主人公Asgoreとその友達の顔合わせ。この頃が全盛期。
@SpaceIsVast16
僕の顔に光が差す。
どれだけ眠っていただろうか。
バッグの中を漁る。時間を確認出来るものは何も無い。
全身が痛い。
視界が教えてくれる限りでは、さしづめ例の大穴に落ちてしまったのが今僕の置かれた状況なのだろう。
背中の感触、かさかさという音、恐らく枯葉の上に寝ている。生きているのはそういう事か。
「何で…、こうなったんだっけ…。」
記憶を探っても何も思い出せない。こんな状態で言うのもどうかと思うが、記憶喪失という訳ではないはずだ。ただ、何となく、ここは-。
「あぁ…、ようやく目を覚ましたのねGorey…。もし二度も…いえ、こんな縁起でも無いこと…、ふふ…。患者服のせいかしら…?」
ぬっ、と入ってきたのは女性の顔だ。明らかにおかしい人なのは分かった。目のクマが酷くて、片方の目は壊れかけのぬいぐるみのような開き方をしていて、何よりも光が彼女を透過しているから。
「…えっと、あなたは…?」
「こんなに小さくなって…、本当に可愛いんだから…。浮かない顔もキュートね…。」
「あの、本当に誰ですか…?」
やっと届いたその言葉で彼女は凍りついた。表情も奇妙な笑顔から驚きに変わり、しかしすぐに腑に落ちたような顔をした。
「…そう…、そうね…。もしあなたが私の思い出の人だとしても…、もう遠い昔の話だものね…。」
彼女は僕の背中を押して起こすのを手伝ってくれた。その見た目の通り僕をすり抜けたけれど、微かな温もりを感じた。
改めて見てみると、彼女はかなり背が高い。なるほど怖いと思う訳だ。
「あ、この状態じゃ声も届きにくそうね。ちょっと待ってて…。」
ふわり宙に浮くと、犬かきをするような体勢になった。ちょっとひょうきんな感じが漂う。
「じゃあ、まず私から自己紹介するわね。私はToriel、幽霊よ。」
「………。」
「…どうかしたの?」
「いや…、何でも。僕はAsgore。えっと…、紅茶が好き。」
「ふふっ…、ふふふ…。」
「えっ、何か変なことでも…」
「いや、ね。あなたは本当にあの人に似てて…、ちょっと元気が出たの。」
目つきの怖さは変わらないけれど、何だか表情も声も何もかもスッキリしてる。はじめましてなのにこの方が素敵に見える。
「あ…、そうだ。僕、ここから出なきゃなんだ…。」
さっきからTorielの事で、すっかり先刻までの気持ちを忘れていた。
Torielは僕を改めてじっと見つめて、腕組みをした。
「うーん…。ハッキリ言ってしまうけど、あなた一人でこの先に行くと速攻で私の仲間入りよ。そのバッグの中身も確認したけど何も無かったし…」
「確認したの!?」
「ごめんなさい…、本当の本当に私の愛した人だと勘違いしてて…。今もそう思ってるけれど…。」
勝手に中身を見られていた衝撃はあっても、幽霊になってしまうことにそれはない。ここの空気はあまりに重い。遠目に見える入り口の柱は明らかに手入れされていない。いや、寧ろ人為的に傷つけられたようにボロボロ。Torielみたいな人の方が珍しいんだろう。
「安心してちょうだい。私も着いて行くわ。…一人で傷つくあなたは好きじゃないの。」
「良いの?」
「もちろん。勘違いだとしても、私はあなたのことを大好きだった人の生まれ変わりだと思ってるから。二度と失うのは御免よ。…モンスターの情報を教えることしか出来ないけれど…。」
「十分嬉しい!ありがとうToriel!」
「あらあらまあまあ…。あ、そういえば…、協力してくれるかも知れない子が一人いるの。着いてきて。」
「うん、分かった。」
そう口にしたがすぐには動くことが出来なかった。
身体が痛いからとかではない。
その背中には覚えがあったから。
だけど覚えていない。
Torielが僕のことを遠い昔の思い出の人だとか、生まれ変わりだとか言っていたけど、強ち間違いではないのかもしれない。
じゃあ今生きている僕は一体何なんだろう。
遠い昔の「僕」はどんなだったのだろう。
遠ざかっていくその背中が恐ろしいのは何故だろう。
僕は、一体。
「Gorey…?」
Torielが呼んでいる。そうだ、僕はまだ何者でもないのだ。彼女の思い出にいる人にたまたまそっくりだっただけ。
「今行くよ。」
僕はTorielの隣へ足を急がせた。
そうして向かった荒れた入口のその向こう、そこには何も無かった。あると言えば花が一輪。
「Boogie、起きてるなら返事してちょうだい?」
しばしの沈黙の後、はぁ、とため息をついた。Torielではなく、あの花が。
「やり過ごせなかったカ…。」
くるりと振り返ると、如何にも嫌そうな顔をして、またため息をついた。
「話してるの全部聞こえてたからネ、面倒くさいから知らんぷりしたかったのニ…。大体僕抜きで話を進めるなんテ…」
くどくどと僕らに文句を垂れる姿を見ると、これが本当に協力者になってくれるのか全く不安になる。分からないことはないけれど。
「まぁそう言わずに、ね?協力してくれたらいっぱい愛でてあげるわよ?」
「嬉しくなイ!等価交換って言葉知ってル!?嫌だ痛いの絶対にやダ!」
「えー、本当のところは?」
「…愛でてくれるのちょっと嬉しイ…。」
「じゃあ、決まりね?」
「…分かっタ。でも本当に嫌な時は逃げル。」
「ありがとう。」
「どういたしましテ。」
良いんだ…。
「あの子本当は良い子なのよ?ちょっと素直じゃないだけだからあまり怒らないであげてね?」
「う、うん…。」
「んん゛っ…。」
花は咳払いをした。恥ずかしさを消すためなのが顔つきから分かる。反抗期ってやつだろうか。可愛い。
「…僕、Boogie。お花じゃなくテ、造花のBoogie。触ってみたら分かル。」
葉っぱを器用に使ってこっちに来いの合図をしたので近づくと、地面から何かが凄い勢いで飛び出してきた。
葉っぱだった、それも僕を突き刺せるほど鋭利なもの。
もしも僕が駆け寄っていたなら?
