了遊(付き合ってる)。暑さが悪いなどと申しており
@d9_bond
天気の良い日曜日だった。
空は景気よく晴れ渡り雲一つなく太陽は燦燦と輝き気温は33度を超えた。了見は遊作とシティ中心部のカードショップへ行き、ついでに隣接のコーナーで三度ほどデュエルをして、昼を食べて遊作の家でデュエルの続きをしようということになり並んで道を歩いていたのだが、暑かった。
遊作と付き合うようになって分かったが、彼はひどく暑さが苦手のようだった。
晩春の気温が高い日などたまに憂鬱そうな様子を見せていたのだが、梅雨が明けて本格的な夏が到来してそれは顕著になった。というわけで今日のような日は惨憺たる有様だった。遊作の家までさほど距離がないからと歩きにしたのは失敗だった。平時ならともかく、真夏日の昼過ぎにコンクリートの照り返しの中では距離も何もない。中心から離れたせいか、住宅ばかりで飲食店やコンビニもない。
ということで二人は途中にある公園へ寄ることにした。
遊作が言うには、毎週日曜日にはカフェナギのようなキッチンカーが、公園の広場に数台やってくるのだという。住宅街の中ということで人が集まるのを見越しているようだ。二人は汗をかきながら公園へ向かった。
公園はそれなりに大きく、中心部の広場には遊作が言っていた通りキッチンカーが数台止まっている。
軽食が主体だが、季節柄冷たいものを扱っているものもあった。ふたりは一通り見て回り、フルーツジェラートの店に並んだ。
メニューには色とりどりのジェラートとフルーツの写真が並んでいる。この気温とあって、ここと隣のかき氷屋の前には行列が出来ている。皆考えることは同じのようだ。
店員が手馴れていたこともあり、幸いさほど待たずに買う事が出来た。遊作は桃のジェラートを、了見はアイスカフェラテを注文した。桃のジェラートは大きめの果実が混じっていて人気の商品のようだった。
遊作は商品を受け取るなりさっそくひと匙口にすると、ほう、と感嘆の息を吐いた。
「つめたい」
呟いて、次のひと匙を口に運ぶ。
「……味は?」
「つめたくてうまい」
そうとう暑さが堪えているようだ。了見は周囲を見回し、少し離れた広場の奥に空いているベンチを見つけた。
戸外でも木陰は涼しい。
ベンチに遊作と並んで座り、了見も一息ついた。暑さが苦手でなくとも辟易するような気温だ。幸い今いるベンチは傍の木々が影になって暑さを和らげてくれている。
遊作は一心にジェラートを口に運んでいる。
普段は落ち着いた振る舞いの遊作だが、付き合いはじめてからは時折今のような幼い行動を見せることが増えた。かわいらしい。本人は自覚していないようだが。
食べ終わったら何か冷たい飲み物も買ってやろうと考えながら了見もカフェラテを飲む。
奥まったこの場所は行き止まりなこともあって、近くに誰も居ないようだった。広場の喧騒も遠く、聞こえるのは蝉の声と時折過ぎる風にざわめく木々の葉擦ればかりだ。蝉しぐれまで至らないのは時期のせいか気温のせいかは分からない。
空は晴れ渡り、夏らしい抜けるような青がどこまでも広がっている。
ぼうっと空を眺めていた了見は、視界の端で遊作が手を止めたのに気が付いた。
「いっ──」
見ると、こめかみを抑えて唸っている。
「……痛い」
「急いで食べるからだ」
いわゆるアイスクリーム頭痛のようだった。眉を寄せて痛がる割にジェラートカップを持ったままなあたり、まだ余裕はありそうだ。
「そういう時はだな」
了見はカフェラテを置いて遊作に向きなおり、
「……」
動きと思考が止まった。
暑さのせいで上気した頬、額に滲む汗。痛みのせいか潤んだ目は頼りなげで。
「了見……?」
自分を呼ぶ、その濡れて艶めく唇から目が離せなかった。
「そういう時は、何だ?」
「……対処法がある」
言いながら指先で顎を捉えても遊作はされるがままだった。それをいいことに了見は、薄く開いたままの唇に自分のそれを重ねる。
触れた唇はひやりと冷たい。ジェラートを食べていたのだから当然だが。
遊作はこれまた当然ながら予想外のことだったため、我に返るのが遅れた。了見の舌先が下唇を撫でたところで小さく目を見開き、空いている手で了見の肩を押して離れさせる。
「こんなところで──」
「誰も見てはいない」
ベンチは青々とした緑の影で、歩道からも離れている。人の行き来もキッチンカー周辺に偏っており人目がないのは確認済みだ。
なおも遊作は抗議しようと口を開いた、そこへ再度口づける。今度は逃げられないよう遊作の腰へ手を回し、後頭部へ手を添えてやる。
「んっ……」
薄く開いた口から舌を差し入れると、口の中もまだひやりと冷たく、甘かった。
歯列を割り、舌先に触れると咎めるように甘噛みされる。構わず舌を絡めようとすると逃げられた。逃がすまいと腰を抱く手を少しだけ強めて、口づけを深くする。縮こまった薄い舌を吸い上げてやると、漏れた水音に遊作が小さく身を震わせた。
どこもかしこも甘い。
「……は、ぁ」
息継ぎのために少し離れると、果実の香りの吐息が漏れる。
その吐息ごと飲み込むように三度。先よりずっと温度の近くなった口内を弄り、上顎をゆるゆるなぞる。了見を押しのけようとしていた遊作の手は、いつの間にか縋るように了見の服を掴んでいた。
それからなおも翻弄され、ジェラートがジュースになった頃ようやく遊作は解放された。
「了見、なんなんだいきなり……!」
気持ち良かったがそれはそれ、これはこれである。抗議の声を上げる遊作へ了見はしれっとして言い放つ。
「頭痛は治っただろう?」
「……それは、まあ。だがそれとこれが──」
「あれは口腔や喉が急激に冷やされると起きる、という説がある。つまり温めれば治る。そういうわけだ」
「……」
遊作は、悠々とカフェラテを飲む了見へ半目を向けた。
「理屈は分かるが、他に方法はあっただろ」
「これが一番早い」
「絶対違う」
はあ、と遊作はため息をついた。せっかくジェラートで涼しくなっていたのにすっかり暑さが戻ってしまった。
仕方なしにジュースと化したジェラートを飲む。
「溶かしてしまった詫びに、もうひとつ頼むか」
「おまえな……」
反省も自制もする気はないらしい了見の笑みを目にして遊作は、頷く代わりに了見のカフェラテを取り上げてやったのだった。