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FellApart-6 「もどりたい」

全体公開 FellApart 6596文字
2024-06-18 19:15:23

頭に鈍痛が走る。

誰かに思い切り殴りつけられたような痛みだ。

霞む視界の中に誰かがいる。手に持った得物を滅茶苦茶に振り回していたらしい。

僕の知らない誰かだ。真っ暗な空間の中、似つかわしくない顔で僕に向かって叫んでいる。

知らない?

違う。

あぁ、気にしないで。

恐らくこれから知ることになるだろう「誰か」。

君はきっと-。

-。

そこまで言いかけて、僕は目が覚めた。特段どこにも異常は無い。頭の痛みももちろん無い。

薄暗いせいで寝過ごしたような感覚に陥るが、視線を左に移すとスパゲティがランプの隣に置いてある。まだ湯気が出ている。

そういえば、僕はベッドに身を投げ出してそのままだったはず。なのにどうしてか僕には柔らかい布団が掛けられている。

もぞ、と動こうとするとどうにも身体が動かない。がっしりと掴まれている感覚だ。

あれ、と思い視線を反対に移すとUndyneが僕を抱きしめて眠っている。

思わず叫びそうになったが、咄嗟に口を押さえて事なきを得た。

「Boogie!何でこんなことになってるの!?」

ヒソヒソ声で叫ぶと、Boogieは少し羨ましそうにこちらを向いた。

彼の言うことによると、僕が寝てからしばらくは何も無かったらしい。外でバタバタと音が鳴っている以外は。

その音が止んでまたしばらくすると、彼女がスパゲティを置きに来た。

しかしすぐに去ることは無く、じっと凝視していたという。

ケガさせるつもリ?」と聞くと、あのはっちゃけたようなテンションではなく、静かに「そんな事、二度としないよ。」と呟いたと。

そこから彼女は片手で僕を抱き抱えて布団に入り、そこからあまり時間の立たないうちに僕が起きて現在らしい。

まぁケガしなくて良かったヨ。」
「私はUndyneにケガさせてやりたいけどね。」
「ふふ、僕は二人が一番好きだから安心して?取り敢えずUndyneを起こさないと。」

彼女の頬をぷに、と突っつくと案外すぐに目を覚ました。僕にあの時とは少し違う困り眉の笑顔を向けて。

ごめんね我が子、寝苦しかったかな?」
「全然。ちょっと夢を見ただけ。」
「ふふ、そっかそっかぁ。ちょっと腕どけるね。動けなかったでしょ?」

「じゃあ、私は向こうで本でも読んでくるね。」

まるで別人のように落ち着き払っている。でも、頭を撫でるその感覚は何一つとして変わっていない。

* トマトスパゲティを てにいれた。

Undyne、今なら外に出ても何も言わない気がするのだけど違うのかしら。」
「ねぇ。」
「何かしら、Gorey?」
「僕は知りたいことがあるんだ。だから、もう少し付き合って。」
「貴方の頼みならいくらでも、どこへでも。」
知ってタ。ずっと考え事してるんだもノ。」
「ありがとう。じゃあ。」

