続きもので書いている、反転ドラヒナのお話です。時間軸的には、吸血鬼の恵方巻き (https://privatter.net/p/9854704)と夜と昼を彷徨う者(1) (https://privatter.net/p/9909493)の間になっております。
当時、『夜と昼を彷徨う者』を書いていた頃は、バッドエンドで終わらせるつもりだったこの二人ですが、ハッピーエンドを望む感想も多く頂きまして、急遽、お嬢ルドくんに出動して頂いたものでした。
改めて、ドラヒナとお嬢ルドくんの馴れ初め、こっそり考えていた反転真ミナや裏設定を、無理矢理詰め込んで、拾い直したこのシリーズも次回で終わりになります。
彼女との雪解けのきっかけとなる、ヒナイチくんを眠らせた後、工場に潜入するドラルクさんのモノローグを追加しました。
2024/02/21に上げました。
@kw42431393
『お前と一緒にいたい!お前じゃなきゃ、嫌だ!』
情事の最中に、我を忘れて上げた言葉とはいえ、言ってしまえば気楽になる。それまで、それを認めるのが苦痛だったのだ。
それが少しでも認められる様になったのは…いつだったか、ロナルドの言葉が、重荷を減らしてくれたからだと思う。
『人に依存するって、よくない事だよな?』
『貴女次第だと思います。他人にご迷惑をかけず、ご自身が苦しくなければ、お悪いとは思いません。』
そう、肯定してくれたからだ。
ドラルクの様に『どんな手段を使っても、目的のモノを手に入れたい』という下心がない、ロナルドのセリフだから、私はすんなり受け入れる気になったのだと思う。
心が軽くなった私は、少し変わった…と思う。
変われたのなら、いいな。
「潜入調査…ですか?」
「あぁ。近頃、下等吸血鬼の発生率が異常じゃろ?気温もそこまで上がっている訳ではないし、何より自然発生にしては、獰猛なタイプが多くてな。さらにドラルクを通して、中立派の吸血鬼達からロナルドへ、タレコミがあった。✕△地区にある工場なのだが、実は人界に放つ下等吸血鬼の養殖場で、そこが出所なのだという話じゃ。」
おどおどとした、ヒヨシ隊長の心配そうな顔を見て分かる。
元々、私をドラルクの監視に就かせる事も躊躇っていた、優しい人だ。今回も、私に行かせる事に、罪悪感を感じているのだと思う。
まだ確定ではないとはいえ、そうだとしたら、かなりの大捕り物になる。厳重な警備の中で、調査する事になるだろう。
だから、ドラルクの時の様に何かあっては…と気にしてくれているのだ。
それと同時に、他の者では厳しい事も知っている。だから、余計に心苦しいのだろう。
「最近、中立派の者達も協力的で助かるな。ロナルドが帰国してから。」
「あぁ、自慢の弟でな。あいつこそ、この席にふさわしいと思うのに…本人は、夢があるから。」
さらに、ロナルドとドラルクが契約した事も、大きかった。
元々、あいつは『事前に、ヒナイチくんに危険を知らせたい。さらに、勤務査定に貢献したい。』という、理解しがたい理由で、情報を回していのだ。
それが、自分達の天敵ともいえる退治人と契約した。
そして、その退治人は、敵性吸血鬼達に対しても、友好的であろうとする。
民間のロナルドと、同胞間で顔が利くドラルクは、公務の私達より動きやすい立場の者達だ。だから、彼らからの理解も得やすいのである。
「いずれにしても、他の連続吸血事件の指名手配犯が、その工場の責任者となっている…という話もある。どちらにしても、明日から調査を頼みたいのじゃ。」
「分かりました。」
「当面は、近辺に指名手配犯の潜伏の可能性がある。その聞き込みに来た…という建前で、動いて欲しい。」
そうなると、もしかして2,3日、ドラルク城に行けないかもしれないな。そんな事を考える。
最近、ドラルクの機嫌もよかったのに…また、あの顔をするのだろうか。義眼は不機嫌な時に立てる、あの音を立てるだろうか。
そういえば、この辺りも私は変わったかもしれない。
以前は、その顔を見てゾッとしたものだった。今は…
少し、可愛いかもしれない。200歳越えの男が、そんな事でヘソを曲げるのだから。
それはどんな形であれ、彼が私に寄せている感情の大きさを、示しているのだから。
