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嵐の前夜

全体公開 反転ドラヒナ 6588文字
2024-07-19 08:59:21

続きもので書いている、反転ドラヒナのお話です。時間軸的には、吸血鬼の恵方巻き (https://privatter.net/p/9854704)と夜と昼を彷徨う者(1) (https://privatter.net/p/9909493)の間になっております。
当時、『夜と昼を彷徨う者』を書いていた頃は、バッドエンドで終わらせるつもりだったこの二人ですが、ハッピーエンドを望む感想も多く頂きまして、急遽、お嬢ルドくんに出動して頂いたものでした。
改めて、ドラヒナとお嬢ルドくんの馴れ初め、こっそり考えていた反転真ミナや裏設定を、無理矢理詰め込んで、拾い直したこのシリーズも次回で終わりになります。
彼女との雪解けのきっかけとなる、ヒナイチくんを眠らせた後、工場に潜入するドラルクさんのモノローグを追加しました。
2024/02/21に上げました。

Posted by @kw42431393

 『お前と一緒にいたい!お前じゃなきゃ、嫌だ!』

 情事の最中に、我を忘れて上げた言葉とはいえ、言ってしまえば気楽になる。それまで、それを認めるのが苦痛だったのだ。
 それが少しでも認められる様になったのはいつだったか、ロナルドの言葉が、重荷を減らしてくれたからだと思う。

 『人に依存するって、よくない事だよな?』
 『貴女次第だと思います。他人にご迷惑をかけず、ご自身が苦しくなければ、お悪いとは思いません。』

 そう、肯定してくれたからだ。
 ドラルクの様に『どんな手段を使っても、目的のモノを手に入れたい』という下心がない、ロナルドのセリフだから、私はすんなり受け入れる気になったのだと思う。
 心が軽くなった私は、少し変わったと思う。
 変われたのなら、いいな。



 「潜入調査ですか?」
 「あぁ。近頃、下等吸血鬼の発生率が異常じゃろ?気温もそこまで上がっている訳ではないし、何より自然発生にしては、獰猛なタイプが多くてな。さらにドラルクを通して、中立派の吸血鬼達からロナルドへ、タレコミがあった。✕△地区にある工場なのだが、実は人界に放つ下等吸血鬼の養殖場で、そこが出所なのだという話じゃ。」
 おどおどとした、ヒヨシ隊長の心配そうな顔を見て分かる。
 元々、私をドラルクの監視に就かせる事も躊躇っていた、優しい人だ。今回も、私に行かせる事に、罪悪感を感じているのだと思う。
 まだ確定ではないとはいえ、そうだとしたら、かなりの大捕り物になる。厳重な警備の中で、調査する事になるだろう。
 だから、ドラルクの時の様に何かあってはと気にしてくれているのだ。
 それと同時に、他の者では厳しい事も知っている。だから、余計に心苦しいのだろう。
 「最近、中立派の者達も協力的で助かるな。ロナルドが帰国してから。」
 「あぁ、自慢の弟でな。あいつこそ、この席にふさわしいと思うのに本人は、夢があるから。」
 さらに、ロナルドとドラルクが契約した事も、大きかった。
 元々、あいつは『事前に、ヒナイチくんに危険を知らせたい。さらに、勤務査定に貢献したい。』という、理解しがたい理由で、情報を回していのだ。
 それが、自分達の天敵ともいえる退治人と契約した。
 そして、その退治人は、敵性吸血鬼達に対しても、友好的であろうとする。
 民間のロナルドと、同胞間で顔が利くドラルクは、公務の私達より動きやすい立場の者達だ。だから、彼らからの理解も得やすいのである。
 「いずれにしても、他の連続吸血事件の指名手配犯が、その工場の責任者となっているという話もある。どちらにしても、明日から調査を頼みたいのじゃ。」
 「分かりました。」
 「当面は、近辺に指名手配犯の潜伏の可能性がある。その聞き込みに来たという建前で、動いて欲しい。」
 
 そうなると、もしかして2,3日、ドラルク城に行けないかもしれないな。そんな事を考える。
 最近、ドラルクの機嫌もよかったのにまた、あの顔をするのだろうか。義眼は不機嫌な時に立てる、あの音を立てるだろうか。
 そういえば、この辺りも私は変わったかもしれない。
 以前は、その顔を見てゾッとしたものだった。今は
 少し、可愛いかもしれない。200歳越えの男が、そんな事でヘソを曲げるのだから。
 それはどんな形であれ、彼が私に寄せている感情の大きさを、示しているのだから。



