純情な殺人鬼とは?????
@azisaitsumuri
この紳士はこう見えて純情である。
「おまえなんかきらいです。」
「まてまてまて、何処へ向かっているそっちに行くな戻って来い」
神出鬼没が。
ただ、純情と呼んでしまうと、この男の凄惨な嗜虐趣味を肯定するような表現になってしまうおそれがあるので、それは避けたい。純粋な感情で殺人を行っているということは、あると思うが。
とにかく、捻くれた言動ばかりするのに、それに対して補正もかからずにその儘自分で自分の思考を受け取ってしまうので、頭は回るのに態度が回りくどい。
だから今、自身で放った「おれのことが嫌い」という自分の言葉に、何故か言ったほうが落ち込んでいる。言われた側のおれ本人の真実と言えば、おまえが言ったのはつい口をついて出た台詞に過ぎず、おまえがおれを好いているのはまあ分かっているし、嫌いだと言われたところでおれはおまえを嫌わない。ただ相手はそこ迄考えられないこともない筈なのに、先に放った自分の言葉に感情が押し流されて、嫌いではないという真実迄考え着かない。
「おまえはそれ程おれを嫌っちゃいないし、おれはそれを分かるし、おれもおまえが好きだよ。」
なので流されて何処か遠くへ行かせないように堰き止めて引き留めて、落ち着いて考えれば行き着く事実を、さっさと提示してやるに限る。
そうすれば、動揺した純情は揺らぎながらも、押し流されて空っぽになってしまった貯水池に、感情の揺らぎのせいで直ぐにとは行かずとも、ゆっくりとではあるが確実に事実を湛えてゆくのだから。
徐々に溜まってゆくその機嫌の良い感情を見ながら待つのは、嫌いじゃない。初めは大きく揺れていた水面が、段々安寧を取り戻し、おれからの、この紳士からの好意で満たされてゆくのだ。
それはとても透明で。