続きもので書いている人魚姫ドラヒナのお話です。
前半と後半で温度差があります。ご注意下さい。職業が魔女で、一番見た目が女性的なのに、結構男らしいプロポーズしてますね。
このお話から、さらに時間が経っております →消えゆく炎と、灯る希望(https://privatter.net/p/11004039)
人魚の肉を食い尽くし、病状が進んだ魔女は、深海でもほとんどベッドから動けなくなります。
それでも、契約を完遂し、治療薬を作る事は諦めていない…という魔女に対し、新米魔女のヒナイチ姫は、親友夫妻の手を借りて、契約に縛られる魔女を出し抜こうと画策します。
衰弱していく息子の前で、葛藤するミツクリザメの竜子公のシーンを追加しました。
2024/02/23に上げました。
@kw42431393
「こんにちは。ヒナイチ姫、これを魔女様に。」
「あぁ、坊やか。今回もありがとう。」
「魔女様に、『元気になって』って、お伝え下さい。」
玄関にいたハダカイワシの子供は、捕れたてのサクラエビを渡すと、ペコリと頭を下げる。
そして、軽やかに、身を翻して帰って行った。
聞けば、もっと小さな頃に定置網にかかって、鱗が剥け、体の一部も裂けてしまい、両親にここに担ぎ込まれたのだという。
魔女ドラルクの手当によって、命を取り留めた彼はその対価として、週に一度、捕った獲物の一部を持ってくるという契約を結んでいる。
今回は、サクラエビを持ってきてくれたという訳だ。
「なぁ、魔女。契約、契約って言ってるけど…お前は、やっぱり優しい奴だよな。」
遠ざかっていく、子供の姿を見送る。
暗闇に慣れた私の視線の先で、魔女の手によって、移植された義鱗が光っていた。
『ヒナイチ姫。私達のやっている事は、慈善事業ではないのだよ。対価は、ちゃんと貰わなければいけない。そして、それは、相手の支払い能力と相談して決める事が、大切なのだ。』
魔女ドラルクの監視、護衛、助手…深海の魔女の一番弟子となった私に、懇々と、お前は言い聞かせる。
大金を支払うというのは、よくある事だ。
それが出来ない者に対しては…魔女が指定したサンプルを取って来る、見慣れない者がやって来たら知らせる、連絡があったらドラルクの身を守る為に駆けつける…など、契約する者の能力によって様々だ。
助けたいから助ける、納得できないなら断る、それでいいじゃないか…そう思って、口を尖らした私を窘める、お前の顔は険しかった。
それは、彼が属している魔女の世界が、見えない強固なネットワークで、繋がっているからだ。
特に、今回の契約では、大きな利益と資源、両方の世界の者達が動くのだ。勿論、両国から、未知の病が持ち込まれる事もあるだろう。
だから、急遽開かれた魔女達の会合に、ドラルクに連れられて、私も参加させて貰った事がある。
なんというか…うん。異質な世界だったな。
なんというか、普通ではない空気だった。
本能的に怖くて、あいつのローブを掴んで、離れられなかった。我ながら、情けない話だ。
そして、各々訳があって後ろ暗い世界を選び、互いに守り合う為に、多くの規定がある事も分かった。そして、それを破る事が、命に関わる事も。
『それを破っていいのは、その世界から放逐されても生きていける、頑健な肉体と、制裁を撥ね退けられる程の社会的立場を持つ者なのだよ。』
『そんな魔女も、いるんだな。』
『少なくとも2人、知っているよ。一人は、私のお母様。もう一人は、氷笑卿。私の師匠に当たる人だ。』
ドラルクが執念深いと言われるのは、深海の者だから…というだけでなく、魔女という世界に住み着いた事で、その生き方が固着してしまったのかもしれない。
『お前は、サンズちゃんの友…ゆ、友人です。調べれば調べるほど、あのタコはヒナイチに首ったけだから、大丈夫とは思うけれども、あいつがやらかしてきた事は、教えておくです。注意は、しておくですよ。』
いつだったか…ドラルク達が席を外している間に、サンズは私にそう言った。
彼女が教えてくれた内容は、驚くべき所もあり、なんとなく察していた所もあった。
