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何も言わない、優しい鬼

全体公開 Δドラヒナ 6 3751文字
2024-06-23 08:57:48

両片思い期のΔドラヒナで、節分の日ネタのお話です。新横浜で節分をするとしたら、あそこだろうなと、常夜神社を舞台にしました。あそこにいるのは、本編でも未だ解明されていませんが、今回では、祟り神とかその地に封じられた念の集合体とか、そんなイメージで書いております。あと、時期的に大侵攻の前ですね。
本編と違い、ドラルク隊長は気配を察する能力はあっても、相手を圧倒する事は難しいだろうなぁと思って、こうなりました。
さらに一年経って、チームΔ結成後に、行われた節分イベントのシーンを追加しました。
2024/02/03 に上げました。

Posted by @kw42431393

 「おには~そと!ふくは~うち!」
 「ひえ~、これはたまらん!おにさん、もうだめ!も~、こーさん!こーさん!」 
 「まて、まて~!」 

 ケンさんは、上手いなあつくづく思う。適度に、始めに怖がらせておいてから、豆を投げられると、弱った顔をしてみせる。
 適度に叩かせてあげて、ちゃんと転けた子のケアまでしてあげて。
 さすが、弟達を苦労して育て上げた先輩だと、つくづく思う。
 「はい、はい。ちびっこ達、もうそこまで!次は、お楽しみの恵方巻きがあるぞ。お寿司が、ダメな子はロールケーキな。」
 「わーい!」
 「えー、どっちもー!」
 パンパンと、手を叩いた兄さんが子供達を呼ぶと、鬼に扮したケンさんから、子供達が離れていく。
 ズレたお面を直しながら、子供達を見送る彼は、優しい顔をしていた。
 「ケンさん、お疲れ様。」
 「やれやれ、毎年の事ながら。ガキってのは、容赦ねえからな。」
 彼の衣装についた埃を払う。派手にやられたものだ。
 「サンキュー。鬼役も終わった所で、俺は屋台を手伝ってくるからな。」
 コキコキと小気味よく、肩を鳴らしながら、彼は去っていく。
 
 私はこの常夜神社を見回した。
 地元民には馴染みの場所でありながら、謎の吸血事件も起こりやすいこの場所。
 節分の今日は、地元民の他に、ギルド主宰のイベント目的でやって来た、観光客達も屋台に群がる。
 私は、いつもの常夜神社とは、似ても似つかない、華やかなこの場所を見渡した。



 「こんばんは、ヒナイチくん。」
 「あっ、隊長。来てくれたのか。」
 「昼間は、書類の片付けが終わらなくて。パトロールのついでに、寄らせて貰ったのだよ。」
 「ヌンヌン。」
 でも、イベントは、すっかり終わってしまったね。手伝いをしている君に、差し入れをするつもりだったのに。
 あと、羽織袴で、お菓子やお餅を撒いたりしていた君の姿も、見たかったな。
 「お疲れ様。若干、騒ぎを起こすポンチもいたけどな。まあ、その程度かな。」
 そういう君の手には、箒と塵取りが握られていた。
 撒くのはいいが、後片付けは大変だ。手伝ってあげようか。
 「あ、いいぞ。お疲れなのに。」
 余った塵取りと箒を拝借する。ジョンと掃除を始めると、彼女が私達に駆け寄ってきた。
 「いいよ、ヒナイチくん。終わったら、時間あるかね?君に差し入れも渡したくて来たんだよ。だから、手伝わせておくれ。」
 差し入れと聞いて、君のアンテナが、ピクンとハートマークを描く。
 困ったね、さりげなくチェックしてしまう。
 「本当か?楽しみだ、さっさと終わらせるぞ。」
 「ウフフ。ヒナイチくんは、そうこなくては。」

 それにね赴任した時から思ってたんだけど。
 この場所は、日が暮れると危ないね。仕事柄、イベント事があるとよく来るがダンピールの私には、足を踏み入れただけで、頭がズキズキするぐらいなのだ。
 ここで祀られている者は、何者なのだろう。
 おそらく、恐怖と畏敬の念を持って、この土地の人々は神として崇め、抑え込んだそんな気がするよ。



 片付けを終えて、解散となって私は、隊長が待っている階段に急ぐ。
 貴方が持っている紙袋、そこに差し入れ用に作ってくれた、お菓子があるんだろう。
 片付けの間も楽しみで顔に、いやアンテナに出てたのかな。兄さんが、怪訝そうな顔を向けてきた。
 だから、尚更、早く早くと心が急く。
 幼い頃から追いかけてきた、憧れの貴方と、貴方がくれるお菓子。
 中に入っているのは、クッキーだろうか。それとも、節分だから別の何かだろうか。
 だから、早く行かなきゃ。
 兄さんに追い払われたり、取られたら、泣くしかないもの。脛を蹴るしかないもの。

