@SpaceIsVast16
前略 Undyneへ
覚悟を決めて僕たちを外に出してくれてありがとう。
そんな僕たちは今、
凍え死にそうです。
「さっむ!!!何ここ!?」
「花には辛イ!!!」
「造花だからマシじゃないの?」
「そんっな訳無いでショ!!!くしゅん!!!」
Boogieの鼻水が凍る。ここは冷蔵庫、いや冷凍庫だろうか。
枯葉がやたらと降ってくる地下世界は不思議だ、でもここはどうだ。
吹く風はカマイタチ、並ぶ木々に葉っぱは一つも無く、道行く道には草一つ生えていない。
この患者服というゆとりある服では凍死も冗談ではない。
異常な寒さという単純な言葉で済む寒さではない。
白い息さえ流れる事なく凍る-、そんな寒さだ。
錆びついた機械人形のように、一歩一歩ゆっくり踏みしめる。
それが僕の身体の限界を近づけているのを感じる。
肺が凍りそうだ。
息が苦しい。
僕の肌が、パキパキと凍っていくような感覚がする。
雪さえ降らないこの道はどこまで続く?
「あ!」
終わりの見えない中、急に聞こえたのは小さな子どもの声。少し向こうに小さな人影。
こんな中でよくもそんな元気がいいものだ。
それはとことこ近づいてくる。
「…だ、誰…。」
意識を保つのも危ない中、やっと見えたその姿は声に違わぬちびっ子、僕より小さい子どもだ。
僕の周りをくるくると回って、何かを確信すると大喜びした。
「あら、魔女っ子なオシャレさんね!」
「いいでしょ!ねーちゃんがおきがえしてくれるの!」
「へぇ…、って、ちょっと良いかな…?」
しゃがみ込んで手を出してみると、この子の周りだけやたら暖かい。バッグをとんとんと叩いて、Boogieも同じようにさせると、やっぱり同じ感想だった。
確かに魔女のようなコスチュームで、マフラーは巻いているが薄着の類である。上着も裾が広いくらいで特にモコモコというわけでは無い。
しかし持っている杖がなかなかに大きい。魔女帽を含めたこの子の身長くらいはあるんじゃなかろうか。
敵意は無さそうだ。少し失礼と抱き上げてみると、きゃっきゃと喜んだ。
湯たんぽのようにこの子と触れ合っていよう。
「お名前はなんて言うのかな。」
「Chara!だいまじゅつし、Chara!」
「おませさんダ、けど、いつか立派になって凄い魔法見せてネ。」
「とっても可愛いわねぇ…。」
Charaは僕の首元に手を回すと、「つかまえた!」とまた喜んだ。
この子の体温は温かい、というより熱いレベルだ。
小さい子の体温は高いと言うが、こんなものだろうか?
ぎし、ぎしと木で出来た橋を渡ると、Charaは上を見た。
「ねーちゃん!ねーちゃん!」
そう大きな声で言うと、ばさっ、ばさっと聞こえた。
羽の生えた人間?
その羽がしゅっ、と消えるとそのまま落ちてくる。
ずしんっ、ばきばきっ…
人間が落ちてくるにしてはおかしい音だ。地響きさえ聞こえた気がする。
地面にヒビが入った。
「ねーちゃん!つかまえた!」
ふふふ…、さぁ、僕にその子を渡して…?
Charaは僕の胸を蹴って宙返り、着地すると今度は僕を抱き上げた。
「…でか…。」
「でっかいネ…。」
「私よりでかくない?」
いや、本当にそうなのである。何か、縦にも横にもだ。いかにももちもちたぷたぷ。
見上げようとすると首が痛くなる。
するとその大きな腕は僕を、Charaも片手で抱きかかえる。
Charaは大きな人間の肩に乗った。
可哀想に、こんなにも早く魔女に捕まってしまうなんて…。
「いや、あれ男の子でしょ。」
「そうだネ。」
「そうね。」
そこはムード大事にしてくれない…?
「あっ、ごめん。」
ん…、じゃあ、哀れな君には僕が洗礼を浴びせてあげよう。
その左手が僕の身体に触れる。
一体、何を-。
「それ、こちょこちょ攻撃ー!!!」
えっ?
