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折角、諦めてあげたのに。

全体公開 本編ドラヒナ(両片思い期) 10 4619文字
2024-07-16 04:45:25

両片思い期の本編ドラヒナで、バレンタインデーのお話です。
個人的に好きな、アカジャのバレンタインのお話を二つ絡ませました。あの「今回は、私に聞きに来ないのだね?」というセリフは、人外特有のネッチョリ感があって好きでした。
ヒナイチくんは、こういう無自覚な地雷を踏むタイプだと思っています。
10日後のドラゴベテ「鳥達がつがいを決めて、巣作りを始める日」に、お菓子で誘われて、選択を迫られるヒナイチくんのシーンを追加しました。
2024/02/13に上げました。

Posted by @kw42431393

 「なぁ、ドラルク。そのイチゴジャムの作り方を、教えてくれないか?」

 今年は、それにするのかね?
 チラリと私は、カレンダーに目をやった。     
 
 明日は、2月14日。聖バレンタインデー女の子が、好きな人にチョコレートを贈る日。
 似た様な行事は世界中にあるけれど、普通、男性から贈る事が多いものだ。
 日本の製菓会社が、チョコレートの販促イベントとして、定着させたイベントだからね。
 始まった当初、ルーマニア出身者の私からすると、不思議に思ったものだ。
 とはいえ、料理は純粋に私の趣味だ。

 これに便乗して、ここぞとばかり、思いつくスイーツをご近所、ギルドに、吸隊の諸君に配るつもりだとも。
 そういえば非モテのロナルドくんは、今年もぶぶおくんやショットさんと、つまらない虚無を彷徨うのだろうか。

 「お前は、何で嬉しそうなんだよ。」

 そう言ってくるが、要するに気の持ちよう、考えようなのだ。
 恋人がいる者しか楽しんではいけない、なんて、誰も言っていないのだから。

 

 何より、この前日、私が、密かに楽しみにしている事がある。
 うちの可愛いハムスターもとい、ヒナイチくんが、私にスイーツ作りを習いに来るのである。
 他ならぬ私を頼ってくるのは、お目が高い。そりゃ、気持ちがいいとも。
 「今回もいいよ。クッキーにケーキにイチゴ飴、色々作ったよね。」
 「うむ。こ、今回も頼むぞ。」
 「勿論、私が教えるのだ。大船に乗った気でいてくれ給えよ。」

 じゃあ、作ったものをどうするかというと。自分で、食べてしまうのだ。
 誰かにあげる訳ではない私は、人間の食事を受け付けない。
 だから、私が貰える訳ではないけど、誰にもあげない。
 今の所、心配する必要はない、という事だ。
 まだ、遊んでいたいもの。
 彼女は、出会った時から目をつけていた私の可愛い獲物獲物だった少女。
 いつかは、私しか見えない様にするけれど、その過程だって面白いはず。 
 だから、それでいい。

 そういえば、以前一度だけ、マリアさん達の女子会メンバーで作るからと来なかった事が、あったっけ。
 私自身、男性陣で色々作ってたし、若造が横で生地で遊びそうだったし、忙しかったから、気にしなかったが私は、心が広いからね。
 忙しくても、ちゃんと可愛い君の教官をしてあげられる自信は、あったのに。

 『もしかして。私にあげるつもりだから、習いに来ないのかな?』

  白状するよ。そんな淡い期待が、あったのだ。
 ジョンと型抜きしながら、こっそり振り返って確認した君の顔は、妙に、難しい顔をしていた。
 そりゃ、期待したっていいでしょ?
 結果は、どうだったかというと例年通り、自分で食べてしまった。
 期待が外れてガッカリしたのは本当だけど、今回も誰かにあげた訳ではない。

 私の顔を見るなり、アンテナがクルリとハートマークを描いて
 「クッキーを貰いに来たぞ!チョコレートでもいいぞ!」
 上目遣いでそういうのだ。
 だから、それでいい。
 まだ、お子様の間は君の望む、お母さんでいてあげようではないか。