 「隊長ー!」
 階段に座っている、細長い影と小さな丸い影に、手を振る。立ち上がって迎えてくれた、貴方の元に駆け寄る。
 「すまない、待ったか?」
 「大丈夫だよ。忙しい所は、昼間に終えたから。」
 「ヌヌヌレヌヌ!」
 さあ、どうぞと、差し出された紙袋。
 待ちきれずに、断りを入れて開けさせて貰うと、中に入っていたのは
 「わあ、恵方ロールだ。」
 「恵方巻をご馳走したいのだけど、弱ってしまうからね。」
 ふわりと漂う、バタークリームの香り。
 嗅ぐと食べたくなるな、今食べてもいいかな折角、会えたんだ。
 貴方と一緒に、食べたいな。
 「3本も、あるんだな。」
 「ウフフ、1本じゃ足りないでしょ?」
 「うそれを言われると。な、なあその。今年は、東北東だよな。」

 覗き込んでくる、キョトンとした貴方。
 頑張れ、私。皆が来ちゃうじゃないか。
 「3本あるんだから、隊長達と一緒に食べたい!だ、ダメかな。」
 おずおずと、顔を上げる。
 月が逆光になっていて、その金色の瞳は何故か

 もしかして怒ってる?

 「いいよとりあえず、行こうか。ここだと、帰ってくる皆に見られちゃうし公園でいいかね。」
 「ヌヌイヌヌン、ヌヌーヌ。」

 よかった嫌じゃないんだ。でも、なんでそんな怖い顔をするの?
 まるで、貴方自身が鬼のような。

 「隊長?わっ!?」
 突然、隊長は私の手を取ると、階段を駆け下りた。
 いつも大人しい貴方の行動に違和感を感じて、もう一度、顔を見上げる。
 私の好きな金色の瞳は、険しくて私を見ていなかった。彼が睨み付けている、視線の先を私も辿る。

 そこには、何もない。ただ、闇があるだけだ。
 幼い頃から、見慣れた風景。ただの

 「たいちょう。」
 「はあ!はぁ!もう、すこし!」
 枯れ木の様な貴方の手に、こんなに力があったんだ。
 力を込めすぎて、微かに震えている、私の好きな骨張った、貴方の手。

 私もしっかり握り直す。
 痛いよ、痛いけど離したくないよ。



 「はあ!はあ!ゲホッ、ゲホッ!!ああ、ごめんね。痛くなかったかね?」
 「ヌヌヌヌヌヌ、ヌイヌーヌ?」

 気がつけば、そこは公園の前。
 目の前には、酸欠で蹲った憧れの人の優しい顔。
 夢でない証拠は、手に残った赤い跡。
 貴方が、必死に何かから守ってくれた証。
 初めて会った、あの頃のように
 
 「隊長その
 「アハハ。ごめんね、人が見てたから慌てちゃって。ヒューヒュー。」
 苦しそうな、貴方の背中を擦る。
 この背中を守りたくて、鍛練してきたのに情けないな。
 「べ、ベンチで休んでてくれ。自販機で、お水を買ってくる。」

 何も言ってくれない貴方に背を向ける。私も、深くは聞かない。
 代わりに、今度こそ貴方に何かあれば私が守る。

 私はもう子供じゃない。やっと、憧れの退治人になったんだ。
 今度こそ。だから、今度こそ。

 

 「いっててて今夜の仕事は、これかよ~。豆をぶつけられて、逃げる役なんて畏怖くない!」
 「まぁ、そう言いなさんな。去年の鬼役は、俺だったんだ。二分の一になっただけ、助かったぜ。」
 「そういえば、ロナルド。お前は、その豆を数えたりしないんだな?」 
 ヒナイチくんにツッコミまれて、さらに頭を抱えて騒ぐ5歳児を尻目に、私はこの神社を見回す。

 私がヒナイチくんを追ってきた、ここに閉じ込められている『ナニカ』の姿を見てから、一年が経った。
 彼女と再会してから、なんとなく察していたがヒナイチくんは、こういう人ならざる者達に好かれやすいらしい。本人自身の身体能力が高いのと、運の良さで、何も知らずにいるけれども。
 実際、私自身も『彼ら』と同じ血が半分流れている。寧ろ、夜の者の血が濃いダンピールなのだ。
 私が彼女に惹かれたのは、そういう所も多少あったのかもしれない。

 「ジョン。離れておいで。」
 「ヌ?」
 いつでも、動ける様に鯉口を切る。胸ポケットの錠剤を確認する。
 去年は、相手の強大な力と状況の悪さに、血液錠剤の存在さえ忘れて焦ってしまったけど。
 使ったとして、どうにかなる手合いではないと、分かっているけれど。
 それ以降、夏祭りでも他のイベントでも、私は警戒してきたのだ。負けると分かっていても、来たらただではおかないと。

 「どした?ドラルク、そこに何かいるのか?」
 無邪気なロナルドくんの声に、振り返る。
 去年の事件の後に起こった、吸血鬼達の大侵攻で、一番私達を手強づらせた、『真祖の血を引いているという噂がある』最強の吸血鬼。悩みの種は、吸血鬼らしくなくて、畏怖して貰えない事。そんな彼だけど

 「何でもないよ。」
 「何だよ~。ボケるの早くね?誰もいない所なんて、睨みつけちゃってさ。」
 「ヌヌ!」
 
 どうやらまた、無事にこの日を終えられそうだ。
 私に流れる竜の血だけでなく、無自覚な彼が持つ強い血の気配が加わって、分が悪いと判断したのだろう。
 今回も、『彼ら』の気配は、社の中へと戻っていった。
 
 
 


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