X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

人生2/3を捧ぐ

全体公開 銀魂二次創作 49 2835文字
2024-08-03 00:15:05

一日16時間くらい土方のこと考えているから、せめて一日8時間くらい土方に自分のことを考えさせたい沖田の話

Posted by @bbbcde519

 沖田の1日は土方に終わり土方に始まる。
 夜勤を終えて床に就く。目を閉じる瞬間に、ああ今日も土方を殺れなかったと思い、試してみたい呪法や悪戯を考えながらうとうと眠りに落ちる。早寝早食い早風呂は江戸を守る忙しいお巡りさんとして大事な才能である。年上に囲まれ大事にされて育った沖田は案外のんびりしたところがあり、早食いと早風呂はてんでダメだった。寝つきも良くないので早寝もそう得意ではない。仕方がないので昼寝でカバーしている。
 目が覚め、着替えながら今日のシフトは土方と巡回だなと思い出す。それなら少し早めに行ってダッシュボードにトラップを仕掛けておこう。
 身支度をして食堂に向かう。食堂内に土方はいない。今日の定食は鮭だと部屋に入った瞬間に匂いで分かったため迷いなくそれを選択する。配膳の間にも食事を終えて出ていく隊士たちの挨拶にいちいち返す。これは習い性のようなものだ。最初に挨拶を教えてくれたのは姉で、武道と集団生活での挨拶の大切さを叩き込んでくれたのは近藤だった。そして年若い上官は軽い挨拶を忘れただけでも反感を買うと沖田に教えたのは土方だった。こちらがぼうっとしていただけでも下の者は絶対に忘れない、と。
 礼を大切にする姉と近藤を沖田は愛していたが、人の目線の意地悪さを教える土方のやり方の方がより自分の気質により近しいと思っている。だから無用な不和を避けるためのその処世術にはすんなり従えた。最年少の隊長は案外気を遣っている。
 魚をほぐし白飯を口に運びながら飯を食べながら、その土方にどんな罠を仕掛けるか考える。頭の中で罠のストックを浚い、この前買った、異様な鳴き声を出す宇宙生物のおもちゃにしようと決めたところで不意に声をかけられた。沖田の目の前に座ったのは近藤だった。
「おう総悟」
 夢から覚めたように沖田の思考は近藤へと吸い寄せられる。
「おはようございやす」
「もう昼だぞ。夜勤明けか?」
「へい。これから見回りで」
「そりゃあご苦労なこったな」
「どーも。近藤さんは?」
「お偉方と会議でな。これからとっつあんと登城よ」
「そりゃあ面倒そうだァ」
 近藤は息もつかずにカツ丼を食べている。沖田は思わず見惚れてしまった。近藤は昔から何かに追われているかのような烏の行水だし、枕に頭がついたら一瞬で寝られる。男所帯が長かったせいなのか飯を食うのも早い。警察になるために生まれてきたのかもしれない。
 飯を食べ終えていったん自室に下がり、先ほど選び抜いたおもちゃを懐に突っ込んで隠す。詰所でパトカーのキーを取ってから車に向かった。ちらりと見えた窓は快晴の色をしていて、沖田の心をさらに浮きたてた。
 だがしかし既に土方は車に乗っていた。つまらなそうな顔で助手席で煙草を吹かしている。沖田は素直にがっかりする、が何食わぬ顔で車に乗り込む。
「わあ煙いや。ちゃんと換気してくだせェよ。つーかそのまま窒息しちまえ」
「悪い悪い」
 土方は左手を動かして窓を開ける。その様子に隙はないかと横目で確かめ、沖田は懐を潰さないように気をつけながらシートベルトを締めてエンジンをかける。
「渋谷方面ですね? 桂の目撃情報が上がってたんでしたっけ」
「ああ」
 車を南に走らせながらスンと沖田は鼻を鳴らす。土方のいつもの煙草の匂いに加えて出汁の匂いがする、気がする。
「土方さん今日昼うどんだったでしょ」
「なんでわかんだよ」
「匂いがしまさあ。どっかこぼしたんでしょ。みっともねえなあ」
 うどんか蕎麦かは日頃の土方の嗜好を見ての賭けだったが当たりだったらしい。土方は右袖を覗き込んで舌打ちをし、「お前は本当に鼻が効くな」と渋い声を出した。そのまま上着を脱いだら隙ができてチャンスだと思ったのだが、土方は何もしなかった。諦めたらしい。
「褒めてるんですかい?」
「おーおー褒めてる。なんなら警察犬に転向したらどうだ? そのまま桂の匂いも嗅ぎつけて欲しいもんだな」
 大通りの赤信号でブレーキをかけ、停車させる。列は長い。チャンスだと思った。
「そいつは難しいな。土方さんのこたァ手に取るようにわかりやすが」
「なんでだよ」
「そりゃ、一日16時間くらいアンタのことを考えてるから」
 この言葉で不意を衝けた、と沖田は確信した。その証左に土方の唇にくわえた煙草の先端が数ミリずり落ちた、同時に沖田は懐に手を突っ込んでおもちゃのスイッチを入れて助手席に放り投げる。宇宙生物が馬鹿でかい声で「コンチキショー」と喚き続ける、それだけの単純なものだが隙のできた土方には効果覿面だった。ギャッと叫んで上半身を退け反らせる。ヘッドレストに頭を思い切りぶつけてもう一度呻き、煙草の灰が落ちて三度叫んだ。
 沖田は肩を震わせてその様子を見守った。土方は反射神経がいい。ただしその直感は命の危機に瀕した際により鋭く発揮される。このような他愛もない玩具の方が素直に引っかかっていい反応を見せてくれると、最近気がついた。
「総悟ォ! 何してくれてんだテメェ!!!」
「ふは、くく、やーおもろい、傑作でさあ土方さん。超間抜けないい顔してやしたぜ」
 青信号に変わった。車の流れに合わせて沖田はゆっくりとアクセルを踏む。土方は憎々しげに沖田の笑みの残る横顔を睨みつけるが、運転中のこちらに分がある。
「俺の起きてる時間ほとんどを捧げて命狙われてるくらいでそんなに動揺しないでくだせェよ」
「ふざけんな16時間って多すぎだろ! 一日の三分の二じゃねーかもっと時間を大事にしろ!」
「俺だってもっと他のことに使いたいんですぜ。青少年の貴重な時間を食い潰す責任感じてくだせーよ。だから死ねとは言わねえ、せめて一日8時間くらい命を狙われる緊張でガチガチになって四十肩になれ土方」
「うるせー俺はまだ27だ」
 知ってやすよと沖田は笑った。本当に四十肩になれとは思っているが本音はその前だ。沖田の人生の三分の二はこの男に振り回されて外法に手を染めたり隙を狙ったりトラップを作ったりしているのだから、せめて一日8時間くらい俺に使えと、沖田は本気で思っている。土方には冗談にしか聞こえないだろうけど。
「こうやって俺の青春を奪ってることをアンタが知ってじわっと嫌な気持ちになれば俺の呪いが効いてるってことですぜ」
「ほんとお前何がしたいんだよ」
「強いて言うならアンタの人生を俺に対する警戒で台無しにしてえ」
「え、怖……



---

後書き

出会いの6歳くらいから18歳の今まで人生の2/3くらい土方さんに振り回されたり振り回したりしてる沖田総悟の話でした。
わりと素直に思ってることを小出しにできるようになった、地愚蔵篇後くらいの沖田くんのイメージで書きました。
沖田くんは思ったことをそのまま言葉に出しているのに土方さんには全然伝わってないというか信じられてないのがかわいいポイントです。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.