@SpaceIsVast16
外装こそお化け屋敷のようなおどろおどろしさがあったが、中は洋館のようなお洒落な家だった。
しかし気になるのは、家の中の物がだいぶ大きいことだ。テレビにソファ、キッチンにドア、何でもだ。
おおよそFriskに合わせた大きさなのだろうが、いざ目の前にするとその大きさに驚く。Friskはぼふっと僕らをソファに座らせた。
彼女は部屋に入ると、何だか可愛らしいサイズの箱を持ってきた。
「さぁて、二人とも?手を出して。」
開けてみると救急箱のようだった。軽い火傷とはいえ放置はまずい。Friskは大きな手で、しかし優しく器用に手に包帯を巻いてくれた。
「ねーちゃ…、ぼく…、もう…。」
「ん、そうだねぇ。いっぱいがんばったもんねぇ。」
Charaはばったり倒れた。いきなりふっと倒れたのでビックリしたが「電池切れ」らしい。ほっぺにおやすみのキスをすると、小さなブランケットを掛けた。
そういえばあの杖の先、光が消えている。アレがCharaの活動エネルギーだったんだ。
「ちょっと、お話でもしよっか。」
くたびれた一人用のソファにどっかりと座る。
「まず、Charaの事。どう思った?」
「え。」
あまりに漠然としている。特段怖いと思ったこともないけど、そう言われると返事に困る。
「まぁ…、元気いっぱいの子どもだなぁって。」
「Asgoreに同じク。」
「そうとしか言えないわよねぇ。」
その答えで、Friskは安心したように笑った。
「そっか。」
「実はCharaの事、色々と話したくて。」
「何だそんな事カ。」
「意外と大事なんだよ?聞いて驚いても良いんだよー?」
「まぁまぁ、それで、Charaの事って?」
Friskは横目に眠っているCharaを見て、僕に視線を戻して話す。
「Charaって人間じゃないんだよね。」
何の冗談だと思ったけど、顔にジョークめかした表情はどこにも無い。
「…本当に?」
「Charaと友達になってくれた君には伝えておかなきゃってね。ビビった?」
「いや…。怖くはないけど。」
「だろうねー、流石僕が見込んだ黒山羊さん。」
ニコーと笑うと、言葉を続けた。
「僕の友達によると何か体の構造が変なんだって。いや、僕も知らないよ?でも確かに、元気無い時に食事をしてるとめきめき元気になったりするんだよね。不思議。」
「そういえば、Charaってすごく強いけどあれは何なの?」
あぁ、と言うと彼女は少し言葉を選ぶ。
「僕が思うに、Charaは戦闘用に『造られた』んだと思う。地上っていうのは碌でもないからね。平気でそういうことするよ。」
「…。」
「でも、本当の本気で君たちが戦ってたら君は一瞬で消し炭だったよ。」
「やっぱリ?」
「長いこと戦ったのに、ここまでCharaが意識保てるのって多分、凄く抑えてたんじゃないかな。」
あぁ、そうか。木の枝のスピードが遅くなったのは-。
僕はのそのそ静かに移動し、Charaの頭を撫でた。
ぎし、と背もたれに身体を預けると、途端にFriskの顔が曇る。どこか上の空だ。
「あと、これは身の上話でしかないけれど…。褒めて欲しい理由も言っておこうかなって。」
正直それは少し気になっていた。何がCharaをそんなに突き動かすのか。
「僕って元々お化けで、Charaと初めて会った時、僕は『タマシイ半分ちょうだい』って言ったんだ。ハロウィンのトリックオアトリートみたいなものだよ。そしたらさ、迷いなくあの子は半分渡してきたんだ。僕もびっくりして顔を見たら本当に無表情。僕に縋りついてきた。『いっしょ』って。」
そう言って、Friskは自分のタマシイをぽわんと出す。半分だけの、赤いハート。
「僕と同じ色だ。」
「本当だネ。」
「…そこから、まぁ生活してると少し違和感があってね。何かにつけて『ぼくにやれることはない?』って聞くんだ。で、大丈夫だよっていうと凄く焦る。でもある日、Charaはお菓子を作った。でっかいバタースコッチシナモンパイをね。」
「美味しそうね…。」
「でもその時、僕は今ほど食べない少食だったんだ。」
手でジェスチャーをしながらこのくらい、と言う。
「だから、頑張って食べたけど途中でギブアップしてさ。もういらないって聞いた瞬間にCharaは僕に凄い力で抱きついてきた。その時の言葉、何だったと思う?」
何か言おうとしたけど言えなかった。只事じゃないのだけは分かる。僕が何を言っても茶化しにしかならないと思った。
ため息を吐く。それは悲しみかそれとも別の何かか、僕には分からない。
「『ぼくをきらわないで!すてないで!』だったよ。」