ドラルクが何度も危ない橋を渡って、後ろ暗い連中と取引していたのは、噂で聞いた事はある。だから、なんとなく察していた。そして、相手によっては、非人道的な実験台にしていた事も…。
それでも、ドラルクを始めとした魔女達は、基本的には、医者や占い師、コンサルタント、祭司として生計を立てている。
だから、魔女達の中でもトップクラスの魔術、薬学的知識と技術を持っているドラルクを訪ねて、命を拾った者達も多いのだ。
彼は恨みも多く買っているが、同時に感謝もされている。それでいいと、私は思う。
ところで、彼女の話によると、ドラルクは、深海でも広大な領海を有する、竜子公の嫡子なのだそうだ。
そんな彼が魔女として名を馳せる様になったのは、自分の体を治したかったからだという。
それを聞いた時は、驚いたな。
『お前は、所謂、深海の王子じゃないか。何故、黙ってたんだ?』
それなら、こんな事をしなくても、イナ海国との同盟の為に深海に嫁入りする、という大義名分が成り立つのに…そう思ったんだ。
とはいえ、体の弱いドラルクはサンゴ礁では暮らしていけない。鍛えている私は彼より多少マシだが、やはり、深海の環境は体に負担が大きい。そう簡単に、出来る事ではなかったのだけど。
『ごめんね、黙ってて。でも、お姫様だって、私が、真っ当な依頼だけを受けている訳じゃないのを知っているでしょ?私は、自分の体を治したかった。正攻法で手に入る物なら、実家の力で十分だよ。でも、非合法な物を手に入れようと思ったら、裏世界の者達とつき合わなければいけない。お父様達に、迷惑をかけてしまう。だから、距離を置いていたんだよ。魔女として、名前が売れれば売れるほど、実家から離れるしかなかったのだ。』
だからこそ、この契約を必ず成功させる…そう言う魔女の赤い瞳は、強い意志を持っていて…
『この契約が終われば、両国に、いや、将来的に、他の多くの国の間でも交流が広がるはずだ。そして、多くの変化がもたらされるだろう。それらがもたらす対価は、私の今までやってきた悪事を清算して、お釣りがくるはず。堂々と足を洗っても、誰も何も言えまい。そして、貴女のいる日の当たる世界に、私も行く事が出来る。堂々と…』
『魔女…それって。』
本当は、魔女が兄と交わした契約内容も知っている。魔女から言わないので、私も黙っていたんだ。
私達の望みは、同じだったから。
だから、私も兄に一つ約束を取り付けたんだ。
仮に、魔女の身にどんな事が起こっても、『ヒナイチとして、彼と永遠に共にいる事を許可する』。
『深海の魔女ドラルクを、イナ海国の王族として迎え入れる』という約束を。
『もう、ここまで来たら隠す必要はない。ヒナイチ姫、今回の契約の対価は、貴女だ。貴女はこれまで、他国に嫁入りしたくない、と言った。しかし、この契約が終われば、深海の魔女ドラルクの元に、嫁入りするのだ。』
やっと言ってくれたな、魔女。
それって、プロポーズだろ?ずっと、思いあってきたのに。
『断ってももう遅い。お姫様も新米魔女とはいえ、もはや協会に名前を登録した身だ。契約は絶対だ、それは覆らない。それに…貴女は、私と一緒にいるのが楽しいと言ったね?その言葉に、変わりはないね?』
『くどいぞ、ドラルク。変わる訳、あるもんか。』
頬を膨らませて見せると、魔女は嬉しそうに笑った。
こんなに幸せそうな笑顔は、今までで、一番だったかもしれない。
自分の10倍以上年上の相手なのに、とても可愛いと思った。だから…
『いたっ!?ヒナイチ姫、どこで覚えたのかね?そんな事。』
お前に抱きついて、キスをしようと…したんだけど。あんまり勢いをつけ過ぎて、鼻に当たって。
すまん、魔女が顔を押さえて蹲っている。
『あれ?おかしいな。サンズに借りた本を真似たつもり…なんだけど。』
『…変な知識をつけないでおくれ。おいで、こうやるのだよ。』
シュルシュルと音を立てて、8本の足が私の体に絡みついてくる。無数の吸盤が肌に吸い付いて、蠢いて…なんだか気持ちよくて。
『フフッ、魔女…くすぐったい…むっ!?』
唇の間から、長い舌が入ってきた。
あ、そうだ。本で見たぞ。私も舌をドラルクの中にいれ…こう、だっけ?
