ピクスク様のオールジャンルイベント『あきらめない』に、参加させて頂いた1作目です。
本編ドラヒナで、七夕と朝顔のお話です。ドラヒナ、ロナサンは成立済み。このヒナイチくんは、たぶん成人していると思います。
朝顔とアイビーの花言葉は、この二人に合うなぁ…と以前から思っていたんですよね。
今回は、七夕をテーマにしようと思ったら朝顔と関連があると聞きまして、一気に書いてしまいました。
朝顔は、深夜に咲く場合もある…というのは、金田一を見て知った方も多いはず。
@kw42431393
「ふぎゃっ!!」
「す、すまん。そうだ、サンズが泊ってたんだった。」
ベッドから降りた所で、何か柔らかいものを踏みつけた…床下でお尻がハマった縁で、割と仲良しになったサンズのお尻だった。
「てめー!ちょっと、気を付けやがれです!」
そんな怒声を予想して見ていたのだが…彼女は、寝言を言いながら、再び布団を被って眠り込んでしまった。それは、くノ一としてどうなんだろうな。
「うにゃ、うにゃ…ロナルドしゃん。」
「ま、いっか。」
時計を見ると、まだ、深夜の3時。もうひと眠りしていいのだが…ちょっと、約束があってな。
サンズを起こさない様に、私はそっと外へと向かう。
通路をくぐり、梯子を登る。床下の出入り口は、事務所にある。
いつも賑やかなロナルド退治事務所だが、依頼がなく、家主も眠ってしまえば、静かなものだ。
いや、静か過ぎる様な…
「あ、雨が止んでる。電車も運行しているだろうな。」
窓に近づいて、まだ暗い空を見上げる。昨夜の豪雨が、嘘の様だ。
『折角の誕生日だったのに、大変だな。サンズニャン。』
『子供の頃から、よく言われますよ。どういう訳か、七夕って雨が多いです。しかし、困りましたね。電車が止まっていては、会社に戻れねーです。』
サンズが、うちに泊まっているのはそういう事だ。
昨日は、7月7日。世間では七夕だが、あの『床下お尻ハマり事件』以降、友人となったサンズの誕生日でもある。だから、彼女がドラルクから原稿を受け取った後、少し空いた時間に、私達はお茶をしていたんだ。
どちらも、この後仕事があるから…その予定だったんだが。
この大雨で、電車が運航停止になってしまったんだ。
『どうだ?これから、私もドラルクの監視に戻らないといけないからな。今夜は、私の部屋に泊まっていけ。』
『私の部屋って、図々しい奴ですね!あそこは、ロナルドさんの家だろーが!』
とんだハプニングだったが、ドラルクはドラルクで、来客をもてなすのは大好きだし、仕事がなければ、ロナルドも彼女の誕生日を祝ってあげたかった、サンズは言うに及ばす…という事も相まって。
少なくとも、この豪雨のおかげで、『私達』は、楽しい一夜を過ごせた訳だ。
訳だけど…私達以外は、どうだろう。
『ついてないよな。去年も降ってたんだ。今年も、織姫と彦星は会えなかった訳だ。』
『国にもよるね。日本ではそうだけど、七夕に雨が降りやすいのは、1年ぶりに会えた二人が、うれし泣きをしているからだ…っていう国もあるのさ。』
そっか。国が違えば、そういう解釈もあるのか。
「そうだ。明日なら、二人が再会出来たよっていう、証拠を見せられるよ?ヒナイチくんが、早起きしてくれれば。」
早起き…ああ、そうヌね。上手くタイミングが、合えばいいヌけど。
「証拠…だと?」
織姫と彦星が、か?そんなものがあるのだろうか。
「早起きっていうか…3時頃かな。4時頃だと、夜が明けちゃうから。」
何だろう…目の前のドラルクとジョンが、悪戯っぽい笑いを浮かべている。
「ウフフ…ベランダで待ってるよ。私も、君にあげたいものがあるのさ。」
それが、さっき言った『約束』だ。7月とはいえ、3時頃はまだ薄暗い。
そっと、ベランダに向かう。ベランダに、何かあっただろうか。
「おはよう、ヒナイチくん。」
「ヌヌヌー。」
「ああ、おはよう。ドラルク、ジョン。」
この時間帯に、彼らと「おはよう」と挨拶する事は少ない。いつもなら、私は床下で眠っていて、ドラルクは一日を終える準備をしている時間帯だからだ。
なんだか、新鮮な気分だな。
「サンズ女史は?」
「クスクス…うにゃうにゃ言いながら、眠ってるぞ。」
「若造もだよ。鼾が煩いったら。」
「ヌフフフ。」
湿った空気を吸い込んで、彼らがいるベランダに足を踏み入れる。
そういえば、『証拠』を見せると言っていたな。なんだろう…
「タイミング的に、微妙だったからね。でも、用意出来てよかったよ。お手を…お嬢さん?」
変わらないな…流れる様に差し出された骨ばった手に、自分の手を重ねる。
そして、次にくるのはいつも通りのキス…
「あれ?」
「フフ…これが、証拠だとも。朝顔の花は、七夕と関連付けて『牽牛花』『朝顔姫』とも呼ばれていたのだね。だから、朝顔が咲くのは、ちゃ~んと、二人が会えた証拠。あの大雨でも、二人はちゃんと再会出来たのだ…心配する必要はないのだよ。」
