両片思い期のΔドラヒナで、節分の日ネタのお話です。新横浜で節分をするとしたら、あそこだろうな…と、常夜神社を舞台にしました。あそこにいるのは、本編でも未だ解明されていませんが、今回では、祟り神とかその地に封じられた念の集合体とか、そんなイメージで書いております。あと、時期的に大侵攻の前ですね。
本編と違い、ドラルク隊長は気配を察する能力はあっても、相手を圧倒する事は難しいだろうなぁ…と思って、こうなりました。
さらに一年経って、チームΔ結成後に、行われた節分イベントのシーンを追加しました。
2024/02/03 に上げました。
@kw42431393
「おには~そと!ふくは~うち!」
「ひえ~、これはたまらん!おにさん、もうだめ!も~、こーさん!こーさん!」
「まて、まて~!」
ケンさんは、上手いなあ…つくづく思う。適度に、始めに怖がらせておいてから、豆を投げられると、弱った顔をしてみせる。
適度に叩かせてあげて、ちゃんと転けた子のケアまでしてあげて。
さすが、弟達を苦労して育て上げた先輩だと、つくづく思う。
「はい、はい。ちびっこ達、もうそこまで!次は、お楽しみの恵方巻きがあるぞ。お寿司が、ダメな子はロールケーキな。」
「わーい!」
「えー、どっちもー!」
パンパンと、手を叩いた兄さんが子供達を呼ぶと、鬼に扮したケンさんから、子供達が離れていく。
ズレたお面を直しながら、子供達を見送る彼は、優しい顔をしていた。
「ケンさん、お疲れ様。」
「やれやれ、毎年の事ながら。ガキってのは、容赦ねえからな。」
彼の衣装についた埃を払う。派手にやられたものだ。
「サンキュー。鬼役も終わった所で、俺は屋台を手伝ってくるからな。」
コキコキと小気味よく、肩を鳴らしながら、彼は去っていく。
私はこの常夜神社を見回した。
地元民には馴染みの場所でありながら、謎の吸血事件も起こりやすいこの場所。
節分の今日は、地元民の他に、ギルド主宰のイベント目的でやって来た、観光客達も屋台に群がる。
私は、いつもの常夜神社とは、似ても似つかない、華やかなこの場所を見渡した。
「こんばんは、ヒナイチくん。」
「あっ、隊長。来てくれたのか。」
「昼間は、書類の片付けが終わらなくて。パトロールのついでに、寄らせて貰ったのだよ。」
「ヌンヌン。」
でも、イベントは、すっかり終わってしまったね。手伝いをしている君に、差し入れをするつもりだったのに。
あと、羽織袴で、お菓子やお餅を撒いたりしていた君の姿も、見たかったな。
「お疲れ様。若干、騒ぎを起こすポンチもいたけどな。まあ、その程度かな。」
そういう君の手には、箒と塵取りが握られていた。
撒くのはいいが、後片付けは大変だ。手伝ってあげようか。
「あ、いいぞ。お疲れなのに。」
余った塵取りと箒を拝借する。ジョンと掃除を始めると、彼女が私達に駆け寄ってきた。
「いいよ、ヒナイチくん。終わったら、時間あるかね?君に差し入れも渡したくて来たんだよ。だから、手伝わせておくれ。」
差し入れと聞いて、君のアンテナが、ピクンとハートマークを描く。
困ったね、さりげなくチェックしてしまう。
「本当か?楽しみだ、さっさと終わらせるぞ。」
「ウフフ。ヒナイチくんは、そうこなくては。」
それにね…赴任した時から思ってたんだけど。
この場所は、日が暮れると危ないね。仕事柄、イベント事があるとよく来るが…ダンピールの私には、足を踏み入れただけで、頭がズキズキするぐらいなのだ。
ここで祀られている者は、何者なのだろう。
おそらく、恐怖と畏敬の念を持って、この土地の人々は神として崇め、抑え込んだ…そんな気がするよ。
片付けを終えて、解散となって…私は、隊長が待っている階段に急ぐ。
貴方が持っている紙袋、そこに差し入れ用に作ってくれた、お菓子があるんだろう。
片付けの間も楽しみで…顔に、いやアンテナに出てたのかな。兄さんが、怪訝そうな顔を向けてきた。
だから、尚更、早く早くと心が急く。
幼い頃から追いかけてきた、憧れの貴方…と、貴方がくれるお菓子。
中に入っているのは、クッキーだろうか。それとも、節分だから別の何かだろうか。
だから、早く行かなきゃ。
兄さんに追い払われたり、取られたら、泣くしかないもの。脛を蹴るしかないもの。
「隊長ー!」
階段に座っている、細長い影と小さな丸い影に、手を振る。立ち上がって迎えてくれた、貴方の元に駆け寄る。
「すまない、待ったか?」
「大丈夫だよ。忙しい所は、昼間に終えたから。」
「ヌヌヌレヌヌ!」
さあ、どうぞ…と、差し出された紙袋。
待ちきれずに、断りを入れて開けさせて貰うと、中に入っていたのは…
「わあ、恵方ロールだ。」
「恵方巻をご馳走したいのだけど、弱ってしまうからね。」
ふわりと漂う、バタークリームの香り。
嗅ぐと食べたくなるな、今食べてもいいかな…折角、会えたんだ。
貴方と一緒に、食べたいな。
「3本も、あるんだな。」
「ウフフ、1本じゃ足りないでしょ?」
「う…それを言われると。な、なあ…その。今年は、東北東だよ…な。」
覗き込んでくる、キョトンとした貴方。
頑張れ、私。皆が来ちゃうじゃないか。
「3本あるんだから、隊長達と一緒に食べたい!だ、ダメ…かな。」
おずおずと、顔を上げる。
月が逆光になっていて、その金色の瞳は何故か…
もしかして…怒ってる?
