@SpaceIsVast16
見間違いか?
あの小さな体躯でステータスが999?
目をぱちぱちとして、深呼吸。
「よし、もう一回『ぶんせき』しよう。」
「もしかしたらこれが壊れてるかもしれないし…。」
「夢でも見てたかナ。」
結果は同じだった、何だこれは。
何度もCharaと「ぶんせき」で目線を行ったり来たりしていると、途中でCharaは少し顔をしかめた。
ひゅるるん、ぱしっと手に持ったのは棒切れ、なんの変哲も無い、そこら辺に落ちている棒切れ。
「こないならぼくからいく!」
素早く構え、軽く投げる。たったそれだけの攻撃。
次の瞬間、僕の目の前にはそれがあった。
反射でしゃがんだのが功を奏して、僕の頭の毛を少し掠める程度だった。
でも僕の息はそう安心したものでもない。
はっ、はっ、と不定期に熱い空気が漏れる。
「…これくらいはやってもらわないとこまる!」
ただの様子見だったのか、今回はこれだけで済んだ。でも、次は?
僕はへたり込んでしまった。さっきの威勢は風に吹かれて消えていった。
「Gorey、しっかり…。」
「まだ一回だけだヨ!これからどうするノ!」
-死なないで。
なるほど確かに、恐ろしい。
そんな僕を見て、Charaはからんと杖を落とす。
しばらくの沈黙の後、近づいてくる間抜けな靴の音。
でも僕にとっては何よりも恐ろしい。ホラー映画に出てくるピエロのような、そんな感じ。
それは僕の目の前で止まった。
「ちょっと後ろに下がってくれるかナ…!」
せめてもの抵抗でBoogieが尖った葉っぱを地面から突き出してもひゅっと避けた。
本当に目の前ギリギリで出したのに、最低限の動きそれだけで。
「…どいて?」
怒っているのかどうかも分からないその声だけがぽつりとある。
ひっ、と三人が声を出すと、Charaは僕をハグした。ぽかぽかと暖かい。
「…たたかい、まだはじまったばかりだよ。」
そうとだけ言うと、ぎゅむと力を強くした。
しばらくそうすると、僕に向かってべっと舌を出し、元のポジションに戻っていった。
「ありがとう、Chara。もう少し頑張れそう!」
「必要以上に怖がらせないジェントルな貴方カッコいいわよー!」
「可愛いやつメー!」
Charaは少しもじ、としたものの、「うるさい!」と返す。
「…Charaは、ただ素直になれないだけなのね。」
さっきの行動しかり、タマシイを奪うという宣言の声も、明らかに躊躇している様子だった。
「今度はもう負けないようにしないと…。」
Charaはそこら辺の木の枝を沢山集めている。
「いくよ、つぎはしとめる!」
木の枝がガトリングのように向かってくる。でも何だか、さっきと違って速度は遅い。
「さっきの一回で慣れちゃったかも!」
「あれだけビビってたのニ?」
「それは言わないお約束よ!」
しゃがみ、姿勢を変え、飛んで。
直線的な軌道だから、見慣れてしまえば簡単だ。
しかしそれは見えているものだけ。
「…いった…。やっぱり全部は避けきれないか…。」
腕に足に、ひゅっと切れたような痕が残る。
さっきより遅いとは言っても物量がある。少し気を抜くと二、三本は肌を掠める。
「さっきので体力ちょっと減りすぎじゃなイ…?」
「え?」
そういえば体力ゲージなど気にしたことも無かった。確か最初は20だったはず。
目を落とすとたったの「5」であった。切り傷は少ない、たった二、三なのに。
「何でぇ!?」
「Charaのステータスが高いからよ、私たちよりずっと!」
「こういう時ってどうしたら良いの!?」
「ITEM、ITEM開いテ!」
慌てふためきITEMを開けば、今まで手に入れたアイテム達がお出迎え。「トマトスパゲティ」を選んだ。選んだはいいが…。
完全に硬さが食品サンプルなのである。逆さにしようとパスタがこぼれ落ちてくれないのが寧ろ悲しいくらい凍っている。
「どうしたら良いのぉ…。」
「モンスターあめで我慢よ、Gorey…。」
どれもこれもキーンと脳天に響く冷たさだが、今はそんな贅沢を言っていられない。
* モンスターあめをたべた。
* 10HP かいふく!
