@akirenge
【求めるのはメロウな日】
ナイトレイヴンカレッジ、オンボロ寮の監督生であるララは二連休を手に入れていた。
土曜日と日曜日は休みなのだ。今週は非常に忙しかったため、休みを存分に満喫するつもりでいた。
オンボロ寮に引きこもる準備はできている。飲食物を買い込んだし、グリムはハーツラビュルに預かってもらった。
二日間はゆっくり過ごすつもりだ。
「今週は忙しかった。エースやデュースたちの補習に付き合い、マジフト部の練習を手伝ったり」
ララは授業を受けてからは放課後はバイトをしたりして過ごしているが、今週は補習の勉強に付き合ったり、マジフト部の
練習に付き合ったりとしていた。補習の方は何とか超えられた。同じクラスのエース・トラッポラとデュース・スペード、グリムが補習が越えられるか
ぎりぎりだったのだ。走り高跳びでぎりぎり超えるようなものだった。担任のクルーウェル先生には良く超えたとは言われつつも、
補習なんて受けないほうがいいとは言われていた。もっともだ、となる。
予定だと金曜日の夜からグリムはいなくて日曜日の夜には帰ってくる。補習の手伝いを頑張った甲斐があった。
「まずゆっくり寝よう」
バイトも入れていない。出かけることもしない。たまには出かけない日が欲しかったのだ。ララは静かなオンボロ寮で布団をかぶる。
ゆっくりと眠ることにした。
ララという名はこの世界に来てしまった時に名乗るようになった名だ。本来ならば二十代前半のはずなのに十代後半に戻っていた。
どうしてこの世界に来てしまったのかはわからない。分かることと言えばこの世界には魔法があって、元の世界に帰るための手がかりを探さなければ
ならなかった。元の世界でやりたいことがあったのだ。
昼近く前まで寝て、起きて、食事をとって、さらにソファーに転がる。元の世界に帰る必要があるとは言っても、
帰るまではこの世界で過ごす必要があった。つまり衣食住や娯楽を充実させる必要があったのだ。
音楽プレイヤーのイヤホンを耳に入れる。
この世界にララの知っている音楽はなかったが、よさそうな音楽はいくつか見つけた。ランダムでかけてさらに横になる。
「のんびりしているね」
「するときにはしておかないと」
「このために頑張ってきたところはあるからね」
ゴーストの一人に話しかけられてララは答える。ゴーストと同居をするなんて元の世界では考えられなかった。元の世界だとしたら幽霊というか、
いわくつきの物件に取りついている女とか、子供に儀式を教えたら現れた母親っぽい何かが現れたホラーとか、そういうのが浮かぶ。
きょうだいたちで一緒に見ていた。
「……動画とか映像でも見ようとしたけど、いいのあったかな」
「どんなのが好きなんだい」
「レポーター系のお宅訪問に見せかけたよくよく見てみるとどす黒いネタがちりばめられたのとか、実は村ぐるみで麻薬を制作していたみたいな。
モキュメンタリーね」
モキュメンタリーはノンフィクションのように見せかけたフィクションだ。この世界にもあるのではないかと探してみたらあったが、
この世界には魔法がある。魔法があるため、元の世界のモキュメンタリーとは味が違っていた。
「個性的だ」
「そういわれる」
ノンフィクションに見せかけたフィクション。ノンフィクションをリアルにするためのフィクションが好きなのだ。
音楽を聴いていたら、眠くなってきたので眠った。
痛い。
腹に鈍い痛み。
刺されたのは自分で。
笑っているのは男で。
「――」
ララではない。自分の名前。
この世界に来る前に起きたことは想い出せていないのだけれども。
「ララさん……?」
「あー……ジェイド……?」
「うなされていたようですが」
目を開けると、見慣れた彼が目に入る。ジェイド・リーチ。一つ上の先輩で、
「夢の内容は覚えてないけれど、うなされてた」
「嫌な夢を見たようで。補習で苦しんでいたとか」
「私は補習を回避するようには動いているけど」
「そうですね。ララさんはそういった方です。恋人の様子を見に来ました」
恋人ではある。
彼の所属しているオクタヴィネル寮はモストロ・ラウンジというカフェをしていてバイトに行く時があり、それ以前からも顔見知りではあったのだが、
付き合うこととなっていた。グリムにどうしてなんだゾ、と聞かれていたのだがララも不明である。
付き合ってみませんかで嫌いではなかったので、付き合うことにしてみた。になるのだろうか。
「山じゃなかった」
「明日です」
ジェイドは山を愛する会という部活、彼しか所属していない部活にいるのだが山に行くと話していた。山は明日だったらしい。
何時だっけかと時間を確認してみれば寝てしまってから一時間しかたっていない。一時間で悪夢を見たようだ。速い。
「……ロックっぽい何かを聴いていたせいかな」
「お茶をいれますよ。イヤホンは外して」
言われてイヤホンを外す。音楽をランダムにしていたが、聞こえてきたのはロックだった。音が煩い。ランダムに詰め込みすぎたのが
よくなかっただろうか。ジェイドがお茶をいれてくれるのをぼんやりと待つ。プレイヤーからイヤホンを抜く。
操作をするとインスト曲が流れた。
「どうぞ。ハーブティです」
「あったっけ」
「持ってきました」
「さすが」
ティーカップにはハーブティが入っていた。
ハーブティはオンボロ寮の在庫にはなかったのだけれどもジェイドが持ってきてくれたようだ。淹れてくれたのをありがたく飲む。
ジェイドが隣に座る。
「夢の内容は覚えていなければいいと思いますよ。興味はありますが」
「悪夢になりそうなことはいくつか覚えているけれどもそのどれとも違う感じはした」
ララはそう名乗る前から家庭環境がややこしいところがあり、それ絡みで大変な目にあっている。が、悪夢はどれとも当てはまらなかった。
ソファーの隣にジェイドが座る。
「一人で過ごしていたから悪夢を見たとか」
「ゴーストたちがいるから厳密に言うと一人じゃないけど……いい曲」
「聞いたことがありますね。メロウな曲、とか言われている」
「落ち着く」
柔らかい音楽が聞こえる。フルートとピアノの音色だ。悪夢を見た後だと心地よい。覚えていない悪夢だけれども、嫌悪感は残っている。
ティーカップのハーブティを飲み干す。
「ララさん、お暇ですよね。明日まで」
「そうだけど」
「私とキャンプなんてどうでしょう。日帰りで」
「……行こうか」
「行きましょう」
ジェイドなりに気を使ってくれたらしい。ハーブティもそうだが、落ち着いた。明日も横になっているつもりだったが、
悪夢を見たのだ。行動を変えることにする。
「穏やかなの良いわ」
「貴方が穏やかになってくれるなら、手はつくしますよ」
「ホワイトで」
「いつも白いですが」
たまにこの恋人は、たまにというかいつもかもしれないが、黒いところは黒い。白いと堂々と言い放つので、さらにララはいうことはなく、
穏やかな音楽に耳を傾けながら、ジェイドの肩にもたれかかる。ジェイドが髪を撫でてくれた。
【Fin】