「いいよ…とりあえず、行こうか。ここだと、帰ってくる皆に見られちゃうし…公園でいいかね。」
「ヌヌイヌヌン、ヌヌーヌ。」
よかった…嫌じゃないんだ。でも、なんでそんな怖い顔をするの?
まるで、貴方自身が鬼のよう…な。
「隊長…?わっ!?」
突然、隊長は私の手を取ると、階段を駆け下りた。
いつも大人しい貴方の行動に違和感を感じて、もう一度、顔を見上げる。
私の好きな金色の瞳は、険しくて…私を見ていなかった。彼が睨み付けている、視線の先を私も辿る。
そこには、何もない。ただ、闇があるだけだ。
幼い頃から、見慣れた風景。ただの…?
「たい…ちょう。」
「はあ!はぁ!もう、すこ…し!」
枯れ木の様な貴方の手に、こんなに力があったんだ。
力を込めすぎて、微かに震えている、私の好きな骨張った、貴方の手。
私もしっかり握り直す。
痛いよ、痛いけど…離したくないよ。
「はあ!はあ!ゲホッ、ゲホッ!!…ああ、ごめんね。痛くなかったかね?」
「ヌヌヌヌヌヌ、ヌイヌーヌ?」
気がつけば、そこは公園の前。
目の前には、酸欠で蹲った…憧れの人の優しい顔。
夢でない証拠は、手に残った赤い跡。
貴方が、必死に何かから守ってくれた証。
初めて会った、あの頃のように…。
「隊長…その…」
「…アハハ。ごめんね、人が見てたから慌てちゃって。ヒュー…ヒュー。」
苦しそうな、貴方の背中を擦る。
この背中を守りたくて、鍛練してきたのに…情けないな。
「…べ、ベンチで休んでてくれ。自販機で、お水を買ってくる。」
何も言ってくれない貴方に背を向ける。私も、深くは聞かない。
代わりに、今度こそ…貴方に何かあれば私が守る。
私はもう子供じゃない。やっと、憧れの退治人になったんだ。
今度こそ。だから、今度…こそ。
「いっててて…今夜の仕事は、これかよ~。豆をぶつけられて、逃げる役なんて畏怖くない!」
「まぁ、そう言いなさんな。去年の鬼役は、俺だったんだ。二分の一になっただけ、助かったぜ。」
「そういえば、ロナルド。お前は、その豆を数えたりしないんだな?」
ヒナイチくんにツッコミまれて、さらに頭を抱えて騒ぐ5歳児を尻目に、私はこの神社を見回す。
私がヒナイチくんを追ってきた、ここに閉じ込められている『ナニカ』の姿を見てから、一年が経った。
彼女と再会してから、なんとなく察していたが…ヒナイチくんは、こういう人ならざる者達に好かれやすいらしい。本人自身の身体能力が高いのと、運の良さで、何も知らずにいるけれども。
実際、私自身も『彼ら』と同じ血が半分流れている。寧ろ、夜の者の血が濃いダンピールなのだ。
私が彼女に惹かれたのは、そういう所も多少あったのかもしれない。
「ジョン。離れておいで。」
「ヌ…?」
いつでも、動ける様に鯉口を切る。胸ポケットの錠剤を確認する。
去年は、相手の強大な力と状況の悪さに、血液錠剤の存在さえ忘れて焦ってしまったけど。
使ったとして、どうにかなる手合いではないと、分かっているけれど。
それ以降、夏祭りでも他のイベントでも、私は警戒してきたのだ。負けると分かっていても、来たらただではおかない…と。
「どした?ドラルク、そこに何かいるのか?」
無邪気なロナルドくんの声に、振り返る。
去年の事件の後に起こった、吸血鬼達の大侵攻で、一番私達を手強づらせた、『真祖の血を引いているという噂がある』最強の吸血鬼。悩みの種は、吸血鬼らしくなくて、畏怖して貰えない事。そんな彼だけど…
「…何でもないよ。」
「何だよ~。ボケるの早くね?誰もいない所なんて、睨みつけちゃってさ。」
「ヌヌ!」
どうやらまた、無事にこの日を終えられそうだ。
私に流れる竜の血だけでなく、無自覚な彼が持つ強い血の気配が加わって、分が悪いと判断したのだろう。
今回も、『彼ら』の気配は、社の中へと戻っていった。