「おかえり、ヒナイチくん。」
「…っ!おかえりは、よせ。私達は、あくまで監視員と監視対象なのだぞ。」
「フフッ、残念だ。今、言いかけたね。もう少しだったのに。」
ドラルク様、そのぐらいにするヌ。いらっしゃいヌ、ヒナイチくん。
この前の言葉を聞いて以来、明らかに、ドラルクは上機嫌な事が増えた。
その時見せる顔は、子供の様で…実は、彼のこの顔が、嫌いじゃない。
こうやって見ると、自分でも『そこそこ古い血の吸血鬼だ』と言う割に、208歳というのは、吸血鬼の中では若い方なのかもしれない。
『彼女は、やっと『私といたい』と認めてくれたのだ。それ以降も、私を拒否しなくなってくれて…近々、こちらの世界に、来てくれるかもしれない。』
『私が不在の間に、お二人の間でお進展があったとは、察しておりました。本当に、お恥ずかしい方ですわね。おはしゃぎ過ぎです。ヒナイチさんは、貴方があんな事をしなくても、いつか貴方をお選びになったはずですもの。』
そうヌよ。ヌンは、ヒナイチくんから聞いてたヌ。本当は、ドラルク様が好きだったヌに。
『…それは、そうかもしれんが。』
拒否しなくなった今こそ、これまで置いてきた事を相談する時ヌよ。彼女と都合を相談してから、ドラウス様とミラ様に紹介して、ヒナイチくんのご両親に謝罪もするヌ。
『今まで秘蔵の雛鳥として、駕籠に入れておくつもりで、両親に会わせなかったのだが。そうするべきかね…情報を回して貰っているから、お礼を言いたいと、彼女も言っている。私は不死身でないから、何かあった時の為に、お父様に頼んでおくべきか…と、最近、考えてはいたのだ。』
あと、ドラルク様…自分の執着心が拗れて、ヒナイチくんの血しか、飲めなくなったヌね。いつか彼女を失血死させるんじゃないかって、悩んでるヌ。そこも含めて、話し合うヌ。
『ジョンさんのお意見に、私も賛同しますわ。そこも含めて、お話合いをなさい。』
『それは…何とも言いづらい。彼女を溺れさせるつもりが、自分の方がドツボにハマったと、告白するのも恥ずかしいが。彼女が、もっと血をあげるべきか…とプレッシャーを感じそうだ。』
それは、そうヌかもしれないヌけど。いつかは、バレるヌ。時々首を傾げて、紅茶を見てるヌよ。
『貴方のおプライドでは、ありませんか。それに、貴方がいくらそのおつもりでも、彼女には彼女のお都合があります。』
『…副隊長である彼女の引継ぎは、必要だろうね。新人育成には、時間もかかる。』
『それだけでは、ありませんよ。ご家族と違うお種族になるのです。お心の問題ですわ。それに、貴方がつけたお傷だって、まだ癒えてはおりません。だからこそ、お話合いなのです。』
お手洗いから戻って来る時、二人と一匹がそう話しているのを、聞いてしまったんだ。
格好つけのあいつは、どうも私に隠している事が多いとは、察していた。
そこをつっつくと、ドラルクの顔は能面の様になって…かつての空気に、戻ってしまう。
折角、甘い気持ちを素直に抱ける様になってきたのに、再びそうなるのは、もう怖くて…なんとなく、私もその話題は避けていた。
「うん。最近、また痩せた…よな。」
最後に生き血ボトルを開けている姿を見たのは、いつの事だっただろうか。
情事の際でも…妙にガツガツ啜っている様に、感じていた。
唾液や涙の様な栄養価が薄いものまで、必死な顔をして…。
隠しているけど、鉄の匂いがする紅茶やワインを飲んでいる時も、美味しそうな顔じゃない。
おそらく、生存ギリギリに必要な生き血を割って、飲み込んでいるのだとと思う。
「どうするべきなんだろう。」
選ぶ相手は、一人しかいない。あいつしか、思えない。
でも、私はまだ昼の世界で使命がある。夜の世界の恐ろしさも知っている。
私もああなるのか、と思うとゾッとする。
せっかちなあいつは、思い出した様に聞いてくるし、それが逃げ出したい程のプレッシャーになっていた。
『彼らにとって、契約は絶対です。覚えておいて、損はありません。』
『急かしてくるとは思いますが、冷静になってお考え下さい。』
私もあいつも納得できる将来、そんなものが存在するのだろうか。
年下の私が、譲歩するべき?
