@SpaceIsVast16
あれっ?
この中で一番驚いたのは僕でもTorielでもBoogieでもなく、それだった。
「う、う、うぅ…。」
身体はUndyneと同じくらい大きく、筋肉もそれなりについていて強そうなのに、右半身を僕らに向けて、明らかに抵抗の意志は無い。
「え、何なの…?」
「お化けって驚いちゃったけどそういえば私もお化けだったわね。いけないわ癖で…。」
「あっ。これ仮面だ、外してみヨ。」
ツルを伸ばして無防備な顔を狙う。
その悪魔の顔の裏に隠されていたのは、いかにも気弱そうな、大粒の涙をこぼすモンスター。
「…Asriel…。」
Torielは呆然としながら呟く。その目にはうっすら涙を浮かべている。
Boogieも呆気に取られている。まさかこんな顔が隠れていたとは思わなかったのだろう。
「あ、あ、お、驚かせて、ごご、ご、ごめん…。」
「あぁ、いや、別に…。」
「うぅ…。」
気づくと、一応戦闘にはなっているらしい。こんな戦闘があるものかと思うが。
僕はACTを開いた。
* うちゅう
「宇宙…?」
それしか無かったので押してみたが、よく分からない。
「え、あ、あの。」
「ん?」
「う、宇宙、好き?」
「えーと、まぁ、うん…?」
Asrielというモンスターはニコっと笑った。
「へ、へへ…。そっかぁ…。へへへ…。」
「…取り敢えズ、続けてみよっカ。」
「うん…。」
再びACTを開くと、文面が変わっていた。
* プラネタリウム
「プラネタリウム?っていうのが好きなんだけど…。」
「好き?わ、分かった。ちょっ、とだけ、待ってて…。」
ふぅー、と彼は息を吐くと、周囲の雰囲気が変わった。怖いわけではない、「凄いことが起こる」って感じの。
左右の手を前に突き出すと、風がふわり巻き起こる。それにつられてか、遺跡の他のモンスターがやってきた。
プラネタリウム?
今日も「ほし」を教えてくれるの?やった…。
この退屈な世界だけど、これだけは楽しみ。
口々に聞こえるのはそんな声。
辺り一帯が更に暗くなる。しかし、煌々と輝く何かが辺りに広がる。
範囲はどんどんと広がり、屋敷が屋敷でなくなっていく。
その両腕を広げると風は止んだ。
周りを見ると、皆んなが「ほし」と言うのであろうものが幻想的なまでに散りばめられていた。
「わぁ…!」
「こんな魔法、この子どこで…?」
「始めて見るヨ、こんな魔法…。」
「プ、プラネタリウムとはちょっと違うけど…。『うちゅう』を作ったんだ…。」
サラリと言ったが、きっとそれは「凄いこと」なのだろう。
「み、皆んな。き、き、今日はどの星見たい?」
皆んなはあの星この星と言うが、僕らは言葉が出なかった。
「ふふ、じゃ、じゃあ順番ね…?」
何だか、平和主義者な所とか笑い方とかTorielみたい…。
「Asrielって何だかTorielに似てるね。」
「…だって、正真正銘我が子だもの…。」
「…え?」
もっとTorielに聞きたいことがあったが、Asrielが僕の手をぎゅっと包み込むように握った。
「き、君も楽しんでくれたら嬉しい…。」
その後はしばらく、Asrielの宇宙の話を聞いた。
僕の知らない世界、その話はなかなか楽しかった。二人はとても優しい目で彼を見つめる。
途中に挟んだ、「星を見るって約束した友達がいたのに。」というのが気になったが。
ありがとう…。
今日も少しだけ楽しくなりそう…。
いつか本物を見れたら良いなぁ…。
一通り終わると、モンスター達はお金を出し始めた。
「あ、あぁ…。だ、大丈夫だよ、でも…。」
大きくて、震える手はゆっくりと僕を指した。
「こ、この子は新入りで…、多分、お金無くて…。だ、だから…。」
彼らはこくり頷くと、僕にそのお金を手渡してくれた。
この世界は最悪だけど、頑張ってと。
* YOU WIN.
