでの用事を終わらせるのを、待っている。
 不良品というより、何かが原因で、自我を持った個体だったのだろう。
 半田くんに調べて貰ったが、ツクモ吸血鬼化している訳ではない。日中でも行動可能だ。
 彼と会えて、よかったのかもしれない。



 「それでは、明日の打ち合わせを致しましょう。」
 「ああ、そうだったね。頼まれた資料も用意してある。それより、君も先に、湯に浸かってきてはどうかね。」
 彼の帽子、マントやコートも雪まみれだ。予報によれば、この後、ますます吹雪いてくるらしい。
 「あら、よろしいのかしら。」
 「昼の子は、風邪を引いてしまう。今宵は、客間に泊まり給え。風呂を終えたら、食堂へおいで。折角だから、年末に皆で作った鏡餅を割って、ぜんざいを作ってあげよう。」

 今日は年も明けて、そろそろ正月気分も抜けようかという、小正月だ。
 地域にもよるが、無病息災を願って、小豆粥やぜんざいを食べたりする。
 先ほど、監視にここへ来たヒナイチくんも、雪まみれで寒そうに震えていた。彼女もそろそろ、バスルームから戻ってくるだろう。
 今日はクッキーより、体が温まる甘いものをと、考えていたのだ。

 「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えまして。」
 「うむゆっくりしてくれ給え。おや、ヒナイチくんも戻ってきたらしい。」
 振り返ると、うちの意地っ張りなお嬢さんが、カーディガンを羽織りながら、こちらに来るところだった。
 まぁ、ロナルドくんが来てから若干、態度が軟化している所がある。
 ロナルドくんはお嬢なので、同性の友人が出来た気がして、相談しやすいと言っていたがそのせいなのだろう。 
 そして、ヒナイチくんが彼と親しくしても私が精神的に落ち着いていられるのも、そういう事だ。
 「ドラルク、上がったぞ。あ、ロナルド。こんばんは、お前も大変だったな。」
 「ヒナイチさん、おこんばんは。今日のおやつは、割ったお鏡餅でぜんざいですって。」
 「あの時の餅か。杵と臼を購入してきたドラルクもドラルクだが、お前が臼にヒビを入れた時は、驚いたぞ。」
 「ヒナイチさんこそ、それは言わないで下さいまし。」
 「ヌフフフ。」
 あれは私も必死で避けたな。手を粉々にされる所だった。
 彼、お嬢なだけで、本当は、馬鹿力なのだ。
 「さて、ヒナイチくん。ロナルドくんが戻るまで、報告書でも書いて、待ってておくれそれとも、先に味見するかね?」
 「う、うるさい。お前に、言われるまでもない。食堂で、書いてる。」

 ヒナイチくん、待ってヌ。ヌンも一緒に行くヌ。

 なんとか隠そうとしても、隠しきれないアンテナに、笑みが漏れる。
 ジョンを肩に乗せて、食堂に向かう彼女を見送っていると、ロナルドくんがため息をついた。
 「あらあらお相変わらず。」
 「今は、それでいいのだろう急かすな、と言ったのは君じゃないか。」
 「そうですわ。貴方にお時間は、無限にございます。そのお調子で、願いますわよ私が見ていないお所でも。」



 言われなくても、そのつもりだそう言えたら、どんなによいか。
 本音は、すぐにでもその首筋に牙を突き立てたい。この血を打ち込みたい。
 私の目の届く、いつでも庇護してやれる夜の世界からもっと言うなら、この城から出したくない。

 ロナルドくんからお祖父様とお祖母様の話を聞いたから、同じ轍を踏むまいと思ったから彼とジョンの忠告に、従う気になっただけだ。
 彼の事を『たいしたもの』だ、と思う。横車を押して生きてきた私でも、『口答えする気を削ぐ』相手だ。
 とはいえ、自分達の時はそうならないのではないかという甘えも、定期的に頭をもたげる。
 彼という第三者がいない時、油断している時彼女に対して、捕食者に戻っているのは、事実なのだ。

 「私は、貴方の方がお心配ですわ。」
 「?」
 「彼女へのお執着が強すぎて、他の血を受け付けなくなったお違いますか?」
 「気づいていたのかね。」
 「お正月に、皆でお節をご馳走になった時でしたか貴方は、とっておきの高級生き血ボトルを、お開けになりました。そして、口にしてすぐに、席をお立ちになりましたわね?その時は、『どうも、腐敗していたらしい』と、言っておられましたがその後、少なくとも、私は貴方が血を飲んでいるお所を、見ておりません。」
 「同胞に、そういう者がいるとは聞いていたが自分が、なるとは。いや、なって然るべきだったか。」

 『ヒナイチくんの血が美味しすぎて、口が奢っただけ』『自分の彼女への想いは、本物だ』そう自惚れるだけなら、気楽なのだ。一番の問題は、生存に必要な生き血をどう摂食するかなのだ。
 人間から採血した場合、ある程度の期間を置かなければならない。
 彼女に、毎度求める訳にはいかない。せいぜい、1か月に200㏄ほど貰えるのが、限度だろう。
 私の様な症状を起こした同胞達の中には、相手を失血死させた者もいると聞く。
 しかし、相手を殺してもその執着は、収まらない。結局、救われる事はない。
 相手を殺すまいと、餓死を選んだ者もいると聞く。