絶句した。そして共に湧き上がる感情。この気持ちは恐らく今抱いたのが初めてではない。
「子どもが言って良い言葉じゃ、ないわよね…。」
「自分を必要として欲しかったんだネ…。」
「そういう事。だから、僕頑張ったんだよねぇ。お菓子美味しかったから、これを伸ばしてあげようってなって。いっぱいお菓子食べて、食欲が増すって言うからお酒も飲んでね。」
へへ、と笑うが、さっきみたいな屈託の無い笑顔では無い、苦笑い。
「だからこうなっちゃった。味を褒めるとCharaは凄く喜んで、味の研究をするからね。でもね-。」
ぼしゅっと手のひらから炎を出す。ぱちぱちと鳴るそれを静かに見つめる。
「Charaはそれで『褒められたい』って思うようになった。でも、それだけなんだ。褒められるなら何でもするかも知れない。それが怖かった。自衛のために僕は魔法の手解きをしてたから。だから君に死んでほしくなかった。」
そこまで言って、僕はやっと口を開いた。
「そこは大丈夫だと思う。」
「…そう?」
「じゃなかったら、皆んなから褒められたいのが嘘だなんて言わないよ。」
「そっか…。」
「あと、君はCharaの為に色々考えてる頑張り屋だよ。」
束の間の静寂のあと、ふっと彼女は笑った。
「ありがとう…。」
少しくぐもったその声の後、彼女は頬をぱしぱし叩く。
「あぁ、重い話をしてごめんね。君たちに飲み物も出してなかったのに…。何が良いかなぁ?」
「紅茶!」
「ココア!」
「私は…、えーと。…。」
「白山羊さんは?」
「…紅茶。」
「僕と同じだって!」
「りょうかーい。」
キッチンから鼻歌が聴こえてくる。何だかいつもの呑気なFriskが戻ってきたようで安心した。初めて鼻歌を聴いたはずなのに、いつもよりノってる感じさえある。
「お待たせー。」
「…カップも大きいね…。」
「あ、ごめん僕用のしか無いんだよここ。」
「ココア浴びるほど飲めるの幸セ!」
「それは良かったよぉ。」
Torielは出されたティーカップをすかすかと透過していた。
「もう!幽霊って辛い!」
「はいはい。」
僕は香りだけでもと、Torielの顔の前にティーカップを持っていく。
「…久しぶりの紅茶ね。飲めたら良いのだけど…。」
ずず…
「え?」
「え?Frisk、もしかして、これお化け用?」
「ピンポーン!コネで手に入れちゃってねぇ。いやぁ人脈って大事だよぉ。ゴーストサンドイッチもあるから適当に取ってねぇ。」
「す、凄い細やかな気遣イ…。」
「久しぶりの食事、何て嬉しいの…。」
彼女はそんな僕らを微笑ましく見る。
「君たちが僕たちとずっと一緒なら、Charaはもっと元気になるかもねぇ。」
「何か言った?」
「何でもないよぉ。」
ひとしきり楽しい時間を過ごすと、Friskは思い出したように部屋に行った。
今度は何だと思うと、その手にあったのは服だった。
「君にプレゼントだよぉ。ちょっとした気分転換にもなるだろうしぃ。Charaにはちょっと大きすぎて持て余してたんだぁ。」
「わぁ、ありがとう!」
「流石にここで着替えるのはアレだし、僕の部屋に行ってらっしゃい。ちょっと面倒な事させちゃうけどぉ。」
「行ってらっしゃーイ。」
「どんな格好になるかしら…?」
-
「着替えてきたよ!」
「結構良いねぇ。」
「Gorey素敵よー!」
「ウェイターさんみたイ。」
赤に一本の黒ボーダーの襟付き服にベスト、そして黒のスラックス。よく分からないけどとにかく良い感じだ。
「炎魔法はまだ付けとくよぉ。ここはまだ寒いし…。次の場所まで来たら消してあげる。」
「Fortress、だっけ?」
「うん。そこにはSansがいる。」
「Sans…、どこかで聞いたような…。」
僕を抱き上げ彼女は言う。
「SansはCharaよりよっぽど強いよ。だから気をつけて。多分君をしつこく追ってくる。」
「…分かった。」
「あと電話番号交換しとこうか。もしもの時のためにね。」
うわぁ、何これ懐かしい…。
そんなに前のやつなのこの電話?
相当前だよこれ…。
「じゃあ、行ってくるよ。」
「…また会おうね。」
僕は二人の家を後にした。あの川の流れる場所、完全に気がついていなかったが戦艦がいる。
「…おい。」
「うわっ、喋った!」
「…仲直り出来て良かったな。あまりに凄い俺でも、あれは素直に凄いと思ったぜ。」
「あ、ありがとう…?」
-
脱ぎ捨てられたあの服。
僕はそれを覚えている。
僕もCharaも、同じ服を着てここに来た。
忌々しい服だった。
僕はそれを最大火力で炭にした。それだけでは飽き足らず踏みにじった。
「可哀想に。」