 「おかえり、ヒナイチくん。」
 「っ!おかえりは、よせ。私達は、あくまで監視員と監視対象なのだぞ。」
 「フフッ、残念だ。今、言いかけたね。もう少しだったのに。」

 ドラルク様、そのぐらいにするヌ。いらっしゃいヌ、ヒナイチくん。

  この前の言葉を聞いて以来、明らかに、ドラルクは上機嫌な事が増えた。
 その時見せる顔は、子供の様で実は、彼のこの顔が、嫌いじゃない。
 こうやって見ると、自分でも『そこそこ古い血の吸血鬼だ』と言う割に、208歳というのは、吸血鬼の中では若い方なのかもしれない。

 『彼女は、やっと『私といたい』と認めてくれたのだ。それ以降も、私を拒否しなくなってくれて近々、こちらの世界に、来てくれるかもしれない。』
 『私が不在の間に、お二人の間でお進展があったとは、察しておりました。本当に、お恥ずかしい方ですわね。おはしゃぎ過ぎです。ヒナイチさんは、貴方があんな事をしなくても、いつか貴方をお選びになったはずですもの。』

 そうヌよ。ヌンは、ヒナイチくんから聞いてたヌ。本当は、ドラルク様が好きだったヌに。

 『それは、そうかもしれんが。』

  拒否しなくなった今こそ、これまで置いてきた事を相談する時ヌよ。彼女と都合を相談してから、ドラウス様とミラ様に紹介して、ヒナイチくんのご両親に謝罪もするヌ。

 『今まで秘蔵の雛鳥として、駕籠に入れておくつもりで、両親に会わせなかったのだが。そうするべきかね情報を回して貰っているから、お礼を言いたいと、彼女も言っている。私は不死身でないから、何かあった時の為に、お父様に頼んでおくべきかと、最近、考えてはいたのだ。』

  あと、ドラルク様自分の執着心が拗れて、ヒナイチくんの血しか、飲めなくなったヌね。いつか彼女を失血死させるんじゃないかって、悩んでるヌ。そこも含めて、話し合うヌ。

 『ジョンさんのお意見に、私も賛同しますわ。そこも含めて、お話合いをなさい。』
 『それは何とも言いづらい。彼女を溺れさせるつもりが、自分の方がドツボにハマったと、告白するのも恥ずかしいが。彼女が、もっと血をあげるべきかとプレッシャーを感じそうだ。』

  それは、そうヌかもしれないヌけど。いつかは、バレるヌ。時々首を傾げて、紅茶を見てるヌよ。

 『貴方のおプライドでは、ありませんか。それに、貴方がいくらそのおつもりでも、彼女には彼女のお都合があります。』
 『副隊長である彼女の引継ぎは、必要だろうね。新人育成には、時間もかかる。』
 『それだけでは、ありませんよ。ご家族と違うお種族になるのです。お心の問題ですわ。それに、貴方がつけたお傷だって、まだ癒えてはおりません。だからこそ、お話合いなのです。』

 お手洗いから戻って来る時、二人と一匹がそう話しているのを、聞いてしまったんだ。
 格好つけのあいつは、どうも私に隠している事が多いとは、察していた。 
 そこをつっつくと、ドラルクの顔は能面の様になってかつての空気に、戻ってしまう。
 折角、甘い気持ちを素直に抱ける様になってきたのに、再びそうなるのは、もう怖くてなんとなく、私もその話題は避けていた。

 「うん。最近、また痩せたよな。」
 最後に生き血ボトルを開けている姿を見たのは、いつの事だっただろうか。
 情事の際でも妙にガツガツ啜っている様に、感じていた。
 唾液や涙の様な栄養価が薄いものまで、必死な顔をして
 隠しているけど、鉄の匂いがする紅茶やワインを飲んでいる時も、美味しそうな顔じゃない。
 おそらく、生存ギリギリに必要な生き血を割って、飲み込んでいるのだとと思う。
 「どうするべきなんだろう。」