『ふっ…あ…ぁん?』
分かるのは、湿った音と捕食者の獰猛な赤い瞳。
自分も動かなくちゃ、と頭では考えるんだけど…実際は舌も体も動かない。魔女の長い舌が、口内で動いているのを追いかける事も出来ない。
『むぐっ!?う、うぅ~!!』
急に服の間から、触手が胸元に入ってきて飛び上がった。全身が固定されているから、ローブの中で見悶えてるだけだけど、嫌じゃなかった…それより、頭がふわふわして。
『ふっうう…んんっ!!』
そっか…サンズが言ってたのって、こんな感じなのかな。
好きな人に、こうされるのって…嬉しい事だって言ってたな。
『えっ…!?ぷはっ…!!』
『ウフフ、苦しかった?でも、嬉しそうだったね。名残惜しいけど、今はここまで。契約を完遂するまでは、許嫁ですらないのだよ。辛いね。』
『そんな…き、キスはいいんだよな?次は、もっと上手にやるから…色々パターンもあるみたいだし。』
載っているイラストが、陸の人間のものだから、ちょっと勝手が違うけど…『お前は子供っぽ過ぎるので、貸してやるです』って、サンズが言ったんだ。
『…それ、サンガ国の閨房術の本でしょ?サンズ姫も酷い事を…ロナルド王子は、体力がお化けだから容易いけど、私は全部応えられない。やっぱり、治療薬を作って、この体が治ったら体力つけようかね。』
あの頃は、まだお前が毎日飲んでいる薬の在庫も余裕があって、そんな呑気な事が言えたんだよな。
「魔女、入るぞ。ハダカイワシの坊やが、サクラエビを持ってきてくれたんだ。元気になって欲しい、って。」
「ん?ああ、ごめんね。ヒナイチ姫、少し寝過ごしてしまったらしい。今、起きるよ。」
そう言って、大儀そうにドラルクは、ベッドから身を起こした。慣れた深海の環境でも、日に日に具合が悪そうにする事が増えてきた…もう、契約はほとんど完遂しているのに。
両国の体制はほぼ整って、あとは最初に移動する者達の抽選と、実行を待つばかりなのに。
『なぁ、魔女。契約の完遂を、後回しにしよう?もう、私達が動く所は、あまりないんだ。だから、先に治療薬を作ろう?サンズからは石の御鉢を借りれたし、燕の子安貝だって貰ったんだ。深海の竜の鱗は、お前のお祖父様から貰えるんだろう?だから、私がロナルド王子達と蓬莱島に行って、残りの材料を採ってきてあげる。元気になってからで、いいじゃないか。』
だけど、お前は首を縦に振ってくれなかった。
自分は、協会に属している魔女だから。先に結んだ契約を完遂する事が、優先だから…そう言うのだ。
『ヒナイチ姫とロナルド王子は、パスポートの発行に関わっている事を忘れたのかね?君達だって、そう簡単には動けない。』
『カズサ王もヒヨシ王も、サブを指名してくれている。私達が、留守にしていてもいいんだ。少なくとも、お前が行くのは、無理だ。』
『私が行くつもりだったけど、それは諦めるしかない。そうだとしても、『実行をもって、完遂とする』と明記しているのだよ。確認せずに、動いては違反行為になる。お姫様も、名前を登録したのだ。貴女にも、制裁が下る可能性がある。だから、お待ち。』
そう言って、魔女は一息ついた。胸を押さえてるのは、痛みを感じているからなのだろう。
『それにしても、思ったより事務仕事に時間が、かかっているらしいね。それだけ、多くの者達を誑かしてきたとも言える…自業自得とは、よく言ったものだ。』
お前は、最後の一瞬まで諦めないと言う。でも、その命が間に合うとは思えない。だから…
チラリと調剤室に目をやる。いつの間にか、調剤室にあった木箱が無くなっていた。
私が覗こうとすると、魔女もジョンも慌てて止めに来る、厳重に封がされたあの木箱。
おそらく、あの中に、陸に憧れた同胞が捨てて行った下半身の肉が、入っていたのだと思う。
だから、ギリギリまで我慢して、食い延ばしを図って…人魚の肉を使う以前に、調合していた薬で誤魔化している。
お前の教えを受けたから、分かる。
急にここに来て、病状が悪化している理由が。
お前は、知らないけれどもその肉には、『延命』の効果はあっても、『治療』の効果はないんだと、兄は言った。
お前が、かつて調合していた薬は、長年研究していただけはあって、『治す』事は出来なくても、『進行を止める』効果はあったんだ。
でも人魚の肉が特効薬だと信じていたお前は、それ以降、それを全く飲んでいなかったんだろ?