カチャ、と静かに戸を開けて隣の部屋に入った。おおよそここがUndyneの部屋なはず。

うわ。」

思わず声が出たのは感嘆とかではない。

壁の至る所にヒビ割れが、拳を打ちつけた跡があるボロボロの部屋。

ただ、その壁以外は綺麗に整頓されたアンバランスな部屋。

机には光に照らされた日記と、電話があった。

「日記、私もつけてたわね。三日で飽きちゃったけど。」
「結構汚れてるネ。インク溢したのかナ。」

ぴらと開いた瞬間、ばん、と閉めたくなった。

ページが真っ黒だ。塗りつぶされているのではなく、「文字を何個も重ねて書いた結果」真っ黒なのである。

「うぇっ、何、こレ。」

目を逸らしたい気持ちを抑えて、ぱらり、ぱらり黒い紙をめくっていく。

すると、とあるタイミングで一言だけ書いてあった。

「もどりたい」

震える文字で、今までのページからは考えられないほど小さく。

そこからまた進むと、整った文章があった。次のページにインクが移ってしまって、少しお茶目だ。



今日は素敵なサプライズがあった。

地上から可愛い可愛い坊やが落ちてきたのだ。

なんと名前はAsgoreで、見た目からして歳はBlookyに近い。



そこから先は、何だか鼻の奥が痛くなって読めなかった。

ぱたりと閉じて電話を手に取る。

連絡先にはやはりBlookyがいた。次に履歴を調べると、Blookyが一番上に来た。

その履歴は-。

電話の画面から目を離して、少し呆然と立ち尽くした。

「やっぱりUndyne、思ってたような人じゃないよ。」
そっ、カ。」

バレないように調べたものを元の場所に戻して、何事もなかったような顔でUndyneの元に向かった。

「ん、どうしたの?私の顔に何かついてる?」
「違うよー。聞きたいことが一つあって。」

「服はボロボロだけど、マントだけ綺麗だなーって。」
「あぁ、これ。これはね、私が昔仕えた人に貰った大切な、大切な物なんだ。だから綺麗に、丁寧に触るし扱うんだよ。」

手のひらでそっと撫でるように触れると、ニコッと笑った。

こんな優しい人だけれど、言わなければ。僕には目的があるのだ。

歯をぎり、と噛み締めて僕は口を開いた。

「あ、この本の中身見た?ダメだよ、この本は君には刺激が強過ぎるから-」
「あの、僕、地上に出たい、んです。」

その言葉の後に続いたのは、ごとっ、という音。

その後は暖炉のパチパチという音だけがただ鳴る。

僕は玄関の正面にある地下への階段へ走り出した。

あの顔が離れない。

けれど振り切らねば僕の目的は果たせない。

長い廊下を経て、出口であろう一際大きなドアにたどり着いた。

ドアノブに手をかけ、回す。

開かない。

「え-。」

その驚きの声が終わる前に、僕は先ほど通ったはずの廊下の壁に吹っ飛ばされた。

「いっ、たぁ!?」
「やっぱりUndyneヤバい人よ、思ってた人じゃないってどういう事よGorey!?」
だいぶまずいネ。」

立ち上がったは良いが、凍ったように足が動かない。

Undyneは最初の頃みたいに、表情がよく分からないまま槍を持ってこちらに歩いてくる。

思い切り振りかぶり、投擲されたそれは僕の喉笛へ確実に近づく。

せめて痛みを感じないようにぎゅっと目を瞑る。

「Undyne、僕は君に会えて
「何勝手ニ辞世ノ句ヲ読ンデルンデスカ。」

「「「はっ!?」」」

聞き覚えのある声に目を開けると、いたのはあの腹立たしいマネキン。え、何で、どこから?

「私、コウ見エテ武闘派ナンデス、ヨッ!」

ぐぐ、と身体を捻って飛び上がったと思うと、カキンと音がして槍が跳ね返った。

邪魔しないでよ。」
「何ヲ言ウ、私ハUndyneノ味方デス。タダ、ソウデスネェ。」

少し考え込むとそれは笑う。

「貴方ノヨウナ恐ロシイ人、私ノ知リ合イニハイマセン。」

怪物はぴく、と動くと、頭を押さえ始めた。

「貴方、手、出セマスカ?」
「えっ、あぁ。」

足以外はどうやら融通がきくらしい、言われた通り手を差し出すと、ガコンと余分な頭から槍が出てきた。

「君ビックリシステムすぎなイ?」
「私、観察ガ趣味デシテネ。面白ソウナノハ真似シタクナルンデス。マネキンダケニ。」
「ふふ、私は好きよ?」
「ボコリングサレテル間、彼女観察シマシタ。コノ槍ハソノコピー。ホボ完璧ナハズ。」
「じゃあ、身体が動かないのは。」
「焦リ過ギテ、タマシイ見テナイデスネ。」

