ピクスク様のオールジャンルイベント『あきらめない』参加作品の3作目です。
反転ドラヒナで、七夕と人外故の認識の違いをテーマにしてみました。
時期的には、監視について少し経った頃で、反抗期の娘を持った疑似父娘の関係…という感じ。ドラルクさんは、じわじわ自分の執着心を自覚しており、過保護とも取れる行動が目立ち始めた頃のつもりで書いています。
最後のページは、一気に時間軸が飛んで、心身ともに結ばれた夫婦となった時間軸になります。
他にも書いた反転ドラヒナのお話は、こちらから読めます→https://privatter.net/category/50931
@kw42431393
捏造設定はこんな感じです。それでもOKな方は、次へどうぞ。
反転ドラルク:
強大な力を持つ我が儘で中二病の人外。再生能力を持たず、両親に甘やかされてきた為、刹那的な性格。数十年前の人間と吸血鬼の抗争の最中に、当時随一と言われた吸血鬼殺しの男性に右目を潰され、義眼を嵌めている。彼が病死したのを聞いてから、遊び相手がいないので、『療養中』と称して引き籠っていた。再び、反人間派の組織に戻る可能性あり、と派遣されてきた監視員のヒナイチの太刀筋に興味を持ち、居城に通う事を許している。意地を張りつつも寂しそうな彼女に庇護欲をそそられ、いつしか、一方的な独占欲、執着心、劣情へと移行していく。
反転ヒナイチ:
吸血鬼対策課ヒヨシ隊副隊長を勤める若きエリート。ドラルクの監視員で、意地っ張りなくっころさん。幼少時に、父親が忙しく構って貰えなかった為、本当は甘えん坊で寂しがりや。自分を甘えさせてくれる監視対象に、密かに父親像を求めている。ジョンには心を許して、内心を吐露する事もあるが、ドラルクに対しては、反抗期の娘の様な心境で、居丈高になったり、泣き出したりと、情緒不安定気味。
反転ジョン:
ドラルクの使い魔。落ち着いたムキムキの大人マジロ。ヒナイチが来てから、太ってしまい、筋トレをハードにしたら、筋肉で丸まれなくなってしまった。元競マの帝王。主夫婦がヤンデレ同士なので、苦労人気質。ドラルクの盾として、自身も戦闘に参加する。みっぴきのバランサー。
反転ロナルド:
全ての吸血鬼と友人になれる世界を作るのが夢の退治人。戦闘に参加しないが、お話合いという必殺技を使う。最終的にお嬢が反転してゴリラになるのは、内緒。両種族の共生の為には吸血鬼、吸対、退治人の連携が不可欠な為、仲介者として奔走している。この時期、海外の語学研修に出ていた為、合流が遅かった。
「酷い雨だな…どうしたものか。」
突然降り出した集中豪雨に、私はシャッターが閉まった商店の軒先に逃げ込んだ。
それまで、晴れていたので、傘も合羽も持っていない。
制服はもとより、下着までしみ込んで気持ちが悪い。困ったな…。
最近、急に天気が崩れる事があるヌ。ヌンのを貸してあげるヌ。持って行って、損はないヌ。
「ありがとう、ジョン。でも、こんなに晴れているんだ。大丈夫だろう。」
出がけに、ジョンと交わした台詞を思い出す。あれで、彼は私よりずっと年上なのだ。
ちゃんと、聞いておくべきだったな…そう考えたけれども、後の祭りだ。
そんな経緯で…雨宿りを始めて、1時間ぐらい経つ。止む気配どころか、台風の様に風も強くなり、遠くで雷まで鳴ってきた。
これから、監視対象の居城まで行かなければならないのに。
七夕の日は、雨が降りやすい…というのはよく聞く話だ。
1年に1度しか会えない織姫と彦星は、この日を逃すと来年に先送りとなる。
七夕のお話そのものは、何千年も昔からのものだ。それなのに、何故、彼らは律儀に守っているのだろうか。
我々人間だったら、船や飛行機の様な乗り物を作るなり、父である天帝にもう一度頼みそうなものだが…。
『アハハ。それは、人間の考え方だ。しかし、その二人はいずれも人ではない。そんな事を、考えたりもしないのではないかね。』
昨夜、七夕の話題になった時、ドラルクがそう言っていたのを思い出す。
『そうだろうか。お互い仕事熱心だったのに、放り出すほど愛し合っていたのだろう?』
思わず、ムッとした顔になる。普通は、離れ離れの相手を会えるのを、一日千秋の想いで待つものだと思う。
私がそう思うのは、おそらく、幼い頃の父の記憶があるからだろう。
私の父は忙しく、滅多に家に帰って来れなかった。だから、予定が狂って『また会えない』というのは、幼心に悲しいものだったから。
しかも、雨が降って天の川が増水すれば、さらに一年先送りされるのだ。
どうして、彼らは行動を起こそうとしないのだろう?