ふらふらと、蝙蝠の様に両方の世界の助けを借りている私と、躊躇いなく、全てを捨てられる吸血鬼の彼とでは、勝負にならない。
「勝負…する必要が、あるのか?」
今まで、誇りを奪ったドラルクに、負けっぱなしで終わるものか…そういう意志で、対面してきた。
今は、その彼に依存しても構わない、と思っている。
でも、叶う事ならば、中毒患者同士で執着心を舐め合うのではなく…愛情と呼べるもので、お互いを縛りたい。人間味の薄い彼に、それを求めるのは…難しい。
契約は絶対…どんな条件だとしても、契約に従う彼と、すり合わせが出来るとすれば。
その契約に、私自身も従う…契約の中に、お互いが納得できる将来を、描けるのであれば。
「契約…契約、か。」
「契約が、どうかしたかね?」
突然、声をかけられて飛び上がる。目の前には、怪訝そうなドラルクとジョンの顔があった。
「いや…少し考え事を…。むっ?」
「お疲れの様だね、副隊長殿は。甘いものを食べて、休んでおくれ。」
口に押し付けられたクッキーを飲み込む。
そういえば、明日潜入調査があるから…ここに来れない可能性を、伝えなければ。
「ところで、ドラルク。」
「どうかしたかね?」
「その…明日、ここに来れないかもしれない。状況によっては、もっとかかるかも…。指名手配犯が、この街に潜伏しているらしくてな。聞き込みと調査する必要が、出たんだ。結構、おおがかりな…。」
いつもの様に、ムッとした顔をするだろうか。
そう思っていたのだけれど、彼の表情に変化はなかった。意外だな…
「M-am gândit eu. ai fost nominalizat.」
「ヌ?」
「何て、言ったんだ?」
いきなり、あいつから漏れた母国語。
ドラルクがルーマニア語を口走る時は、独り言や聞かせたくない内容である可能性が高い。
今までも、棺桶の中で一緒にいる間に、親戚や協力者と思しき者達と、母国語や聞いた事のない言語で電話している姿を、見た事がある。だから、こっそり勉強していたんだ。
『やっぱりね。君に決まったか。』
そう言ったんだ。それに対して、あいつはどう出るだろうか。
「あくまで、下調べだけ…だろうね?」
「それは…守秘義務がある。全部は、言えない。」
ドラルク様。ヒナイチくんを困らせちゃ、駄目ヌ。さ、ヒナイチくんも、気にしないで。ご飯にしようヌ。
「…分かったとも。気を付けて、行っておいで。明日は、美味しい夕飯を食べられないから、たくさん味わってくれ給え。」
想像より穏やかな声にホッとして、出された料理を口に運ぶ。
前に座ったドラルクは、ワインを開けた。微かにそこから、血の匂いがする。
そして、今日も…
「…ふう。」
飲み下した後、顔をしかめてため息をつくのだ。先週もあげたばかりだが、食事を美味しく感じられない、というのは気の毒な事に見えた…もう一舐めぐらい、あげても。そんな気に、させられる。
「ヒナイチくん…」
「な、なんだ?」
少し、空気が冷たくなった気がする。
この城は空調がきいているから、ドラルクのせいだろう。
彼の師匠である氷笑卿も、能力にメンタルがかなり影響するのだそうだ。だから、本当は、心穏やかでないのだと思う。
「出勤時間は、いつも通りかね?」
「あぁ。一度寮に帰って、準備もしなくては。だから、少し早めに、ここを出ようと思う。」
あぁ、やはりそうなるのか。
今、目の前にあるお前の顔は能面の様で…私がこうなるのを避けていた状況だと、理解するしかなかった。
しかし、受け答えに、少し違和感を感じる。
どうして、そんなに時間を確認するのだろう。
「…じゃあ、先に地下に行っててくれるかね。片付けをしたら、私も行くよ…それとも、嫌かね?」
「…嫌ではない。」
今となっては、恥ずかしい事ではない。
現に、思い出しただけで制服の下は、見せられない事になっているんだ。
