@SpaceIsVast16
「では行くぞ、私の科学力を見るが良い!」
高らかに叫ぶと床や壁から一つ目のマネキン達が現れた。甲高い声でけらけら笑う声が聞こえる。
「私はしがない科学者、今はMystery Dummyと名乗っている。あの世で私と出会えたことを誇りに思え!」
それを合図に、小さなマネキン達が一斉に僕らへ向かって飛んできた。
こんな狭い中で、とぐるんぐるん円を描くように逃げ回っていると、途中で狙いがつけられなくなったのかMystery Dummyの方へ向かって行った。
「ちょ、ちょっと待っ-」
言い切る前にどかどかとマネキンがぶつかり爆発していく。向こうがけしかけてきたとはいえ、こうも綺麗にぶつかっていくのは少し哀れだ。
「お前の科学力も大したことないなー、あんだけ出したのを全部食らうなんて。」
「かつてはもっと凄いものを作っていたのだがな…。やはりこの体では…、いや、言い訳は無用!改善の余地有りだ、有用なデータをどうも、侵入者たち!」
何故か晴れやかな顔で僕らに感謝を述べる。敵対しているのか何なのか、調子が狂うとはこのことか。
隣を見ると、Torielが顔をしかめて彼を見ている。
「どうしたの?」
「いや…、何かあの顔見たことあるような…。誰だったかしら…。」
わちゃわちゃと話していると、今度は大きなトカゲのモンスターの方が前に出てきた。
「俺はMons-、いや、私はGoner。俺の蹴りは痛いから気をつけてくれよな!」
前のめりにぐぐ、としゃがむと、凄いスピードで僕の目の前まで距離を詰めてきた。
「うわっ!」
思わず体が固まる。Gonerの顔を見上げることしか出来ない。
その刹那、僕の角の上すれすれをハイキックが通り過ぎた。
「あっぶナ…。」
陰って怪しくなった笑みをこちらに向けて彼女は囁く。
「ごめんなー。俺的には攻撃したくないんだけど、君は今侵入者としてアイツに追われてるだろ?だからちょっと複雑でさ。ま、少し付き合ってくれ!」
本当に何なんだこの二人は。
仕事はしたぞという足取りで戻っていくと、案の定Mystery Dummyからお叱りを受けているようだった。Gonerの方は豪快な笑い声で軽く流していたが、Boogieはコントでも見せられてるのカと呆れていた。
勇み足でまたMystery Dummyが出てくると、丸っこい手をこちらに突き出して何かを準備し始めた。
「私の昔の発明からインスピレーションを受けてね。威力は落ちるが、これならどうかな?」
その手から赤い光線が放たれた。昔の発明って、もしかして-。
嫌な予感がして壁際に素早く避けると、床にはその軌道の抉れた跡が残っていた。
顔を上げるとさっきのマネキンまで飛んできている。でも、これなら-。
「Gorey、前にも気をつけて!」
マネキンはマネキンでも、Mystery Dummyまでもが鎖で繋がれた手を振り回して僕に突進してきていた。
少し吹き出しそうになったが、笑い事ではない。この道は狭く、さっきのミサイルを避けるのでギリギリくらいの広さしか無いのである。
「前と横がダメなラ、僕に任せテ!」
Boogieがバッグから消えると、天井からツルが伸びてきた。
「放り投げるから一気に抜けテ、良いネ!」
ぎゅるんと引き上げられ、ボウリングの球を投げるように僕を階段へ一直線に投げ飛ばした。
「おっと。」
Gonerが目の前に立ちはだかり、柔らかくチェストトラップされた。尻尾でぐるぐると巻かれ、じゃれ合うように笑う。
「へへ、キャッチー!」
「もう!ゴミ捨て場に長居したくないんだってば!」
「仕方ないだろー、出来るだけ攻撃はしないようにするからさっ!」
その言葉も虚しく、今度はゴミ捨て場の方にぽいと投げられる。
この隙に何か攻撃を入れられる-
と思いきや、今度はMystery Dummyがぜぇぜぇ息を切らし、ぷるぷると震えている。お互い決め手に欠けた拮抗状態だ。