* 0EXPと5+2+2=9ゴールドをかくとく。
「これやると、み、皆んな、お金出すの。良いって言っても。や、優しい、ね。いつも、は。き、気持ちだけ受けとるけど。」
「良いの?これ…。」
「ぼ、僕は…、あの子に出来なかった優しい事…、みみ、皆んなにしたいだけ…。う、うぅ…。」
顔を伏せ、ぽたぽたとその目から涙が落ちる。さっきのもあって、星のように綺麗に、でもその輝きは地に落ちて消える。
「…きっト、その子は気にしてなイ…。」
「わ、分からない…。もう、会えない…。もう、もう…、そ、その子は…。」
悲しみは恐怖、怯えに変わり、ガタガタと震え始めた。
「…私が思っていた以上に、この世界は落ち込んでいるのね…。」
僕も何か言ってあげたいけれど、言葉に詰まった。
僕は何も分からないから。
頭を抱えて丸まる彼を見ることしか出来なかった。
しばらくして、何かから逃げ出すように彼は駆け出した。誰に向けたかも分からないごめんなさいを告げて。
何とも言えない静けさの後、二人は僕に作り笑顔を見せて、「行こっか。」
ただ、それだけ。
二人の顔を見れないでいると小さな看板が目に入った。
「どぅなつ あるます」
その癖のある文面は、今の僕たちを誘導するための魅力を兼ね備え過ぎているくらいだった。
動く看板に連れられて行くと確かにどぅなつと蜘蛛がいた。ついでにサイダーも。
「むりょうです」
「えっ、無料なの?この二つが?」
「です。2ゴールドおいていってくれたらさらにうれすぃ」
「んー、募金くらいはしとク?」
「無料でこれを貰うのもちょっと気が引けるものね、2ゴールドなら安いものよ。」
「そうしよっか。」
トレイに2ゴールドをコツと置くと蜘蛛がどぅなつとサイダーを運んできてくれた。
「ありゃとございますた。」
* スパイダーどぅなつとスパイダーサイダーを てにいれた。
彼らに背を向けると、抑えていた笑いが少し漏れた。
その時にはもう顔を突き合わせていた。
次は石のパズル、石が三個になっているけれどお茶の子さいさい。
さっきのように3人力を合わせてズズズと押していく。
「…あれ?」
2つ押せたは良いのだけれど、最後の一つは接着剤を塗られているような感覚だ。
ぺたぺたぱしぱし触ってみてもうんともすんとも言わない。
「…おい。」
「うわっ、喋った…。」
「石が気持ちよく寝てるのに勝手に動かそうとするなよ、常識がなってねえなクソガキ。」
「いや、でも動いてくれないと…。」
「Zzz…。」
思ったより口が悪いし態度も悪い…。
「Zz…、はひっ…。」
「悪いなアンタ、ボタン押すからちょっと待ってくれ…。へへ…。」
その石は急に飛び起き、僕らが押すよりずっと早くボタンをカチリと押した。
「わぁ、Goreyやっぱり人徳が凄いわねぇ。」
いや、そうではない。彼が飛び起きた理由なんて分かりきっている。
「ねぇ、貴方。」
「私今とーっても気分が良いの。悪いことは言わないわ。ボタンのところまで行きなさい。」
どんな形相かは言うまでもなく、こんな事を目の前で言われたものなら声が聞こえなくても呪い殺されると思うだろう。もしくは夢に出たのだろうか。
可哀想ではあるが、少しスッキリした。やっと道もひらけたし。
「Undyneの家までもうすぐかな。」
「多分ネ…、…あとは君が出られるかどうカ…。」
「大丈夫でしょ、あんなに良い人なんだし!ほら、もうすぐそこ!この部屋のレバーを下げたらたどり着くよ。」
通り過ぎ様にレバーを手にとると、カプリと何か噛みついた。今度は何だ、地下世界の洗礼はかくも厳しいものなのか。
「いっ…!」
「こら、こら。おやさいをたべずにいくなんて。」
手元には、裂けそうなくらい口角を上げた笑顔の大きな人参がかぶりついていた。
「このやロ、いきなり攻撃なんて卑怯だロ!」
「Boogie、それは貴方にも言えるわよ…。」
「うるさイ!大体コイツ直接危害加えてるじゃン!」
その言葉をよそに、野菜はバッグに視線を移す。
「わたしはね、おやさいをたべてほしいだけです。あなたのそのバッグ、むしばになりそうで、まんまるになりそうなものしかない。」
確かにさっきからお菓子ばかり手に入れているけれど…。
「そこでしつもんです。おやさい、すきですか?」
「えっ、まぁ、人並みには。」
「まぁまぁだネ。」
「私は大好きよ!」
「よろしい!じょうものベジタブルをあなたがたのくちへさんちちょくそう。」
「あ、もう一本ください…。」
人参を生でかじってみても中々良いものだ。どことなく甘く、食感も良い。あと栄養いっぱい。Torielはこれを羨ましそうに指を咥える。一方Boogieはサイズに合わないまるまる一本食べて、お腹を膨らしている。
「ふふ、いっぱい食べたね。突っつくと意外と柔らかい。」
「やめテ…、うっぷ…。」
「あ、わすれてました。わたしVegetoidです。すてきなしょくのこのみをもったあなたにおだちん。」
* 4ゴールドを かくとく!