 選ぶ相手は、一人しかいない。あいつしか、思えない。
 でも、私はまだ昼の世界で使命がある。夜の世界の恐ろしさも知っている。
 私もああなるのか、と思うとゾッとする。
 せっかちなあいつは、思い出した様に聞いてくるし、それが逃げ出したい程のプレッシャーになっていた。

 『彼らにとって、契約は絶対です。覚えておいて、損はありません。』
 『急かしてくるとは思いますが、冷静になってお考え下さい。』

 私もあいつも納得できる将来、そんなものが存在するのだろうか。
 年下の私が、譲歩するべき?
 ふらふらと、蝙蝠の様に両方の世界の助けを借りている私と、躊躇いなく、全てを捨てられる吸血鬼の彼とでは、勝負にならない。

 「勝負する必要が、あるのか?」
 今まで、誇りを奪ったドラルクに、負けっぱなしで終わるものかそういう意志で、対面してきた。
 今は、その彼に依存しても構わない、と思っている。
 でも、叶う事ならば、中毒患者同士で執着心を舐め合うのではなく愛情と呼べるもので、お互いを縛りたい。人間味の薄い彼に、それを求めるのは難しい。
 契約は絶対どんな条件だとしても、契約に従う彼と、すり合わせが出来るとすれば。
 その契約に、私自身も従う契約の中に、お互いが納得できる将来を、描けるのであれば。



 「契約契約、か。」
 「契約が、どうかしたかね?」
 突然、声をかけられて飛び上がる。目の前には、怪訝そうなドラルクとジョンの顔があった。
 「いや少し考え事を。むっ?」
 「お疲れの様だね、副隊長殿は。甘いものを食べて、休んでおくれ。」
 口に押し付けられたクッキーを飲み込む。
 そういえば、明日潜入調査があるからここに来れない可能性を、伝えなければ。
 「ところで、ドラルク。」
 「どうかしたかね?」
 「その明日、ここに来れないかもしれない。状況によっては、もっとかかるかも。指名手配犯が、この街に潜伏しているらしくてな。聞き込みと調査する必要が、出たんだ。結構、おおがかりな。」
 いつもの様に、ムッとした顔をするだろうか。
 そう思っていたのだけれど、彼の表情に変化はなかった。意外だな
 「M-am gândit eu. ai fost nominalizat.」
 「ヌ?」
 「何て、言ったんだ?」 
 いきなり、あいつから漏れた母国語。
 ドラルクがルーマニア語を口走る時は、独り言や聞かせたくない内容である可能性が高い。
 今までも、棺桶の中で一緒にいる間に、親戚や協力者と思しき者達と、母国語や聞いた事のない言語で電話している姿を、見た事がある。だから、こっそり勉強していたんだ。

 『やっぱりね。君に決まったか。』

 そう言ったんだ。それに対して、あいつはどう出るだろうか。
 「あくまで、下調べだけだろうね?」
 「それは守秘義務がある。全部は、言えない。」

 ドラルク様。ヒナイチくんを困らせちゃ、駄目ヌ。さ、ヒナイチくんも、気にしないで。ご飯にしようヌ。

 「分かったとも。気を付けて、行っておいで。明日は、美味しい夕飯を食べられないから、たくさん味わってくれ給え。」
 想像より穏やかな声にホッとして、出された料理を口に運ぶ。
 前に座ったドラルクは、ワインを開けた。微かにそこから、血の匂いがする。
 そして、今日も
 「ふう。」
 飲み下した後、顔をしかめてため息をつくのだ。先週もあげたばかりだが、食事を美味しく感じられない、というのは気の毒な事に見えたもう一舐めぐらい、あげても。そんな気に、させられる。

 「ヒナイチくん
 「な、なんだ?」
 少し、空気が冷たくなった気がする。
 この城は空調がきいているから、ドラルクのせいだろう。
 彼の師匠である氷笑卿も、能力にメンタルがかなり影響するのだそうだ。だから、本当は、心穏やかでないのだと思う。
 「出勤時間は、いつも通りかね?」
 「あぁ。一度寮に帰って、準備もしなくては。だから、少し早めに、ここを出ようと思う。」