「つめたぁ…。」
頭を押さえ、しばしの悶絶。
「くろやぎさん、つめたいのはいや?」
Charaはにやりと笑う。
「なら、ぼくがふぁいあしてあげる!」
杖を僕に向け、力を込める。すると、火の玉が現れた。
その火の玉が触れた風は熱風に変わり、僕の肌に触れる。
「くらえー!」
何の変哲も無い木の枝さえ凶器に変えるCharaだ、この火の玉でさえ、ビームのように撃ち出すのだろう。
さぁ、どう来る。
僕はそれを凝視し、すぐに走れるよう身構える。
………
動く気配は無い。現れただけで、ずっと留まっているのである。
「んもー!またしっぱいした!」
地団駄を踏み、かっ飛ばそうと火の玉を杖で叩く。すると一瞬で、杖がぼうっと燃えた。
Charaも予想外だったのか、声を上げてそれを見つめている。僕らも呆気にとられた。けれど、僕だけはそこから我に返るのが早かった。
Boogieの入った鞄を投げ捨て思わず駆け寄った。少し素直じゃないからといって、Charaが焼けて灰になって良い理由にはならないから。BoogieとTorielの声が聞こえるけど、止まれない。
「Chara!危ないから離して!」
杖に触れる。加減の無い熱さだ。手から離せないのは、こんな事になって考えが止まったからだろう。
はっと僕を見たCharaの顔は一瞬驚きがあった。口をへの字に曲げ、何か言おうとしたが、どんと僕を突き飛ばした。
「これもさくせんのうち!くろやぎさん、ここからほんばん!ぼくはだいまじゅつし、まじょだぞ!わるいこだぞ!」
眉間に少し皺を寄せ、どこか吊り目に見えるようなひきつり顔で笑う。
その杖をぶんぶんと振り回し、炎の軌跡が描かれる。
一見芸術のようだが、見惚れている場合ではない。
「もう、早めに決着をつけなきゃね…。」
「そうだね!ぼくがかつけどね!いたいのがいやならにげていいよ!」
僕は逃走の構えを、向こうは攻撃の構えを取った。ずっ、と土を引く音と共に。
僕が走り出し、Charaが攻撃したのは同じタイミングだった。
僕の背中が燃えそうな熱さが背中に伝わる。
それをものともせず全力で駆け出す。誰もこんなのを望んでいない。僕も、二人もFriskも。そして何より、Charaが。
「Boogie、Toriel!この戦い、早く終わらせないとまずいと思う!」
「どういう事!?」
「Charaは絶対無理してる!」
「邪悪な顔してるけド!?」
鞄を拾うと、僕はACTを開いた。
* アイテム
僕はどぅなつを取り出し、演舞のように暴れるCharaの杖にすっと差し出した。
じゅう、と氷が溶けていく。
「なにしてるの!」
「Charaの炎が役に立ったんだよ!ありがとう、Chara!」
ニコッと僕が笑うと、ぴくっとCharaの動きが少し止まった。でも、振り回すのはやめなかった。
「からかっちゃダメよGorey!」
Torielは僕に怒る、でも僕がやりたいことはそれじゃない。僕がやらなきゃいけないことは、それじゃない。
「Boogie。」
「なニ?」
「もし、Charaが-。」
「…分かっタ。」
「お願い。」
「Toriel。」
「何!?」
「もし、Charaが-。」
「…。まったく、あなたらしいわね…。」
演舞から乱舞へ、僕を倒さんとするその杖の速度は依然早い。でもはっきり言って木の枝よりも遅い。時折、杖を落としてしまいそうになる。
それでもCharaは僕に向かってくる。歯をぎりりと噛み締めて。
燃えるような熱さを幾度肌を掠めただろうか、僕の服にもちりちりと焦げ跡がつく。
その杖は黒く焦げ、先にある光の結晶は弱く輝く。
「ぎ…、ぃ…。おねがいだからタマシイうばわせて!ぼくはほめられたいの!…みんなから!」
もがくような声が混じるようになった。袖にも炎が燃え移り、次はどこへ燃え移ろうかと炎が揺らめく。
「…嫌だ。」
Charaがしたように、僕もべっと舌を出した。
カチンと来たのかCharaは杖をやっと投げ出し、太ももに巻いたホルダーからナイフを取り出して駆けてくる。
もう引き返せないという勢いで。
「これで、さいご!もうこのたたかいは、おしまい!!!」
それは可愛いCharaとは思えないくらいの絶叫だった。
-
ふんだ。くろやぎさんがほめないのがわるいの。ぼく、いっぱいいっぱいがんばったのに。ほめてほしかったのに。
パズルもパイも、ぜんぶ…。
でもこれでぼくはいっぱいほめてもらえる!ぼくつよい!すーぱーひーろー!
