@SpaceIsVast16
-久しぶりだな。この仕事は。
雑然とした部屋の中で小さくこぼした。
誰が聞いている訳でもないというのに。
どうやら地上に出る最後のピースが集まったらしい。
名前はAsgore、何とも嫌な偶然もあるものだ。
ぎり、と拳を握る力が強くなる。
ここに来るまでにはGhost Townを通らなきゃならない。あんな極寒、通り抜けられるだろうか。
そこで死んでりゃ俺は仕事をしなくて済む。そしたら俺は泥のように眠る。
でも、きっとFriskもCharaも手助けしてるんだろう。ここに来るのは確定だろうさ。二人ともお人好しだしな。
はぁ。
胃が痛くなってきた。結構辛いんだよなこれ。
なぁ、二人とも。
ソイツと仲良くしてるのか?
Charaはソイツに懐いて、ころころと笑ってるのか?
友達になってしまったのか?
頼む。
そんな事にはなっていないでくれ。
俺は、きっと…。
たった一人、男は祈るように机に突っ伏した。
-
僕はパズルで絶賛足止めを食らっている。
地面に紙切れ一枚、これがパズルで合ってる?
Boogieがひょっこり顔を出すと、なるほどと呟いた。
「これ、クロスワードパズルだネ。」
「これもパズルなの?」
「二重の意味で言葉遊びなのよ。小さいのに良いセンスしてるわね。」
別に仕掛けも無さそうだし素通りしても良いのだろうが、せっかく用意してくれたパズルだ。少し目を通してみることにした。
「はる、なつ、あき、ふゆ…、…何この意味不明な文字列…。」
最後に出てきた暗号と思しき言葉に悩んでいると、のそ、と背中に感触があった。
「わーい、つかまえた!」
どうやらまんまと僕たちは引っかかったらしい。Charaが乗っかって僕を取り押さえている。
「わー、捕まっちゃったなー。」
「あら、お馬さんごっこみたいになっちゃって。」
「えへへー!」
取り押さえられてはどうしようもない、が、先に進まないとどうにもならないので一応立ち上がってみる。
「あれ?」
立ち上がれたうえにいやに軽い。これくらいの子どもだともう少し重さを感じるはずなのだが、僕でも普通におんぶ出来る。
「わお、力持ちだネ。」
「あー、多分、そうなのかな?」
むぎゅとくっつく温かさを感じながら進むと、今度はパイがどんと置いてあった。
「こんな寒さに直置きしてるの?」
「うん!たべて!」
「電子レンジは…、当たり前だけど線が抜けてるわね…。」
「いや、もしかしたら食べられるくらいの硬さかモ…。」
「じゃあ確認してみる?」
Boogieが「え、ヤダ」と言うのであっち向いてホイで決める事にした。
一発で僕が負けた。
わくわくしているCharaの気分を損ねたくはない、と叩いて確認してみる。
ガコンッ
全身に衝撃が伝わっていくくらいカチコチである。まん丸お目目のお花は笑いをこらえている。
「Chara、ごめん…。これ食べれそうにない…。」
その言葉でCharaは泣きそうな声になった。「いらない?いらない?」と慌てるので宥めてみても効果無し。むしろ声を上げて泣いてしまった。
「どっ、どうしよコレ!?」
「あー出来る事なら私が抱き上げたい!でも無理!」
「このパイ食べたいところだけド、本当に無理なんだっテ!」
歯が折れる覚悟で食べるしかないか、とパイの方向を向くと無くなっていた。
さくっ、しゅわっ…
静かになってみるとそんな音が聞こえる。焼きたてを食べてるみたいな…。
