@SpaceIsVast16
-にいちゃん、すごいぞ!かっこいいぞ!
-いいだろこのマント!テレビのヒーローみたいだろ!
-ヒーローそのものだ!
-いつかほんとうにヒーローになって、あくをくじきぜんをたすけ、このせかいのみんなをすくうんだ!へへへ!
-そういやあの「ヒーロー」は、どんな事をしてたんだっけな。
ここに来るまでにそんな事が何度も頭をぐるぐると巡っていた。あの輝かしい顔が、何度も鮮明にフラッシュバックしていた。
最近は何もかもが俺にとってストレスで、記憶も曖昧になっていく中で、その会話の記憶一つだけは色褪せなかった。
今俺が掲げるこの「正義」は正しいはずだ。この世界の皆んなを救うための正しい行動、そのはずだ。さっき決めたじゃないか、本当の本当にタマシイを奪うと。俺なら出来るさ。
なのに、どうしてだろう。
こうして自分に言い聞かせないとアンタの前に立ちはだかることすらまともにできないのは。
怖いと思ってしまうのは。
-
相変わらず顔に影がかかって表情が読めない。でも今までより恐ろしい事をしてくるだろう雰囲気が漂う。
僕はACTを開き、ただ一つある「ぶんせき」を開いた。
* Sans 5 ATK 5 DEF
* 「えがおをたいせつに」を ポリシーとしている。
「まずは手始めといこうか…。」
長く息を吐くと、先ほどの赤い骨を空中に大量生成した。
「行くぜ?」
右手で顔半分を覆い、左手で僕を指差すと一斉に動き出した。
僕を突き刺そうと飛んでくるそれは速い。避けようとした僕の頬を掠め、血がたらりと垂れる。
それでもCharaの木の枝よりは余程遅い。そんなに大振りに動かなくても、体をすっと翻すだけで大体は避けられる。慣れたら大丈夫だ。
「やる気あるのかヨ。」
「…あぁ。…多分な。」
こき、こきと首を鳴らすと、生成した骨の内のいくらかに魔法をかけた。
「痛い思いをしたくないなら逃げるんだ。」
先ほどと同じ構えで骨を撃ち出すと、その骨の軌道が変わっていた。
真っ直ぐに僕を突き刺しにやってくるものに混じって、地面にぶつかり跳ね返ってくるものが現れた。
身を翻し避けながら、のけ反りながらも避けなきゃいけない…。
「Asgoreのスタミナ削るような真似すんナ!」
「Boogie、それは跳ね返しちゃダメよ!」
気の抜けた声を出した時にはもう遅かった。力任せに跳ね返したのは魔法のかけられたあの骨。
今のBoogieの力はもの凄い。そのせいで壁に天井に滅茶苦茶に跳ね返り始めた。
「いっ…!」
しまった。跳ね返る骨に気を取られて僕の腕に骨が一本突き刺さった。またそれに気を取られて顎に骨がヒットした。
「Asgore!あっ…。」
滅茶苦茶に跳ね返っていたあの骨が、Boogieの脳天に思い切り叩きつけられた。
ぐらりと揺らぐと、ぐったりと意識を失ったみたいだ。
今の魔法はSansにとって基本中の基本だろう。それでも僕は満身創痍、息が上がる。
「今の…、HPは…。」
HP 8/20
♡ITEM
♡うちゅうしょく
* うちゅうしょくをたべた。
* まぁまぁのあじ。HPが21かいふくした!