「はぁ…、はぁ…。な、なかなかやるな侵入者よ…。」
「無理すんなって、おじさん。」
ゆらゆらと僕らに近づいてくると、巨大なマネキンの頭部が僕らを囲んだ。
「私の奥の手を使わせるなんてな…。あまり使ったことのない代物だ、君でなら心置きなくデータが取れる。」
ゆっくりとその口が開く。
「こノ…!」
「おっと、邪魔しないでいただけるかな?」
鎖を伸ばし、そのツタを弾いた。僕が助かる道はどうやら断たれてしまったらしい。
「私の技術発展の礎となるが良い。」
「思い、出した…。」
「ちょ、ちょっと待って!」
たったっと駆けてきたのは、聞き覚えのある声。
「こら、Asriel君!危ないから来ちゃダメって言ったじゃないか!」
「ご、ごめんなさい。でも、その子…、と、友達なんだ。だから、やめて!」
Mystery Dummyは豆鉄砲を食らったような顔をすると、急いで攻撃を取りやめた。
次に口を出したのはTorielだ。
「あなた誰かと思ったら、私の頃にいた王国直属の科学者ね!やっと思い出せたわ!何でそんな姿をしているの?」
今度は彼女を見上げると、少し間を置いて声にならない声を上げた。
「あ、あぁ…。…じゃ、じゃあ、君の名前は…。」
「えっと、Asgore。紅茶が好きです。」
絶叫して跳び上がると、膝をついて頭を垂れるような姿勢をとった。
「久しい限りでございます、前女王陛下…。」
僕とBoogieは顔を見合わせて、今度は僕らが声を上げて驚いた。
「え、Torielそんな偉い立場だったの!?」
「お城のことも知ってる訳ダ…。」
「貴方は…、いや、違うか。そうだよ、君と共にいるのはとても偉い人だったんだよ。今は幽霊だけれどね。」
確かによくよく考えると、服はボロボロなのに別にみすぼらしいようには見えなかったし、変わった紋章があった。なるほど、どうりで。
「この人があの眉唾理論を唱えたのよ。」
「へぇーこの人が…。確かにオカルトな見た目してるし。」
「納得だネ。」
「科学とオカルトは対極に当たるもの、きちんと筋道立てて説明出来るんだぞ?」
わいわいと騒ぐ声の中、小さな声がはっきりと聞こえた。
「ママ、そこにいるの……?」
Asrielはきょろ、きょろと何とかその目にTorielの姿を捉えようとしている。
Torielも抱きしめようと腕を広げたが、力無くだらんと下ろしてしまった。
「確かに、そこにいるよ。」
「…見えない……、けど…、もし本当にいるんだったら、おじさん、Asgore、伝えておいて。」
もごもごと口を動かすと、ふぅ、と息を吐いて言った。
「僕を置いて、どこに行ってたの……。」
肩を落として、すごすごと帰っていく。
「あ、お…、んん、Asgore…。ぼ、僕の家来て、良いよ。」
Gonerは僕の隣に目を向けると、Asrielの頭をぽすぽす尻尾で撫でながら帰っていった。
「…Toriel……。」
僕もBoogieも、Torielの顔を見れなかった。見ちゃいけないような気がして。Mystery Dummyも同様に、顔を見上げず黙っていた。
小刻みに震える声が止んで、マネキンは口を開いた。
「Asriel君、貴方のご子息は…、私どもが守っております。本来であれば彼には兄がいたそうなのですが…。今では、Asriel君はずっとテレビを見ております。」
そこまで話すと、ここで立ち話も何ですしと家まで連れていってもらった。
中に入ると明るいもののどこか暗い雰囲気が漂っている。床には封筒が散乱し、乱雑だ。
AsrielはGonerがくっついているが、浮かない顔のままだった。
-
「申し訳ないっ!!!」
「いや、良いよ。僕無事だし…。」
「Asriel君の友達とはつゆ知らず、とんだ無礼を働いてしまった…。煮るなり焼くなりしてもらって構わない!」
「随分と重いナ…。」