さらに視線をスライドするとFriskがいた。顔は見えないけどこの大きさはまさに彼女である。
「げぷ、美味しかったよぉ。」
Friskはご馳走様とお腹をすりすりさすっている。
「ねーちゃん…。」
「この子達に食べさせたかったの?」
「おいしいっていってほしかった…。」
「うーん、それならお家で食べさせた方が良いよぉ。ここじゃカチコチになっちゃう。」
「ぱじゅる…」
「うん、パズルが終わったらみんなでパーティー、ね?」
少し凹んだ声で「うん」と言うと、Charaは先に向かった。ぷひゅぷひゅという音を残して。
「ごめんねぇ」と彼女は僕に目線を合わせる。
「あんな状態じゃ食べられないよねぇ。でも、食べようとしてくれた事はありがとうだよぉ。」
「あの、歯は大丈夫?」
「君は本当に良い子だなぁ、大丈夫だよぉ。僕が炎魔法使えること忘れてた?」
「あ、そっか…。」
僕の周りをふわふわ浮いている炎も「そうだぞ」と僕の目の前でとどまった。
「Friskの胃袋って底なしなノ?」
「君は心配性過ぎぃ。食べられるから食べてるだけだからねぇ。そういうところもソックリ。」
ニコッと笑い、少し視線を上げる。
「あと、白やぎさん?Charaを可愛がってくれてるようで何よりだよぉ。」
すくっと立ち上がると、Charaの宥め方をアレコレと思案しながら彼女は後を追った。
「ちょっ…とドキッとした。私のことは見えてないみたいだけど目が合ったから…。」
「お化けと悪魔、意外と相性良かったりして?」
「ハロウィンにしては人がいないけド。」
赤い空の下、おかしじゃなくておどかししか無い閑散とした道を辿っていけば、バッテン二つが地面に現れた。近くにはボタンがある。
そして案の定棘がある。地下世界の皆んなはこれが好きなのだろうか?
「あっ!きた!」
チョコをいっぱい抱えてご満悦なCharaがお出迎えだ。
「今度はどんなパズルを用意してくれたの?」
「えっとね!ばつをまるにするの!おてほん!」
バッテンを踏むと丸に変わった。
「でも、もういっかいふむとね…」
丸が三角に変わる。
「こういうときはボタンをふんでやりなおし!ぼくがかんがえた!」
腕組みをしてふんす、と僕の方に向き直す。
「へぇー、ルール自体は結構簡単なんだね、ありがとう!」
「うん!…またね!」
棘を棒高跳びの要領で飛び越えると、すたこらと影が小さくなっていった。
「…さっきから思ってたけど、Charaって身体能力凄くない?」
「杖があるといっても流石にネ。」
ここのパズルは簡単、と指示通りに動くと棘がサッと消えた。
「さぁ、次はどうなってるかなぁ?」
「…。」
「Toriel、どうかしタ?」
「あ、いや…。気のせいかしら?」
僕たちが首を傾げると、Torielは不器用に笑ってみせた。
疑問に思うのも束の間、少し先には次のパズルが広がっていた。
バッテンがぎっしり一面に広がるパズルの光景は流石にちょっと怯んだ。
見た目に圧倒されて少し判断が鈍る、どうすれば良いか…
「これも凄い簡単じゃなイ…?」
「一列ずつジグザグにいけば出来るわね、これ…。」
ふと聞こえた呟きに、子どもながらに考えた「さいきょうのパズル」は呆気なく突破された。何だか凄く申し訳ない気持ちになった。それは見た目にも表れていたようで、気にすることは無いさと二人は言った。
何とも言えない気持ちを抱えて進んで、Charaは向こうで待っていた。Friskと共に。
Charaはあの時の顔のままだ。Torielは何を思ったのだろう。