「ちょっ…、やめっ、あははははっ!」
「どうだー、恐ろしいでしょー、怖いでしょー、これが悪魔なんだよぉ。」
ニコニコと笑ってなお攻撃を続ける、なんて恐ろしい…!
「はぁ…、はぁ…。」
「んー、ごめんねぇ。一芝居打たせてもらったよ…、んっ。」
彼女は僕の服を見て、少し眉間に皺を寄せた。
「えと…、貴方は…。」
「僕は、Frisk。悪魔のFriskだよぉ。」
悪魔。
その割には見た目がどうにもそうじゃない。
もちもちたぷたぷ、はち切れんばかりのお肉たっぷりな体型に、同じくはち切れそうな服。
パーカーは暑いのか、最早入らないのか肩掛け状態だ。
汗をかいているし、本人がオーバーサイズだし、両方ともかな。
指貫グローブを見ると、昔の姿を想像してしまって何があったのか気になる。
「「Frisk!?」」
急に声を上げたのは僕を除く二人だ。
「え、僕を知ってるのぉ?関心関心だねぇ。僕ってば新入りさんにも認知されてるんだなぁ。」
ぽすぽすとBoogieを撫でると、少し寂しそうな顔をした。
「君は何だか…、いや、君に言うことじゃないねぇ。」
「ねーちゃん、ねーちゃん!ここさむいの、くろやぎさんもさむそうなの!」
「…そうだね、よし。」
指をぱちんと鳴らすと、僕の側に炎が出現した。自分の身をすっと離したが、ホッとする。
「熱くないから大丈夫だよぉ。さて、本題。」
「…いや、でも…。私、今日ちょっと頭こんがらがるわ…。」
「君はCharaに捕まっちゃったけど、まだチャンスがあるんだよぉ。それはパズルを解いていくこと。」
「えぇ、またパズルなノ…。」
「こーら、これはとっても重要なんだぁ。魔女から逃げたいでしょ?」
「いや別に。」
「逃げたい?」
「はい…。」
「よーし、じゃあ、Chara。パズルの先で待ち構えに行ってきてねぇ。僕は後から行くからねぇ。」
Charaの足をとんと叩くと、Charaはにひっと笑って走って行った。
「…やー、今日はちょっと忙しくなりそうだねぇ。」
「あの子、可愛いネ。」
「でしょー、あの子は本当に可愛くて…。僕にまた弟が出来ちゃうなんてなぁ。いっぱい愛を注ごうって決めてるんだぁ。」
「ねぇ、何で僕を捕まえたのにすぐに何かしないの?」
「過程が大事なんだよぉ。Charaは褒められたいんだぁ。いっぱいいっぱい頑張って、その先にある結果を褒められたら喜びもひとしおでしょ?」
Friskはメモ帳を取り出して、どういった言葉で褒めようかを決めている。
覗こうとすると、「ダメだよ」と僕の届かない場所まで手を伸ばした。
「…。」
しげしげとBoogieはFriskをぽよんぽよんしている。
「ん、何?気になる?好きなだけしてて良いよぉ。でもCharaをあんまり待たせたくないからそろそろ行くよぉ。」
「あ、あぁごめんネ。いヤ…、んン…。」
Boogieがその感触を堪能すると、Friskはのしのし地面に足跡を刻みつけて行った。
「Boogieって意外とデリカシー無い?」
「い、いヤ…。なんて言うカ、昔の癖?かナ…。」
「分かるわよ、気になるわよね、色々と。」
「そのよく分からない目を向けないデ!?」
「色々と」?体型の事だろうか。
一際大きな、飾られた小屋がある。
何とかそこにあった椅子に上り、少し物色するとお菓子の袋に焼き菓子のアルミホイルが大量に突っ込まれていた。
机の上には酒の瓶が少々。
うん、健康面が心配だ。
いや人のプライベートにあれこれと言うのは失礼か。
何にせよ、そろそろ行かなきゃCharaがぐずるだろう。
僕は足跡の続く方へ歩き始めた。