『あらかじめ、父である天帝と、そういう取り決めで引き離されたのだ。ならば、それを破る方が、彼らにとってストレスとなる。お互い、寿命も長い。1年ぐらいの別離など、大した障害ですらないのだよ。』
そうか…吸血鬼であるドラルクからすれば、そういう考え方もあるのか。
『人間共は離れている間に、心変わりしないか、二度と会えないのではないか…等と心配するものだろう?だから、少しでも多く時間を取ろうとする。』
『当たり前だ。実際、事故や病気だってない訳じゃない。少しぐらい…』
道理を曲げてでも、あるいは、別の方法を探してでも…私は、そういうものだと思う。
『まあね。だから、強大な力と長い寿命を持ちながら…我々を初めとした人ならざるモノ達は、人間共に押されているのだ。そして…』
そこで、彼はニイ…と笑う。
『何百年も続く、人間共と我々の抗争を終える鍵は、そこにある。儚い故に、その心も立場も移ろいやすい…人間共が持つ狡さというか、柔軟さというか。束縛を断ち切ってでも、足掻こうとする…とでも言えばいいのか。それが、人類勝利の鍵だ。そうは、思わんかね?』
「ヒナイチくん、迎えに来たよ。」
突然、降って来た声に我に返る。思わず、耳を疑った。
肉体が頑健ではあるが、ドラルクはかなり濃い血を持った吸血鬼だ。
それで死んでしまう事はないが、吸血鬼のサガとして、流れ水は苦手のはずだ。台風レベルのこの暴風雨の中、どうやってここに来たのだろう。
「ウフフ…まぁ、決して楽しいものではないが。さあ、こちらにおいで。君に風邪を引かれては困るのだ。」
そう言うと、彼は腕を引いて、私を軒下から引っ張り出した。どういう訳だか、雨に濡れる事はない。
この状態では、傘さえ役に立つとは思えないが…そう思っていると、ドラルクは得意気に、頭上に視線を向けた。私も、その視線を追う。
「あ…これは?」
視線を追った先には、氷の壁が浮いていた。それが、周りを包み込む様にしている。
雨音でよく聞こえなかったが、彼の黒い義眼が、チチチ…と歪な音を立てているのだ。
「そうか。雨を凍らせて、周辺を覆っているのか。」
「ご名答。この義眼は師匠に作って貰ったものだが、なかなか便利だろう?気温が高いので、この時期のコスパは悪いがね。」
そう言って、彼はどこからかバスタオルを出して、私に巻き付ける。その上で、自分のマントを羽織らせてくれた。
濡れているのもあるが、冷気で氷のドームを作っているのだ。晴れていれば、クーラーが効いた部屋にいる様に快適なのだろうが、ぐっしょり濡れている今は、寒気を感じる。
「う、うむ。わざわざ、すまんな…わ!?何をする!?」
「ちゃんと、髪も拭き給え。見た目によらず、ズボラな子だ。」
言葉とは裏腹に、美容師の様に丁寧で繊細に扱ってくれる、剣ダコのある手…なんだろう。
嫌な気分ではない…見上げると、時々私をざわつかせる、子供をあやす父親の様な笑いを浮かべていた。
『にいさん、おふろおわったぞ!アイスたべていいか?』
『あ~、ヒナイチ。待て、待て。ビシャビシャじゃないか。』
いつも、幼い私をこうしてくれたのは、兄だった。たまにしか会えない父にも、そうして欲しかった…そういう自覚はある。
父とドラルクは、全く似ていない。なのに、置いてきたものを、何故彼に見出すのだろう…。
「うん?どうしたかね?」
「なんでもない。も、もういいったら!自分でやる…そ、それより。」
ジョンには少なからず漏らしたが、時々湧いてくるこの気持ちを、こいつに知られる訳にはいかない。
認める訳には、いかない。
私達は、監視員とその対象だ。しかも、相手は、いつ市民に危害を加えるか分からない、危険度Aの…吸血鬼なんだ。
「何故、私がここにいると分かったのだ?雨に降りこまれて、遅れるとは言ったが…場所までは言ってないぞ。」
私としては、心の動揺を誤魔化したくて、咄嗟に聞いただけだった。それなのに…
キキッ!!