はっとして見ると、タマシイがいつもの赤色ではなく緑色になっていた。

「ソレハ彼女ノオリジナル。食ラウト足ガ固マリマス。シカシ-。」

僕に向けたのはあの趣味の悪い顔だ。

「コノ状況ヲ打破出来ルノハ、『Undyne』ヲ知ロウトシタ貴方ノミ。彼女ヲ頼ミマス。」

「もちろん、ありがとう。」

その鼻先にコツンと拳を当てると、瞬きした後には消えていた。

風が吹き荒れる。

どうやら彼女は立て直し、僕を見据えているようだ。

来て、Undyne。」
「防げない分は僕がやル。君はまず慣れテ。」

Boogieは自分が腕のように扱う葉を盾の如く大きくする。

私は。」
「そこにいるだけで支えになるよ、Toriel。」
貴方らしいわね、Gorey。」

その声に呼応したのかUndyneは魔法の槍を大量に作った。

その光が彼女の影を一層暗く、深いものにしていく。

指をくい、とこちらに指すと複数本が飛んできた。その軌道はそれぞれ違う。

「これで受け流せってことだよね、よし!」

ちょうど良く僕の持つ槍の正面に攻撃が来る。

ガキンと音がして跳ね返せたは良いが、一つの攻撃が重く手が痺れる。

-防げなければ死ぬ。

細い腕に無理を言わせて槍を操った。

「結構痛いネこレ。」
「嫌な時は逃げるんじゃなかった?」
「言ったっけそんなこト!」

彼女は攻撃の手を止めない。

先ほどのは小手調べだと言わんばかりに、容赦無く槍を飛ばしてくる。

右、左、前、左

タイミングがずれているせいか目で追うのも疲れる

ガキン、ガキン、ガキン

でも何とか攻撃を捌けている、行ける-。

そんな慢心に飛び込んできたのは、不意の見逃した槍だった。

「やばイ!」

Boogieがいて尚死角を縫った槍は僕のタマシイを貫かんと狙う。

うぅ゛!」

途端彼女は唸り、それは僕の頬を掠り過ぎ去る。

血がつー、と流れた。

「Gorey、大丈夫!?」
「痛、けど、大丈夫。安心して。」

「あ、あぁ、わ、が子。」

ふらりこちらに踏み出そうとした彼女は、ぶんぶん首を横に振り、その場に留まった。

代わりに息を大量に吸って、慟哭。

「お願いだから家に居てよ!!!!我が子だって怪我したくないでしょ!!!!!」

初めてその顔が見えた。怒ってはいた。しかしその声は怒声ではなく悲鳴に近いものだった。

さっきまでの落ち着きなど欠片も無い、余裕の無いその声は本心だろう。今の彼女の望みはただそれだけ。

僕はそれでも首を横に振る。僕とUndyneの目的は苦しいくらい相容れない。

それを見たUndyneは残りの槍を全部放とうと構え、でもあまりに慈悲深い目で僕を見つめる。

僕は覚悟を決めてACTを開く。

「お家に戻ってよ。」

僕は首を横に振った。

「もうこんな事したくないよ。」

僕は首を横に振った。

「言う事聞いてよぉ。」

僕は首を横に振った。

「どうして私から離れようとするのぉ?」

肩を震わし、より強く首を横に振った。

どうしようもない、と彼女は髪を荒々しく掻き乱し、せっかく出した槍も消滅させ、その手に鎌を持った。

「出来ればこれは使いたくなかったんだけどね!!!」

それを振り回しながら走りやってくる姿はまさに死神。

でも彼女は槍を捨てたのだ。

僕も槍を遠く投げ捨てた。

「ちょっト。」
「え!?」

僕は目をぐしぐしと拭い、慌てる二人を宥めるように「しー」と言って彼女を待つ。

その刃は僕の首筋に当たらんと空を切る。



その刃は首筋に当たった。

でも、当たっただけだ。

だって、彼女が攻撃を止めたから。

「信じてたよ、Undyne。」

ごめんね。」

僕の命を狙った冷たい感覚が消える。

Undyneは膝から崩れ落ちた。

「ごめん、ごめんねぇ。」

彼女は優しく僕を抱きしめる。今回ばかりはTorielも怒らなかった。

「良いんだ、Undyne。僕が来てとても嬉しかったんでしょ?」
「うん。」
「名前が自分の仕えた人と同じで、自分の子どもと同じくらいの子どもだったから。」
「うん。」
「ただ、僕を守りたかったんでしょ?」