 クッキー製造機から、そろそろ卒業させて欲しかったという本音は、胸の内にしまっておくよ。



 「ドラルク、今夜も監視に来たぞ。」
 「ハッピーバレンタイン!ヒナイチくん、待っていたよ。さあ、座って、座って。」

 初めから、諦めていると気楽なものだ。
 私は、そもそもあげる側の者だったのだ。 
 ドラルク城をイメージしたパフェ、私達を描いたザッハトルテにブラウニー、冷めても美味しいドラちゃんクッキー私も色々作ったものだ。
 一番食べて欲しい君に、君が頬を膨らませる姿を堪能させて貰う。
 一番のお返しは、それでいいよ。
 
 「うん!遠慮なく、頂こう!」
 「なんだ、騒がしいなよう、ヒナイチ。来たな。じゃあ、はじめっか。」
 「ヌヌッヌイ!」

 バレンタインに、それぞれが作った料理を並べる。
 ロナルドくんが作ったものはまあ、あれだが。バナナは美味しいので、問題ない。

 「なあ、ドラルク。紅茶に、これを入れて飲もう。」

 これから、始めようという時に、ヒナイチくんがおずおずとそう言った。
 差し出してきたのは、ヒナイチくんが作ったイチゴジャム。

 途中で、かき混ぜるのをジョンとロナルドくんと交代して、交代するたび、皆『味見』と称してジャムは、亜空間に消える。
 だから、グラニュー糖に漬け込んだ予備のイチゴを出して、お鍋に再び入れて出来た、美味しいイチゴジャム。

 「おっ、それいいな。このクラッカーに付けても、美味いだろうな。」
 「ヌヌヌ!」
 いいアイデアだね、それなら、私も一緒に食べられる。
 こういう優しい子、お母さん大好き
 「ドラルク、お前はこっちを。そ、その。」

 おずおず差し出された、小さな瓶。
 ヒヨコとイチゴが描かれたラベルには、彼女の筆跡で『Sfânt Valentin fericit 』
 「紅茶に入れたら、大丈夫なのは知ってるが吸血鬼用に、生き血ボトルの血を添加したんだ。」
 「わざわざ、別にしてくれるなんてありがとう。味わって飲むよ。」

 鼻腔をくすぐる紅茶の香りに、甘いイチゴジャムの匂いが混ざる。元々、私がレクチャーしたジャムだ。
 不味い訳が、ない。
 「さて、私もん?」
 蓋を開けたジャムから漂う、この芳しい香り。この匂いは、A型の

 



 チラリと、必死にクッキーを奪い合う少女を盗み見る。
 昨日にはなかった、絆創膏が指先に
 「ん?どうした、ドラルク?」
 「うん、香りを堪能してたのだよ。」
 ジャムを入れた紅茶を、一口啜る。 
 もっと高級な紅茶なら、何度も飲んだ事がある。
 でも、目の前にあるこの紅茶とは、比べ物にならないそれほど、香りも味も素晴らしかった。
 「お前が見繕ってくれた、この紅茶。美味しいし、いい匂いだな。お前が作ってくれるおやつに、よく合う。」
 君の血にもよく合うよその言葉を飲み込んだ。

 『ここに処女の生き血が、一垂らしあれば
 冗談半分、本気半分で言った言葉。
 その時は、はぐらかされた言葉。
 折角、諦めてあげたのに。
 諦めた時に限って、そうしちゃうのかな。
 本当に、君って子は。

 「ねえ、ヒナイチくん。」
 「おいしい、おいしい何だ?」
 口回りの食べかすを、取ってやる。 
 ごめんね、やっぱり決めちゃった。

 「美味しいジャムをありがとう。10日後、非番だったよね?」
 「そうだ。」
 10日後は、ドラゴベテ。
 祖国では、愛する女性にスノードロップを贈る日。
 日本人の彼女は、それを知らないだろう。

 「美味しかったよ、君がくれたこのジャム。お返しに、ホワイトチョコのケーキを焼いてあげる。」
 「ホワイトデーには、早くないか?」
 「いくらあってもいいでしょ?いらないのかね?」
 「そ、そんな訳ないぞ!10日後だな!約束だぞ!」