彼の義眼が、鋭い音を立てる。
「…ドラルク?」
その音を聞いた瞬間、さっきまで胸にあった、温かい気持ちは霧散していく。
彼の義眼は、本人の精神と連動して、様々な反応を示す。あの音は…
「…私とて、伊達に長くこの街に住んではいない。だいたいの察しはつくとも。」
それに、さっきまでの優しい顔は、能面の様な顔に変わっている。
さっきの音と、この表情…都合が悪い事を聞かれて、平静を装おうとしている。そういう時にする癖だと、彼の監視についている間に、私は気が付いていた。
「…そうとは、思えないが。」
知らず、疑念が籠った声が出る。
外に人や車が走っていれば、通話中の音から察しもつこう。でも、その時点で誰も外にいない。聞こえるのは、雨音だけのはず…
「…。」
「おい!何を隠している!?」
やはり、気を許してはいけなかった。
監視員に隠したい、何かがある…そう思うと、知らず荒げた声が出る。
…と、彼の視線が私の顔から下に降りる。その視線の先を辿る…私の胸元を?
「な…バカ!このスケベ!!」
慌てて、マントを掻き合わせて後ろを向く。シャツに下着が透けていた。
こういうのには、淡白な吸血鬼だと思っていたのに。
「おい!じろじろ見るなんて、失礼にも程が…。」
「…気に入ってくれているじゃないか。そのキーホルダー。」
「え…。あ、あぁ。これか…まあ、悪くはない。」
冷静なドラルクの声に、赤面する。自意識過剰な自分が、恥ずかしくて顔を上げられない。
「クスクス、何だと思ったのやら。まぁ、いい。これからも、その蝙蝠を大事にしてやってくれ給え。」
「う、うるさい。」
改めて、胸ポケットから顔を出しているキーホルダーを摘まみ出す。白い蝙蝠をモチーフにした、小さなぬいぐるみだ。
右目に傷があって…どうやら、蝙蝠に変身した時の自分がこの様な姿をしているらしい。いつだったか、気紛れだと言って、私に縫ってくれたキーホルダーだった。
ドラルクも他の吸血鬼達同様、料理の他に、裁縫が趣味なのも知っている。断る理由もないし、丁度、任務中にキーホルダーが壊れてしまったので、付けていたもの…ただ、それだけだ。
何故、今ここで、キーホルダーの事を気にするのだろう。貰った当初、調べてみたが、発信機、盗聴器の類は仕込まれていないはず…
「ククク…さあ、帰ろうじゃないか。この大雨だが、今日は、七夕だ。ちらし寿司を用意してあるよ。いい海鮮が手に入ったのでね…君の好物だろう?」
そう言って、私の肩に手をかけて、引き寄せようとする。その手を払いのけると、私は、彼を睨み上げた。
雨は、さらに強くなっている。ここで言い合いをしても仕方がない…ただ、それだけだ。ちらし寿司に釣られた訳でもないぞ。
「気安く触るな。私だって、伊達にお前の監視員に選ばれた訳ではない。つまらない事をしたら、ただではおかん。」
我々吸血鬼対策課の存在意義は、『共生の為の秩序』だ。
しかし、相反した世界を生きる我々は、隔たりが大き過ぎる。
現在においても、中立派、親人間派の吸血鬼達とでさえ、認識の違いで諍いが起こる事は多々あるのだ。反人間派に属していた、この吸血鬼なら、猶更だ。