「こんどはすごいの!なんかすごいカラフルなパズル!」
「ねーちゃん、ちょっとこっちきて!」
Charaの言う通りにFriskが少し移動すると、背後から骸骨のような機械が出てきた。なかなかイカしたデザインだなぁ。
「僕から説明するよぉ。まず赤のタイルは通れないよぉ。次に黄色。これは電流が流れて一つ前のマスに戻っちゃう。緑のマスは警報。パズルの後僕と戦おうねぇ。オレンジは…」
「ねーちゃん、はやく!」
「はいはい、じゃあスイッチオン。あ、ピンク色は安全だから普通に進んでねぇ。」
どうやらランダム生成らしい、目まぐるしくカラータイルの色が変わっていく。
「目が痛くなるー…。」
「完成するまでちょっと時間かかるし後ろ向いてて良いよぉ。」
後ろを向いてしばらく待つ。
返事が無い。
またもう少し。
まだ来ない。
ぷひゅ、ぷひゅ…
「Friskー、パズル完成したのー?」
返事は無い。
流石に痺れを切らしてばっと後ろを振り返ると、Charaの靴の音がした理由も返事が無かった理由も分かった。
完成したパズルはピンクのマスが一直線、それ以外は赤のマス…。
もはやただの一本道が完成していた。
Friskはと言うと、誰かに電話していた。それもただならぬ雰囲気で、キレたToriel以上に殺気を放ちながら。
「…アレの前通るの?」
「いや、流石に僕ら悪くないかラ…。生きて通れるはずだヨ…。」
「あんなFrisk初めて見たわよ…。」
誰が悪い訳でもないが、触らぬキレたFriskに祟り無しだ。出来るだけ視界に入らないようにこそこそと早歩きでその前を通過した。
-
「…何であんなパズルにしたの?」
「このパズルは子どもにとってハード過ぎるッ、それにピラニアにアイツが食われる様子をCharaに見せられないでしょッ!」
「いや、まぁ、そうだけど…。」
「…でも、Charaには謝っていて欲しい。俺様がビビったせいだし。」
「…まぁ、間違いじゃないからね…。仕方ない、僕が宥めるよ。ごめんね、僕の方こそ考え無しに怒っちゃって。」
今日は色々とハラハラするなぁ…。あ、笑う人いないんだった。てへっ。
-
見張り小屋がある。しかし誰もいない。
その理由は今見えている。
余りにも首が長い犬にそれは小さ過ぎるからだ。
どこからともなく犬の鳴き声が聞こえると思ったら、目の前のこの犬らしい胴体が正体だったのである。
「地下世界って本当へんてこりんだね…。」
「まぁ…、喋る犬も花もマネキンもいるシ…。」
胴体を見るにだいぶ困っている。
僕のタマシイがふよふよと反応しているのでこれもまた戦闘らしい。
ACTを開くと「ナデナデ」がある。なるほど、犬といえばそれだもんね。
* ナデナデ
何も起こらなかった…?
「ちょっとBoogie、一緒にこの子ナデナデして欲しいな。僕だけじゃ疲れるから…。」
「良いヨ。何が起こるか楽しみだシ。」
ナデナデナデナデナデナデ…
よくよく見ると、どうやらまるで掃除機のコードをしまうような感じでシュルシュルと縮んでいるらしい。
ナデナデナデナデ…
バチンッ!
思い切り顔を胴体に打ちつけて、犬は気絶した。
* YOU WIN!
* 0EXPと60ゴールドを かくとく!
「これ僕らが悪者に見えない?」
「仕方なイ、風が凌げる見張り小屋に運んであげよウ。」
どさっ…
ちょっとこれは乱暴過ぎない?
もウ、お人好しなんだかラ。
そこがGoreyの良いところなのよ?
ここをこう整えて…、そっちお願い!