左手の薬指に咲いているのは、目が覚める様に真っ白な朝顔。茎を巻いて、指輪の様にして…。
「…クスクス。キスだと思った?たまには、パターンを変えないと。」
そう言って、改めて落とされる口づけ。うん、図星だ。
そろそろ、慣れたつもりだったのに…すぐには、言葉が出てこない。
「あ、ありがとう…。」
「いやいや、お礼ならジョンに言っておくれ。元々、君達に見せたくてね。昼間の世話は、ジョンがしていたのだよ。」
「そ、そっか。ジョンも、ありがとうな。」
「ヌーヌヌシヌシヌ!」
改めて、彼らが育てた朝顔を見下ろす。白の他に、ピンクと紫、赤い花が咲いている。
こんなに暗くても、咲く花だったんだな。
「朝というより、日没から8~10時間で開くのだよ。5時頃の方が、確実なんだけど…それじゃあ、私が見られないから。」
「ん…そうか。私も、お前と見られて嬉しいぞ。そういえば…。」
指に咲いているのは、白い花。ドラルクが、自分のイメージカラーに決めているのは、紫色だ。蝋印だって…
「今回は、紫じゃないんだな。」
何気なく、言ったつもりだったんだ。なのに…
「…ウフフ。紫も悪くはないんだけどね。今回は…」
仄暗くなった声に、顔を上げる。久々に『吸血鬼らしい』顔が、そこにあった。
私を惹かれさせ、時に、怯えさせるその顔が…
「ドラルク?」
「だって、心配だもの。ただでさえ、私達は会う時間が短い。夏となれば、猶更だ…だからこそ。」
両頬を包まれる。この時間だから、ロナルドが起きて来るはずもないし…目を閉じて。
「情人節とも呼ばれる、七夕の日に…って、スナッ!!」
「ヌーッ!?」
いつの間にか、日が昇り始めていたらしい。
私の目の前には、朝日で即死をしてしまった、一塊の塵の山が出来上がっていた。
塵を棺桶に戻してから、私は、もうひと眠りしようと床下に戻る。
「はぁ…。」
ちょっと、いい雰囲気だったのにな。残念だ…でも、ドラルクの言う事も最もだ。薬指に嵌めたままの、白い朝顔を撫でる。
元々、種族の違う私達が共にいられる時間は、少ない。冬なら、もっと一緒にいられるのに…そう思う事もある。しかし、それと白い朝顔に、どういう関係があるのだろう。
「あ、ヒナイチ。おはようです。」
「サンズ、おはよう。もう、東京に戻るのか?」
着替えをしていた彼女に、声をかける。
私はもう少し眠る事が出来るが、サンズの勤務地は東京なのだ。出来れば、一度アパートに戻りたいかもしれない。楽しい時間もここまでか…。
「世話になりました。それじゃあ、そろそろサンズちゃんは、お暇を…あれ?」
サンズの目が、私の薬指に留まる。そういえば、サンズは何か知っていないだろうか。
彼女は、オータム書店の編集者だ。少なからず、色んな作家の作品を読んでいるだろう…そう思って、聞いてみる。私としては、軽い気持ちだったのだが。
経緯を聞いた彼女は、軽くため息をついて、こう言った。
「はぁ…気障ったらしいというより。つくづく…あいつは、お前が思っている以上に。腐っても吸血鬼と言えば、いいんでしょうか。」
サンズの話によると、白い朝顔の意味は、『溢れる喜び』『強い絆』…そして。
「ジョンくんは、純粋にロナルドさんを含めた3人と1匹の、『強い絆』への願掛けで見せようとしたのかもしれませんが。他の色もあったのに、『白』を選ぶのは、それだけじゃねーです。そもそも、朝顔は『絡みつく』植物。分かってもお前の想いは、揺らがねーと知ってるから、答えを言いますけど…サンズちゃんには、そんな『ねちこい男』を選ぶ気持ちは、理解できねーですよ。」
ねちこい…か。自分が行けない昼の世界で、手に入れた私が、よそ見をしないか…不安だったのかな。
さっきの、情念の籠った紅い瞳を思い出す。『私は、貴女に絡みつく』という意味を込めて、この花を薬指に挿してくれたのかな。
いいぞ、ドラルク。元々、お前への勘違いから始まった想いだけど…
もっともっと、絡みついて。
つよく…つよく…絶対に逃がさないで。
夜の者特有の、その情念が籠った瞳から、私はもう逃れられない。
「そうだ。あいつにも、同じ気持ちの花を贈ってやろう。」
氷笑卿に仕込まれたって、言ってたから…ググった程度で出て来る花言葉なら、あいつにだって分かるはず。
1日遅れてしまうけど、七夕は、元々の中国ではバレンタインみたいに、祝われれているらしいんだ。だから、お返ししても、おかしくはないよな。
「う~ん、こう。朝顔に負けないような意味をもった…あった。」
ふ~ん、よくガーデニングとかで見る観葉植物だけど…そんな意味があったのか。
華やかさには、欠けるけど…不滅で不死のお前によく似ているだろ?
今夜は、花屋さんによって、このポットを買ってこよう。
それに…執着心は、人間にだってあるんだ。いつかお前を置いていってしまう、私にだって相応しい花だ。
なぁ…そう思うだろ?
アイビー:「結婚」「不滅」「不死」「友情」「誠実」「永遠の愛」
…「死んでも離れない想い」