 スノードロップを模した、最高のホワイトチョコのケーキを焼いてあげる。
 勿論、受け取ってくれるよね?
 私と一緒に、楽しい時間を過ごそう?
 そして、その白い可憐な手に、太陽の様なその赤毛にあわよくば、その可愛らしい柔らかな頬と唇に。

 鳥達がつがいを決める愛の日に、私にキスをさせておくれ。
 


 
 「ドラルク、約束通り来たぞ!」
 「あぁ、いらっしゃい。さあ、ここにおかけ。」

 今日は2月24日の、私が非番の日。
 10日前のバレンタインの日に、ドラルクが「お返しにホワイトチョコのケーキを焼いてあげる」と言ったんだ。断るはずがない。
 元々、ドラルクが作る料理は、この世で一番美味しいものだ。
 元々、出世に興味はなかったけれど、左遷させられてよかったそう思っている主な理由だ。
 床下のカレンダーに〇をつけてずっと楽しみにしていたんだ。
 でも、変だな。ホワイトチョコのケーキ、そう言っていた。そもそも、ホワイトデーではない。
 「どうして、ホワイトチョコなんだ?」
 そう聞いてみた。ホワイトデーでないなら、何なのだろう?
 「ウフフスノードロップって知ってる?」
 白くて、可愛い祖国で春を告げる縁起のいい花なんだよそういうお前の瞳は、妙に吸血鬼らしかった。
 少し、その目に心がざわついたけど、何か隠している気がしたけどでも、私はここに来た。
 「一人で来てね?このジャムのお礼に、君にだけ、食べて欲しい。」
 独り占めしていいのか今、思うと、何故断らなかったのだろう。

 ドラルクが、小突くだけで死んでしまうクソザコだから?
 危険性のないミミズ以下だから?
 これまで、チャンスはあったけど、冗談で済ますだけで私の血を吸わなかったから?
 
 「違う、本当は。」

 あいつに言えない想いが、ここにあるから

 「ヒナイチくん?」

 



 「ちん!?」

 秘めていた想い人の声に、飛び上がる。慌てて、居住まいを正して
 「さあ、おあがり。」
 目の前に置かれた、大きなホワイトチョコのケーキ。
 写真で確認した、スノードロップの形をした、とても綺麗な大きなケーキ。
 「いただこう!」
 切り分けようと、ナイフとフォークに手を伸ばす。でも、その手は骨ばった手に抑えられて 
 「ヒナイチくん。」

 妙に冷たい声に、ドキリとしたロナルドもジョンもいない事務所に、夜中に二人きり。
 いや、焦るな。今までだって、あったじゃ
 チュッとリップ音が鳴って、手に冷たい吸血鬼の唇の感触が落ちる。
 今まで、何度となくされた、気障なキス。何だ、いつもの事じゃないか。
 「アハハ変わらないな。お前
 「じゃあ、ここも?」
 クルクルと、いつも誉めてくれる赤毛を掬って、もう一度。続いて、額に
 だ、大丈夫。髪だって、額にだって。何度となくされた、じゃな

 「ねえ、ドラゴベテって知ってる?」
 耳元で囁かれる、本当は大好きなよく通る声。頬に触れる、冷たい感触と
 「ひぅっ?」

 本能的に、体が縮こまる。嫌だというのは、簡単だ。
 この肩を押せばいいだけそれだけで、こいつは塵に

 「今日はね、鳥達がつがいを決めて、巣作りを始める日なんだ。だから、愛する人にスノードロップを贈ってその相手にキスをするんだよ。」
 ドキドキと心臓が、爆発しそうだ。言っている意味が、分からない訳じゃない。
 じゃあ、その後、私がする事は
 「あのジャムを口にして、私は君に決めちゃった。折角、諦めてあげようと思ったのに。折角

 クッキー製造機で、満足するつもりだったのに
 
 じゃあ私が次に起こす行動は

 「ねえヒナイチくん。返事を聞かせて?」

 勇気を出して、私はこの手を痩せこけた両頬に当てる目の前のお前の口が、吸血鬼らしく裂けていくのを、確かに見た。
 

 

 

 

 


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