…
「よし、机に突っ伏して寝てる感じになった!これの方がワンちゃんも良いでしょ!」
「事件性が増してる気がするのだけど…、まぁ、Goreyが言うなら…?」
少しかじられた骨がデスクに置かれている小屋に寝かせた僕らを待っていたのは雪モフたちであった。
「さっきまで雪が無かったのにここだけ…。」
「地下世界って不思議ねぇ。私でも知らない事だらけになってるわ。」
雪モフをモフモフしていると、どうにも固い何かが埋まっていた。そこには30ゴールドに、バレエシューズ。
* バレエシューズを てにいれた…。
「これ、僕何かに使えるかな?」
「えぇ…、何そレ…。」
「足元が寒かったら履けるんじゃないかしら?」
しかしながら僕の足にはどうにも爪先部分が狭い。強いて言えばコレクションくらいにしかならない。
少し落胆している中、見つけたのは一際大きな雪モフ。
「あれ凄く大きくない?」
「雪モフ…、じゃなくてかまくらってやつね。」
「へぇ、誰かがあの中でくつろいでたりする?」
「こんな人通りも無いのに無いでショ。」
「じゃあ僕らでかまくら初体験しよっか!」
「「「お邪魔しまーす!」」」
いた。
思い切り先客がいた。
しかもガタガタと震えて縮こまっている。体にはもはや小さな氷柱が出来ているところからして長い間ここにいるのだろう。
怖いとここまで声が出ないものなのかというほど、叫び声一つ出ない。
「…。」
「…。」
「えと、お邪魔しました…。」
「あ、あ、ま、待って…。」
律儀にも僕の方へ向き直して声をかけた。
「な、何?」
「あの…、厚かましいことは承知なんですけど…、あ、あったかいもの…。食べ物持ってないですか…?」
鞄の中を漁る。ゆきだるまのかけら、モンスターあめ2個、どぅなつ、キンキンに冷えたサイダー。それに食品サンプルの如く凍ったスパゲティ。
何一つとして温まりそうなものが無い。何かあるかと期待させたのが凄く気まずい。
「…な、無かった、んですね…。」
「…ごめんなさい…。」
「い、いえ。元はと言えば私がドジだから悪いんです…。ま、また何か手に入れたら…、ここへ…。」
もう先も長くなさそうな女性を放置するのは心苦しいが、今の僕にできることは何も無い。何度もぺこりと頭を下げて、時々振り返りながら先に向かった。
いかにもという雰囲気の一本橋、これが最後のミッションというやつだろう。
今度のCharaはカッコいいヘルメットを被っている。手にはトランシーバー。Friskは相変わらずそこにいるが、困り顔である。
「このパズルはほんとのほんとにすごいんだよ!えっと、どかーんってなる!」
「一本橋で!?」
「うん!そこでまってて!」
パズルというよりかは見せしめの処刑だ。これはちょっとやり過ぎな気がするのだけれど…。
そんな僕をつゆ知らず、トランシーバーの周波数を合わせ、誰かと連絡を取る。準備ができたかのやり取りがなんとなく聞こえる。
「ふぁいあー!」
間髪入れず聞こえたのはその声だった。僕の旅はここで終わりらしい…。
しん…
何も起こらない。Charaもぽかんとしている。
もう一度連絡を取る。
「ねー!ふぁいあしないの!?」
「…弾がジャムった。」
ぼそりと聞こえたのはそんな声。
「ジャムったって?」
「ジャムをパンに塗るこト。」
「近年稀に見るストレートな嘘ね。」
途端耳をつんざいたのは大きな泣き声。
わぁわぁどころかぎゃあぎゃあと泣いている。
「なんにもうまくいかないよぉぉ…、いっぱいいっぱいがんばったのに…、みんなからいっぱいほめられたいのにぃぃ…。」
-Charaは褒められたいんだぁ。
Torielが濁した言葉の正体が分かったかも知れない。僕らは、あの子のことを。
「僕らはCharaのことを、面と向かってちゃんと褒めたっけ。」
そう思ってCharaの方を見るともういなかった。
吊り橋の向こう、そのまた遠くへ消えていた。
もう下など見ずに駆けて追う。
橋を抜けた所でFriskは声を掛ける。
「Charaは今、僕の手でも負えないくらいご立腹なんだ。きっとあの子は『最終手段』に出る。君もなんとなく分かったんでしょ。」
「…うん。」
「アドバイスをあげる。あの子をうんと褒めてあげて。いつも顔を合わせてる僕よりも、きっと、君の方が良い。」
僕は何も言わず、ただ一回首を縦に振る。
「この先はGhost Town、人の少ない閑散とした町。Charaはその向こうで君を待ってる。」
「そして僕からのお願い。」
「絶対に、絶対に、あの子を悲しませないで。」
その声はいつもの優しい声ではなく、少し低い、真面目な、そして少し悲しそうな声だった。