「あ…?僕、気絶してたのカ…。」
「おはよう、Boogie…。アイツ、前評判に違わず結構強い…。」
Sansを見るとカタカタと震え、再び息が荒くなっていた。気分が高揚しているのだろうか、笑いが混じっている。
「……や、やるしか、ないのか…。」
口から吐き出た言葉と共に今度は真っ青な水色の骨が現れた。今度は空中ではなく、地面から生えるような形で。
「何、これ…。」
「地下世界じゃ青色は止まれの意味を持つ…。オレンジは動けだ…。地上とは真逆なんだ…。」
「ぶつくさ言って、要約しろヨ。」
「避けちゃダメってことよ。」
とはいっても、Sansの言うことを安易に信じていいものか。僕を仕留めるために嘘をついているんじゃないだろうか。
不安になったのでこの世界の常識をよく知っているであろうTorielに確認を取ると何と本当らしい。
ふとSansを見るとじっと僕らを見つめ、そして俯いた。聞こえてきたのは「大丈夫」という、自分に言い聞かせるような声だった。
「…良いか?」
顔を上げ、左手を抉るように振り上げると、鈍い音をあげて青い骨が僕に突撃してきた。
避けちゃいけないと分かっていても、やはり怖いものは怖い。
ぎゅっと目を瞑ると、何かが通っていく感覚こそ、その風こそあれ痛くも痒くもない。
「…これで、何が起こるの?」
Sansが指をぱちんと鳴らすと、僕の体が沈んだような感覚に陥った。
「へ…?」
驚きも束の間、脛ほどの高さで壁から壁へ届くような長さの骨が迫る。さっきまでの避け方じゃ通用しない。
「よいっ…しょ!」
飛び越える形で何とか避けられたが体が重い。こんな変化を及ぼすということは、とBoogieの方を見ると、タマシイが青くなっていた。
Boogieには何の影響も無さそうだ。そもそも宙に浮かんでいるからか、それとも-。
「あおこうげき、ビックリしたか…?」
大胆不敵にSansは笑う。やはりあの骨がトリガーか。
「早いところ体の調子に慣れるんだ…。」
お互い息を整えると、Sansは再び骨を生成した。赤いものも水色のものも。いくつかに魔法をかけながら。
「せいぜい生き残れ…!」
あのビームを出すやつまで出してきた。でもやはりチャージに時間がかかるみたいだ。アレの軌道は直線的で良いとして、問題は骨だ。
骨を飛び越えながらひらり躱さないといけない。飛び越える場所も右に左にと移動しないと避けられないし、跳ね返ってくる骨が恐ろしい。
「Boogieはあの真っ直ぐ飛んでくる骨を弾いて!」
「了解!」
これである程度はマシだけど、それでもカバー出来ない骨は僕自身で避けないと…
重たい体に汗が滲んできた時、足元に鈍痛が走る。
高さが足りずに当たってしまった。倒れ込むと背中にも激しい痛みが何度も走った。
「Gorey!」
TorielとBoogieが心配そうに僕を見つめる中、それでもと、勿体ないが「ゆきだるまのかけら」を手に取る。
「……!」
Sansの目が少し明るみに見えた。それは僕の思ったものとは違った。
地面に跳ね返った骨が、僕が手に取ったそれを弾き飛ばした。
目の前のあれの準備はもう出来ている。
Boogieのガードも間に合わない。
眩い光の中、最後に見えたSansの顔は-。
-あれ。
僕は死んだはずだ。でもどうにも僕は息をしているらしい。
生きている?
立ち上がって周りを見てみると真っ暗で、SansはおろかBoogieもTorielもいない。
ここは何処?僕は一体どうなってるの?
不意に僕の前に白い光が浮かんだ。
「何…?Load、Reset…?」
急にこんなのを出されても、と困惑する自分がいる。でもここから抜け出すにはきっとこれをアレコレしなきゃいけないんだろう。
Resetは違うよね…。どこか遠い記憶だけど、間違えて何かの機械をリセットして誰かに凄く怒られたような…。
Loadを押したら何が起こるだろうか。何も分からないけど押してみなきゃ何も始まらない。
♡Load
僕の辺り一帯を光が包む。目を開くと、そこに広がっていたのは-。
「-それが今俺が掲げる、『正義』だ…!」
あの言葉は聞いたことがある。Sansが戦う前に言っていたやつだ。何、どうなってるの?
最初に、戻ってる…?
あの時の記憶はある。アイテムには「うちゅうしょく」が残ってる。
「Gorey、大丈夫?何だか慌ててるみたいだけど…。」
「そりゃそうだヨ。だってアイツどう見ても今ヤバいシ。」
軽口を叩くBoogieだけど、Sansは力だけでどうにかなるような奴じゃない。
僕が今持ってる知識を使わないと未来は変わらない!
