@akirenge
【子分と監督生のある日のこと】
オンボロ寮に住んでいる魔獣グリムは監督生であるララとゴースト達と一緒に暮らしている。
本日、ララはぎりぎりまで寝ている日にすると昨晩、グリムに言っていた。そろそろタイムリミットなのでグリムはララの部屋へと入る。
ララは爆睡していた。
「起きるんだゾ!!」
助走をつけて布団をかぶって寝ているララの上に大分して何度も跳ねる。
「……おきてる。おはよう……グリム」
「おはようの声が小さいんだゾ。子分」
「何度も跳ねるから」
グリムと呼んでくれるのは嬉しいとなる。たまに起こしているときに知らない名前を呼ぶことがあるのだ。
聞いてみたところによるとララのきょうだいたちらしい。別の名前が何人も出てくるのできょうだいたちが多いようだ。
ベッドから飛び降りるとララは大きく伸びをする。
「起きてるか?」
「……ご飯を食べて、教室に入るまでが朝」
ララの寝起きはいい時と悪い時があるが今日は悪い方だ。ベッドからララが下りるのを確認するとグリムは下へと降りていく。
朝食はバスケットの中に入っていた。ララは食堂のバイトの後は朝食を作ってもらって帰宅している。
たまにある朝で、毎度の朝ともなっている光景だった。
「躾を上手くしているようだな」
「グリムの……ですか?」
一時間目は魔法薬学だった。ララは無事に授業を終えたことに安堵をしていた。そこにデイヴィス・クルーウェルが話しかけてくる。
「今日は平穏に終わった」
「あのな、今日は、って今日も、なんだゾ」
「……まあそう」
適応な言い方になってしまったが、前回は別の生徒が魔法薬の配分を間違えて鍋が爆発していた気がする。
ララは魔法薬学は得意な方だ。菓子作りのようなものである。
「お前たちは一人と一匹でセットだ」
「だから躾とか。ララは……たまに、厳しい時以外は普通だゾ」
「……グリムは相棒なので……私に被害が及ばない程度には面倒は見るというか」
ララはナイトレイヴンカレッジで唯一魔法が使えない生徒だ。何故かこの世界に来てしまって、騒動の末、グリムとセットで生徒となり、
授業を受けている。グリムのことは相棒にしておいた。
次の授業に行こうとララはグリムを手招きしてそれでは、とクルーウェルに会釈をしておく。
「次の授業は、魔法史……サボ……」
「気持ちはわかるけど駄目。躾か。……私はグリムの親?」
「不思議そうに言うんだゾ」
「私の両親はろくでなしだったし、弟妹はいるけれども躾ってしていたわけでもないし、親ってそもそもろくでもないものでは」
きょうだいたちについてはとても好意的なララであるが両親に対しては辛らつである。一人と一匹は廊下を歩いている。
「ララ」
「トレイ先輩。おはようございます」
魔法史の授業に向かおうとしていると先輩であるトレイ・クローバーが話しかけてきた。
「今日は何でもない日の菓子を試作する日だが、覚えているか」
「覚えてます。お菓子作りは久しぶりなので楽しみです」
覚えているかとトレイはララに聞いているがララは忙しい方だ。ごくたまにスケジュールをすっ飛ばすことがある。
ハーツラビュルのなんでもない日はグリムにとっては菓子が食べられる日認識らしくグリムが目を輝かせている。
「味見」
「グリムも来てくれ。菓子だが前に食べに行った桃のタルトみたいなタルトもいいとは思うんだが」
「タルトもいいけどセミフレッドもいいかも。生クリームに桃のピューレを加えて凍らせた簡単なアイスクリーム」
「アイス!!」
「それもよさそうだな」
桃のタルトはトレイと食べに行った。麓のカフェで美味しい桃のタルトが出るので試食に付き合ってほしいと言われていったのだ。
美味しかった。セミフレッドは元の世界で作ったことのある菓子だ。
「弟妹が好きで。一番上の姉さんも好きだったから」
「ララはきょうだいが多かったな」