「そう、それならよかった。明日から会えない分、たっぷり楽しもうじゃないか。それに…ククッ。」
忍び笑いの後、再び、彼は母国語で囁いた。
言葉の意味が分かれば分かるほど、その言葉は、私の仄暗い期待をくすぐってくる。
「Înainte de furtună, mi-e foame.」
嵐の前に、お腹が空いたんだよ…と。
「あそこか…まずいな。」
空中から、例のヒナイチくんが潜入調査する予定だった工場を、改めて見直す。
工場の体を装っているが、中は人界に放つ凶悪化させた下等吸血鬼共の養殖場だ。数も多いはずだが、何より…
「住宅街に近い。仕方がない。」
義眼に、意識を集中させる。自身が侵入する予定の排気口以外、全て凍り付かせる。
以前だったら、やつらが逃げ出して住民を襲おうが、勝手に住み着いて繁殖しようが、どうでもよかったのに…
「一匹も逃す訳には、いかない。私の手でこの工場を壊滅させても、今度はそいつらの駆除が彼女の仕事になる。」
この体が彼女以外の血を受け付けなくなって、どれだけ経ったのだろう。この程度の施設を凍らせるのに、意外と時間がかかった。まだ、季節的にも気温が低い深夜であるにも関わらず、だ。
「この状態を維持したまま、中の下等吸血鬼共を掃討。犯人を確保した上で、仲間割れした様に偽装する…その手でいくか?」
この状態を維持したまま…というのが、ネックだ。まともに食事が出来てない状態で、本来の実力を出せる訳がない。本当は、出る前に彼女から血を貰いたかった。しかし、先日貰ったばかりだ。ヒナイチくんを衰弱させる訳にはいかない。
だから、彼女を眠り込ませる目的で、万が一の場合、心残りがないように…出かける前の情事の際に、出来るだけヒナイチくんの体液を啜ってある。雀の涙程度の栄養でしかないが、今の私が摂取できる数少ないエネルギー源だ。今回もなんとか…彼女が目覚める前に。
『き、きょ…うも…かえ、りが…おそく…なる、の…か?』
『貴方が思っているより、彼女はお聡い女性です。いずれ、気づくでしょう。』
ロナルドくんの言う通りだった。時間がないから、彼女を攻め立てて、眠り込ませてから来たのだが…彼女なりに察している所があるのだろう。帰ってきた時から、妙に暗い顔をしていた。
帰ったら、どこから話すべきか…しかし、こんなバカげた理由で同胞狩りをしていたとは、言いたくない。
「おい!そこで何をして…ぎゃあ!!」
見つかったらしい。だから、見張りらしい男に、氷の矢を打ち込む。考えている余裕は、なさそうだ。
「まぁ、いい。とりあえず、終わらせる方が先決だ。」
この工場さえ閉鎖してしまえば、君は危険な潜入調査をする必要がなくなる。
君の無事を確保出来てから、考えればよい。
ウゥ~!!
けたたましい警報音と、回る赤い警報灯。
ガタガタと揺れるシャッター…その向こうに感じる、獣臭い下等吸血鬼共の気配。
戦いが始まる高揚感に、知らず、舌なめずりをする。
「思った以上に、多いな…笑っていられないかもしれん。」
近づいてくる死の気配…ふと、棺を閉める前に見た、ヒナイチくんの安らかな寝顔と、最後に舐めた涙の味が脳裏を過った。
元々、私がスリルを求める様になったのは、『自分は不死身ではない』と気づいた幼い吸血鬼が、死の恐怖から逃れる為だった。死に近づく事で、恐怖を快楽にすり替えた結果だった。
だから、命に未練はない…今までそう言ってきたし、その言葉に嘘はない。
ただ…あの寝顔をもう一度見る為に、必ず帰る…という意志が、同時に湧き上がって来るのを感じている。
「…始めるか。いつも以上に、濃厚なのを貰っておいてよかった。」
侵入してきた排気口が、パキパキと音を立てる。
これで、出入口は完全に封鎖された。
私も、そう簡単にここから出られない。
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