土方と沖田、少しだけ近藤
@bbbcde519
「土方さん、ほら、持ってって」
行きつけの定食屋で会計を終え、帰ろうとしたその一呼吸で花束を渡された。ごく淡い色の薔薇と蕾が美しい、あまりに自分には似つかわしくないものを自然に差し出され虚を突かれた土方は、避けることもできず反射的に受け取ってしまった。馴染みの女将は「常連さんにお裾分けしてるんだよ」と笑った。
「この店はじめて二十年の祝いだって、お客さんから豪勢な花ァもらったんで、枯れる前にね。これからもご贔屓にしておくれ」
土方は呆れた。
「なんだよおばちゃん、気持ちはありがてえが、何も俺みたいな似合わねえ野郎に渡すことねえだろ」
「あら、土方さんみたいな男前に似合わないなら誰に似合うってんだい」
「世辞はいらねーよ」
返そうとした土方の手をするりとかわし、いいから持ってってちょうだいよ、と女将は早口で言った。有無を言わせない口調だった。
「なかなかきれいだろ? もしいらないってんなら、誰かいい人に会う口実にでもおしよ」
「いねえよそんな相手は」
「さみしい男だねえ。じゃあ屯所にでも飾っとくれ」
忙しそうな女将にそれ以上断ることもできず、土方は一応礼を言って店を出た。手の内から甘い香りがする感覚が落ち着かない。
土方はずっと機嫌が悪かった。清楚な花束を下げた男が珍しかったのか街では始終視線を感じ、露骨に指をさして何か言っている口さがない町民を睨みつけながら屯所に戻る羽目になったからだ。戻ってからもすれ違う隊士達に散々花束に言及された。「副長どなたかへのプレゼントですか似合わねえっすね」「それとも誰かから渡されたんですか似合わねえっすね」
極めつきは廊下ですれ違ったこの男だった。
「こりゃまた場違いなもん持ってますね」
「おめえもかよ」
きょとんとした沖田に「隊士どもにも散々似合わねえと囃されたんだよ」と言い捨て、土方は煙草を噛み締めた。沖田は眼をくりりと動かして面白そうな顔をする。
「そりゃあ仕方ねえや、事実だもん。怒ったらだめですぜ。あいつらは上司に媚びずご機嫌取りせずまっとうに正直に生きてるだけでィ」
うるせえよと返事をする代わりに土方は沖田の胸に花束を押し付けた。さっき自分に定食屋の女将がしたように。沖田は土方と違い咄嗟に半歩下がり体を捻って躱した、が、予想していた土方も負けじと食い下がる。
地の利は土方にあった。狭い廊下を背にした沖田は下がる場所を失い、奇しくも土方が沖田の胸元に花束で切りかかったような格好になる。
土方は花束から手を離して歩き出した。刹那に見た淡い紅色の花と、驚きに染まる沖田の表情を目の端に焼き付ける。その表情は彼の姉によく似ている、という思考は紫煙のようにすぐかき消えた。
土方の背を不機嫌そうな低い声が追いかける。
「なんの真似で?」
「やる」
「は?」
「煙草吸うのに邪魔なんだよ」
土方は振り返らずさっさと足を進めた。花が床に捨てられる音が聞こえるかと思ったが、ただ「いらねーよバーカ」という悪態だけが聞こえた。
その夜土方が近藤の部屋に行くと、先ほどの花束が花瓶に生けられて床の間に鎮座していた。
「おうトシ」
近藤はいつもの笑顔で「これトシがもらってきたんだろ? 飾らせてもらってるぞ」と言った。花を見ると先ほどの沖田の表情を思い出した。土方は煙草に火をつけて目を逸らす。
「総悟が寄越したのか」
「ああ。きれいだな」
土方は返事をしなかった。
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後書き
土方さんが沖田くんをどう思ってるか、を探りたくて書いた話です。
土方さんはいらねえって言われるのはわかってるし捨てられてもいいけど花束は沖田に渡そうと自然と思っている、みたいな塩梅の気持ちがあるんじゃないかなと思って書きました。
沖田くんの反応が一番分からなかったけど、沖田くんが土方から欲しいのは花束ではないですね。いらないんだろうけど受け取ってしまう沖田くんがかわいいなと思います