「Boogie、お願いがあるんだ!」
「何だイ、僕のパワーを存分に使うカ?」
「違う!Sansが骨に魔法をかけた時…、弾き返さないで!」
何だそレと返したBoogieも、まぁ何か作戦があるんだロと納得してくれた。Torielは相変わらず不思議そうな顔をしている。
「…アンタ、何か顔つきが変わったか。」
「…そう?」
「気のせいかもな…。何にせよ、俺の、やる事は……。」
そう言うとあの時のように息を吐いて、骨を生成した。
「……。」
そして同じような構えで骨を発射した。
やはりこれは簡単だ。最小限の躱し方でどうにかなる。
次、同じく骨に魔法をかけた。僕が今やってるのはあの戦いの追体験。でも会話が違う。ここからどう行動を変えるか…。
「ちびっ子は元気に運動するのが似合ってる…。」
またあの軌道だ。真っ直ぐに飛んでくる骨と跳ね返ってくる骨で分かれてる。
相変わらずのけ反るのは体に負担が掛かる…、この状態からすぐに他の骨を避ける体勢になるのも。
「Asgore絶対それ辛いだロ!何で弾き返しちゃダメなんダ!」
「魔法がかかった骨をBoogieの力で弾き返したらあちこちにものすごい勢いで跳ね返っちゃう!それに、魔法がかかった骨を見分けられる!?」
「…なるほどそういう事ネ…、力だけでどうにかならないの嫌だナ…。」
いくらか切り傷がついたものの、あの時のような事態にはならなかった。よし。
「なかなかやるな…。…あんまり手荒にはしたくなかったんだが…。」
あの青い骨がやってきた。動かなければ当たらない、もう怖くない。ただ-。
「この重さだけは慣れないな…、よしっ!」
最後の骨を、さっきよりは軽やかに飛び越えた。
「初めてであの骨を怖がらず避けるなんて、上出来だな…。」
「Gorey、青い攻撃の法則知ってたのね?」
「あー…、えっと。うん!」
ここからが問題だ。
あおこうげきを受けた状態で戦うとジリ貧になって、まともにやった所で勝ち目が無い。ACTには…、無い。MERCYに…、あった!
♡にげる
戦闘から離脱、タマシイの色も元に戻った!
「逃げてどうするつもりなの!?」
「任せてってば!Boogie、僕をSansの後ろに放り投げて!」
「逃げるが勝ちを地で行くカ!」
すぱんと投げられ着地すると、Sansもすぐに反応した。
「行かせるかヨ!」
僕とSansの間に配線の壁が出来た。彼から見えないうちに非常扉を開け、先に続く道を走り抜ける。
-待て。
目の前にSansが瞬間移動してきた。
電灯が点滅した部屋と同じ…、あれもSansの能力か。
「…じっとしていてくれ、頼むよ。」
「…嫌だ。僕、もう死にたくない。君がどれだけ頼んでも。」
「……。」
背後で大きな音を鳴らして扉を破壊したBoogieとTorielが合流すると、ぽんと肩を叩かれて再び戦闘になった。
分からない。君はどうして、こんな時に一思いに攻撃しないんだ。電灯の部屋でもそうだ。どうしてあの時僕を攻撃しなかったんだ。
僕を殺した時だって、どうしてあんな顔をしていたんだ。
「仕切り直しと行こうか、侵入者…。」
「うわっ、タマシイの色ガ…。」
言葉だけでタマシイが青くなった。青い骨はトリガーじゃなくて単なる言葉遊びだったのか。そして、そういうことか。
効果の対象を僕だけに絞ってる。
あのビームを放つ強面の兵器を出現させると、赤い骨と水色の骨の波状攻撃が再び始まった。
「そういえば、確認したいことがあるんだ。」
「今度は何だイ、Asgore。」
「アイツのビーム、Boogieは防げるかなって。」
「僕を誰だと思ってるのサ。君の力を借りたBoogie様だヨ!」
「仲良しねぇ、ふふ…。いや、今はそんな時じゃないわ。」
この攻撃に長くは付き合っていられない、続けられてもこのターンだけだ。
「Boogie、あれのチャージが終わるまでは真っ直ぐ飛んでくる骨を弾いて!」
「はいはい、お任せあレ!」
足元を攻撃してくる骨を飛び越える中で時折青い骨が混じるのが厄介だ。動かなければ当たらないけど、跳ね返ってくる骨や防ぎ漏らした骨に当たるリスクがある。
「いった…!あぁ、もう!」
そんな事を思っていると地面にぶつかった骨が僕の顎に直撃した。でもこれを痛がってたら全部やり直しだ!