かれこれ数分床にごすごす頭をぶつけ続けている。その度部屋の隅の方から「うるせーぞボロマネキン」という声が聞こえる。
Torielも座り、いつになく真面目な声色で話す。
「貴方は仕事が出来る人だったから、教えて欲しいことがあるの。」
「はっ、何でございましょうか、女王陛下。」
「ここにいた人は一体どうなったの?聞いてた話だとSnowdinの人々のほとんどがここに流入したらしいけれど…。」
暫くの沈黙。言葉を選ぶように彼は話し始めた。
「この世界にいるほとんどのモンスターは、近頃塵と消えてしまいました…。モンスターのタマシイは愛や希望、思いやりで出来ている…。私が思うに、その内の一つでも欠けてしまうと不安定になってしまうのでしょう。この地下世界には進展が無い。ただ停滞と暗雲だけが立ち込める場所ですから。」
Asrielの方を眺めると、ぼんやりとまた口を開いた。
「あの子には、少しでもまた誰かと関わることを楽しんで欲しいのです。私が彼に教えてもらったように。ご近所の子どもたちだけでも少しだけでも明るくなって欲しいので、モンスターの歴史を教えたり、化学教室を開いたりしております。」
表情こそ口元のガスマスクで分からないが、優しい人だということは分かる。そして、ようやく心当たりを思い出した。
「もしかして、タマシイについての本を書いたのは-。」
「私だよ。昔は腕利きの研究者だったんだ。そりゃもう地下世界に知らぬものはいないくらいにね。今は女王陛下と同じく霊体さ。」
腕を組みながら聞いていたTorielは姿勢を直し、優しい笑顔を浮かべた。
「貴方には感謝してるわ。Asrielを守ってくれていたこと。そして今努力していること、きちんと評価しなきゃね。」
「はっ、ありがたいお言葉…。」
再び頭を垂れ、言葉遣いが丁寧なものになる。
すると黒い煙をむんずと掴んで、Mystery Dummyを持ち上げた。
「それはそれとしてGoreyを襲った事は許さないわよ。」
「ひぃ!大変申し訳ございませんっ、Sansが動くなんてよほど恐ろしい存在なのかと思いまして、あと良いデータが取れるかなぁ、なんて…。」
「はぁ!?」
「ごめんなさい今のは無しです!無しです!」
その様子を見てGonerはゲラゲラと笑い、Asrielの表情は少し明るいものになった。
「あ、あの。」
「どうしたノ。」
「さ、さっきの、無し。ママに伝えて欲しいこと。」
「…言ってみて、Asriel。」
「さ、寂しいけど、今はおじさん達と一緒で楽しい。友達が帰ってくるまで、僕、頑張る。」
ぽとりとMystery Dummyが手から落ちる。ふふ、と笑い声がした。
「大きくなったわね…。」
-
あぁ、そういえば。
あの時Asrielは急に怯えて逃げ出してしまった。話が聞けずじまいでずっと気になっていた。今なら聞けるかもしれない。
「Asriel、聞きたいことがあるんだ。」
「な、なぁに。ふふ…、う、宇宙観察したい?」
「その、あの時怯えちゃった理由。僕が怖がらせちゃったりとか-。」
その質問は最後まで言い切れなかった。
目を見開き、小さく枯れた声を漏らす彼がそこにいたから。
Asrielはどこか遠くを見ていた。あの時のように、うわ言にしてはやけにハッキリとした恐怖を話そうとしながら。
「ぼ、僕は、僕は-。ぼ、僕が守らなきゃ、い、いけなかったのに、あの時-。」
頭を抱えて、廃屋の時と同じく小さく丸くなってしまった。せっかく元気になってくれたのに…。
それを見て、この場にいる誰よりも早く反応したのはBoogieだった。
僕の額に顔を突き合わせ、少し悲しそうな、怒ったような顔をした。
「Asrielは二人と同じで優しくて、君と違って脆いかラ。」
その後、Mystery DummyとGonerに引きずられて正座で懇々と説教された。
「Asriel君は、ちょっと色々あったからね。そういう事を安易に聞いてしまうと取り乱してしまうんだ。」