彼女は声を上げて泣いた。揺らめく瞳は最初に出会った頃と同じだった。

「ごめんねぇ、ごめんねぇ!」

「運命だと思っちゃったんだよぉ。私にマントをくれた人と同じ名前で、浮かない顔はBlookyそっくりで。喜んじゃったんだ。」

「私嬉しくて君に優しくしたんだけど、分かってたんだよぉ。でも分かりたくなかったんだよぉ。」

「君はその誰でもない『君』だって、もうあの子は帰って来ないって。」

「自分で勝手に手放して、落ち込んで、暴れて、昔と同じことばかり繰り返して。」

「結局こうして君を傷つけて。」

「きっと、きっと私が好きだったのは

『家族』を勝手に押しつけてごめんねぇ、利用しようとしてごめんねぇ。」

「自分の心ばかり満たそうとしてごめんねぇ。」

僕は背中をさするしかなかった。それはBoogieも同じだった。

彼女の涙は枯れることは無かった。

ひとしきり泣き、すっと立ち上がると鼻を啜った。

行って、良いよ。」

僕を見る目は穏やかで、でも惜しいと思っている目だった。

「良いの?」
「早く、私が心変わりする前に、行って。」

僕らに背を向けたまま、手に持った鍵で扉を開ける。

「バイバイ、また会う日まで!」

ふと、僕は思い出したことがあった。

僕はくるり振り返る。

「手、出して?」

その手のひらにモンスターあめを一つ手渡した。

「ちょっと怖かったけれど、助けてくれたりしてありがとう。」

それだけ言うと僕はドアを抜けた。

僕は分かっていた。僕に触れようとして掠めた手があったことを。

いかないで。」という声があったことを。

その声に僕は振り返ってあげられなかった。そうしたらUndyneの決めた覚悟を無碍にしてしまうような気がして。



ぐすっ。」
「泣かないノ、大体あの人他人でショ。」
「ん、そうだね。本当に泣きたいのは君だもんね、Blooky?」
「えっ。」

Boogie、もといBlookyは豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「な、なんデ。」
「自分の名前聞かれなくて悲しくなってたり、僕がUndyneに抱きしめられて眠ってたのを羨ましそうにしてたり。多分そうかなぁって。」
そうだヨ。」
「でも安心して、Undyneの電話の履歴を見てたら君が一番上で、それもつい最近のものだったよ。」
「それって、つまり。」
「Torielの思ってる通り。Undyneは君の事を忘れてないし、今でも生きていて欲しかったって思ってたんだと思う。」

「きっとずっと、あの人は家族の面影を探してたよ。」

ふふ、と笑ってBlookyを見ると、もうバッグに籠っている。

『恐ろしい』で終わらなくて良かったね。」

「あ、そうだ。BlookyとBoogieどっちで呼んで欲しい?」
「呼び方は統一しといた方が良いものね。」
Boogie。今は今で心地いイ。」
「分かった、じゃあ後はいっぱい泣いて良いよ。」
「からかうナ!!!」



私は何故か、廃屋の中を歩いていた。

どんどんと始まりの場所へ。

-ここであの子と会ったんだっけ。

「オヤ、奇遇デスネUndyne。」

声を掛けてくれたのは、いつものマネキン人形だった。

「さっきはありがとう。」
「何ノ事ヤラ。私ハ怪物退治ヲ手伝ッタダケ。」
「私の事を助けてくれたんだよね。あの子を殺さないように、ずっと見てたんじゃない。」
「イエイエ。マァシカシ、貴方ガ守ッタ最後ノ正気ハ貴方ノ人生ヲ面白クスルハズ。」
「私はとっくに狂ってる。それだけは確かだよ。」
「分別ガ付イテルナラ全然マシ。」
「君はずっと嘘つきだね。」
「失敬ナ。」
。」
「ハァ、皆様心配シマスヨ、ソンナ萎レテタラ。明日カラマタボコリングシテクダサイ。」
「はは、はぁ。」
汚レナキ思イ出ノ話ナラ、イクラデモ。」



またあの音が鳴った。目の前には例の光。

この世界は分からないことしか無いけれど、行かなきゃ。

僕は廃屋を後にした。

鍵の閉まる音を背に聞いて。


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