はっとのけ反ると、僕の顔面をスレスレに骨が過ぎ去った。危なかった…。
「Boogie、あれのチャージ終わってる!」
「僕のパワーをナメるなヨ!」
ビームの発射と同時に、Boogieが壁を展開した。向こうから轟音が鳴る。
静かになり壁が崩れると、相変わらず笑顔のSansがいた。
さてここからどう逃げるか。そういえばSansのあおこうげきは体を重くする。骨は僕のスタミナを削るような配置をしている。
僕を近づけたくないような。
まさか-。
「また、Boogie。ちょっと。」
こっそり耳打ちすると親指を立てた。そしてこれ見よがしにタマシイを分離させた。
「何をするつもりだ…?」
「何でも。ただSansの弱点を突くだけ。」
今度は僕がにやりと笑うと、Sansの近くの四方八方からカプセルが大量に発射された。
するとSansはビーム兵器の頭骨を呼び出し、防御態勢をとった。
「やっぱりね、ステータスがそこら辺のモンスターより低かったもん!」
♡にげる
べっ、と舌を出すとそのまますたこらと再び逃げ出した。
-「ヒーロー、ってのはさ-。」
「Gorey、もう出口みたいよ!」
煌々と輝く掲示、確かに向こうが出口のようだ。
「ハロー、仕事は果たしたヨ!」
Boogieも生き残ったことだし、それに向かって一直線に走る。
もうすぐで-。
手の届きそうなその時、赤い骨がその扉の前に大量に地面から突き出した。
「…もう、追いかけっこは終わりだ。」
僕のタマシイが青色に変わる。すると顔が思い切り地面に叩きつけられた。
「Gorey!」「Asgore!」
さっきより強く、重く地面に引き寄せられる。
彼の左目がギラギラと光る。本当の本当に終わらせるつもりだ。
重い頭を何とか持ち上げSansを見ると、地面を蹴り、手に持った薙刀を僕のタマシイに向けて飛び出していた。
Boogieがカプセルを打ち出しても都度瞬間移動するせいで当たらない。
彼は僕の目と鼻の先まで来ていた。
-あぁ、やっとアンタのタマシイを奪える。
俺の夢が叶うんだ、世界の皆んなを救えるんだ。
これは「正義」だ、正しいことさ!