だから…気のせいだ。迎えに来てくれた時、とても…嬉しい気持ちがしたのは。
温かい何かがあった気がしたのは…ただの夢だ。私の…甘えだ。
「それにも、染み込ませているのか?ドラルク。」
「当たり前だとも。迷子アプリよりも、確実だ。私の血を受け入れれば…いずれ、君にも分かる様になるだろう。」
私達にも、紆余屈折あって…ロナルドと出会い、私とドラルクは、『両種族の抗争が終結し、共生の時代が来た時は、血を受け入れて永遠に共にいる』という契約を交わした現在…彼も当時と比べるとずいぶん変わったが、そこに関しては変わらないらしい。
ため息をついて、胸ポケットから頭を出している、蝙蝠のキーホルダーを撫でる。
あれから、15年近くの時間が経った。
胸ポケットに入れていたこの蝙蝠は、何度も手直しをされて、見た目は当時とさほど変わらない。
変わったのは、その鎖に連なっているのは、寮の鍵ではなく、この居城の合鍵だという事。
私が今も彼がしている事に対して、怒りではなく、嬉しいと感じている事。
今、目の前で彼が裁縫に使っているその糸には…
「…お鉄の匂い。お糸に、ドラルクさんの血を染み込ませてありますのね。」
「うむ。そうしておけば、私が君の仕事に同行して、出払っていても多少の事は分かるし。私の気配を纏わせておけば、多少のお守りにはなる。」
その答えを聞いて、紅茶を飲んでいたロナルドが、苦笑いをする。
あの時…いや、それ以降も何度となく。
何故か、彼は私がいる場所に迷いなくやって来たり、下等吸血鬼が私を警戒する素振りを見せたりと…妙な事があったのだ。それがこの蝙蝠のキーホルダーに、染み込んでいた彼の血の仕業であった事を知ったのは、いつの事だったか…。
ならば、当時、問い詰められた時、訳を言わずに誤魔化すはずだ。
心身共に結ばれ、人ならざる者達のサガを理解しつつある今だからこそ、嬉しいと感じるのであって…当時の私が聞いたら気持ち悪がって、捨ててしまったに違いない。
「まったく…過保護な奴だ。今縫っているベビー服にも、自分の血を染み込ませようと、言うのだからな。」
「ヌ~。」
「まぁ、およろしいですわ。竜子公様も、その様に育てられたと聞きますわ。ドラルクさんも、もうすぐそうなるのでしょうね。」
「お父様みたいに、過保護…それは、嫌過ぎる。いいや、仕方ないだろう。これから生まれて来るその子は、狭間の子だ。しかも、15年経って、抗争も落ち着いてきて、やっと授かった息子だとも。何に代えても守ってやりたいし。か、体の一部だけでも、少しでも長くいたいじゃないか。」
必死に抗議をするドラルクから、大きくなった自分のお腹に、視線を移す。さっきから、ご機嫌らしい。
この賑やかな声が、お前にも聞こえているのだろうか。
「お前も楽しみだよな?その服を着た姿を、私達に早く見せてくれ。」
望まれて生まれて来る、竜と吸血鬼殺しの血を受け継いだ、私達の赤ちゃんは…おそらく。
「…ヒナイチくんも、そう思わんかね?」
「…さあな。」
自分の所有物に固執する、人ならざる者の執着ではなく…愛情が籠った糸で縫われた服を纏って、育っていくのだろうから。