でも、私には最後の手段があるんだ。『治す』事は出来なくても…その間に、治療薬を作る時間をいくらでも作れる方法が。
「なぁ、魔女。話が…」
待ってヌ、ロナルド王子!ドラルク様は、まだ…
「悪い、ジョン!!サンズ姫から聞いたら、黙ってられねえ!ヒナイチだって、実は泣いてんじゃねえか!!あのバカに、バシッと言ってやる!!」
「待って下さい、ロナルド王子!魔女に言っても、聞く訳ねーです!!それより、サンズちゃん達がしなきゃならない事は…!!」
ジョン達の声が外から聞こえてきたと思ったら、般若の顔をしたロナルド王子が、飛び込んできた。
お前の方が、実はつき合いが長いんだもんな。そりゃ、怒るよな。
お前は、一番、優しい奴だから。
「おい、ドラルク!!俺が来た理由…分かってんだろうな!?」
「うん…そうだね。覆すつもりはさらさらないけど、ちゃんと話すつもりはあるよ。皆、席を外して貰っていいかね?」
「覆せや!!頭がかてーんだよ!このタコ!!てめーの命だろうがよ!!」
ジョンは『ロナルド王子が、暴れた時の為に残る』と言うので、私はサンズニャンと部屋を出た。
私が更新したい契約…いつも言いそびれるな。
言った所で、魔女が聞いてくれるかは謎なんだ。
いや、たぶん承服しないだろう。だから…
「どんな手を使っても、契約を。」
執着心があるのは、お前だけじゃない。私にだって、ある。
私だって、新米だけど魔女の一人だ。
そして、今の私なら…上手く百戦錬磨のドラルクのサインさえ得られれば…契約でお前を縛る事が出来るはず。
もし、治療薬の作成に失敗しても、何度だって、何百年だってチャレンジ出来る。
どんなに苦しませる事になっても…どんな手を使ってでも、『欲しい者を手に入れる為』なら。
「なぁ…サンズ。」
「…何ですか?」
自分の手を見る。
ちゃんと魔女の手記を調べる事は、出来ていないけれども…たぶん。
「肉と骨と血があって、無くなっても生活に支障が少ない部分って、どこだろうな?」
サンズは、このセリフを聞いて、どう思うだろう。
それでも、『サンズちゃんの友人です』と、言ってくれるだろうか?
「左手の小指…なんてどうですか?」
「たぶん、もっと必要だと思う。」
よかった…そうだよな。
「分かりました。調剤室に行きましょう。型だけ取っておくです。いつでも、実行出来るように。」
ありがとう…そういう私に、彼女は不敵に笑った。
そして、親友は、私が一番望んだ答えを、返してくれた。
「サンズちゃんに足…いや、尾鰭を向けて寝るんじゃねーですよ。それに、分かります。サンズちゃんだって…ロナルド王子の為なら、心臓だってあげたはずです。」
どうしたものだろう…でも、息子の意志を尊重しなければ。
代われるものなら、代わってやりたい。
どんなにお父様から、強大な力を受け継ごうとも…こればかりは、無理なものは無理なのだ。
先日の事だった。
私は息子から頼まれて、深海での有力者達と、表層、陸との開国、交易について協議を続けてきた。
親友であるノースディンからは、『お前の頼みだから、反対はしない。だが、私は奴らの汚さを知っている。わが国だけは、絶対に開国しない。』と言われている…が、他の者達からは、了解を得る事が出来たのだ。
その結果を知らせようと、忙しい息子とその友人達を労ってやろうと…ドラルクの別宅に足を運んだ時だった。
「あぁ、お父様ですか。すみませんね、こんな姿で。」
ベッドから気怠そうに身を起こす、息子の姿は、幼かった頃を彷彿させる程、やつれていた。
元々、いつこうなっても、仕方がない子だった。
それが、200以上も生き長らえてきたのは、稀に見る優秀な頭脳だけでなく、『自身の体を治す』という異常なまでの執着と、『死の恐怖』から逃れようとする、たゆまぬ努力によるものだった。
特に、最近は寝る間も惜しんで、深海と表層、陸へ飛び回っている。それが、体に負担をかけないか…パパもミラさんも、心配していた矢先だったのに。
「お気になさらずに。人魚の肉を切らしてしまっただけですよ。でも、甲斐はありました。もうすぐ、契約を完遂出来るのです。そうしたら、治療薬作成に移れます。もう少しの辛抱ですから。」
もう少し?もう少しだって?