「カリムほどじゃないけど、六人きょうだいです」
「……カリムと比べたら駄目だと想うんだゾ」
カリム・アルアジームはスカラビアの寮長で金持ちだ。きょうだいがとても多い。
「六人きょうだいの、何番目だったか」
「三番目です。下には双子の弟と、少し年の離れた弟妹が二人。上は姉が二人」
「似てねーって言ってたな」
「二卵性双生児だからね」
双子の弟は二卵性双生児なのですぐ近くに生まれたきょうだいぐらいの認識である。一卵性双生児のようにそっくりではない。
オクタヴィネルのフロイド・リーチとジェイド・リーチのようには似ていない。
グリムは話を覚えてくれていた。
「そろそろ時間だな。ララ。放課後、ハーツラビュル寮に来てくれ」
「お邪魔しますね。トレイ先輩」
「ララのきょうだいたちの話は聞きたいな。俺もきょうだいがいるから。興味がある」
「話せることなら。行こう。グリム」
グリムを促し、ララは授業へと向かう。グリムが耳を震わせていた。
放課後、ハーツラビュル寮のキッチンでトレイとララがお菓子を作っている間、グリムは応接室で待っていた。
「ララは無事か。心配なんだゾ」
「アイツは料理が出来るし問題はないだろ」
「何が心配なんだ」
部屋にはエース・トラッポラとデュース・スペードがいる。グリムはララに言えなかったことを二人にならと口にする。
「トレイ。ララのきょうだいがもしかしたら自分のきょうだいになるかもしれないとか言っていたんだゾ」
エースとデュースが硬直する。
反応に困っていた。
「……それだと、トレイ先輩の弟と妹もララのきょうだいに」
「きょうだいが増えるな!」
「ララに言おうとしたけど」
トレイには弟と妹がいることをエースは知っていた。デュースはきょうだいが増えるとしていた。確かに増える。
「トレイ先輩がそれを聞いていたら押し切りそうだし、ララもララで困りそうだから言うな」
「いい先輩認識だからな。ララにとってのトレイ先輩は」
ララは恋愛関係については鈍いというわけではないのだが、恋愛に関しては距離を取っていそうなところはある。学校が学校だからか。
対してトレイは押すところは押すというのが二人と一匹の共通見解である。菓子が無事に運ばれてくることを彼等は祈った。
「グリムの躾が上手くいっているとクルーウェル先生に言われて、……上手くしているつもりはないのに」
「先生の迷惑にならないとしたら、ララが上手く教えたからだろう」
桃を手際よくララは切っていた。桃の切り方にはコツがある。表面を果物ナイフで撫でてから、ぐるりとナイフを回すのだ。
作ってみることにしたのは桃のタルトと桃のセミフレッドである。クルーウェルはトレイの所属しているサイエンス部の顧問でもあるため、
話題に出した。
「躾というの、いいイメージがないから」
「……それはあるな」
トレイも躾と言えばで思い浮かんだものがろくでもないものだったらしいのでそこには触れないでおく。
「両親はろくでなしだったし、きょうだいたちは好きだけど」
「逢えたら逢ってみたいものだな。ララのきょうだいたち、妹がいるんだったな」
「歌が上手くてたまに作ったりしたりするいもうとね。遠くにいるから会えないけれど」
両親はすでに死んでいる。
いもうとは別世界というか元の世界にいるの出会えない。元の世界に帰るための手がかりは全くない。
「もしも良ければ、今度、薔薇の王国にある俺の家に来ないか。ケーキ屋をやってるんだ」
「行ってみたいです。薔薇の王国」
旅行自体は嫌いではない。トレイの家はケーキ屋と聞いているし訪問をするのも楽しそうだなとララは考えを切り替えた。
「両親や弟妹達にもララを見せたいからな」
笑顔であっさりと言われて。
桃を向き終わったララの手が止まる。
会うたびにどうも、外堀をうめられている、ような。
深呼吸。
「見るだけならいくらでもどうぞ」
【Fin】