分かってる、この世界ではそれが「正義」と言われるのは。
このタマシイを奪えば皆んなは俺をヒーローと呼ぶだろう。
でも、薄れた記憶の中を一生懸命探ってようやく見つけたんだ。
ずっと俺が怖がっている理由を。この迷いを断ち切れる理由を。
あの日夢見た「ヒーロー」はただ逃げる子どもを-。
たまたま特別なタマシイを持っただけの子どもを-。
僕の頭の空を切る感覚が走った。
でも僕の身には、何も起こらなかった。
とどめを刺さんと突き立てた薙刀は僕のタマシイを壊さず止まり、そして消えていた。
「テレビで見た『ヒーロー』は絶対に、こんな事しなかったんだ……。」
仰向けになって顔を見ると、あの時のように笑顔が崩れていた。
ぽたり、ぽたり僕の頬に涙が落ちる。その顔は笑顔を保とうと震えていた。
「あ…。」
「あぁ、笑、顔…。笑顔を、忘れずに…。ヒーローは笑顔を絶やさない、そうだろう…?」
人差し指で口角を上げても、やはり震えたまま。一言、僕に対して懺悔のような言葉を吐いた。
「俺は…、きっとこの世界を救いたかったんじゃない…。アンタのタマシイと天秤に掛けたのは、この世界の命運じゃない……。」
自嘲気味に笑うその歪な笑顔は、悲しみに満ちていた。この世界に生きるモンスターとしてのSansがそこにいた。
小さな影が僕らの元へ近づいてくる。
Sansの後ろを見ると、Charaの手を引くHappstablookがいた。間に合って良かったとニコニコ笑うHappstablookの顔も、異様な雰囲気に段々と笑顔から困惑の顔へと変わっていく。
「にーちゃん…。」
Sansは何かを思い出したかのように振り向くと、じっと二人を見てわなわなと震え始めた。
-今、そこにあの日の俺と弟がいた気がした。寂しそうな目をして俺を見つめていた。
ぐしぐしと目を拭えばCharaと「ヒーロー」の勇気を持ったゴーストだった。あぁ、そうか。
あの日の俺は、もう、俺の中のどこにも-。
ごめん、ごめんな。
特別なタマシイを持ってしまっただけの子どもに。
その子どもが大切な友達だった子ども達に。
俺を「ヒーロー」だと輝く目で尊敬したあの日の弟に。
いつか「ヒーロー」になって、悪を挫き善を助けるんだと目を輝かせて語ったあの日の俺に-。
「ごめんな……。」
頭を抱えて、彼はさらにぐしゃぐしゃに泣いた。
取り繕って貼り付けた笑顔を洗い流していくように、せき止めていた何かを解放するように。
あんなSans様、僕は一度も見たことがない。
確かにそんな声が小さく響いた。
「Sans様のこと、僕知った気になってたのかも。戦う姿も好きだけど、だけど…。」
あの時の事も含めてごめんなさいと頭を下げた。
立ち上がったSansは右手を伸ばし一歩踏み出すと、止まった。
二人の側にいられるような資格など最早無いと悟ったように。
「それは俺の台詞だ…、罪も無い子どもを、友達を連れていただけの、子どもを、俺は……。」
僕達はただ呆然と見ているだけだった。ずっと怖かったはずのSansは、あれだけ強大だと思ったSansの正体は、ただただ「ヒーロー」に憧れていただけの一人のモンスターだった。
「あの爺さんが言ってた事って、そういう事だったのカ。」
ぽつりとBoogieはそう呟いた。
「にーちゃん。」
Charaは間抜けな音を靴から鳴らし、Sansにハグした。
Sansは一瞬固まり、やはりハグするとまではいかなかった。
「おうちにかえってあそぼ、きょうはオバケのともだちとおままごと!」
「……たたかいごっこじゃなくて、良いんだな…。」
「うん!」
「やったー!Sans様のお家ー!」
「じゃあ、帰って好きなだけやろうか…。」
震えていて、でも安心したような声でそう言うと、二人に連れられてSansは歩き始めた。
「僕もSansのこと、分かった気になってたかもしれない。」
「…最後の最後に本心に従えたのが私たちにとっても、彼にとっても救いだったわね。」
そういえば、もしもの時にと交換したあの番号からの連絡は無かった。でも責める気にはなれなかった。
あの時僕を殺したSansの顔の意味がようやく分かった。
あの時、「してやったり」の顔じゃなかった。「やってしまった」という顔だった。目を見開いて、愕然とした顔だった。
あれこそがSansの本心だったのだと。
夢と立場と憧れに、世界に振り回されて、僕を殺したくなくてずっともがいて、それでも立ちはだかることを選んでしまった。
着いていくべきだろうか。何を思い出したのか、彼のこととか-。
いや、今はやめておこう。今はあの二人と共に、争いから心を遠ざけてあげよう。
「ゆっくり休んで、『ヒーロー』…。」
知らず知らずのうちに僕は彼のことをそう呼んでいた。
その背中に、いつの日かあったかも知れない未来を思いながら。