しかも、そんな体で最後の材料を集められる訳がないだろう?
「む、無茶を言ってはいけないよ。当初は、似た材料で作ろうとしたけれど、それは不可能なのだろう?」
息子は、実際に蓬莱島に赴き、仙人にあって万能薬を手にした、サンズ姫から聞いたらしい。
ドラルクは、ロナルド王子を通じて、それと近い材料を集め、その万能薬と同じものを作ろうとしていた。
それは、サンガ国のくノ一達が、とっくにやっていた事と同じ…そして、結局、失敗に終わった試みだと。
蓬莱島に住む仙人の家にある、庭木に成る紫の石と、その洞に住む火ネズミの血…これだけは、彼の地に行かなければ手に入らないものだと。
「ね、ねえ…ドラルク。」
これは、言っていい事なのだろうか…元々、息子はヒナイチ姫の肉を目当てに近づいた。
でも、それを断念した。彼女への、愛情故に…。
「ヒナイチ姫に、頼んではどうかね…その…。」
彼女の肉を少しだけ…少しだけ貰って、命を繋げば。
ヒナイチ姫だって、お前を…パパが調べた範疇でも、とてもお菓子の為だけで、ここまでお前の為に動いてるとは思えない。きっと…
「…何ですって?」
ドスの利いた息子の声に、背筋が凍る思いがする。
あぁ、やっぱり駄目だ。それ以上は、言えない。
「お姫様から、肉を貰えと?間に合わないから、私を不老不死にしろと?」
「だ、だって…現実、間に合わないじゃないか。」
それに…ミラさんだったら…でも…。
「お父様…貴方なら、そうなさいますか?お母様に体の一部を切断しろ、と?してくれると分かっていても、そうしますか?」
駄目だ…ミラさんのそんな姿を想像するだけで、耐えられない。
私だったら、要らないと言う。
「バカな…!!そんな事をするぐらいなら…」
「「死んだ方がマシだ…」」
「…!?」
「そうでしょう?お父様。」
あぁ、お前もやっぱりそうなのだね…では、私に何が出来るのだろう。
「分かったらお引き取りを…最後の最後まで、足掻きます。ほんの僅かな間でも、あの子の隣で、日の当たる世界に行けたのなら…後悔はしません。」
「そ、そんな…パパは、お前に何も…せめて…」
何も、してやれないのかね?
「引き続き、交渉が上手くいった国々と、イナ海国、シンヨコ王国との仲立ちを頼みます。私が死んで頓挫する様では、命を賭けた甲斐がありません。」
目の前で、息子の瞳がチカチカと光る。
同時に足元に、紫色に輝く魔法陣が描かれて…これは、息子がよく使う転移魔法だ。
「ドラルクや…。」
「…ごめんなさい。」
気がつけば、自分の居城の前にいた。
今は、干渉するのはよそう。まだ、諦めていないと言っていたじゃないか。
親なら信じて…。
「ドラウス、どうした?」
背後から、凍り付く様に冷たい海水が流れ込んできた。
正体は、分かっている…私達を誰よりも案じて、支え続けてくれた、大事な親友。
「親として情けないね。本当は、もう察しているのだろう?」
ドラルクの師匠で、もう一人の親と言っても過言じゃない、北海の氷笑卿…
「まぁ、入っておくれ…ノースディン。」