「ふん、警戒心がまるで無いネ。良い子なのは良いけどそれじゃダメ。」
さっきのくだりを見られたのが余程嫌だったのか、ふんす、と得意げな顔をしている。まんまと一杯食わされた。
「ちょっとBoogie…?」
隣から殺気が漏れ出ている。僕に言われている訳では無いのに、そっと顔を背けた。Boogieには流石に同情の念が湧く。
「う…。ごめんなさイ…。ちょっと意地悪し過ぎタ…。傷はつけないようにしたけド…。」
「大丈夫、大丈夫…。傷一つついてないから…。」
改めてBoogieの花びらを触ってみると少しザラっとしている。花とは違う、人工的な感触。何だか癖になる。
「ちょ…、ん…、ちょっト…。ねぇってバ。」
敢えて長い間Boogieに触れる。さっきのちょっと怖かったんだから。
「造花なのに本物のお花みたいなことが出来るって凄いなー。もっと観察させて欲しいなー。」
「分かっタ、分かっタ!でもお願いちょっと止めテ、これくらい後でいくらでもさせてあげるかラ…。」
「ふふ、そっかそっかぁ。じゃあ僕たちもう友達?」
「それで良いヨ、もウ…。…ところデ、君、自分のタマシイの事分かってル?」
「え?」
世話が焼けると言わんばかりにふぅ、と息を吐いた。
「またさっきのやるかラ、ちょっと下がっててネ。」
「あぁ、うん…。」
この鋭利な葉っぱがどうかしたというのだろうか。
「少し目を落としてみテ。」
胸元を見ると赤いハートがあった。全く気がつかなかった。何なら「FIGHT」「ACT」「ITEM」「MERCY」と書かれたボタンのような物もある。HPって何だろう?
「何これ?」
「君が生き残るためのものだヨ。この世界の皆んなは君に攻撃してくるはズ。タマシイに攻撃されたラHPが減っちゃうかラ避けてネ。」
「でも最初からFIGHTを-」
そこまで言い掛けるとTorielが口を挟んだ。
「それはダメ。」
「でも皆んな怖いかラ…。」
「それでもよ。私は誰かが傷つくのを見たくない。」
「それじゃAsgoreが傷つくだロ!…この世界は殺スか殺されルかだヨ。」
「………。」
「むー…、Torielは君にいっぱいMERCYして欲しいみたいだネ。でも、もし、Asgore。これ以上耐えられないってなったラFIGHTだヨ。仕方ない時だっテあル。」
口論と言うには短かったが、二人ともに剣幕があった。どっちも正しいというのはこういう事を言うのだろう。この世界の事情は何も分からないけれど、誰も傷つけて欲しくなくて、でも僕に生き残って欲しいと二人が思っているのは分かる。
「…分かった。二人ともありがとう。僕、頑張るから。」
「…ごめんなさい、Gorey、Boogie。大人気ない所を見せてしまって…。私が守れたら…。」
「良いヨ、Toriel。平和にやれルなら僕もその方が良いシ。そうダ。」
Boogieが地面の中に潜ったかと思うと、今度は鞄の中から顔を出した。
「えっ!?」
「あ、僕地面からなら何処からでも生えてこれるんダ。驚かせてごめんネ。」
「これバッグだけど…。」
「突き破っちゃっタ。でも破けたとこは僕の根っこで補強するかラ問題無いヨ。」
「ま、まぁ…、それなら良いけど…。」
「君って本当お人好シ。」
そんな僕らをTorielはまるで親みたいな顔で見ている。
「仲良くなったようで良かったわ…。妬いちゃいそうだけどね、ふふふ…。」
「ここから先は廃屋だヨ。足元と…、Undyneには気をつけテ。」
「Undyneって?」
「かつて荒くれ者の騎士団長として名を馳せたモンスターよ。その廃屋がボロボロなのは彼女が暴れているから…。当時より恐ろしいかも…。」
「この地下世界はいつ頃からかどんどんおかしくなっていたのよ。きっと、私もそう。」
「…そうかな?」
そんな事を言われると少し怖い。けれど行かなければ。
「二人もいるし怖くないよ」とはにかんで。