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未完結ォョ

全体公開 ォョ関連 35 4437文字
2024-07-21 23:02:13

オチが助平をすることでしかつけられなくなった憐れなォョ。
気が向いたら続き書きます。
成仏してくれ。

Posted by @kurato0o

ォョ


数日間、見張られている。いや、視線を感じる。
ウォロは貼り付けて自然になった笑みで客を見送り、背後を振り返った。サッ!と音もなく姿を消す存在に、小さく一息吐く。隠すなら影まで気を付けないと。そう諭してやった方がいいのだろうか。何度か己の良心がそんなことを考えるのだが、結果的に面白いのでそのままにしている。
ウォロがまた正面を向くと、ビシビシと感じる視線。
いつか、まだ彼女がこの地に来て間もない頃、背面取りを教えたことがあった。あれはそもそも気配を悟られてはいけないもので、その術において彼女は一、二を争うほどの実力者である。なんたってこの地のポケモンをすべて調査した英雄なのだから。よって、ウォロに向けられる視線の熱量は「わかった」上での視線だ。消そうと思えば消せる筈の存在感をこれでもかと言わんばかりに浴びせてくるのだから。
なんの遊びをしているのかは知らないが、まあ、付き合ってやらなくはない。
ウォロは帽子の鍔を上げて、広がる青空を見上げながらにんまりと口元に弧を描いた。



ウォロさんが最近おかしい。
ショウはスナハマ大根で作った漬物をポリポリと咀嚼しながら、同居人をじっとりと眺める。
「?おかわりですか」
「いいえ……
「なんですかその渋い顔付きは。老けますよ」
失礼極まりない物言いは変わらずだが、ショウの湯呑みに熱いお茶を注ぐ姿は主夫のようにも見える。一緒に暮らし始めた当初はすべてショウの役割だった。といっても生活力がある方ではなかったショウの家事は傍から見るとかなり最低限のものだったらしく、青ざめたウォロが「ワタクシがやった方が早い」と痺れを切らすまでそう時間はかからなかった。
ポリポリと漬物を齧りながら、既に食事を終えたウォロをまた穴が空く程見詰める。
最近やけに優しい。
前まで家事をやってくれても、ショウのおかわりを気にかけることはなかった。今も、自分は食べ終えたというのに茶を啜りながら図鑑に目をやって、ショウの前から動こうとはしない。以前は食べ終わったらさっさと移動して、ジブンに話しかけないでくださいねオーラを纏ってひとり文献を読んでいるか、さっさと湯浴みに行っていた。
「ウォロさん」
「はい?」
箸を止めて呼んでみると、棘のない声色で返事をする。白磁の瞳がショウを正面から捉える。
「呼んでみただけです……
事実を告げると、ウォロはきょとんとしてから、眉目秀麗の四文字を体現しかのような相貌でふっと笑った。
「そうですか」
機嫌が良さそうに鼻を鳴らして、また茶を啜る。
……誰だこれ。
ショウは白米を口にして、もりもり噛んだ。
最早こわい。
紆余曲折を経て一緒に暮らすようになったが、ウォロの考えていることはよく分からない。つい先日までショウに対しては素っ気ない態度が多かった。というかそちらが地なのだろう。素を見せてくれているのだと思うと別段苦しいこともなく、淡々と日々を過ごしていたのだが、こうも普通に、いや、なんなら優しくされると何か裏があるのかと勘繰ってしまう。なんたって相手はウォロだ。怪しみたくはないが、……いや怪しい。
じっとり半目で眺めるショウを物ともせず、鼻歌交じりに図鑑の頁を捲る男に、ショウはひとつ試してみようと思った。

そして今に至る。
ショウの気付かない間にウォロはいつの間にか優しくなっていた。つまり、ショウのいないところで何かあったに違いない。今はまたイチョウ商会に出戻りしているウォロの商売の様子を物陰から窺う。これでも気配を消すのには慣れている。それにショウの仕事は一段落も二段落もしていて、急務がない限りはギンガ団に呼び出されることもない。それでも働いてしまうのがショウだったが、同居人の偵察に一番向いているのは自分だろう。
そうしてウォロの同行を探るべく、張り込みを初めて数日が経った。特に変わりない。普段通り商売をこなすウォロに特筆するようなことはなく、事件もなければ事案もない。品行方正とまではいかないが、気まぐれにサボ……移動してはついでのようにその場で商売を始めるフリをして遺跡巡りをしているくらいだ。しかも巡っているだけなのだ。何かを企てている素振りもない。いよいよなんなんだ……?帰宅すればいつも通り、妙に優しいウォロがいる。
わからない。わからないことが恐ろしい。何故かって、ショウはずっとウォロのことを知らない。知らないままに決別の日を迎えた。その胸の内に何を抱えていて、どこを目指しているのか知らないまま、別れを経験した。このまままた何も知らないで、ウォロが姿を晦ましてしまうかもしれないと思うと気が気ではない。そんなことは許せない。今度こそ。
「ウォロさん」
「はい?」
寝巻きに着替えて、また機嫌が良さそうに図鑑を読んでいる男に声を掛ける。長い髪を下の方で結んで肩に流している姿はやはり美麗で、何も知らなければ落ち着いた女性のようでもあった。自分よりも余っ程色気のある風体に一瞬しょんぼりとしてから、ショウは目を細めた。
前、こうして真っ直ぐに彼が自分を見てくれたことがあっただろうか。
白磁の瞳はいつもきらきらしていて、好奇心に満ちていた。それがショウではなく、ショウの背後にいる存在に向けられていることにも気付かず、彼の視線に心躍らせていた。今、彼が送る視線はそうじゃない。唐突に声を掛けたショウに向けられている。そしてそこから言葉を続けないショウを不思議がるように小首を傾げている。
ショウを、見ている。
「なんです?おなかでも空きました?」
何歳児だと思われているのだろう。
飛び出た発言にぞっとして、ショウはかぶりを振った。
「なんでもないです。おやすみなさい」
ウォロの為に調達した大きな布団の横に敷いてある、元々使っていた自分の布団に潜り込む。頭まですっぽり被って、無意識に真一文字になっている唇から溜息が漏れ出しそうになるのを必死で堪えていた。
「おやおや、不機嫌さんですか?そうですねえ、じゃあワタクシ手ずから寝かし付けて差し上げましょう」
なにそれ、とは言えなかった。
布団の上にぽん、と置かれた手。それがリズム良くぽん、ぽんと、ゆっくり、ショウをあやす。
「眠くなあれ」
低く、掠れた、優しい声。
そんな声は聞いたことがない。
じわりと涙腺が緩んでしまう。
聞けるものなら聞いてしまいたいと願った。
どうして優しくするのか。
どうしてここからいなくならないのか。
布団から手を覗かせて、自分を寝かしつける手を掴もうとして、寝巻きの裾を握った。
「ウォロさん…………
「はい?」
動じていない。
やっぱりこんな感情、八方塞がりだ。
布団の中で人知れず唇を噛んで、手を離した。
「おやすみなさい」
いいんだ別に。
なんだって。
目を閉じたショウの耳に、低い笑い声が届いた。