 「どのランクのボトルも、どの血液型を試しても、同じでね。そのまま飲んでは、吐くだけだ。」
 「お紅茶やワインで、割ってるのですね。」
 「せめて力が弱ければ、牛乳で代替出来たかもしれんがなまじ、力が強いと。」
 最低限の吸血なしには、生きられない。だから、割った血液を、無理矢理飲み込んでいる訳だ。
 敵対している同胞に、それを知られる訳にはいかない。
 肉体の弱体化が悟られれば、付け込まれるだろう。何より、唯一摂取できる血を持っている、彼女が狙われる。彼女を守る為に、同胞を闇討ちしていたツケが、ここに回ってくる様では意味が、ない。
 「ヒナイチくんは、知っているのだろうか?」
 「貴方が思っているより、彼女はお聡い女性です。いずれ、気づくでしょう。」
 彼女に気取られて、生真面目な彼女の枷になる訳にはいかない。
 衰弱して、彼女を守ってやれなくなっては、意味がない。
 幸い、ロナルドくんのおかげで中立派の同胞達も、退治人や吸対の者達に好意的になっている。
 この管轄内に限って、反人間派の同胞達は、動きにくくなっている。



 だから、おそらく可能だろう。
 この体が衰える前に、彼女に気取られる前にこの管轄内で動いている、敵性吸血鬼共の勢力を全て

 「あらあらつまらない事を、お考えですわね?そうなる前に、彼女とお話合いをなさい。お素直になっ
 「どうした?まだ、こんな所で立ち話か?」
 「ヌーヌヌヌ?」

 食堂に行ったはずの、ヒナイチくんとジョンの声に我に返る。
 そうだ、小正月のぜんざいを作ってやる約束だった。

 「はあ何でもありませんわ。ヒナイチさん、ジョンさん。」
 「あぁ、すまないね。もう少し、待っていてくれ給え。」

 首を傾げる彼女の頭を撫でた。赤面して睨み上げる、その顔は可愛らしい。
 そうだ。この子が明日も、無事な姿を見せてくれるならその為なら。

 だから、可能だろう。
 彼女の管轄内で動いている、敵性吸血鬼共の勢力を、全て消す事は。
 そうすれば、ヒナイチくんは危険に晒されなくて済む。
 戦う必要がなくなって、市民の為の戦士である必要がなくなれば心置きなく、夜の世界に来れるかもしれない。

 当時の私は、一方的に、それが彼女の為だと信じて疑わなかった。
 
 ロナルドくんとジョンが同席している、この時に彼女と話し合えばもっと早く、心身共に結ばれた、今の姿になれたものを。



 「ふう。」
 私達3人と1匹、心安らぐ時間は、終わるのが早い。
 時計を見るもう、12時前だ。報告書も書き終えてある。だから、本来の監視任務は終了する。
 個人的ないや、正確には監視対象の気分次第で追加される、地下室での『監視の続き』が、なければ
 恐怖しかなかったはずの、地下室、そして、棺桶の中で行われる
 恐怖しかなかったはずか。じゃあ、今は?
 鏡に映った、自身を見る。今映っているこの顔は、恐怖のものではない。
 「認めたくないでも。」
 この顔は、あいつに言わせれば『期待している』顔だ。
 そうだと、思う。屋根裏部屋に向かわないで、地下室の方に向かっているこの顔の頬が染まっているのは、暖房のせいではないと、分かっている。微かな疼きは、気のせいでないと分かっている。

 『人に依存するってよくない事だよな?』
 『貴女次第だと思います。ご自身が苦しまず、他人にご迷惑をかけないのであれば、お悪いとは思いません。』
 『貴女は、変わろうとなさっています。変わってもいいのです。』

 ロナルドの優しい声と、上品な笑顔を思い出す。だから
 
 「ヒナイチくん。」
 あいつの声に振り返る。『今夜は、どちらにする?』と、暗に問いかけている事は、察している。
 ここで、『No』と言う事は、可能だ。今夜は、客間にロナルドが泊っている。
 どういう『お説教』をされているのか、そして、どういう『契約』を結んだのかは、不明だがドラルクは、彼に頭が上がらない。屋根裏部屋で休む事にしても、無理矢理、引きずり込んだりはしないだろう。
 何より、屋根裏部屋は、鍵がかけられる。先に部屋に逃げ込んで鍵をかければ、吸血鬼は入る事が出来ない。元々、私の仮眠室として設えられた部屋ではあるが何故、今も取り壊される事なく、この部屋が残っているのか。
 それは万が一、ドラルクが満月の晩に正気を失い、私の命さえ奪おうとした場合を想定したシェルターとして、残してあるのだと言っていた。だから、本当に嫌なら、無視して駆け込めばいいだけ

 「ああ。」
 もう一度、鏡を見る。その姿は、体の奥に湧く疼きが、嘘でないと証明している。だから
 
 もう、屋根裏は使わない。先に、棺桶でお前を待ってる。

 そう言えたら、どんなに楽になったのだろう。
 変わってもいいんだただ、プライドが邪魔をしているだけ。

 「仕方ないだろう。私は、お前の監視員だ。」
 背後の忍び笑いを無視して、私は今宵も棺桶が置いてある、地下室へと足を向けた。
 

 

 


 


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