くろやぎさんのタマシイ、みんながもとめてる!みんなからほめてもらうの。にーちゃんからほめてもらうの。ねーちゃんからも!
…あれ?
ぼくへんなこといってる。
ぼくがほんとうにほめてほしかったのはくろやぎさんでしょ。いなくなったらほめてもらえないよ。おかしいの。
でもタマシイうばおうとしてる。ほめてほしいのにおかしいの。
きのえだなげたら、くろやぎさんちぢこまっちゃった。
ぼく、もしかしてとってもわるいことしようとしてる…?
どうしよう。あやまったほうがいいかな。でも、ゆるしてもらえるかな…。こわいな…。
…
ほのおあつい、あつい…。くろやぎさん、やさしい。でもぼく、てきのまま…。
パーティー、できない…。
-
「Boogie、お願い!」
「やっと来タ!」
死角からツタを伸ばし、Charaのナイフを弾いた。
「いっ…!」
「さぁ、頭を冷やそうね!」
Charaを抱えると、側を流れている川にCharaの手を突っ込んだ。
「頭じゃないね、手だね?」
「…。」
「Toriel。」
「…なぁに?」
「やっとこの子を褒められそう。」
「ふふ、そうね。」
じゃぶじゃぶと冷たい水に浸けたその手は、案の定火傷を負っていた。でも、軽い。これならすぐに治りそうだ。
「Chara、やっぱり熱かったんだ。」
僕はあの時のCharaの顔を思い出していた。口はへの字で、眉は八文字。
「作戦じゃなかったのに、どうして戦いを続けちゃったの?」
「だって、だって…、なかなおり、してなかったから…。」
ぽつり、ただそれだけ言った。
僕はACTを開く。
♡ アイテム
「じゃあ、仲直りの印あげる。」
さっきのドーナツを取り出し、半分をCharaの口に近づけた。良い感じに冷めてくれたようだ。
「おててまだ痛そうだし。」
「じゃあ、僕が持ってあげよウ。」
あ、と口を開けて、少し固まる。
「…怒ってないよ。」
そう言うと僕らはぱくり一口かじった。
ふう、と息を吐いたのはToriel。Charaを包むように何も言わず座った。
「Chara、困ってる時は仲直りしなくても言って良いんだよ。」
「ごめんなさい…。」
「でも、僕分かってたよ。」
「なに…?」
「あの時突き飛ばしたの、僕に火が燃え移らないようにするためでしょ?結局僕も、手を火傷しちゃったけど。」
「…。」
「Charaは優しいなぁ。あ、僕のことは気に病まないで!」
Charaはもぐ、もぐと噛み締めるようにそれを食べる。無表情なような、きょとんとしているような顔で。
「そういえば、Chara?言い忘れてた事があるの。」
「…。」
「あの棒高跳び、すっごいカッコよかったわよ。将来はアスリートになれるわね!」
「……。」
「僕も言い忘れてタ。用意周到なパズル、その整備をいっぱい頑張ったの凄いネ。将来エリートになれるヨ。」
「………。」
「そして僕も言い忘れてたんだ。あの時、ビリビリ迷路の時、僕の手を引いてくれたこと、嬉しかった。ずっと言えなくてごめんね。ありがとう。」
Charaは泣き出した。
「ごめんなさい、ごめんなさい。タマシイうばうなんてウソついて、みんなからほめられたいなんてウソついてごめんなさい…。」
謝るべきは僕らの方だ、僕らが言いそびれた一言の積み重ねがこんな事を引き起こしたのだから。
今度は言いそびれない。とっても大切なこと、言わなきゃいけないこと。
「僕らの方こそ、ごめんね…。」
* YOU WIN….
「うわぁぁぁん…。」
わんわん泣くCharaをおんぶして町に戻ると、Friskが待っていた。
「Frisk、僕、死ななかったよ。」
「…ありがとう。僕もやっと、Charaを褒める言葉が出来たんだぁ。」
ひょいと僕たちを小脇に持ち上げると、Friskの家であろう建物に向かった。
「あーあ、結局私手伝い出来なかった。」
「そうでもないよ。Charaの違和感に気づいてなかったら、僕は今頃どうなっていたか…。」
「何がともあレ、ってヤツだネ。」
少し強い風が吹き、一枚のメモが飛ばされる。
誰も気に留めないままそれはふわり地に落ちた。
「くろやぎさんとともだちになれるなんてすごいね、Chara。」
ミミズ文字で書かれたその筆跡に迷いは無かった。