次の日、ショウは久しぶりにひとりで原野ベースでぽつねんと座ってぼんやり空を見上げていた。
なんだか仕様もなく疲れてしまった。
ひとつまみ、自分の感情だけを取り出せば単純明快ではあるのに、素直になれないのはきっと、あの背中を覚えているからだ。
離れていく背を、ショウは追い掛けなかった。追い付けるとも思わなかったし、もう元通りにならない日々をその背に見ていた。
彼の大きな背。いつだって笑顔で自分に向かってきて、好き勝手に去っていく。もう見送るのは嫌だ。
嫌だから、期待したくない。
温かい宿舎、明かりのある部屋、低い声が自分を呼ぶのも、慣れてしまったら、どうなってしまうのだろう。いつも通りに帰って、彼の姿がなかったらと考えてしまう。このまま安穏と暮らしていける想像の方が難しくて、優しさに甘えていられない。可愛くない自分も嫌だけれど、一度心を許してしまえば、今度こそ耐えられないと気付いている。
優しくしないで。
期待させないで。
そう言ってしまいたくて堪らなくて、同じくらい笑顔で彼の名前を呼びたくてしょうがない。
傍にいるのに苦しいなぁ。
ぼーっとしすぎて、警戒心の強いムックルたちが小首を傾げてショウを見上げていた。大きなポケモンだと思っているのかもしれないなぁくらいに思っていたら、ある子は跳び上がり、ある子は短い脚でサッと走っていってしまう。きょとんとしたショウに陰が差した。
「ワッ!」
「ひゃぁ⁉」
見慣れた顔が逆さの状態で落ちてくる。ひっくり返った小さなショウの身体を抱き留める手があった。
「ウォロさん⁉」
「はい、ウォロですよ」
飄々とした物言いに、ショウはおっかなびっくりその場でわなわなと震えることしか出来ない。
びっくりした。
反対にウォロはというとこれ以上ない程に機嫌良さげに、にこにこと微笑みを湛えている。
何事なんですかと口を開こうとした時、ショウの二倍ほどある手がおもむろにショウの身体を抱き上げた。悲鳴に近い短い悲鳴が飛び出て、思わず傍にあった肩にしがみつく。横抱きにされて、いよいよショウは開いた口が塞がらない。動揺を隠しきれないショウに向かって、ウォロは意地悪く口端を上げる。
「随分思い詰めてますね?ワタクシのことで」
「は!?」
予想だにしなかった台詞に眉を上げる。ウォロは楽しげにふはっと息を漏らした。
「愉快ですねぇー、ショウさん。何に思いを馳せているのかは存じ上げませんが、実に愉快ですよワタクシは。そのまま存分に頭を悩ませているといいですよ」
「は、はぁ……?何言ってるんですか」
「そちらこそ何を仰っているんで?あれだけあとをつけて来ておいて」
……!」
声にならない悲鳴が出た。
気付かれていた。
気配を殺すことには自信があったのに。
嫌な汗が背筋を伝った。だがこちらを見る男の視線は少年のように光に満ちたものだった。
「おや、その様子だとワタクシに気付かれたくはなかったのですか?こちらとしては熱量の凄さに毎日笑い出しそうになるのを堪えるので必死だったのですがね」
そんなはずは……
そう口にしようとして唇を噛んだ。冷静さを欠いていたというのか。最早ウォロを睨むくらいしか出来ないショウに、彼はまた喉を鳴らした。
「構いませんよワタクシは。ま、もう少し放置していても面白かったかもしれませんがね」
「わっ」
そう言って大股で歩き出すウォロ。揺れる視界に脊髄反射でしがみつく。
「機嫌がいいのでこれからはたーんと甘やかして差し上げますよ。」
「は……はぁ?なん……なんなんですかほんとに!」
「わはは」
揺れる視界の中叫ぶショウを放置したまま、ウォロはずんずん歩く。コトブキ村に向かっているのはすぐに理解できた。かと言って今まで少しも彼の感情の機微に疑問を抱いていたショウが、彼の意図を察することは難しく、目を白黒させながら抱き上げられたまま、口を開けていることしかできないのであった。


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