「それとこれ。ちかごろやさいをたべないケダモノばかりですので。」
* さびついたナイフを てにいれた…。
「ありがとうVegetoid!」
「いえ、いえ。わたしもいきなりかぶりついてしまってごめんなさい。」
そういえば、噛みつかれた所の痛みが引いている。
「ときおりやさしいこうげきをするモンスターもいます。わたしみたいに。」
まともなアドバイスだ。アドバイスと言うと、あの趣味の悪いマネキンのニヤケ顔が浮かんだが、あれとは大違い。
今度こそレバーを引いて、Undyneの家にたどり着いた。
「あ!やっと来た!ここら辺はまだ床が傷ついてないから私の助けはいらなかったみたいだね!!ちょっと寂しいけど!!!怪我は無い?もしあったら言ってね、怪我させた奴はボコボコにしちゃうから!」
「そこまでしなくても良いよー…。元気いっぱいだし…。」
相変わらずのテンションである。人目もはばからずむぎゅっと抱きしめてくれるその様は、初めて一人で遠出した子どもの帰りを待っていた親だ。
「そうだ、私我が子にサプライズしてたんだった!内緒の内緒のサプライズ!秘密だから絶対に言わないんだ!じゃ、お家で待ってるね!!!」
最早サプライズではないけれど、しゃかりきに動いているのを見ると何だかこちらまで嬉しくなる。
「ねぇ、ねぇってバ。」
「ん、どうしたのBoogie。吐きそう?」
「違うヨ、目的忘れてなイ?にやにやしちゃっテ。」
もちろん忘れてはいない。だけど、それとは別に-。ここに居たい訳ではない、なんて言えば良いんだろう。
「まぁ、最後に出られたラ何でも良いヤ。」
ふぅん、と大きくため息をついて、そう言った。
家の前にはまたあの光があった。またふらふらと近づいて、またあの音が鳴る。
正体は分からない、話さない方が良い。
そうは思っても特に僕らに危害は無く。
単なる不思議な光に過ぎない、僕はそう思うことにした。
ガチャリその戸を開けると、今までとは違ってやけに整った空間だった。
埃一つ無い、よく手の届いた空間。
人の家にお邪魔するという久しぶりの出来事に少しソワソワしていると、リビングから彼女は少し跳ねるように歩いてきた。
「我が子ー!我が子を素敵なお部屋にごあんなーい!」
鼻歌を歌うその背中を追うと、一枚の扉の前に来た。
「気に入ってくれると嬉しいな!私はまだまだやる事があるから、一休みしてて良いよ!!!」
肩にぽんぽんと手を置くと、またさっきの場所に急いで戻っていった。
その部屋もまた手入れされていた。家の廊下以上に綺麗だ。
特に目についたのは写真立て、沢山の人が写ったものが飾られている。
Undyneもそこにはいた。変わらぬ笑顔をたたえて。
その他のみんなも笑顔で幸せそうで。
もしあの人が本当に「恐ろしい」というのなら、あの笑顔は、優しさは何?
そんな事を思っていると、ふっと身体の力が抜けた。慣れないことばかりが続いたからか。
「…少し僕眠るよ、疲れちゃって…。」
「うン、おやすミ。」
「お疲れ様、Gorey。」
ふかふかのベッドに身を投げ出し、先ほどまでのことを考える。
遠い昔の通信記録。
何かを抱えたAsrielにUndyne。
そして、あの-。
あれ、何だっけ…。
…
夢に何を見たいかを願う間もなく、意識は消えた。