「そういう訳。いきなり深い傷に触れちゃダメだ。君がアズの小さい頃に似てなかったら蹴っ飛ばしてたかも。」
「ご、ごめんなさい…。」
「……。」
分かったらよしと言われたが、一種のトラウマを想起させてしまったままで放っとくのは申し訳ない。
何か良い話題が無いか辺りを見回す。
「あ、女王陛下。少し大事なお話がありまして。外でお話させてもらえませんか。」
「私?何かしら…。」
Boogieが体を伸ばして机の上のPCを見ると、嬉しそうな声を上げた。
「これ、もしかして音楽作ってるノ?」
Asrielもそれに反応して、再び笑顔を浮かべた。
「そ、そう。パ、パソコンでポチポチしてね。出来るの。」
「へぇーこんなものガ…。使い方教えてヨ。」
二人は楽しそうだ。僕が下手に口を出すよりも、Boogieに任せた方が良いだろう。
そっとカバンを床に置くと、肩をとんとんと叩かれた。
「しっ。君は俺と秘密の話をしような。」
「ん、何…?」
二人と対角線上になるように部屋の隅へ行くと、Gonerの声のトーンが変わった。
「実はね、私は彼の友達の姿を借りた、その友達の思念体。その思念に従って私は彼をお世話しているんだ。」
「えっ、それって…。」
「うん。私はタマシイを持っている訳でもない、モンスターとも幽霊とも似て非なる存在…。そして私はその友達と同じ時間、同じ場所に居られない。難儀なものだよ。ちなみにその友達の記憶を、今現在を私は知っていてね。時折それを彼に話すことがあるんだ。」
「それが、どうしたの?」
「君はこう思わなかったかな。『それならAsriel君は友達を待つ必要など無いのではないか』と。」
あっ、と思わず声が出た。それに気づかれる前に慌てて口を塞ぐ。
「どうしてだと思う?」
「えぇー、なぞなぞ?」
「ヒントはね-。」
耳打ちをすると、ふふふとGonerは笑った。次に言葉を口にする時にはさっきまでのGonerに戻っていた。
「そうだ、お膝に入りなよ。というか入って欲しいな。」
「え?あ、うん?」
言われるがままにGonerの膝に入ると、ぽふんと顎を僕の頭に置かれた感覚がした。
「あぁー、ずーっとアズにこうしてたかったなぁ。すっかり大きくなっちゃってなー、ちょっと寂しいなー。」
へにゃへにゃと聞こえる声にこもる複雑な感情。
「ところで何でAsrielは僕たちの事に気づいたんだろう?」
「あー、あれ?俺が呼びに行った。」
「そうだったんだ…。」
「誰かを傷つけるのはシュミじゃないし、ボロマネキンがあのまま攻撃してたら、アズ悲しむだろうなって。」
「Asriel思いだね。とっても。」
「おうよ、俺はアズのお兄ちゃんだからな!」
GonerだけどGonerじゃない誰かが話した事が、その時腑に落ちた。
「えっ、何ですって!?」
突然外から聞こえてきたのはそんな声。AsrielとBoogieの二人はびくっと振り向き、Gonerは「お。」とにやーっとしてそうな声を出した。
「女王陛下のご子息に惚れてしまいまして…。そ、その…。」
「いや、良いけれど…。それはちゃんと伝えたの?」
「いえ、まだ…。私自身迷いがありますので…。私の歳といい、色々と。」
「…もし踏み切ったなら、ちゃんとお話してちょうだいね?」
「…はい。」
「あ、あ、お、おじさんおかえり。」
「ただいま。何でもない、何でもないよ皆んな。」
「いやいやいや」
-
「じゃあ、また会えたら!」
そう言って僕は家を後にした。
「Asrielは良い人に巡り会えたのね…。」
「…良かっタ。」
「ふふ、二人とも楽しそうだったね。」
「じゃ、僕はMystery Dummyに倣って頑張るかなー。」
「Sansはきっと、いや絶対また追ってくるからネ。」
「じゃあ、進みましょうか!」
僕も二人に会えて良かった、というのはちょっと照れ臭くて言えなかった。でもその思いはずっと胸に。