 あぁ、やはりそうなるのか。
 今、目の前にあるお前の顔は能面の様で私がこうなるのを避けていた状況だと、理解するしかなかった。
 しかし、受け答えに、少し違和感を感じる。
 どうして、そんなに時間を確認するのだろう。
 「じゃあ、先に地下に行っててくれるかね。片付けをしたら、私も行くよそれとも、嫌かね?」
 「嫌ではない。」
 今となっては、恥ずかしい事ではない。
 現に、思い出しただけで制服の下は、見せられない事になっているんだ。
 「そう、それならよかった。明日から会えない分、たっぷり楽しもうじゃないか。それにククッ。」

 忍び笑いの後、再び、彼は母国語で囁いた。
 言葉の意味が分かれば分かるほど、その言葉は、私の仄暗い期待をくすぐってくる。

 「Înainte de furtună, mi-e foame.」

 嵐の前に、お腹が空いたんだよと。



 「あそこかまずいな。」

 空中から、例のヒナイチくんが潜入調査する予定だった工場を、改めて見直す。
 工場の体を装っているが、中は人界に放つ凶悪化させた下等吸血鬼共の養殖場だ。数も多いはずだが、何より
 「住宅街に近い。仕方がない。」
 義眼に、意識を集中させる。自身が侵入する予定の排気口以外、全て凍り付かせる。
 以前だったら、やつらが逃げ出して住民を襲おうが、勝手に住み着いて繁殖しようが、どうでもよかったのに
 「一匹も逃す訳には、いかない。私の手でこの工場を壊滅させても、今度はそいつらの駆除が彼女の仕事になる。」
 この体が彼女以外の血を受け付けなくなって、どれだけ経ったのだろう。この程度の施設を凍らせるのに、意外と時間がかかった。まだ、季節的にも気温が低い深夜であるにも関わらず、だ。
 「この状態を維持したまま、中の下等吸血鬼共を掃討。犯人を確保した上で、仲間割れした様に偽装するその手でいくか?」
 この状態を維持したままというのが、ネックだ。まともに食事が出来てない状態で、本来の実力を出せる訳がない。本当は、出る前に彼女から血を貰いたかった。しかし、先日貰ったばかりだ。ヒナイチくんを衰弱させる訳にはいかない。
 だから、彼女を眠り込ませる目的で、万が一の場合、心残りがないように出かける前の情事の際に、出来るだけヒナイチくんの体液を啜ってある。雀の涙程度の栄養でしかないが、今の私が摂取できる数少ないエネルギー源だ。今回もなんとか彼女が目覚める前に。

 『き、きょうもかえ、りがおそくなる、のか?』
 『貴方が思っているより、彼女はお聡い女性です。いずれ、気づくでしょう。』

 ロナルドくんの言う通りだった。時間がないから、彼女を攻め立てて、眠り込ませてから来たのだが彼女なりに察している所があるのだろう。帰ってきた時から、妙に暗い顔をしていた。

 帰ったら、どこから話すべきかしかし、こんなバカげた理由で同胞狩りをしていたとは、言いたくない。

 「おい!そこで何をしてぎゃあ!!」
 見つかったらしい。だから、見張りらしい男に、氷の矢を打ち込む。考えている余裕は、なさそうだ。
 「まぁ、いい。とりあえず、終わらせる方が先決だ。」
 この工場さえ閉鎖してしまえば、君は危険な潜入調査をする必要がなくなる。
 君の無事を確保出来てから、考えればよい。 

 ウゥ~!!

 けたたましい警報音と、回る赤い警報灯。
 ガタガタと揺れるシャッターその向こうに感じる、獣臭い下等吸血鬼共の気配。
 戦いが始まる高揚感に、知らず、舌なめずりをする。

 「思った以上に、多いな笑っていられないかもしれん。」
 近づいてくる死の気配ふと、棺を閉める前に見た、ヒナイチくんの安らかな寝顔と、最後に舐めた涙の味が脳裏を過った。
 元々、私がスリルを求める様になったのは、『自分は不死身ではない』と気づいた幼い吸血鬼が、死の恐怖から逃れる為だった。死に近づく事で、恐怖を快楽にすり替えた結果だった。
 だから、命に未練はない今までそう言ってきたし、その言葉に嘘はない。
 ただあの寝顔をもう一度見る為に、必ず帰るという意志が、同時に湧き上がって来るのを感じている。
 「始めるか。いつも以上に、濃厚なのを貰っておいてよかった。」
 
 侵入してきた排気口が、パキパキと音を立てる。
 これで、出入口は完全に封鎖された。
 私も、そう簡単にここから出られない。

    
 
 
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